2003年40号 第182話

【前回まで】
100年に1度開かれる中国最大の武術大会・大擂台賽!! その緒戦において範馬勇次郎は圧倒的な力を見せつけ、劉海王を退けた!!

 第二試合、毛海王勝利。
 休む間もなく第三試合の開始が告げられた。郭海皇vsミスターというお口直
しの好カードに沸き立つ観衆だが、再三のコールにも両者が入場する気配がな
い。控え室ももぬけの殻。二人はどこへ消えたのか?


 大きな雷鳴と共に、ひときわ雨が強くなった。タラップを降りたミスターが、
懐かしのアメリカの大地を踏みしめ空を見上げる。
 大擂台賽には心から失望した。話し合いによる平和的優勝を望むミスターの
目の前で、野蛮などつき合いを繰り返すハイエナ共に愛想をつかし、矢も盾も
たまらずアメリカ行きの飛行機に乗り込んだ。
 今はただぐっすり眠りたい。オヤジのおしめも取り替えてやりたい。広大な
自邸の敷地をとつとつと歩く。
 雨しぶきの向こう、玄関手前に人影が見える。ドアにもたれてうずくまって
いた郭海皇が、ミスターの足音を聞きつけて顔をあげ、寂しそうに笑った。
「きちゃった」


 郭はずぶ濡れの体をシャワーで温めている。シャワー室のガラス越しのシル
エットを視界の隅にちらつかせながら、ミスターは木刀を削っていた。完成し
木刀をシャンデリアの光にかざして、左右にかえしながら出来具合を確かめる。
逆手に握りなおして薙ぎ上げると、天井から吊るした食パンが綺麗にスライス
されて床に落ちた。出来は上々だ。
 シャワールームのドアが開いた。さくら色に上気した肢体に薄いバスタオル
を一枚はおっただけの郭が、ミスターに歩み寄る。パンにバターを塗る手を止
め、ミスターの視線が郭をなめ上げた。
 一瞬の隙をつき、郭が内股のホルスターからデザートイーグルを引き抜いた!
死ね、ミスター!
 轟音と同時に、剣風が吹いた。顔の真ん中に走った赤い筋が郭の体を二つに
裂いた。それを見届けたミスターも、また倒れた。


 大擂台賽会場に二人の悲報が届いた。皆ふーんと言って鼻クソをほじるばか
りであった。


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