2003年39号 第181話

【前回まで】

 劉海王の出番は終わった。審査員に一礼して、控え室へと戻った。シャワー
を浴びて普段着に着替えて地下の駐車場に向かう。途中の廊下で旧知の住職と
行き合って、
「おや劉どの、お顔をどうかなされましたかな」
「いやちょっと、試合で張り切り過ぎましてな。わはは」
などと短い談笑を交わし、それじゃと別れて地下に降りていった。


 愛車のベンツに乗り込みエンジンをかける。ゲート近くのガードマンが劉の
顔を見て、親しげに笑いかけた。
「まーた旦那、いっそう男前になっちゃったね」
「これ以上男前になったら下半身がもたんよ」
と軽く受け流し、アクセルを踏み込んで走り出した。


 街の焼肉屋に立ち寄って小休止をとる。老酒は……一杯くらいなら呑んでも
問題ないだろう。
 特上カルビとテグタンを老酒で流し込み、長い長い息を吐いた。奥のテーブ
ルの酔客から声がとぶ。
「あそこのオッサンの顔見てたら、ユッケが食いたくなってきちゃったよ」
「アンタの顔の皮も剥いてやろうか? 上等なユッケにありつけるぞ」
 当意即妙の切り返しに、店内に笑いがこだまする。劉は二杯目の老酒を注文
した。


 忘れ物に気づいて、闘技場に引き返した。控え室のドアを開けると、そこに
は勇次郎がいた。世にもとぼけた表情で劉の顔をのぞき込み、こう言った。
「劉海王、その顔、誰にやられたんだ?」
「わははは、誰だったっけかな。多分、アンタより強い男だろうさ」
 勇次郎は不敵な笑みを浮かべて右腕を差し出した。劉はその腕に右腕をから
めて再戦を誓った。


 自宅に着いたのは夜更け過ぎだった。さすがに疲れてソファに身を沈めると
かわいらしい男の子が階段を降りて駆け寄ってきた。休日を利用して、孫夫婦
が遊びにきていたのだ。劉の顔をじっと見つめる曾孫が、心配そうに尋ねる。
「おじいちゃん、お顔どうしたの?」
「うるせークソガキ!! ぶっ殺すぞ!!」
 劉の怒りが爆発した!


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