2003年36+37号
第180話
【前回まで】
試割りで参加を認められた勇次郎。いよいよ大擂台賽第1試合開始!!
勇次郎の割った瓦は、劉海王夫人の形見の品だった。
劉は今にも泣きそうな顔でしゃがみこんで、破片を拾い集めている。その寂
しそうな背中に100歳男の哀愁を見て取った勇次郎が、珍しく破片集めを手伝
い始めた。
断面を合わせて接着する。修復完了した瓦には、美しい女性の肖像が彫りこ
んであった。劉に聞くと、彼の夫人だと言う。その顔が勇次郎を見て、ニィっ
と笑った。ような気がした。
勇次郎は彼女を知っている。35年前、ビルの窓ふきバイトに精を出す勇次郎
少年の頭上から植木鉢が落ちてきた。階上の窓から首を突き出しているのがこ
の女だった。
何かにひどく怒っているらしく、次から次へと物を落としてくる。上等だコ
ラ! 久々のバトルに心躍らす勇次郎がゴンドラを急上昇させる。その間にも
お盆、生卵、机、天内悠などが落ちてくるが、いずれも勇次郎の敵ではない。
しかし、最後に落ちてきたインド象には一本とられた。健闘むなしく落下して
いく勇次郎を見つめる女の勝ち誇った笑顔は、今でも時々夢に見る。
テメエ、あのクソ女のダンナか! 持ち前の沸点の低さを取り戻した勇次郎
が怒りの形相で瓦を握りつぶし、劉に襲いかかった。
その突進を人差し指一本で吹き飛ばし、劉は瓦の修復に専念する。勇次郎な
ど眼中にないどころか、自分が格闘家だということも忘れているかのようだ。
修復作業のスピードがぐんぐん上がっていく。顔を真っ赤にした勇次郎がメ
チャクチャに瓦を叩き割るそばから、それ以上のスピードで劉が復元する。
30枚、40枚、50枚。なぜか修復前の枚数を上回ったが、職人魂に火がついた
劉は止まらない。怒涛の勢いで瓦を生産し続ける。もう試合そっちのけである。
ファイトを促すレフェリーを瞬殺し、「劉や、その辺で……」と歩み寄る郭
海皇を叩いて引っ張って瓦にして積み上げる。こうなったら、力ずくで押さえ
つけるしかない。ミスターが海王達に号令をかける。野郎共、かかれ!
初対面のボクサーもどきに野郎共呼ばわりされた海王衆、激怒! 大人げな
く束になって群がる海王に、ミスターは瓦を投げつけて応戦する。勇次郎が瓦
を回収してぶち壊し、劉が復元してミスターが投げる。絶妙のコンビネーショ
ンで海王軍団を押しまくる。「裏切り者!」の罵声が劉に浴びせられるが、こ
のハゲにはもはや瓦以外は見えていない。口から泡、頭の血管から血を噴いて
いる。完全にオーバーヒートである。このままだと確実に、死ぬ!
突然、積み上げられた瓦が光を放った。けぶるような輝きの中から、美しい
女性が現れた。劉夫人である。劉の肩にそっと手を置き、優しく語りかけた。
「あなた、上を見て」
我に返って頭上を仰いだ劉の視界いっぱいに、インド象のケツが広がった。
劉の暴走は止まった。心臓も止まった。範馬勇次郎、勝利。
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