2003年35号 第179話
【前回まで】
前回の覇者・郭 海皇を筆頭に、12名の海王、勇次郎、刃牙、マホメドJr.と超精鋭が集結した。興奮の嵐の中、大擂台賽開始!!
組み合わせ表を見よ! と実況が上方を指差した。天井からロープで吊るさ
れた二つの袋詰めは、明らかに人間の形に膨らんでいた。真っ黒な袋が取り払
われると、それは血まみれで猿ぐつわ姿の烈海王と、もう一方は無傷のチンパ
ンジーだった。烈の腹には『陳海王』、チンパンジーには『範馬勇次郎』と、
それぞれ書かれている。
クレーン台で二人に横付けした男が青龍刀をロープにあてがって、カメラ目
線で舌を出して雄叫びをあげた。どうやら、敗者の名前が書かれた方のロープ
が切られるらしい。
チンパンジーの下には納豆の山、烈の下には竹槍。どちらも落ちれば無事で
はすまない。
陳海王は頭を抱えた。優勝を誓って参戦した陳だが、実は烈のことが死ぬほ
ど大嫌いだった。自分が勝てば烈は死なない、烈を殺したら優勝できない。
陳と烈との因縁は、出生時に遡る。逆子の陳と担当医が悪戦苦闘中の分娩室
で、突然マフィアの銃撃戦が始まった。心ゆくまで撃ち合いを楽しんだマフィ
アが風のように去っていった後に残されたのは、おびただしい弾痕と小さなゆ
りかごだった。ゆりかごに添えられた手紙には、
『この子をよろしくお願いします。ボス』
と書かれていた。これが烈であった。こんな派手な登場をされては、逆子だ
ろうが水子だろうが陳に勝ち目はない。事実、医師の興味は完全に烈に移行し
た。存在を忘れられた陳が自力で産道から這い出したのは、それから20時間後
のことである。
小、中、高、大学。陳の行く先には常に烈がいた。しかも狙いすましたよう
な正確さで陳のプライドをメタメタに砕いていく。陳がバイクで登校すれば烈
は戦車で登校する。陳がピアス穴を開ければ烈は校庭に穴を掘って、生きた北
京原人を発掘してヒーローになる。陳が水泳で金メダルを獲得した日の新聞の
見出しは、
『驚愕! 水面を走る男、烈!』
であった。
幼い頃から続けている拳法も、脱サラで25歳からスタートの烈にいともあっ
さり追い越された。烈に対する醜い嫉妬の炎は消えることがないのであった。
優勝か、烈見殺しか。地獄のような選択に身もだえする陳が、ついに決断を
下した。拳士として男として、俺は大擂台賽の覇者となる!
がんじがらめに縛られた烈を見上げ、高らかに宣言した。
「聞け、烈よ!」
その声にビックリした青龍刀男が手元をすべらせた。ロープを切られた烈が
まっ逆さまに墜落して、ブスリという音を立てた。
不幸な事故であった。ま、いいや。気を取り直して、陳vs勇次郎、試合開始!
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