2003年32号 第176話
【前回まで】
マホメドJr.が大擂台賽への参加を求めて訪れてきた。そして、劉 海王に「実力を見せろ」と言われ試合をすることに。試合が始まった瞬間、何と相手はあの因縁の型に!?
今度こそ本当に、大擂台賽の幕が閉じた。
あれから一年。故郷に戻って家業を継いだ優勝者のミスターが、当時の思い
出を語ってくれた。
「少林寺に到着するなり大勢のハゲに囲まれた。一悶着あるかと思ったら、ハ
ゲの大将らしき大ハゲから、
「お前は決勝進出でいいから、とっとと優勝してとっとと帰ってくれ」
と言われた。戦ってもいないのに、すげーラッキー! 大喜びで彼らの後につ
いていった。
しばらく行くと、観衆で埋まった闘技場が見えてきた。ここが俺の戦場か!
と思ったがスルー。通されたのは便所の脇の汚いほったて小屋だった。
決勝の相手は勇次郎かと聞くと、違うと言う。心の底からビックリしたよ。
「なんだって、勇次郎が負けた?」
「ああ、うん」
「一体誰に!?」
「ああ、その、ううん」
何を聞いても口ごもるばかりで、さっぱり要領を得ない。開催側にとっても
勇次郎の敗北は衝撃だったに違いない。闘技場の方から勇次郎の二回戦進出が
どうこう言うアナの実況が聞こえてきたが、たぶん空耳だろう。
小屋のドアが閉められた。やがて暗い室内に目が慣れると……」
突然、ミスターが部屋を出て行った。屋根に登って、神様型の鉄板が風に吹
かれてクルクル回っているのを一心に見つめている。その模様をレポートにま
とめ、鳩の足にくくりつけると下に降りてきた。鳩が飛び去ったのを確認して、
部屋に戻ってきた。
「ハハハ、シゴト忙しくて大変ネ。で、暗い室内に目が慣れると、小屋の中に
はカルノフそっくりのハゲがいた。カルノフ、分かる? こんな奴ね。
そのカルノフが、大の字になって寝転がっている。それがいわゆる猪狩アラ
イ状態ではなく、明らかに「やってられっか」という感じのふて寝だったんで、
私は怒ったね。ミスターの怒りが爆発したよ。戦士としての心構えと大擂台賽
にかける私の意気込みを、じゅんじゅんと説いて聞かせてやった。その間、ハ
ゲの大将がカルノフの傍らでしきりに手を合わせて頭を下げていたけど、あれ
は何だったんだろう。
ともかく、カルノフはついに立ち上がった。私の熱意に打たれたと見えて、
最高に面倒くさそうな中にも怒りの炎が燃えたぎっている。試合開始だ!」
「ごめんくださーい」
来客だ。ミスターがいったん話を切って応対に出た。しばしの世間話ののち
客の前で携帯電話を取り出した。通話ボタンを押すと同時に、通話口に向かっ
てホイッスルを吹き鳴らした。顔色を変えて猛抗議する客を右アッパーで葬り
去ると、電話を車道に叩き捨てた。その電話を回収して走り去る黒塗りのワゴ
ンに中指を立てて侮蔑の言葉を投げかけると、部屋に戻ってきた。
「ハハハ、店舗拡大の打ち合わせネ。えーと、そうそう試合開始。まずは軽い
ジャブで相手の出方を窺った。全身の力を抜いた軽い一撃だったのに、カルノ
フが腹を押さえてゆっくりと倒れた。殴ったのは頭のはずなんだけど。やられ
たー、もう動けなーい、などとほざいていたが、まったく根性のないやつだ。
それでも勝ちは勝ち、私の優勝だ!
派手なセレモニーを期待してたんだけど、手書きの賞状と優勝賞品のティッ
シュを強引に押しつけられて、小屋から叩き出された。よそ者が優勝するとこ
んなもんかね。別にいいんだけど。
ま、なんつーの?少林寺も私の手にかかればチョロイもんだというこったね」
ここでインタビュアーが、先ほどからの疑問を口にした。
「ミスターさんの家業って、一体どんなお仕事なんですか?」
「それは私が説明しよう」
奥のドアが勢いよく開いて、口元をケチャップまみれにしたオリバが現れた!
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