2003年31号 第175話
【前回まで】
張 洋王に格の違いを見せつけたバキ。そしてバキは百年に一度の大擂台賽への出場を勧められる。一瞬困惑するバキだが、勇次郎の参戦を聞いて…!?
長きに渡った大擂台賽も、遂に決着の時を迎えた。
優勝者は刃牙。100年ぶりの新海皇誕生に、敗れた選手達が刃牙を胴上げし
て大いに盛り上がる。歓声をあげクラッカーを打ち鳴らし、エキサイトした一
部の選手が殴り合いの喧嘩をおっ始めた。
「てめこのー!」
「死ねー!」
「ガオー!」
階段室へ通じる扉が勢いよくノックされた。擂台ビルの管理人がしかめっ面
をしてやって来た。刃牙たちのあまりのうるささに、各階のオフィスから苦情
が殺到しているという。
こっちもタダで場所を貸してるんだから、もう少し静かにお願いしますと吐
き捨てて、管理人はビルの中に戻っていった。
擂台ビル屋上特設リングは、水を打ったように静まり返った。いまは平日の
真っ昼間。確かに真っ当な社会人は仕事中だろうし、自分達の真剣勝負だって
いい歳したオッサンと若者がビルの屋上でプロレスごっこをして遊んでいるよ
うにしか見えないだろう。
みんな素直に反省した。管理人の注意に従い、静粛にセレモニーが行われた。
しのび足でリングに上がったプレゼンターが刃牙にトロフィーと海皇ベルトを
手渡す。賞状を蚊の鳴くような声で読み上げ、ギャラリーが音のない拍手で祝
福する。左の人差し指を口に当てた刃牙が、トロフィーをそっと天にかざした。
進行表ではここで海皇マーチを演奏することになっているのだが、あまり大
きな音は立てられない。指揮者は極力ボリュームを絞るようにバンドに指示を
出して、指揮棒を軽く振り上げた。
爆音の嵐が巻き起こった! やっぱり生演奏は大音量に限るもんね!
「もしもし、周りがうるさくて聞こえないんですけど。もしもーし!」状態の
会場のボルテージは最高潮に達した。ちなみに上記の例ではもしもし言う声が
一番うるさい。
ブラス、シンバル、ホイッスル。ハウリングで窓ガラスが一斉に吹き飛んだ。
ギターを手にしたミスターが得意のチョーキングで泣かせに入ろうというとこ
ろで、再び管理人が怒鳴り込んできた。階下のオフィスから伝言だと言って、
刃牙にメモ用紙を差し出した。メモにはこう書いてあった。
『うるさいっつってんだろ。お前らも少しは働け。殺すぞ』
海皇の刃牙は学生だが、選手の大部分はいい年こいたオッサンだ。鼻血が出
るほどもっともな話である。
殺されるのもイヤなので、ここで大擂台賽はお開きとなった。
刃牙は土手にしゃがみこんで夕日を見つめている。せっかく海皇になったの
に、世間では誰も認めてくれない。刃牙の失意と哀しみは、やがて大擂台賽の
あまりのバリューのなさに対する怒りへと変わった。
こんなベルトなんかいらない! ベルトを川に投げ捨てようとしたその腕を
後ろからムンズと掴まれた。勇次郎だ。慈愛のこもった眼差しで刃牙に手紙を
差し出した。手紙にはこう書いてあった。
『クソガキ、たまには学校行け』
てめーがイチバン無職くさいんじゃ! 激怒の刃牙は勇次郎を川に投げ捨て
た。
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