2003年28号 第172話

【前回まで】

 勇次郎は仰向けに転がったアライ猪狩状態となって、そのままスヤスヤと寝
息を立て始めた。
 これじゃケンカになりゃしない。よっぽど帰ろうかと思ったミスターだが、
風邪でも引かれたら後でどんな厭味を言われるか分かったもんじゃない。冷房
を弱めて毛布をかけ、しばらく見守ってやることにした。
 何と幸せそうな寝顔だろう。親指をチュパチュパ吸いながら体を丸める勇次
郎に釣り込まれ、ミスターもその場で体を横たえて眠りに落ちた。
 二人が見るのはどんな夢。お腹の中の赤ちゃんの夢。
 二人が見るのはどんな夢。優しいお母さんの温もりと眼差し。

 勇次郎とミスターはゆっくりと回転を始めた。みるみる速度を増し、やがて
小さな竜巻となって、開け放たれた窓から外に出た。互いに寄り添うようにし
て、茜色の空の彼方に消えていった。


 ゴマフアザラシの張洋王が刃牙を一蹴した。
 つぶらな瞳に見つめられて、あまりのかわいさに刃牙の動きが一瞬止まった。
そこへ張の運転するミキサー車が特攻。セメントまみれになって息絶えたのだ。
怒り狂った梢江が青龍刀を振りかぶって張に襲いかかった。
「キュ〜ン」
 愛くるしい鳴き声に、梢江はその場にへたれ込んだ。こんなかわいいアザラ
シ、あたし殺せない!
 スキだらけの梢江の眉間に張の手裏剣が突き刺さる。梢江、即死。
 張は擂台に導かれた。いよいよ最後の闘いだ。海王の座をかけて、烈vs張の
火蓋が切って落とされた。大きな瞳をうるませて、愛嬌いっぱいに張が鳴く!
「ムキュ〜ン」
 烈のキックが張のアゴを砕いた。烈のパンチで張の頭蓋骨は陥没した。
 ヌンチャク。トンファー。転蓮華。情け容赦ない攻撃にボロゾウキンと化し
た張に、烈は包丁を振り下ろした。薄切りの張を鍋にぶち込みダシをはる。野
菜、豆腐、魚、キムチを投入して蓋をする。充分に煮込んで蓋をとると、あっ
という間に鍋の周りに人だかりができた。真っ白な湯気を立てる鍋に、みんな
が一斉に箸をのばした。
 うまい! とろけるような舌触りもジューシーな肉汁も、まさに極上の逸品
だ。もう他の肉なんか食べられない! 劉海王のツルの一声が響き渡った。
「資格充分! 張を新たな海王に任命する!」
「さんせーい!」
 史上初、鍋の海王誕生の瞬間である。


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