2003年26号 第170話

【前回まで】

【問】ヘリではヘリでも羽根がない。これなーんだ?
【答】ぶっ壊れたヘリ


 夜叉猿Jr.の気まぐれでローターを破壊されたヘリが、墜落した。
 ヘリに乗っていた刃牙、梢江、烈は奇跡的に無傷だった。幸運を喜ぶ間もあ
らばこそ、すぐさま中国目ざして歩き出した。
 時に挫けそうな病身の刃牙を、常に烈が励ました。刃牙の足が疲れればヒッ
チハイクで車を止め、金が無ければ運転手をボコボコにして財布を巻き上げる。
ついでに駆けつけた警官もボコボコにした。梢江女王様の夜のお相手も替わっ
てやった。生傷は絶えないが、刃牙を救うべく粉骨砕身の烈である。


 巨大イカダで海に漕ぎ出した。同じくイカダで旅立ったまま消息不明だった
ミスターをサルベージし、旅の仲間は四人となった。
 ここで問題が発生した。飲み水がほどなく底をつく。ペットボトル三本を四
人で分け合うしかないのだが、いまだ中国大陸は影も形も見えない。
 烈の鼻息が荒い。ここまで頑張ってきたオレが水を飲んでなーにが悪いのか
とばかりに、喉を鳴らしてボトル半分を飲み干した。三人の目に殺意が宿った。
「今日は烈さんの誕生日。はい、プレゼント!」
 見渡す限りの大海原で、烈は思わぬ祝福を受けた。自分の誕生日はもう少し
先だったような気もするが、せっかくの心づくしを無粋な一言で袖にすること
もない。喜んで受け取って包みをあけると、中身は真新しいランドセルだった。
絶対似合うと言われて照れ臭そうに背負ってみせた。ほーらやっぱり似合う、
後ろのヒモを引っ張るともっと似合うと言われて疑いもせずグイっと引っ張る
とロケットエンジンが点火して、虹を描いてすっ飛んでいった。
 烈の消えたイカダの上で、水を巡る醜い駆け引きが始まった。三人の中で一
番立場の弱いミスターが新興宗教の教祖の座をちらつかせて梢江を味方につけ、
とりあえず刃牙を除外しようと画策する。金の匂いをかぎとった梢江、グラッ。
刃牙も負けじと、帰国後の炭酸ぬきコーラ飲み放題を切り札に梢江を懐柔する。
梢江、グラグラッ。とうとうつかみ合いのケンカとなって、寝食を忘れて三日
三晩殴り合った。
 やめた。日本海に俺達三人、助け合っていこうじゃないか! ありきたりの
結論に達したところで、仲直りの証にワカメたっぷりの味噌汁を作り、みんな
でおいしくいただいた。味噌汁の材料は、味噌、ワカメ、水。いけね、飲み水
を全部使っちゃった。
 その時、水平線の彼方に猛烈な飛沫があがった。烈だ! 復讐の鬼と化した
烈が海の上を走ってくる!
「きーさーまーらー!」
 三人はたまらず逃げ出した。やればできるもので、烈と同じく海の上を猛ス
ピードで駆けてゆく。人間の可能性は無限大である。
 逃げる三人。追う烈。抜きつ抜かれつのデッドヒートの果てに、中国到着。


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