2003年24号 第168話

【前回まで】

 天パのおっさんが偉そうにボクシングのご講釈を垂れ始めたが、烈の耳には
届かない。
 欲しい。ミスターとかいうガキの持っているあの人形が、欲しくて欲しくて
たまらない。


 清掃夫に変装した烈がモハメッド邸に潜入してから一週間たつ。
 当初は単に「淋しかったから」というだけの理由の不法侵入だったのだが、
探索を進めるうちに嫉妬の雲がムラムラと湧いてきた。
 世の中にはこんな金持ちもいるのか。でかい屋敷に広い庭。キッチンの棚に
は高級食器がビッチリ。割っても割っても次の日には新しいものと取り替えら
れている。試しにコックを捕まえて頭をぶち割ってゴミ箱に放り込んでおいた
ら、これは応急手当をして再利用されていた。ちょっとガッカリである。
 総大理石にライオンヘッド、ジャグジー完備の大浴場があるのだが、これが
なんとトイレらしい。烈が浴槽につかっている時にメイドがズカズカ入ってき
てウンコを垂れていったことが何度かあったが、なるほど、そういうことだっ
たのか。ありゃ浴槽じゃなくて便器か。
 とにかく不公平だ。オレが貧乏なのも打岩みたいなしみったれた修行をやら
されてるのも、みんなコイツのせいだ。コイツの幸せをぶち壊してやる!
 そんな矢先の、人形とのご対面である。その愛くるしさに、烈は一発で魅了
された。
 ガキに頭を下げるのは絶対にイヤだ。ここは力ずくで奪い取るしかない。し
かし、この身長差では転蓮華は通用しない。タバコの吸い過ぎで気弾も使えな
い。二大必殺技を封印されては、もはや打つ手はない。
 それでもイチかバチか、目をつぶってやみくもに突進していった烈だが、た
ちまちもんどり打って逆方向に転がっていった。勇次郎にデコピンを喰らって
すっ飛ばされたミスターの後頭部が、烈の人中を直撃したのだ。烈、悶絶!
「泣くな!!!」
 勇次郎に一喝され、ミスターは涙をこらえた。烈はこらえきれずに泣きじゃ
くった。
 そんなミスターの面構えに、勇次郎は満足げな笑みを浮かべた。
「俺のガキ共とい〜〜〜〜〜〜い親友になりそうだぜ」
 烈は大きくうなずいた。ミスター君、今日から君と私は親友だ。


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