2003年23号 第167話

【前回まで】

 バキ来たる!
 安藤のとばした一報は飛騨の町を駆け巡り、武装した全住民が山小屋めざし
て進軍を開始した。


 交通機関も発達し、東京から飛騨まで5日とかからない時代になった。だか
らご存知の方も多いだろうが、飛騨というのは発祥以来の夜叉猿の町だ。
 1492年、イタリアの航海者が新大陸を発見した。先住民を虐殺して、そこに
猿のための猿の国を興した。これが飛騨の起源とされている。
 爾来500年余。住民の猿は人間に、航海者の子孫は立派な夜叉猿へとそれぞ
れ進化を遂げた。飛騨の民は夜叉猿を神と崇め、一日三度の祈りを欠かさない。
関連グッズは飛ぶように売れ、夜叉猿ランドも連日大盛況。高校球児は甲子園
で夜叉猿マスクをかぶり、受験科目もサル語一教科。猿にエサを与えない観光
客は死刑。市民は税金の他に生贄も納める。朝夕の役場放送も登下校のチャイ
ムも校歌も何から何までぜ〜んぶ「ウホウホ」。
 そんな飛騨の地で、刃牙は夜叉猿と闘った。アウェーの不利をものともせず、
見事に勝利を収めた。飛騨の民が今日まで生き恥を晒してきたのも、ただ刃牙
への復讐の一念のみであったと言っても過言ではない。
 その復讐のチャンスが、遂にやってきた!
 安藤の家に刃牙がいる。しかも毒でヘロヘロだ。今なら勝てる! 積年の怨
みを今こそ晴らす。刃牙を倒した勢いで、目指すは東京進出だ!
 東京には夜叉猿Jr.がいる。青雲の志を抱いて、単身上京して数年経つ。
「神心会とかいう武闘集団のリーダーのバカ息子を秒殺し、すでに100万人の
部下を従えた。都知事・夜叉猿Jr.誕生も時間の問題だ」
 Jr.からの手紙にはそう書いてあった。サルが都知事になったというニュー
スはついぞ聞いたことがないが、Jr.がウソなどつくはずがない。きっと今頃
は都庁のてっぺんから下界を見下ろして胸でも叩いているのだろう。もう飛騨
が天下を取ったも同然だ!


 刃牙と梢江を取り囲んで、包囲軍はそこから何もできなくなった。すべての
目は、梢江の顔に釘付けだ。
 や……
「夜叉猿さま……!」
 梢江は飛騨の女王となった。飛騨の新たな歴史が、いま始まる。


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