
2003年21+22号
第166話
【前回まで】
尊敬されて嬉しくないはずがない。得意満面のマホメッドは、勇次郎にキス
マーク入りのサイン色紙をプレゼントした。勇次郎は色紙を受け取るフリをし
て手近のゴミ箱に放り込んで、逆に1500枚のパーティ券を無言でマホメッドに
差し出した。
言葉はなくとも分かり合える。それが男の友情だ。これ全部売りさばいたら
もっともっと尊敬される! マホメッドはぶ厚い紙束をひっつかむと、夜の街
を蝶のように舞っていった。
二時間後、パーティ券をそっくり札束に変えてマホメッドが戻ってきた。さ
すが世界チャンプは仕事が早い。勇次郎のマホメッドへの尊敬度が0.5ポイン
トアップした。マホメッドは勇次郎の周りをグルグルまわりながら、次の尊敬
指令を待っている。
勇次郎は考えた。尊敬するマホメッドに頼みたいことは山ほどある。サラブ
レッドと競争させたい。穴あきパンティをはかせたい。道頓堀のカーネルサン
ダースをサルベージして欲しい。さて、どうしようか……。
勇次郎は、厳かに口を開いた。
「ちょっと、パーキンソン病にかかってみてくれ」
刃牙が泣いている。梢江も泣いている。烈の遺影を前に、泣いている。
病身の刃牙を救うための願掛けで、エベレスト単独全裸登頂100往復を達成
した烈が紅葉の病院で危篤状態に陥ったとの連絡を受けたのが、昨日の朝。す
ぐさま病院へ向かえばよかったのだが、ほっといて二人で東急ハンズにショッ
ピングに出かけたのがマズかった。烈の最期を看取ることができなかった。激
しい後悔の念にかられ、二人は涙にくれた。
しかし、いつまでも落ち込んではいられない。烈の死は無駄にはしない。一
日も早く恢復し、天国の烈に元気な姿を見せてやるのだ!
それにはまずメシだ。こんな時のために用意してあった高級食材を使って梢
江が山ほどのごちそうを作ってくれた。刃牙に食欲のあるはずがないので、ご
ちそうは梢江が全てたいらげた。
適度な運動も不可欠だ。神心会の体験コースでリハビリを開始した。同伴の
梢江もついでに入会して、インストラクターの克巳が手取り足取り指導してく
れる。一方の刃牙には、野生のトラがあてがわれた。
そして何より安藤だ。東京に出てきたものの仕事も金もない安藤が、看病と
称して刃牙家に転がり込んできた。
「お世話ンなるよ、バキくん」
「帰れよバカ」
安藤はつまみ出された。さぁ、山へお帰り。
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