・陜西省 ・湖北省 ・湖南省、広東省 ・雲南省、貴州省
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西部大開発の最大のプロジェクトは、新疆から、華中地域へのパイプライン建設である。また、連雲港から、ヨーロッパへ通じる、ユーラシアランドブリッジ計画も進められている。これらを開発する中で、中国は陜西省の省都西安、交通の要所宝鶏の二都市を重視し、重点開発区に指定している。産業政策として、今後これらの都市では西部大開発の重点プロジェクトでもあるIT関連の産業に力を入れていくことが目標として掲げられている。そのため、西部大開発を推進する中で、IT分野の先進地域である四川省が、後発の西安、宝鶏のIT産業発展に大きく関わることが予想される。近年の西安、宝鶏のIT産業開発は国家主導型である。民間(地方)主導型で発展した四川のIT産業とどのような関わりを見せるかにも注目が集まる。また、最近、四川長虹がロシアとの提携を発表したことからも、陜西以北の地域、新疆を越え、中央アジア、ロシアとの関係もより強めていくことになるだろう。四川の電子産業はすでに世界的に通用するものを持っているのは、近年の中国家電業の、世界における躍進等から見て取れる。そして、最終的にユーラシアランドブリッジの終着点ヨーロッパまで進出することを見据えていると考えられる。
当面は、西部大開発の開発目標である、科学技術の分野での成都―綿陽―宝鶏―西安のラインを中心に四川と、陜西の協力が期待される。また、このラインは西部地区のなかでも特に経済的に高いレベルの地域であるため、西部大開発を先導する役割も期待される。
陜西省では現在、西康鉄道(西安―安康)が敷設中である。西康鉄道の開通によって、重慶と西安が鉄道で結ばれる。重慶は西部における南部地域の雲南、貴州の入り口にあたり、西安は西部における北部地域の甘粛、青海等の入り口にあたり、それぞれ西部における南北の拠点である。そして、重慶は中部地区の湖北、湖南からの入り口であり、西安は中部地区の河南からの入り口であり、重慶と西安は、西部地区内という点と、中部地区と西部地区の連携という点で、ともに重要な役割を果たす地域である。この2都市が結びつくことによって、地域開発は促進される。そして、この2都市間の地域は、都市と都市を連結する役目を持つようになる。四川で、中国で最も貧しい地域の1つは、この重慶と西安を結んだ地域である。また天然ガス開発という点で、重慶は中国最大のガス田があり、西安は、青海省から上海へ通じるパイプラインの拠点にあたり、同じ産業内での相互開発も行われ、技術的な面等からの結びつきも強まるだろう。
また西部開発のなかで陜西省の安康から、鉄道インフラが四方に張り巡らされることになる。安康を中心に四川、重慶、陜西、湖北省がむすばれ、成都、重慶、綿陽、西安、宝鶏、襄樊といった主要都市と直接むすばれる。未開の地であるが、その地理的な点から、今後西部地区の流通面で鍵を握るのは安康かもしれない。安康の位置する漢水流域も中国のなかで特に貧困地域なので、四川省東部貧困地域と隣接する安康周辺の開発も期待される。
意外なことだが、現状四川、重慶と中部地区(湖南、湖北)を直接結ぶ陸上交通インフラはない。成都、重慶と湖北省の襄樊が一応結ばれて入るが、大きく陜西を迂回して結ばれているので、西部大開発における達川(四川)―万県(重慶)―枝城(湖北)鉄道と、重慶―懐化鉄道によって初めて中部地区の湖北、湖南と結ばれることになる。また、大量の農村人口を抱える万県周辺の重慶北部には鉄道がなく、初の鉄道建設となる。四川、重慶と湖北は隣り合わせているものの、流通は水上が中心であり、近年ダム建設等によって、水上流通の衰退、飽和により、流通の成長があまり見込めない。
湖北省との結びつきは2つの意味をもつ、一つは国家プロジェクトでもある三峡ダム建設等のインフラ面をめぐっての連携であり、もう一つは長江流域経済圏における、武漢を中心とした地域との連携である。当面の課題は三峡ダム建設に伴い、湖北省枝城、宜昌といった地域との発電等の面での協力である。三峡ダムの建設は重慶と湖北省西部に大きな影響を及ぼし、その地域の貧困層の改善にも有益である。また、国が掲げている「西電送東」の点で、中部地区の重工業の拠点武漢にも電力を大量に供給できるようになり、相互の発展が期待できる。地下資源開発という点で、最近では、すっかり青海省の柴達木盆地のガス田等からのパイプライン建設に話題をさらわれているが、現状、天然ガスを中国でもっとも多く産出しているのは重慶地域であり、重慶―武漢―上海というパイプライン建設プロジェクトも存在している。このガスパイプライン建設を契機に、青海省、新疆の天然資源開発で青海、新疆の交通インフラが強化されたように、四川、重慶地区から、直通で長江沿岸部に達する交通インフラが整備されるのならば、今後湖北から上海まで大きな流通が生まれ、相互協力は強化され、かつ、現在輸出のほとんどを広東省に頼っている四川、重慶にとって、南進のほかに東進というルートが加わり、プラスになるのは間違いない。湖北省西部のインフラの発展により、重慶は投資環境等の面で改善される。
数千年来四川盆地への入り口は蜀の桟道と呼ばれる、四川北部地域だけしかなかった。今後、湖南との鉄道開通、道路敷設で、長江の水運を除いて初めて四川盆地から、直接中部への道が開けるのである。ゆえにこの地域の開発は、これまで中国は地域ごとに市場を形成していたが、中国全土がひとつの市場となる足がかりとなり、極めて重要な意味を持つことになる。
内陸部の最大の弱点は、海がない、港がない、輸出に不利であるという点である。現状四川、重慶の輸出は、まず重慶に集められ、それから鉄道により、貴州―広西―広東というルートを通る。海へ出るために遠回りし、貴州や広西を経由しなければならない現状は決して輸出に有利とはいえない。近年四川、重慶の輸出が大幅に増加傾向にあるとは言われているが、全国的な規模で見てみると、まだまだ小さい。<注1>現在、重慶の輸出改善のために重慶―懐化鉄道が敷設中である。さらに重慶―長沙の道路建設も行われている。これらが完成することによって、重慶―湖南―広東という最短の海へのルートができる。同時に、最近は内陸市場をもとめて、広東からの資本の移動も増え始めており、重慶と広東の間で、大きな流通が生まれるのは間違いない。重慶―湖南―広東という結びつきに関しては、産業構造の偏った重慶に対して、先進地域である広東との流通強化は、2次、3次産業の大きな発展が期待でき、農村の貧困問題、産業構造改革問題を解決する鍵となるかもしれない。そして重慶経済開発区、輸出加工区等の成長を助長することが期待される。
雲南、貴州省へのルートは現状の成昆鉄道、川黔鉄道から、内昆鉄道が完成することによって、四川、重慶とは三方向のルートで結ばれる。
雲南、貴州も四川と同じく、農村人口が圧倒的な地域であるため、まずは全体的な生活水準の向上が目標になる。そのなかで、四川、重慶という地域は化学肥料、飼料の分野では、中国の中でも有数の地域であるため、雲南、貴州の貧困農村開発という点をおいて、大きな役割を果たすことが期待される。そして、農村改革が進むにつれて、雲南と隣接する攀枝花からの電気提供がすすめられ、重慶から、天然ガスが供給されるようになれば、四川の電力供給過多、天然ガス利用と雲南、貴州の農村開発に進展を見せ、お互いの地域にとってプラスとなる。当面基本的にすべての面で四川、重慶地区は雲南、貴州より発展している。まずは内昆鉄道の開発から始まり、四川省が、主に雲南、貴州地区の発展に寄与することになるだろう。
また、今後、雲南省を中心に辺境貿易も積極的に推進されることになるだろう。雲南省はベトナム、ラオス、ミャンマーと国境を接しており、さらにタイとも近い。ベトナムへは鉄道が開通している。今後これらの地域と雲南の関係は、より密接なものになることが考えられる。現在、対ベトナム輸出の中心は、化学肥料、オートバイであり、これは四川、重慶が中国の中でも特に優勢を発揮する産業である。そのため、雲南方面への開発、インフラ建設は、四川、重慶の、ASEAN諸国への輸出にもプラスの働く可能性が大きい。
<注1>
99年の貿易額 単位:億米ドル |
全国 |
四川 |
重慶 |
1745.1 |
4.3 |
2.4 |
《中国統計摘要》より |
2001年1月発表
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