重慶

内陸最大の工業都市

 重慶は97年に四川省から独立し、直轄市となった。現在人口は約3000万人で世界最大の都市である。直轄市といっても、北京、天津、上海とは完全にその意義が異なる。これらの地域は、経済的に発展しているので、直轄市とされたが、重慶の場合は、周辺の貧困の改善、三峡ダム建設をスムーズに行うために直轄都市とされた。
 この地域は、都市部では昔ながらの、国有企業を中心とした重化学工業地帯を形成し、郊外には貧しい農村地帯が広がっている。近年は天然ガス開発が活発で、四川とあわせて中国全土の40%を占める天然ガスを、四川、重慶全域に浸透させ、電力開発(水力)とあわせて、地域住民の生活レベル向上を目標に挙げている。
 重慶は、改革開放のなかではT字型発展戦略の一環として、以西の長江沿岸都市、攀枝花と連携する、長江上流域経済圏に指定され、中流域の武漢を中心とした地域、下流域の長江デルタ地帯と結びつく、竜の尻尾の役割を果たすことが期待された。
 重慶の主な産業は、冶金、軍事物資、自動車、化学肥料等が中心である。重慶だけで見た場合、総工業生産の中で軍需物資の占める割合が一番大きく、全生産額の15%程度を占める。全国的に見ると、自動車生産に関しては、およそ全国の10%を占める。これはトラック生産が中心である。さらに、近年長安自動車の成長は目覚しい。 二輪の生産では、全国の2割近くを生産する。<注1>
 重慶の工業を語る上でのポイントは、非効率な国有、大型、重化学であり、現在中国が抱える国有企業問題の典型と言える。そのために中国政府は西部大開発のなかでも、この重慶を特に重視し、内陸都市としては初めて、外資に対して沿海地区の上海なみの優遇政策を与え、輸出加工区を設立した。重慶は今後発展のチャンスに恵まれている。

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重慶の産業政策、外資との結びつき

T.外資による輸出強化をねらう輸出加工区の設置

 重慶は、内陸都市では最初に外資に対して、沿海都市の上海なみの優遇政策を与えることが認められた。そして、輸出加工区も設置された。これは中国がWTOに加盟するにあたり、内陸部に外資を誘致するために、当然の政策に見える。重慶は内陸最大の工業都市であり、日本の企業をはじめとする多くの海外資本が重慶で出資をしている。改革開放以来、長江上流域経済圏の中心的役割を果たしているが、それでも産業構造的に苦戦を強いられている。また、沿海部の高度経済成長により労働賃金の上昇を招き、外資はより廉価な労働力を求めて内陸に進出することも予想される。しかし、あえて問う、重慶に現段階で輸出加工区を設置するということはどのような意味をもつか?一体重慶は中国がWTOに加盟するなかでどのような役割を果たすべきか?

U.必ずしも優遇政策ではない優遇政策

 重慶の輸出加工区では、外資に対して優遇政策が採用されているが、厳密に言えばこれは優遇政策ではない。というのは、あくまでそれは、ほかの内陸都市と比べての優遇政策であり、改革開放以来沿海部で採用していたことを、内陸で採用しているだけであり、中国全体から見た場合、これは必ずしも優遇政策とは言えない。このような状況で外資が内陸の重慶に輸出拠点として食指を動かすかは疑問である。同じ優遇政策がおこなわれているなら、製品輸出を目的とする外資企業は輸出に適した沿海部を選択する可能性が高いといえる。

重慶の外資売上上位10社 単位:万元 
  外資企業 売上 利税
1 ※慶鈴汽車 353586 86062
2 ※重慶長安鈴木汽車 176431 45759
3 ※嘉陵本田発動機 68937 16701
4 ※重慶建設雅馬哈摩托車 60617 10886
5 重慶奥妮化粧品 50332 16473
6 重慶頂益国際食品 43395 6175
7 重慶隆鑫汽油機製造 36105 927
8 重慶正大 33065 2450
9 重慶康明斯発動機 31824 2496
10 重慶中渝物業発展 28000 4274
  ※は日系<注2> 《重慶統計年鑑》 

V.重慶の産業構造

まずは重慶における外資企業の表を見てもらいたい。
 この表からわかることは、上位は日系の自動車メーカーで占められており、以下は自動車の部品メーカーや、化粧品、食品メーカーが続く。重慶は昔からの重工業都市であり、そこに目を付けた日系の自動車メーカーが、軍民転企業に着目し、出資を行っているのが重慶外国資本の大きな特徴である。
 これらの産業の特徴は外向型産業ではなく、内向型産業がほとんどであるという点である。重慶外資企業売上トップの慶鈴グループは、中国全土の日系外資企業でもトップレベルであり、さらに中国における全世界の外資企業においてトップレベルの企業である。しかし、現状、輸出高はゼロである。<注3>つまり、重慶という都市は外資企業にとって、対外輸出の拠点というよりは、中国市場進出するための拠点として魅力があると言える。

W.重慶の交通インフラ

長い間黄金水道として重慶と沿海部を結んできた交通インフラとしての長江の役割が転換期を迎えつつある。90年代にはいってから、毎年のように長江中流域は水害に悩まされ、安定した輸送ができていない。また三峡ダムプロジェクトも現在着実に進められている。このことから、今後の重慶を中心とした沿海地域への交通インフラは、陸路が中心となるはずである。
 西部大開発における内昆鉄道や重慶―懐化鉄道の建設により、南方の広東、広西への流通が発展するのは間違いない。それによって重慶は、湖北、湖南、貴州、雲南、四川、陜西の全方向と鉄道で結ばれることになる。さらに直接ではないが、広東との結びつきもより強まることが考えられる。重慶は中国において、いよいよ単なる中心ではなく、交通の中心へと変化を遂げる。この地域が陸の孤島だったのはもう過去のことである。大げさではなく、すべての鉄道は重慶へ通じている。
 さらに90年代に入ってから綿陽―成都―重慶という高速道路が開通し、電子工業都市の綿陽、商業都市の成都、重工業都市の重慶という西部開発の鍵を握る三都市の結びつきが強くなった。
 重慶に外資のために上海と同様の優遇政策が与えられたのは昔から工業都市として発展してきたのもさることながら、むしろ、その交通インフラという点が注目である。今後、鉄道を中心とした交通インフラが整備され、流通、資本の移動が大きくなるにつれ、重慶の投資環境が整備された時、前述の輸出加工区が本当の意味で、四川、重慶地区の輸出拠点としてではなく、中国における外資企業の拠点としての役割を果たすはずだ。

X.今後予想される中国における重慶の役割

 慶鈴自動車グループ等の、重慶における、生産拠点ではなく、中国市場獲得としての成功は、中国という国は、日本ひいては諸外国にとって、単なる輸出するための生産拠点ではなく、市場として進出できる国でもあるということを証明したといえる。そのため、多くの外資企業が今後中国の内陸市場を獲得するべく、交通インフラの発展が期待できる重慶を拠点として進出してくる可能性は非常に高い。重慶という都市は、当面は外向型の産業にとってよりも、内向型の産業にとってのほうが、より魅力的だろう。外資が安い労働賃金を求めるにしても、沿海部の広西や、中部地域の安徽省、江西省のほうが適している。重慶はインフラ網が四方八方に発達することが期待できることから、外向型の外資を誘致するよりも、まずは内向型産業の外資を招いたほうが効果的である。外資企業の輸出拠点を作り上げることよりも、中国における、西部地区の流通の一大拠点を作り上げることのほうが重要であり、より合理的な開発ではなかろうか。重慶は昨今のインフラ開発により、それが今後期待できる都市である。ゆえに輸出加工区の開発強化を中長期的開発と定めた上で、まず流通網を発展させ、重慶の都市レベルを引き上げ、産業構造を転換させ、2次産業(製造業)の生産を高めつつも、三次産業の比率を高め、それから輸出を強化した方がより効果的である。西部大開発にも段階がある。まずは西部地区全体の生活レベルを上げてから、経済のブロック化など、次の戦略が行える。重慶の場合は、まずはインフラ、流通を整備することが必要である。西部大開発の重要課題、産業構造の改革の最重点地域は、他でもなくこの重慶である。

<注1>
《重慶統計年鑑》より。また、重慶は97年以降軍需物資生産のはっきりとした統計数字を公表していない。その他として公表している。
<注2>
『中国進出企業一覧99年版』によると、それぞれの合弁比率は、慶鈴自動車は、いすゞ7.3%、興亜ビジネス2.6%。長安スズキは、スズキが35%、日商岩井14%、長安自動車51%。建設ヤマハと、嘉陵ホンダは、それぞれ、ヤマハ、ホンダと、重慶が50%ずつ合弁である。
<注3>
対外貿易経済合作部発表の統計、《中国経済年鑑1999》によると、98年、慶鈴自動車は、中国の外資企業全体で18位であり、日系ではトップである。


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