2005年14号 第242話

【前回まで】
中国から帰国した刃牙は自分の原点である青木ヶ原の"長老"のもとを訪れる。そこに現れたアライJr.がバキとの対決を希望して……!?

 ミスターは梢江に電話をかけた。呼び出し音が三回鳴って梢江が出た。
「もしもし」
「もしもし、梢江さんですね。私ミスターです。お元気ですか」
 梢江は何も喋らない。ミスターも黙って待っていると、ややあって返事がか
えってきた。
「分かってるわ、アナタ刃牙クンでしょ。私とセックスがしたいの?」
 とてもスケベな言葉が混じっていたので、ミスターはちょっとドキドキして
携帯電話を見た。そして気を取り直して梢江に言った。
「いえ、ミスターです。大擂台賽で範海王を秒殺したミスターですよ」
 電話の向こうで含み笑いをするような気配があった。梢江は言った。
「刃牙クンが二秒でのしたのは、範海王じゃなくて郭春成でしょ。セックスも
二秒で終わったら、私怒っちゃうゾ」
 無理やりセックスを絡めてきた。ミスターは梢江に説教してやった。
「ゾじゃないでしょ。刃牙くんはアナタの彼氏なんだから、声ぐらい覚えてお
きなさい。だいたい刃牙くんの日本語はこんなにカタコトじゃないでしょ」
 今度ははっきり笑い声が聞こえた。梢江は笑いながら言った。
「自分では気づいてないかもしれないけど、刃牙くん敵のパンチをもらいすぎ
て脳みそがポンコツになって、何を喋っているのか全然分からないんだから。
アンタはアーウー唸って私とセックスしてりゃそれでいーのよ」
 だったらカタコトでも日本語を話してるオレは誰だ、とはミスターは言わな
い。別のことを考えている。ミスターの目的は刃牙を挑発することで、それで
梢江をかどわかしてやろうと電話をかけた。梢江を連れ出すことができれば自
分がミスターだろうが刃牙だろうが一向に構わない。ミスターは刃牙のふりを
して、梢江のセックス祭に乗ってやることにした。
「私は刃牙だ。キミとセックスしたいから今すぐここへ来てくれ。場所は……」
「もう来ちゃった」
 とっさに辺りを見回したが誰もいない。ミスターは梢江に尋ねた。
「来ちゃったって、どこに? ひょっとして、そこに刃牙くんがいるのかい?」
「刃牙くん! 犯して!」
 梢江は話を聞いていなかった。受話器から離れたような梢江の小さな声がし
て、一緒に男の呻き声も聞こえてきた。
「ああ刃牙くん! 黒人パワーで私をメチャクチャにして刃牙くん!」
 相手はやっぱり黒人らしい。ミスターはなんかもう色々なことが面倒になっ
て、黙って携帯電話を耳に当てている。ヘルプヘルプという男の絶叫がしばら
く続いて、チェーンソーの音が聞こえたあたりで静かに電話を切った。
「なんだあのアマ」
 ミスターは梢江の拉致をあきらめて、別のターゲットに電話をかけた。
「烈海王ですか。私ミスターです。実はあなたを誘拐したくて……」
「ウソつけ、キミは刃牙くんだろう。いいから私とセックスするんだ」
 こいつもダメだと、ミスターは電話を切って別の人間にかけ直した。
「もしもし独歩さん、ミスターです。実はあなたとセックスを……」
「おお刃牙くん。ワシいま中国なんだが、大擂台賽はどこでやっとるんだ?」
 電話を切った。みんな自分と刃牙を間違える。ミスターはだんだんハラが立
ってきて、むきになって電話をかけまくった。
「本部さん! ミスターなんだけどさ!」
「刃牙くん、絶対に返さんから金貸してくれ」
「フラワー! 俺はミスターだこのやろう!」
「俺は花山だバカヤロウ! てめえは刃牙だクソ野郎!」
「もしもし夜叉猿Jr.? ミスターだ!」
「ウホ」
「パーキンソン病のオヤジー! 俺だ息子のミスターだ!」
「お父上は亡くなりました」
「ウガー!」
 ミスターの怒りが爆発した。ミスターは携帯電話を床に叩きつけた。
「どいつもこいつもバキバキバキバキ! オレはミスターだバカヤロウ!」
 携帯電話に五寸釘を打ちつけようとしたその時、着信を告げる音が鳴った。
「なんじゃいコラ! てめえもオレをバキと呼ぶんか!」
「お前はミスターだろう。用があるからちょっと来い」
 電話の主は勇次郎だった。自分をミスターと呼んでくれる人間がいることが
こんなに嬉しいとは思わなかった。ミスターは天にも昇る気持ちで車をぶっ飛
ばして勇次郎の指定の場所に駆けつけた。
「ミスターに何の御用ですかー!」
「死ねー!」
 勇次郎にホテルでの借りをイヤというほど返された。覚えててくれてる人が
いてよかったね、ミスター。


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