幻影旅団という盗賊団について、分かっている事実がいくつかある。まず、
ゴミ溜めで貧民窟の流星街出身であるという事。そして、劣悪な環境で幼少期
を送ってロクな栄養もとれずに育ってしまったので、
「ぎょえー!」
 もの凄く弱いという事。キメラアント殲滅に乗り込んだ幻影旅団のメンバー
は、全員返り討ちにあって捕まった。カルトは流星街の出身ではなかったが、
ゴミ臭い連中と一緒にいる内にゴミがうつって弱くなった。
 旅団員は女王の間に引き据えられた。キメラアントが流星街につくった城は
すべてがゴミで出来ていた。女王のザザンとしては、こんな辛気くさい街から
はとっととおさらばしたいところだが、得意になって占領した手前もあるので
我慢して踏みとどまった。キメラアントにもプライドというものがある。
「命だけは助けて下さい。なんでもするので殺さないで下さい」
 旅団員には全然プライドがなかったので、ゴミの床に額を何度もなすりつけ
て命乞いをした。ちんけなプライドが身を滅ぼすということを心魂に徹した、
幻影旅団の処世術である。彼らは生きるためならどんなことだってやる。
「そんじゃあアタシの奴隷になりなさい」
「それだけは絶対ヤダ」
 旅団員は両手をバッテンに組んで断固拒否した。どんなことでもやる、とい
うのは建前で、イヤなものはやっぱりイヤだった。死にたくない、やりたくな
い、面倒くさい。幻影旅団は自分に素直な人間の集まりだった。
「だったら今すぐ死になさーい!」
 ザザンは針のついた尻尾を振り回して、足元で木屑をかじっていたドブネズ
ミの脳天に突き刺した。ドブネズミの体は蛇みたいに波打って、工事現場の作
業員に変身した。ザザンが指令を与えると、作業員は破砕用のドリルを構えて
旅団員に襲い掛かった。危うし、幻影旅団!
「うらー!」
 太い煙管が作業員のヘルメットを打った。作業員はドリルと一緒に吹っ飛ん
で、ゴミの壁に大穴を開けて未知の世界へと旅立っていった。絶体絶命の幻影
旅団を救ったのは、たった今城に到着したばかりのモラウだった。王の護衛を
追っていた筈が、気まぐれでこんな所まで来てしまった。
「アンタは今日から幻影旅団だ!」
 シャルナークはビッと指さしてモラウをスカウトした。幻影旅団には、気に
入った人間は勝手に仲間にして会費を徴収できる、というステキな団規がある。
カルトもこの手で搦めとられた。
「なに? 幻影旅団?」
 モラウの目が怪しく光った。国際A級手配犯である幻影旅団の情報は、ハン
ター協会本部から各支部へ逐一報告されている。旅団員はモラウがハンターだ
ということを知らなかった。
「よし! 分かった!」
 モラウも幻影旅団なんて全然知らなかった。モラウは面白そうなので一も二
もなく承知して、次のメンバー指名権は自分にあるとシャルナークから教えて
もらった。そして即座に権利を行使した。
「そこのアンタ、幻影旅団!」
 ザザンが旅団入りと相成った。モラウはザザンに手の平を差し出した。
「そういう訳で、会費くれ」
 あまりの迫力に押されて、ザザンは会費を払おうとした。しかしゴミの城に
金目のものなどある訳もないので、生ゴミの詰まったゴミ袋をくれてやった。
「こんなものいりませーん!」
 モラウの怒りが爆発した。ザザンをゴミ袋に押し込んでぶん投げて、ゴミの
天井に大穴が開いた。
「アンタも会費を払いなさい」
 既存メンバーの六人がモラウに手の平を差し出した。
「そんなもの払いませーん!」
 モラウの怒りが大爆発した。六人の首根っこを掴んで四方八方に投げ飛ばし
て、ゴミの壁やゴミの床が穴だらけになった。ゴミの城は崩壊した。


「あーあ、腹減った」
 モラウは飽きたので家に帰った。後に残ったゴミの瓦礫とザザンの部下の変
わり果てた姿が、流星街の一部となって母なる大地に埋もれていった。
 幻影旅団について分かっていることがもう一つある。幻影旅団はこのままで
は決して終わらないという事だ。