まだ暗い空の下を、学ラン姿の人足達がかけずり回る。松明の光に
照らし出された巨大な十字架が、魔人のような影を大地に落とす。
ドッポリアを待ち受ける磔柱の白い巨体に、夏の夜露がからみつく。
臨時刑場となった男塾の校庭は、創立以来の賑わいを見せた。
竹矢来の外には見物客が殺到し、興奮の余り屋台でコサージュを
売り始めた塾生と一触即発のにらみ合いが続く。裏の広場では
死ぬのはJだと決めつけた一部のファンが、Jの葬式をおっ始め
ピンピンしてるJ本人と一触即発のにらみ合いが続く。
煮えくり返るような騒ぎの中、荘厳な音楽が鳴り響く。
正面のドアが重々しく開き、スモークの中から一人の男が
姿を現した。本日の主役、ドッポリアの入場だ。
歓声に手を振って応え、軽快な足取りで走ってくる。
そのまま磔柱をスルーすると、開いた校門から外に出て行った。
逃げた!事態を把握した江田島が、すぐさま田沢に捕縛を命じた。
完全に開き直ったドッポリア。しょうがねえだろ、朝起きたらやっぱ死にたく
なかったんだから。昨日は昨日、今日は今日で通ってんだバカヤロウ!
日本刀をメチャクチャに振り回して追っ手を牽制するが
多勢に無勢。とうとう袋小路に追いつめられた。
ドッポリアの脳裏に電撃が走った。そうだ、反重力砲だ!
ニヤリと笑って右肩をポンと叩く。お前らみんな死んでしまえ!
眼球が開く。銃口がせり出す。歯磨き粉がニュルニュル出てくる。終了。
こんなこともあろうかと、田沢が前夜に改造を施しておいたのだ。
軍事力を大幅に削減されたドッポリアだが、だからと言って
死なずに済むという法はない。搦め捕られて、予定通り磔の刑に処された。
ガラクタと化したドッポリアを穴に放り込み、田沢が土をかぶせる。
土饅頭に唾を吐きかけ、立ち去っていく。ドッポリアは死んだ。
人々もドッポリアを忘れた。ドッポリア亡き後も、日常は何食わぬ顔で回り出した。
ドッポリアの新たな冒険が、今始まる。ゆけ、ドッポリア!負けるな、ドッポリア!
そして急げドッポリア!
つづく
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