「あらすじ」
男塾一号生・田沢の手によって、一体のロボットが誕生した。
ドッポリアと名付けられたそのロボットは、周囲の大きな愛と
一部のナショナリストからの突き上げにより、若干屈折しながらも
まあ健やかに育っていった。
ドッポリア、10歳の夏である。
沈みゆく夕日と入れ替わりに、薄い三日月が楡の木の向こうから顔を出した。
通い慣れた通学路を、ドッポリアが我が家目指してかけてゆく。
クラブ活動を終え、サウナで一汗かいたその顔は、充実感に
満ち溢れている。家に帰ったら晩飯食って寝るだけだ。起きれば朝が
やってくる。変化も刺激もない、退屈な日常の繰り返しだ。
あーやだやだ。絶望の淵に立たされたドッポリアの足取りは重い。
倒壊しないのが不思議なくらいのボロアパートに到着した。
錆び付いた階段を上り、203号室のドアを開ける。父親の田沢は
すでに帰宅しているようだ。
壁のスイッチを入れると、裸電球が弱々しい光を明滅させる。
ガサガサという音を立てて逃げ散るネズミやゴキブリには目もくれず
台所へ向かう。食卓の上の新聞紙を持ち上げると、その下の料理皿は
どれもすべて完食済み。「チンして食べてね」の置き手紙が空しい。
また俺の分まで食いやがったな、クソオヤジ。そういうナメた真似は
せめて学校卒業して金稼いでからにしろよ、頼むから。大体、ウチ
電子レンジねーんだけど、チンの意味わかってんのか?
田沢は、永遠の男塾一号生である。一家の暮らしは、ドッポリアの
ある特殊技能によって支えられている。これからも多分ずっとそうだ。
茶の間から悲鳴があがった。田沢の声だ。食器棚の日本刀を手に取ると
鯉口を切って一気に引き抜き、ドッポリアは茶の間へ向かった。
オヤジ、今助けてやるぞ!
全裸で土下座をする田沢。座卓をはさんで腕を組む男が、冷ややかな眼で
田沢を見下ろしている。太い眉、張り出したアゴ、珠のようなキンカ頭。
面識はないが、男塾塾長・江田島平八に違いない。田沢が平生口にする
相貌にドンピシャリだし、何より、プライドだけは人一倍高い田沢が
土下座の上に全裸で震えている姿からも察せられる。
チンコ丸出しはかえって無礼とか、そんな些事はどうでもいい。こちらの
早合点を詫びねばなるまい。江田島のハゲ頭を抜き身でピタピタやりながら
「アンタ、ひょっとしてホモデビル江田島?あ、これ親父の考えたあだ名ね」
つづく
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