2012年38号 最終回
【前回まで】
勇次郎がせっかく作った味噌汁を、刃牙は一口すすっただけでちゃぶ台ごと
ひっくり返した。勇次郎のショックは計り知れない。あー! とか言って。
貴様オレの味噌汁をー! とか言っちゃって。
「なめとんのかお前ら」
顔中に血管を浮き上がらせた独歩が声を絞り出した。勇次郎と刃牙は腐った
陰茎を見るような目つきで独歩を見た。
「どっちかが死ぬのが楽しみでずっと見てるのに、いきなり地べたに座り込ん
で仲良くメシ食うフリとか、マジでお前ら何やってんの?」
フリというのが非常に引っかかる。まさかそんな筈はないと思うが、刃牙は
ちゃぶ台と味噌汁を指さして独歩に聞いてみた。
「独歩さん、こっちはちゃぶ台でこっちは味噌汁だけどオーケー?」
「何を言っとるのか全然分からん」
なんと、独歩には勇次郎渾身の力作がまったく見えていないらしい。バカに
も見えるように作ったつもりだったが、バカの見積もりが相当甘かった。勇次
郎は独歩にも見えるように気合を入れて、全裸の夏恵とドリアンを作って野獣
のようなセックスをさせた。
「独歩よ、これを見たお前は何をどうする?」
「貴様らをころーす!」
なめられている事にようやく気づいた独歩は、鬼神の如く刃牙に襲い掛かっ
た。だが勇次郎と刃牙に勝てる人間など、この世のどこにもいなかった。
「身の程知らずなのでさようならー!」
刃牙はデコピンで独歩を吹き飛ばし、同じ方向に夏恵とドリアンを蹴り飛ば
した。三人は空中で手を取り合って、楽園を目指してどこまでも飛んでいった。
「オレ達の親子喧嘩をバカにする奴は、一人たりとも生かしておかんのだ!」
勇次郎と刃牙は、バカにしてそうな奴を全員処分する事に決めた。まずは近
くにいた花山からだった。
「スピンオフなど百年はやーい!」
勇次郎は手の平の穴で花山と変なヤンキーを吸い込んで異次元送りにした。
次はピクルと、突然出てきた勇一郎だ。
「わざわざ出てきた意味が分かりませーん!」
刃牙は二人の肛門にストローをさして体液を吸い尽くした。ふと見るとまだ
梢江がいる。彼女はいつだって刃牙の最大の理解者である。刃牙が毒で死にそ
うな時は特に何もしなかったり、黒人のボクサーと意味なく浮気してみたり。
「この人が一番バカにしてそうでーす!」
刃牙はラブホテルの便所に梢江を押し込み、聖なる札で永久封印した。これ
で現場の駆除は終わったが、まだ世界各地にたくさん敵がいる。勇次郎は魔法
のツボを作って、ツボに手を突っ込んで範海王とジャックを引っ張りだした。
「認知しませーん! 認知はウソでしたー!」
勇次郎は二人をゴミ箱に捨てて、次はミスターを引っ張り出した。ミスター
は焦点の定まらない目で、コズエコズエとうわ言のようにつぶやいている。
「梢江ならどうぞご自由にー!」
刃牙はラブホテルの便所にミスターとコンドーム1箱を追加した。次に出て
きたのはシコルスキーだったが、これは静かにツボに戻した。それ以外の郭海
皇、オリバ、ゲバル、本部などのキャラ立ちした連中はことごとく親子喧嘩を
なめくさった危険分子のため、ゴミ箱に捨てて東京湾に沈めた。
「親子喧嘩をバカにしてるヤツはまだ腐るほどいるぞー!」
勇次郎がそう言ってツボに手を入れる前に、ツボから勝手に誰かが出てきた。
烈海王だった。
「私はバカにしとらん」
そんな訳ねーだろと思う勇次郎と刃牙を尻目に、烈はツボから完全に出て、
パントマイムでラーメンを作り始めた。
「親子喧嘩の締めくくりが仲直りの飯で何が悪い。親子の絆を親子以外が理解
できなくて何がおかしい。誰が何と言おうと、私は貴様らの親子喧嘩を認める」
烈は3人分のラーメンをちゃぶ台に置いて、自分から先に麺をすすった。
「うまいぞ。貴様らも食え」
「そういえば烈さん、ボクシングの世界チャンピオンとはいつ試」
「黙って食えー!」
烈は特大のラーメンの丼を勇次郎と刃牙の頭からかぶせて、その上に座って
ラーメンを食べ続けた。それは食べても永久になくならない、しかし手に取ろ
うとしても絶対につかめない、底知れぬ夢と幻と哀しみのラーメンであった。
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