2011年24号 第251話

【前回まで】

 勇次郎と刃牙の、史上最大の親子喧嘩が始まろうとしている。政府は非常事
態宣言を発令し、日本全体が厳戒態勢に入った。あと同じ時期にチョロチョロ
されると気が散るので、烈海王のボクシングの試合を中止に追い込んだ。


「貴様になんの権限があるんだ」
 烈の試合会場はラスベガスだったので、日本のバカ親子が何をしようと全然
まったく関係がない。烈は目の前の園田警部を血走った眼で睨みつけた。
「だってつまんなそうな試合じゃん。やめちゃえやめちゃえ」
 園田は烈のメンチなどお構いなしの涼しい顔で言った。頭の悪い格闘家をい
じめるのが大好きな園田は、烈の試合の妨害役としてラスベガスに来ていた。
「つまらなくない! 中国武術を極めた海王と、ボクシング界最強のヘビー級
チャンプが闘うんだから、世界中の格闘技ファンが注目しているんだぞ!」
「ふーん。格闘技ファンってこいつら?」
 園田は控室を出て、観客席をのぞき見た。暇を持て余した海王が何人か寝て
いる他は、客は誰もいなかった。
「ほんで、世界最強のチャンプってこいつ?」
 控室の隅っこに、グラブをはめたバカでかい男がボケーと突っ立っていた。
頭に金属製のヘルメットをかぶっており、隣の博士が電気を流すと動き出した。
壁に向かって歩き続けて、壁に頭をゴンゴンぶつけている。
「ねえねえ、こんな閑古鳥で試合やんの? こんなんに勝っても嬉しいの?」
「やかましい! 弱い相手と闘って楽にチヤホヤされたいんだから、つべこべ
言わずに試合をさせろ!」
 つい本音が出た。烈が少し哀れになったので、園田は自分の股間に手を突っ
込んだ。手に陰毛がついていたら試合は中止、水着の美女がついていたら試合
させてあげる。
「貴様さてはアホだな」
「まあまあ。そろそろ親子喧嘩が始まるから烈くんも一緒に見よう。絶対に超
面白いから」
 親子喧嘩は全世界にテレビ中継されていた。園田は手にこびりついた陰毛を
払い落として、テレビのスイッチをつけた。


 勇次郎と刃牙の親子喧嘩が始まった。あくまでも親子喧嘩なので、勇次郎は
急所を避けて刃牙のケツを軽く蹴った。痛いがとても温かい、親父の愛のムチ
だった。
「どりゃー!」
 勇次郎の次のパンチは刃牙の人中にクリーンヒットした。刃牙は顔の真ん中
に大きなクレーターを作ってぶっ倒れた。勇次郎は続けざまに刃牙の股間を思
い切り踏んづけて肛門に拳を突っ込んだ。肘まで入った。刃牙が思っていた親
子喧嘩とちょっと違う。
「オヤージ! 親子喧嘩なので急所ノー!」
「急所イエス。親子喧嘩などとぬるい事をほざいているのは貴様だけだ」
 勇次郎は全身に鬼の貌を作って、人生最大の本気モードに突入している。刃
牙も本気を出さないと間違いなく死ぬが、急にそんな事言われても困る。
「親父わかった! オレも本気を出すからまずはちょっと落ち着け!」
「よし0.1秒待ってやろう」
 0.1秒たったので、勇次郎は急所攻撃を再開した。大量の血煙の向こうから、
刃牙のか細い悲鳴が少しだけ聞こえた。


「ね、超面白いでしょ」
「ただの撲殺ショーじゃねーか」
 烈は無表情で園田に答えた。こんなしょっぱい試合のために、自分の晴れ舞
台がおじゃんになったと思うと、烈は怒りでいても立ってもいられなくなった。
「決めた。貴様が何と言おうが私も試合をしてヒーローになる」
「えーよ。試合させてあげる」
 園田は意外にも試合を許可した。烈は嬉々として廃人チャンプをリングに引
きずり上げて、自分でゴングを鳴らした。
「園田サンキュー! 今度は私が主役になる番だ!」
 烈が軽いジャブを打ったらチャンプは死んだ。烈は一瞬でボクシングの世界
チャンピオンになった。しかし相手が弱すぎて達成感のかけらもない。しかも
客の海王どもは全員寝ていて誰もほめてくれない。園田は烈に言った。
「どう? 主役になれた? 嬉しい?」
「なんか違うなー!」
 烈と園田は顔を見合わせて大笑いした。ラクして生きても人生つまらんちゅ
う事ですよアナタ。


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