
2007年20号 第66話
【前回まで】
刃牙は指錠を外して、オリバはタキシードを脱いだ。これでいつでも闘える。
「はじめ!」
判定役の烈が銅鑼を鳴らした。まずは刃牙のパンチがオリバに当たった。
「刃牙くん、先制! 1点!」
烈は銅鑼を1回鳴らした。オリバが頭突きを返すと、烈は銅鑼を2回鳴らした。
「オリバくん、カウンター! 2点!」
刃牙とオリバは互いに一歩も譲らず殴り合い、銅鑼の音がやむことはない。烈
の額にも、うっすらと汗が光りだした。
「オリバさん、表でやろう!」
狭い館内では存分に暴れられない。刃牙とオリバは監獄広場に移動した。烈は
監獄の床に正座をして、しばしの休憩をとった。
「あの」
闘いを見物していたハゲの囚人が、おそるおそる烈に話しかけた。烈はインス
タントラーメンにお湯を注ぎながら、囚人の顔も見ないで答えた。
「なんだ」
「あんた、誰?」
「お前がそれを知ってどうする」
囚人はそれ以上何も言えなくなった。烈も囚人のことなど完全に無視して、で
きあがったラーメンをすすり始めた。そこへ巡回の警官がやってきた。
「ん?」
警官と烈の目が合った。烈が笑顔を作ったので警官も釣られて笑い、二人で声
を出して笑いあった。
「貴様は誰だー!」
警官は烈に向かって銃を乱射した。烈は全弾を箸でキャッチして、ゆっくりと
立ち上がった。
「私が誰だか分からないか」
「いや、その」
警官は弾切れになった銃を構えたまま、どうすることもできずに突っ立ってい
る。烈は警官の青ざめた顔に手をやって、口をこじ開けて銃弾を放り込んだ。
「よく噛んで食え」
警官は泣きながら帰った。入れ違いに、騒ぎを聞きつけたアイアン・マイケル
がやって来た。烈の顔がパッと輝いた。
「マイケルじゃないか! 元気だったか!」
烈はマイケルの肩を何度も叩いて再会を喜んだ。マイケルは困り顔で言った。
「すまん。誰だっけ?」
「貴様もかー!」
烈の怒りの肩叩きで、マイケルは床をぶち抜いて地下まで落ちた。烈は監獄を
飛び出して、他の囚人や警官を捕まえて片っ端から聞きまくった。
「私は誰だ!」
「知りません!」
「死ね! 私は誰だ!」
「ラ、ラーメンマン?」
「惜しいが違う! 私は誰だ!」
「モンゴルマン!」
「全然ちがーう!」
不正解者を全員海に叩き落した。阿修羅と化した烈が最初の監獄に戻ると、刃
牙とオリバが帰ってきていた。
「そういえばさ。なんで烈さんがここにいるの」
刃牙の一言が烈の脳髄に届くまで数秒かかった。烈は声を震わせて尋ねた。
「刃牙くん、私は誰だ?」
「烈海王に見えるんだけど、ひょっとして人違い?」
烈は刃牙に抱きついて、声を上げて泣いた。烈の体がだんだん透き通ってきた。
「私は烈海王だ! またキミと闘いたい! またキミのライバルになりたい!」
烈は完全に消えた。オリバは残ったラーメンの器をじっと見て、刃牙に言った。
「寂しかったのかな?」
「寂しかったんだろうね」
オリバと烈は、壁に開いた大穴から夜空を見上げた。流れ星が一つ尾を引いて、
また烈に会えますように、と二人で願をかけた。
少しして、刃牙とオリバは決闘を再開した。独歩が合図の太鼓を叩いた。
次号
前号
TOPへ