Chaucer, Troilus and Criseyde の語彙について

 

(The Vocabulary of Chaucer’s Troilus and Criseyde)

 

 

 

野呂俊文

(Toshifumi Noro)

 

 

 

 

 

(この語彙集の利用法)

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目次

 

I.  副詞

II. 接続詞

III. 前置詞

IV. 代名詞

V.  形容詞

VI. 名詞

VII. 動詞

主要参考文献

 

 

 

 

ジェフリー・チョーサー (Geoffrey Chaucer) (1343?-1400) の長編物語詩Troilus and Criseyde 『トロイラスとクリセイデ』(1382-85) で使用されている主要な語彙について見ていきたい。チョーサーの作品は中英語 (Middle English, ME) で書かれており、今日の英語である近代英語 (Modern English, Mod E) とは異なるが、現代の我々がチョーサーを読むときそれほど違和感を感じない。それはチョーサーが用いたのが当時のロンドン英語であり、首都であったロンドンの英語はその後標準語へと発達していったからである。とは言っても、チョーサーの英語は今の英語と文法も若干異なる場合もあり、用いられている語彙の中には今日では古語となっていたり、また廃語となって全く使用されなくなっているものもある。以下では、そのような古語や今は使用されなくなっている語彙を取り上げて概観したい。

 Troilus and Criseyde という作品が詩であるということもあって、五巻から成り、全部で8239行というこの長い物語詩の語彙は比較的均質であると考えられる。読者は読んでいくうちに、同じ語彙が何度も繰り返されて使用されていることに気付く。そのような反復して使用される、いわばこの作品を読む際の重要語彙というべきものの中には古語や廃語となっているものが多くある。それらの語彙の多くは同時に他の中英語の作品を読む際にも役立つ重要語彙であろう。以下では、チョーサーの友人であったジョン・ガワー (John Gower) (1330?-1408) の長編詩 Confessio Amantis『恋する男の告解』(c1393) を適宜引き合いに出して、使用語彙の頻度などについての比較も行ってみたい。ガワーは、用いた英語に関してチョーサーよりも保守的であると言われているが、ガワーの英語もチョーサーのと同じくロンドン英語であり、両者を比較することによって Troilus and Criseyde という作品の語彙の特徴が明らかになると考えたからである。

 作業手順として、Troilus 全五巻のうち第二巻をサンプルとして取り上げ、第二巻全体に見られる語彙を中心に見ていきたい。作品が長編であるということもあり、またすでに述べたように語彙が均質であることもあって、重要な語彙はたいていどの巻においても使用されているので、一つの巻の語彙を取り上げただけでも、作品全体で使用されている重要語彙が拾えると考えたからである。したがって、以下で取り上げる語彙にはTroilus に見られるおもな重要語彙はほぼ含まれていると考えられる。なお、VI. 名詞とVII. 動詞に関しては、これらの品詞の性格上、特に重要と思われる語に限定して取り上げた。

 テキストとしては次のものを使用した。

 

Walter W. Skeat, The Complete Works of Geoffrey Chaucer in 6 vols. (Oxford U. P., 1894, 1972)

G. C. Macaulay, The English Works of John Gower in 2 vols. (Oxford U. P., 1901, 1979)

 

 語彙の使用頻度を調べる際には上記のテキストの電子版を使用した。これらの電子テキストは上記のテキストに忠実なものであり、上記のテキストと同じものと判断できる。

 

The Project Gutenberg Etext of Chaucer's Troilus and Criseyde (edited, proofed, and prepared by Douglas B. Killings, 1995)

The Project Gutenberg Etext of John Gower's Confessio Amantis (edited and proofed by Douglas B. Killings, 1994)

 

 The Canterbury Tales を若干引き合いに出した場合があるが、そのときは次のテキストを使用した。

 

F. N. Robinson ed., The Works of Geoffrey Chaucer Second Edition (Oxford U. P., 1957)

 

 この電子版テキストとしては

 

The Canterbury Tales (Electronic Text Center, University of Virginia Library)

 

を使用した。この電子版テキストは固有名詞の大文字がすべて小文字に変っている点を除けば、Robinson 版のテキストに忠実であると判断できるものである。

テキストからの引用文に邦訳を付けるにあたっては、宮田武志訳『トゥローイラスとクリセイデ』(ごびあん書房、昭和62年)を適宜参照させていただいた。それぞれの語についての記述は主に The Oxford English Dictionary Second Edition on CD-ROM (Oxford U. P., 1993) によった。

語の作品内での使用回数を示すようにしたが、この数は厳密なものと言うより、およその目安を知るための概数とお考え頂きたい。特に、同じ語が複数の異なる綴りで表記されている場合は見落としが絶対にないとは言い切れず、また同綴り異義語が存在する場合や同じ語に異なる品詞の用法がある場合などは、一つ一つ読んで判断したが、それでも読み違いの可能性を排除できず、また用法が微妙で判断に迷うような場合もあるからである。

なお、作品の年代の前に付けた a c はそれぞれ a=ante (〜年より若干前)c=circa (〜年頃) の意味である (a1400=before 1400;  c1400=about 1400 など)

 


 

I. 副詞

 

目次

 

接頭辞 a-

a-bed (=in bed) / a-doun (=down) / a-morwe (=in the morning) / a-drad (=afraid) / a-noon (=immediately) / a-wepe (=into weeping) / a-yein (=back; again; against)

 

時を表す副詞

alday (=always) / algate(s) (=at any rate)/ alwey (=always) / ay (=always) / blyve (=quickly) / eft (=again) / erst (=before) / oft(e) (=often) / rathe (=quickly, early), deliverliche (quickly) / selde (=seldom) / som-tyme (sometimes) / tho (=then)

 

程度などを表す副詞

certes (=certaily) / dredelees, out of drede (=wihout doubt) / eek (=also) / ferforth (=far) / forsothe (=indeed) / ful (=very, completely) / hardely, hardily (=certainly) / lyte (=little) / muchel (=much) / mo (=more in number), never-mo (=never again) / nede (=necessarily) / nedes (=necessarily) / no-thing (=not at all), nought (=not, not at all), nat (=not) / ought, aught (=at all) / outrely (=utterly) / paraunter (=perhaps) / pardee, depardieux (=by God) / plat (=flatly) / sikerly (=certainly) / somdel (=somewhat) / soore, sore (=exceedingly,) / thrye (=thrice) / unethes, unnethe (=with difficulty, scarcely) / wonder (=very) / y-wis, wis, wisly (=certainly) / ye (=yea, yes) / nay (=no)

 

 

接頭辞 a-

 Troilus のテキストでは接頭辞 a- で始まる語がいくつか見られる。その中で今日では古語となっているか、全く使われなくなっている語は次の表1の通りである。Confessio Amantis に同じ語が見られる場合はその使用回数も示す。

 

1 接頭辞a-で始まる古語

Troilus

使用回数

意味

Confessio

使用回数

a-bedde

7

in bed, to bed

abedde

29

a-cursed

2

cursed

 

0

a-day

1

by day, in the daytime

adaies, adai

7

a-doun,

adoun

13

down, downwards

adoun

1

a-drad

1

afraid

adrad

13

a-fered

1

afraid

afered

4

a-game

2

in jest, in play

 

0

a-gilt

2

aguilt=be guilty (towards)

agulte

1

a-gon

1

gone

agon

7

a-greef

3

in grief,  take (it) agrief=take (it) hard

 

0

a-morwe

6

in the morning

amorwe

5

a-noon,

anoon, anon

83

at once, immediately

anon

266

a-twinne

2

apart

atwinne

3

a-twixe

1

between

 

0

a-twixen

1

between

 

0

a-two

3

in two

atwo

1

a-wepe

1

burst a-weep=burst out weeping

 

0

ayein

55

against, back, again

ayein

316

ayeins

11

against

ayeins

2

 

 接頭辞 -a の歴史について簡単に見てみたい。OE の前置詞 an, on が弱まってすでに OE の時代に a となっていた。an は円唇化されて on となり、前置詞 in の意味を吸収して ‘on, in’ ‘unto, into, to’ の意味を持つようになった。11世紀に on は子音の前で o へと縮められ、さらには曖昧母音の a へと弱まった。強調形の on が存続している場合には、母音の前では an が使用されることもあった。独立語としての a が今日使用されることはまれであるが、go a begging や、冠詞の a と混同されて、twice a day, once a year などの句に残っている。‘We will go a-hunting.’ のような語法は18世紀に廃れた。

 この前置詞 a は今日では、複合語としての副詞の接頭辞として一語として綴られるようになっている。しかし、Skeat 版のTroilus では a-bed のように大部分はハイフンを伴って綴られている。一方、ガワーの Confessio Amantis ではハイフンなしに綴られている。

 

a-bed (=in bed)

a-bed ‘in bed’ の意味で、今日では古語になっている。

 

and ever lay

Pandare a-bedde, half in a slomeringe,  (67)

パンダラスはうつらうつらしてずっとベッドに伏していた。

 

Troilus での使用回数は7回で、Skeat 版ではすべて a-bedde という綴りになっている。

 

a-doun (=down)

Til at the laste he seyde he wolde slepe,

And on the gres a-doun he leyde him tho;  (515)

結局、昼寝がしたいと言って、それから草の上に横になった。

 

adown (=down) OE ‘of dune’ に由来し、「丘から下って」がその原義である。早くも12世紀にはその短縮形 a-dūn の語頭母音が消失して dūn, doun という形が生じ、これが散文においてはふつうの形となった。しかしadown も廃語とはならず、今日まで詩語として存続している。

Troilus での a-doun の使用回数は13回で、a-doun 形が7回、ハイフンの無い adoun 形が6回である。Confessio Amantis では adoun 1回、a doun 2回使用されている。

 

a-morwe (=in the morning)

Sey that thy fever is wont thee for to take 

The same tyme, and lasten til a-morwe; (1521)

よく今頃の時間熱がでて翌朝まで続くのだと、おっしゃりなさい。

 

And sende yow thanne a mirour in to prye

In whiche that ye may see your face a-morwe!  (405)

そのときご自分の顔を朝見ることのできる鏡を取り寄せるのです。

 

a-morrow a-morwe 形は13世紀から15世紀に使用された綴りで、「朝に」(in the morning) という意味の場合と、「翌朝」(next morning) という意味の場合とがある。Troilus での使用回数は6回である。Confessio Amantis では amorwe 5回、a morwe 3回使用されている。

 

a-drad (=afraid, frightened)

By god, ye maken me right sore a-drad,  (115)

Ye ben so wilde, it semeth as ye rave!

あきれた、本当に怖くなるわ、乱暴なことをおっしゃって、気違沙汰だわ。

 

 a-drad (=frightened) of-dred (脅えさせる) の過去分詞 of-drad が弱まった形である。of-drad a-drad 1200年から1300年にかけては同義語として使用され、1300年頃 of-drad の方は消滅した。Troilus での a-drad の使用回数はこの1回だけである。Confessio Amantis では adrad 13回使用されている。

 

a-noon (=immediately)

Whanne this was doon, this Pandare up a-noon, (1492)

To telle in short, and forth gan for to wende

To Troilus...

簡単に言えば、これがすむとパンダラスはすぐ立ち上がってトロイラスのところに行った。

 

 a-noon anon 14世紀〜15世紀に用いられた綴り。OE on ān (=into one), on āne (=in one) が一語に合体した形で「一体となって」(in one body) がその原義である。チョーサーで用いられているのは、「ただちに」(at once, immediately) の意味で、この意味は今日では廃義であるが、かなり後の時代まで使用され、OED  の最後の用例は1862年のものである。anon 16世紀に「まもなく」(soon) の意味に誤用されるようになり、この意味では今日でも古語・詩語として使用されることがある。

 Troilus 中での使用回数は a-noon 5回、ハイフンのない anoon 形が73回、anon形が5回で、強意形の anon-right 3回である。Confessio Amantis では anon 266回使用されている。 

 

a-wepe (=into weeping)

And she bigan to breste a-wepe anoon, (408)

彼女はたちまちわっと泣き崩れた。

 

 wepe weep (泣くこと=weeping)の意味の名詞で、OED  には13世紀から16世紀までの用例が挙がっている。 ‘burst a-weep’ ‘burst out weeping’ の意味。Troilus での a-wepe の使用回数は1回。Confessio Amantis では使用されていない。

 

a-yein (=back; again; against)

Ber it a-yein, for him that ye on leve!  (1141)

それ(手紙)をお持ち帰りください、後生ですから。

 

But right as floures, thorugh the colde of night

Y-closed, stoupen on hir stalke lowe,

Redressen hem a-yein the sonne bright,   (971)

And spreden on hir kinde cours by rowe,...

ちょうど夜の寒さで閉じて、茎の上で低くうなだれていた花々が、輝く太陽を背にして立ち直り、その本性にしたがって相並んで花を開くように

 

 a-yein again 14世紀に用いられた綴りで、上記の最初の引用文では ‘back’ の意味の副詞であり、次の引用文では ‘against’ の意味の前置詞である。

 again OE ongean に由来するが、この語は on gegn (=direct, straight) の合成語で ‘opposite’ を意味した。「再び」(again) を意味する OE の語は ‘eft’ であったが、この ‘eft’ はしばしば ongean によって補強され、13世紀までには ongean が「再び」を意味する主要な語となった。

ongean はイングランド南部では ayen, ayein となり、北部では a-gain となった。後の agen 形は ayen again の混成形であり、当時の共通文学語の発音を示しており、19世紀まで詩人たちによって使用されたが、今日では廃語となっている。

 1130年頃には adverbial genitive(副詞的属格)の -s が付いたaȝenes, againes が生じた。これらが1400年以前に前置詞形では余剰音のtが付いて aȝenest, against となった。

 16世紀初期には again がもっぱら副詞として、against が前置詞として使用されるようになった。against 形が採用されなかったスコットランドやイングランド北部では、again が副詞と前置詞の両方の用法を受け継いでいる。

 チョーサーでは、again を副詞としては ‘back’, ‘again’ の意味で、前置詞としては ‘againt’, ‘towards, facing’ ‘towards’ [時間的に] 〜近くに)の意味で用いられている。

Skeat Troilus での使用回数は、a-yein5回、ayein 43回、ayeyn 7回、a-yeins 1回、ayeins 10回、ayeinward (=backward, back again) 2回であり、一方、g を用いた綴りの方は、again 4回、agains 1回である。Confessio Amantis では ayein 315 回、ayeyn 1回、ayeins 2回、ayeinward 16回使用されており、g を用いた綴りは使用されていない。また、チョーサーの時代には南部ではすでに aȝenest という語尾に余剰音の -t を持つ形が見られたが、チョーサー、ガワーともに against という語尾に -t を持つ形を使用していない。

 

 

時を表す副詞

alday (=always, every day)

I knowe also, and alday here and see,  (733)

Men loven wommen al this toun aboute;

この町のいたる所で男の人が女性に恋をしていることは、私も知っているし、いつも見聞きしているわ。

 

 alday all day からなる複合語で、「毎日」(every day) あるいは「いつも」(always) の意味。

 Troilus での使用回数は、alday 9回、al-day 2回である。Confessio Amantis では alday 14 回、aldai 6 回使用されている。

 

algate(s) (=at any rate; always, in every case; nevertheless)

Algate a foot is hameled of thy sorwe.  (964)

とにかく、あなたの悲しみの片足は断ち切られています。

 

Algates, hem that ye wol sette a-fyre,  (Troilus III. 24)

They dreden shame, and vices they resigne; 

とにかく、君が心を燃やそうと思うほどの人は、恥を恐れ、悪徳をやめるのである。

 

引用文での algate(s) の意味は「とにかく」(at any rate) で、この語はチョーサーではこれ以外に ‘nevertheless’, ‘always, in every case’ などの意味でも使用されている。algate all と「道」(way) を意味する gate との複合語で、1300年頃に adverbial genitive(副詞的属格)の -s がついた algates 形がイングランド北東部で使われ始めた。この語は 17 世紀初頭まで使用され、OED  による最後の用例は1614年のものである。

Troilus での使用回数は、algate 2回、algates 1回である。Confessio Amantis では algate 34 回、algates 8 回使用されている。

 

alwey (=always)

And seyde, he wolde in trouthe alwey him holde;  (1084)

常に誠実な気持ちを持つ続けるつもりだと言った。

 

 alway は元来 all way 2語であったもので、空間の広がりを表す adverbial accusative(副詞的対格)として距離的に ‘all the way’ (ずっと)を意味した。しかし、すでに OE の時代に時間的広がりの ‘all the time’ の意味に転用されるようになった。のちに、1230 年頃に現れた属格形の always と混同されるに至り、散文では always alway に取って代わるようになり、alway は詩の中や 古語 (archaism) としてのみ存続した。

 Skeat 版では常に alwey(s) と綴られていて、 その使用回数は、 alwey 53 回、alweys 2回である。 Confessio Amantis では alway 4 回、alwey 4 回、alwei 2 回使用されており、副詞的属格の -s の付いた always 等の形は使用されていない。

 

ay (=always)

and to Deiphebus wente he tho

Which hadde his lord and grete freend ben ay;  (1403)

それから彼はデーイフォバスの所へ行った。デーイフォバスは常に彼の主君であり、親友であった。

 

ay は「常に」(ever, always) の意味で、今日では古語・詩語となっている。ay には aye という綴りもあるが、Skeat 版では ‘always’ の意味の副詞は常に ay と綴られている。また、‘alas’(ああ)などを表す間投詞の場合は常に ey (5 ) と綴られている。

Troilus での ay の使用回数は 99 回である。Confessio Amantis では ay 20 回使用されている。

 

2 「常に」を表す副詞の使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

alwey(s)

55

alway, etc.

10

ay

99

ay

20

ever

108

evere

417

 

 

blyve (=quickly)

And Troilus to paleys wente blyve.  (1537)

トロイラスは急いで王邸に行った。

 

‘By god,’ quod he, ‘that wole I telle as blyve;  (137)

彼は言った、誓って、ぼくもただちに話したいんだよ、

 

 blyve belive 14世紀から17世紀にかけて用いられた綴り。belive は元来は2語の bi (=by) +life であったもので、‘with life’, ‘with liveliness’ (生き生きとして)の意味であった。「生きた」の意味から「急いで」の意味を生じた quick と同様な経緯で、blyve ‘quickly’ (急いで)‘at once’(ただちに)の意味になった。‘as blyve’ ‘as quickly as possible, immediately’ の意味で用いられる。

 Troilus での blyve の使用回数は14回である。Confessio Amantis では blyve 8 回、blive 1 回使用されている。

 

eft (=again; afterwards)

Ne shal I never seen yow eft with ye.  (301)

お前とは再び顔を合わせないことにするよ。

 

Be ye nought war how that fals Poliphete

Is now aboute eft-sones for to plete,   (1468)

And bringe on yow advocacyes newe?

悪党のポリフィーティーズが今また訴訟を起こし、あらためてお前を訴えようとしているのに気付いていないのかい。

 

 eft ‘again’ (再び)を意味する副詞で、 17世紀まで使用された。 eft soon(s) との複合語 eft-soon(s) の形で用いられることもあり、これは ‘again’, ‘immediately’, ‘back, in return’ などの意味で用いられた。

 Troilus での使用回数は、eft 14回、eft-sone 1回、eft-sones 2回である。Confessio Amantis では eft 17 回、efte 4 回、eftsone 4 回、eftsones 1 回使用されている。

 eft again とは意味が必ずしも同じではないが、 参考のために両方の使用回数を表で示す。 again は副詞、前置詞の両方を含むが、ayeins のように語尾に s の付いた形は除く。

 

3 eftagainの使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

eft

77

eft(e)

136

a(-)yein, agayn

52

ayein

315

 

 

erst (=before, earlier; first)

And ay gan love hir lasse for to agaste

Than it dide erst, and sinken in hir herte,  (902)

恋は次第に最初ほど彼女を怖がらせなくなり、彼女の心の中に忍び込んでいった。

 

 erst ere (=early; before) の最上級であり、‘at first’ あるいは意味的には比較級の ‘earlier, before’ の意味を持ち、形容詞としては ‘first’ の意味を持つ。

 erst Troilus での使用回数は14回である。Confessio Amantis では erst 12 回使用されている。

 

oft(e) (=often)

Ful sharp biginning breketh ofte at ende.  (791)

激しい始まりはしばしば最後にはだめになってしまう。

 

But right as whan the sonne shyneth brighte,

In March, that chaungeth ofte tyme his face,   (765)

ちょうどその表情をしばしば変える三月に太陽が明るく輝くように。

 

 今日でも古語・詩語としてお目にかかる oft (しばしば) は、チョーサーでは often よりも頻繁に使用されている。

ME 初期に oft は副詞語尾の -e によって ofte へと拡張された。1200 年頃から 1500 年頃にかけてはイングランド南部および中部では ofte が唯一の形態となり、oft は北部方言に限られることとなった。 ofte 16 世紀に語尾の e が脱落して、徐々に oft によって取って代わられるようになった。

 今日一般的となっている often は、oft あるいは ofte の拡張形である。チョーサーでは ofte が子音の前で使用され、often が母音または h の前で使用されている、と OED  は述べている。しかし、Troilus のテキストを見る限りでは必ずしもそう言うことはできないように思われる。後に続くコンマや改行を一応無視して数えれば、ofte の使用回数 74 回のうち、母音または h が続くものが 36 回あり、often の使用回数 12 回のうち次に h 以外の子音が続くものが7回あって、OED  の記述とは矛盾しているからである。

 Skeat Troilus での使用回数は、ofte 74 回、often 12 回、oft 3回、比較級の ofter 1回である。ofte 74 回のうち 9 回は ofte tyme というフレーズで使用されている。

Confessio Amantis では ofte 136 回、often 8 回使用されている。ofte 136 回のうち 17 回は ofte time で、3 回は ofte times で、5 回は ofte sithe で、1 回は ofte sithes で使用されている。

 

4 oft(e) often の使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

ofte, oft

77

ofte

136

often

12

often

8

 

 

rathe (=quickly; early); deliverliche (=quickly, nimbly)

And with his salte teres gan he bathe

The ruby in his signet, and it sette

Upon the wex deliverliche and rathe; (1088)

塩辛い涙で指輪のルビーを濡らし、すばやく印を封蝋に押した。

 

 deliverliche rathe もともに「素早く」(quickly) の意味。rathe は元来、比較級 rather の原級であり、‘quickly, at once’ あるいは ‘early’ を意味した。rathe ‘quickly’ の意味の用法は 16 世紀までは広く一般に使用されたが、今では廃義となっている。しかし、rathe の「(朝)早くに」の意味の用法は詩語あるいは方言として今日まで続いている。

 Troilus での使用回数は deliverliche 1 回、rathe 3回である。Confessio Amantis では deliverliche も、原級の rathe も使用されていない。

 

5 anon, soon, ratheの使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

a(-)noon, anon

83

anon

266

sone (=soon)

80

sone (=soon)

54

rathe

3

rathe

0

 

 

selde (=seldom)

And eek ther-to, he shal come here so selde,  (377)

それにまた、彼がここに来られることはあまりない。

 

 seld seldom と同義で、OE seldan (=seldom) の比較級 seldor や最上級 seldost の原級として形成された語。-e の付いた selde 13 世紀から 17 世紀にかけて用いられた形である。seldom と同義の rarely 16 世紀に登場した語であり、seldom の意味での rarely OED  での初出は 1552 年であって、チョーサーの時代にはまだ存在していなかった。

 Troilus での selde の使用回数は3回であり、seldom は使用されていない。Confessio Amantis では seldom 13 世紀から 16 世紀にかけての形である selden も見られ、selden 8 回、selde 4 回使用されている。

 

som-tyme (=sometimes; at one time or another)

Som-tyme a man mot telle his owene peyne; (1501)

男は時には悩みを打ち明けなければいけない。

 

For to every wight som goodly aventure

Som tyme is shape, if he it can receyven;  (282)

というのは、それを受け入れる準備さえできていれば、誰にでも何らかの幸運がもたらされるものだから。

 

 sometimes の意味の sometime は今日では古語となっている。16 世紀までは1語として書く書き方と、2語として書く書き方の両方が用いられた。チョーサーでも両方が見られる。複数の s をつけた sometimes はチョーサーの時代にはまだ存在せず、OED  sometimes の初出は 1526 年である。

 Troilus での使用回数は som-tyme 7回、som tyme 3回である。Confessio Amantis では som time 13 回使用されている。

 

tho (=then)

Tho gan she wondren more than biforn  (141)

A thousand fold, and doun hir eyen caste;

そのとき彼女は以前にもまして幾層倍もいぶかしく思い、目を伏せた。

 

tho (=then) that の意味の OE の指示代名詞の対格形 þā (=that time) に由来する。ME において þā はイングランド北部では残ったが、中部や南部では規則的に þō, thō へと変化した。

 Troilus では tho という語は those の意味の指示代名詞・形容詞の場合と、 then の意味の副詞の場合があるが、使用回数 103 回のうち指示代名詞・形容詞の場合が 22 回、副詞の場合が 81 回であると思われ、then の意味の副詞の方が頻度的には多い。同義語である thanne (=then) 27 回、thenne 4 回使用されている。Confessio Amantis では副詞の tho 415 回使用されていると思われ、thanne 474 回、thenne 4 回使用されている。

 

6 thothenの使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

tho

81

tho

415

thanne, thenne

31

thanne, thenne

478

 

 

程度を表す副詞

certes (=certaily)

For certes, lord, so soore hath she me wounded, (533)

That stod in blak, with loking of hir yen,

That to myn hertes botme it is y-sounded, 

Thorugh which I woot that I mot nedes dyen;

というのは、神様、黒い衣装を着た彼女がその眼差しで私を傷つけ、それは私の心の底に達し、そのため私は必ずや死ななければならないことが分かっているからです。

 

 certes は古フランス語から入って来た語で、certainly と同義である。チョーサーは副詞として certainly, certain, certes を使用している。

 Troilus での使用回数は certes 14 回で certainly 16 回である。certainly に関して Skeat 版では4種類の綴りが見られる(certaynly 6回、certeynly 4回、certainly 3回、certeinly 3回)。Confessio Amantis では certes 33 回、certeinly 5回、certeinliche 1 回使用されている。

 表7は「確かに」を意味する語句の使用回数を示したものである。Troilus では y-wisstrewelypardee が多く、Confessio Amantis では certes が多いことが分かる。

 

7 「確かに」を意味する語句の使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

certes

14

certes

33

certainly

16

certeinly, certeinliche

6

in certayn

4

in certain [certein]

7

y-wis

77

ywiss, iwiss

9

wis

7

wiss

2

wisly

12

 

0

doutele(e)s

11

 

0

out of doute

6

out of doute

1

with-outen doute

2

withoute doute

2

out of doutance

2

 

0

dredele(e)s

11

 

0

out of drede

11

 

0

with-outen (any) drede

4

withoute drede

5

hardely, hardily

10

 

0

parde(e), pardieux, depardieux

26

 

0

sikerly

3

sikerly, sikerliche, sekerliche

6

forsothe, for sothe, for sooth

4

 

0

in sooth

2

in soth

5

sothly

1

sothly, sothliche

3

trewely, trewelich(e)

38

trewly, trewli, trewliche

14

verraylich(e)

2

verrailiche, verraily

4

 

 

dredelees, out of drede (=wihout doubt, assuredly)

For, dredelees, men tellen that he dooth  (185)

In armes day by day so worthily,...

疑いもなく、噂では、彼は毎日武勲をおたてになるそうだし。

 

For every thing, a ginning hath it nede

Er al be wrought, with-outen any drede. (672)

あらゆるものにはそれが成るに先立って、どうしても始まりがなければならないことは、疑う余地のないことですから。

 

I am oon the fayreste, out of drede,  (746)

疑いもなく私ほど美しい女性はいない。

 

 「恐れ」を表す dread が、14世紀から16世紀にかけては「疑い」(doubt) の意味で使用されることがあった。通常 out of dread, without dread, no dread などの句で使用され、「疑いもなく」(without doubt, doubtless) を意味した。なお、dreadless (=doubtless) OED  での初出はチョーサーのものである。

 Troilus での使用回数は out of drede 11回、dredelees 9回、dredeles 2回、with-outen drede 2回、with-outen any drede 2回である。 Confessio Amantis では withoute drede 5 回使用されているが、それ以外の dredelees 等は使用されていない。

 

eek (=also, moreover)

That Pandarus, for al his wyse speche,

Felt eek his part of loves shottes kene, (58)

利口な口をきいたものの、そのパンダラスもまた恋の神の鋭い矢に射られた心地がした。

 

 eke は「〜もまた」(=also) を意味し、ドイツ語の auch と同語源の語である。14-16 世紀には eek という綴りも用いられ、Troilus ではこの eek 形が最も多く 194 回使用されていて、eke 形が6回である。also に関しては、一応意味を度外視すれば、also 36 回、als 1回使用されている。Confessio Amantis では ek 284 回、eke 54 回、一方、 also 273 回、als 90 回使用されている。

 

表8 ekealsoの使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

eek, eke

200

ek, eke

338

also

36

also

273

 

 

ferforth (=far)

For thus ferforth I have thy work bigonne,  (960)

Fro day to day,...

これまでずっと毎日ぼくは君のために骨を折ってきたからだ。

 

 fer (=far) 12世紀から16世紀にかけて見られる形で、Troilus ではこの fer 形が一貫して使用されている。また ferforth far と同義である。thus ferforth は一種の熟語で「これまで(ここまで)ずっと」の意味。

 ferforoth Troilus での使用回数は7回である。Confessio Amantis では ferforth 30 回、ferforthli 2 回使用されている。

 

forsothe (=indeed)

Forsothe, so it semeth by hir song, (883)

きっとそうでしょうね、彼女の歌から判断すれば。

 

 forsothe (=forsooth) for sooth (=truth) とからなる複合語で、「確かに」の意味の副詞。2 語に書かれることもある。Troilus での使用回数は forsothe 2回、 for sothe 1 回、 for sooth 1 回、また同義の in sooth 2 回、 sothly 1 回である。Confessio Amantis では forsothe の使用は見られず、 in soth 5 回、sothly 2 回、sothliche 1 回使用されている。

 

ful (=very, completely)

With that she gan ful sorwfully to syke; (428)

そう言って彼女はいかにも悲しそうにため息をついた。

 

God woot, that he it grauntede anon-right,

To been hir fulle freend with al his might. (1552)

トロイラスが、全力を挙げてクリセイデの完全な友になることに同意したことは確かです。

 

 今日の英語で他の副詞や形容詞を強調する副詞としては very が一般的であるが、very ‘to a great extent’ の意味で用いられるようになったのはチョーサーの時代よりも後で、OED  では初出が c1470 年となっている。チョーサーでは verray (=very) は主に true の意味の形容詞として使用されている。Troilus で現代の very に相当する語として使用されているのが副詞としての full である。今日でも「非常に」の意味の full は詩語として使用される。そのほか、 exactly の意味の副詞としては今日でも用いられる right Troilus では多用されていて、この強意副詞としての right の使用回数は 172 回である。また、上記2番目の用例では fulle complete の意味の強意の形容詞として使用されている。

 強意の副詞としての ful Troilus での使用回数は 185 回であり、そのほか fully 23 回、fullich 1 回、fulliche 1 回使用されている。Confessio Amantis では強意の副詞としての ful 64 回使用されていると思われ、fully 14 回、fulli 13 回、fullich 1 回、fulliche 4 回使用されている。また Confessio Amantis では強意の副詞として riht 241 回、ryht 6 回、right 3 回使用されている。

 表9に強意副詞の使用回数を示す。使用回数を示す数字は正確な数と言うよりは概数とお考え頂きたい。例えば、Confessio Amantis al は全部で 1454 回あまり、all 46 回使用されており、そのうち 402 個の al 3個の all を強意副詞として数えたが、どれを強意副詞と考えるかに付いては解釈が分かれる可能性があり、それによって数値が異なってくるからである。

 

9 強意副詞の使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

full

185

ful

64

right

172

riht, ryht, right

250

al

122

al, all

405

fully, fullich(e)

25

fully, fulli, fullich(e)

32

wonder

10

wonder

31

 

 

hardely, hardily (=certainly, assuredly)

For hardely the werste of this is do; (304)

確かに最悪の事態は終わったのだから。

 

 hardily は元来「大胆に」という意味の副詞であるが、挿入句的に「確かに」(certainly) の意味で用いられることがある。

 Skeat Troilus での使用回数は hardely 6回、hardily 4回である。Confessio Amantis ではhardely hardilyも使用されていない。

 

lyte (=little)

With that she gan hir eiyen doun to caste,

And Pandarus to coghe gan a lyte,  (254)

すると彼女は目を伏せ、パンダラスは少し咳払いをした。

 

 lyte little の短縮形で、名詞、形容詞、副詞として little と同義である。一方、little Troilus では一貫して litel という綴りで現れている。

 Troilus での使用回数は lyte 20 回、lite 3 回、litel 39 回である。Confessio Amantis では lyte 10 回、lite 7 回、litel 70 回、lytel 2 回、alitel (=a litel) 1 回使用されている。

 

muchel (=much)

To telle al how, it axeth muchel space.  (1071)

すべてを語るには時間がたくさん要ります。

 

much という語は mickle (=great) という語に由来し、mickle はイングランド南部では muchel, さらには短縮形の much になった。mickle 形は今日ではスコットランドに限られる。Troilus では muchel は名詞、形容詞、副詞すべてにおいて much と同義である。

 Troilus での使用回数は muche 14回、muchel 4回で、mickle は使用されていない。Confessio Amantis では moche 13 回、mochel 71 回、mochil 1 回使用されている。

 

10 littlemuchの使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

litel

39

litel, lytel, alitel

73

lyte, lite

23

lyte, lite

17

muchel

4

mochel, mochil

72

muche

14

moche

13

 

 

mo (=more in number), never-mo (=never again)

God sende mo swich thornes on to pyke! (1274)

引き抜くべきそのような棘を神様がもっとお与えくださるように。

 

for sith that day that I was bore,

I nas, ne never-mo to been I thinke,       (1413)

Ayeins a thing that mighte thee for-thinke.

生まれてこのかた君の不興を買うようなことは一度もしたことはないし、今後も絶対にしないつもりなんだから。

 

 mo more とだいたい同義であるが、形容詞の場合は many の比較級として複数形の名詞とともに用いて数が多いことを表す。

 Troilus での mo の使用回数は ever-mo13 回)や never-mo6回)を含めると、38 回で、それに対して no-more などの複合語を含めた more の使用回数は 149 回である。Confessio Amantis では複合語を含めた mo の使用回数は 79 回であり、複合語を含めた more の使用回数は 346 回である。

 

11 momoreの使用回数(複合語を含む

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

mo

38

mo

79

more

149

more

346

 

 

nede (=necessarily)

For every thing, a ginning hath it nede  (671)

Er al be wrought, with-outen any drede.

あらゆるものにはそれが成るに先立って、どうしても始まりがなければならないことは、疑う余地のないことですから。

 

I shal wel suffre un-to the tenthe day,

Sin that I see that nede it moot be thus.  (Troilus IV. 1599)

やむを得ないことが分かったから十日目まで辛抱するよ。

 

 need は元来名詞 need(必要)の具格形 (instrumental case) で、「必ず」(of necessity, necessarily) の意味の副詞として使用されている。通常 shall must の助動詞とともに用いられる。11 世紀から 15 世紀には nede という形が一般的で、15 世紀から 17 世紀にかけては need という形で現れることが多い。

次の項に掲げる同義の nedes と比べて、nede Troilus での用例は少なく、上記の2例だけである。Confessio Amantis では necessarily の意味の副詞として用いられた nede 10 回あり、そのうち 7 回は mot とともに、1 回は moste とともに、2 回は schal とともに使用されている。

 

nedes (=necessarily)

Thorugh which I woot that I mot nedes dyen; (536)

そのため私は必ず死ななければならないことを知っています。

 

 needs は前項の need に副詞形成語尾である adverbial genitive(副詞的属格)の s をつけた形で、need と同様に「必ず」(of necessity, necessarily) の意味の副詞として使用される。 11 世紀から 16 世紀にかけては nedes という綴りで書かれることが多い。通常 must needs, needs must, will (would) needs という組み合わせで使用される。今日では needs は文語体に限られる。

Troilus での nedes の使用回数は 11 回で、そのうち mot とともに用いられているのが7回、moste とともに用いられているのが3回、wolde とともに用いられているのが1回である。Confessio Amantis では nedes 28 回使用されていて、そのうち 19 回は mot(e) とともに、8 回は most(e) とともに、1 回は wile (=will) とともに使用されている。

 

no-thing (=not at all), nought (=not, not at all), nat (=not)

Yet of him-self no-thing ne wolde I recche, (1473)

Nere it for Antenor and Eneas,

もしアンテノーさんやエネーアスさんがいなければ、あの人のことなど何とも思わないところなんだけれども。

 

Beth nought agast, ne quaketh nat; (302)

驚かなくてもいいし、震えることもないよ。

 

To what fyn is swich love, I can nat see, (794)

何のためにそのような恋をするのか分からない。

 

 1番目の例文では nothing ‘not at all’ の意味の副詞として使用されている。nought nothing の意味の名詞であるが、それが副詞的対格 (adverbial accusative) として用いられて、‘not at all’ あるいは単に ‘not’ の意味の否定の副詞となったものである。否定辞の not は元来このnought の短縮形であり、一方 nat naught の短縮形であった。 not nat もともに14 世紀のチョーサーの時代に出来た語であって、OED  によるnat の初出用例はチョーサーの The Legend of Good Women からのものであり、not の場合は Langland Piers Plowman からのものである。nought not と同じ意味で使用するのは今日では廃義である。

なお、Skeat Troilus では否定辞は not (一部分 ne wot の意味の語を含めて 283 ) と、例文に見られるように nat25 回)の両方の綴りが見られる。否定辞 ne 229 回あまり使用されている。

これに対して、Robinson 版のThe Canterbury Tales では not 6 回使用されているだけで、nat の使用回数が 1058 回というように、主にnat の方が使用されている。

Confessio Amantis では not ( 76 ) ne wot (=don’t know) の意味であって、否定辞の not noght (1242 ) または nought (18 ) と綴られている。また、ne 487 回あまり使用されている。

 

ought, aught (=at all)

If I my tale endyte

Ought hard, or make a proces any whyle, (268)

She shal no savour han ther-in but lyte

もし私が話をいくらかでも難しくしたり、くどくしたりすれば、彼女はそのことに少ししか興味を示さないだろう。

 

 ought (=anything) という代名詞が副詞的対格 (adverbial accusative) として副詞に用いられた用例で、「少しでも」(to any extent, in any degree, in any respect, at all) の意味である。

 この意味の ought, aught Troilus10回使用されていると思われる。

 

outrely (=utterly)

but if I were as thou,

God help me so, as I wolde outrely,     (1004)

Right of myn owene hond, wryte hir right now 

A lettre,

しかしもしぼくがあなたなら、絶対たった今自分の手であの人に手紙を書くでしょう。

 

eek for that ye mente

Al-outrely to shewen your entente! (Troilus V. 1694)

それに君が自分の真意をはっきりと示そうとしたからだった。

 

 outerly utterly(完全に)の別形で、14 世紀、15 世紀には頻繁に用いられた語である。元の outer out の比較級であるが、この outer は別形の utter ほどは用いられなかった。Troilus では outrely という形で現れる。outer に強意の all を添えた形が Troilus では al-outrely 1語に綴られている。

 Troilus での使用回数は outrely 3回、al-outrely 2回であり、一方 utterly 1回である。Confessio Amantis では oultreli 1 回使用されている。

 

paraunter (=perhaps)

Paraunter thenkestow:             (1373)

おそらくあなたはこうお考えなのでしょう。

 

 paraunter peradventure の中略形で 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。「恐らく、多分」(perhaps) の意味。今日では peradventure は古語となっている。

 Troilus での使用回数は paraunter 10 回、peraunter 1回である。Confessio Amantis では per aunter 1 回、par aventure 2 回、per aventure 1 回使用されている。

 

pardee, depardieux (=by God, certainly)

Why, no, parde; what nedeth more speche?  (497)

ええ、勿論ですわ、どうしてそれ以上仰る必要があるでしょう。

 

Quod Troilus, ‘Depardieux, I assente;...’  (1058)

トロイラスは言った、「確かに承知した。」

 

 parde (=pardie) は古フランス語から入った語で、 pardieu (=by God, indeed)(まったく、本当に)の意味。それにさらに前置詞の de を付け加えた depardieux Troilus では見られる。pardie は今日では古語である。

 Troilus での使用回数は pardee 18 回、par-dee 1 回、parde 5回、pardieux 1回、depardieux 1回である。Confessio Amantis では pardee depardieux は使用されていない。

 

plat (=flatly)

Now have I plat to yow myn herte shriven; (579)

これでぼくの心は率直に君に告白したわけだ。

 

 plat は「率直に」(flatly, bluntly, plainly, straightforwardly) の意味の副詞で、Troilus では platly も同義で用いられている。

 Troilus での使用回数は plat 2回、platly 3回である。Confessio Amantis では plat 5 回使用されている。

 

sikerly (=certainly)

And sikerly, the sothe for to seyne,  (520)

As I can clepe ayein now to my minde,

Right thus to Love he gan him for to pleyne;

正直に言えば、確かに、今思い起こすことができるのだが、ちょうどこのように彼は恋の神に訴えていた。

 

 siker sicker 12 世紀から 19 世紀にかけて見られる綴りで、チョーサーではこの形で現れる。sicker はラテン語の securus (=secure) が初期にゲルマン語に借用されたもので sure の意味であり、ドイツ語の sicher (=secure, safe, certainly) と同語源である。その副詞形 sikerly が「確かに」(certainly) の意味で使用されている。また siker 自体にも「確かに」(certainly) の意味の副詞用法がある。一方、secure という語はラテン語の securus が直接英語に入ったものである。OED での secure の初出は 1533 年頃のものである。

ME では siker sikerly もともに広く使用された語であるが、1500 年以降はスコットランドやイングランド北部以外では使用されることはまれとなった。

 sikerly Troilus での使用回数は3回である。Confessio Amantis では sikerly 2 回、sikerliche 3 回、sekerliche 1 回使用されている。

 

somdel (=somewhat)

And wex somdel astonied in hir thought, (603)

Right for the newe cas;

まさにこの新しい事態に心の中でいくぶん驚いた。

 

 somdel somedeal 13世紀、14世紀に見られる綴りで、「ある程度」(somewhat) の意味。some deal との複合語で、1語に書かれる場合と、2語に書かれる場合とがあるが、Troilus では一貫して somdel の綴りで現れる。somedeal は今日では古語である。

 Troilus での somdel の使用回数は3回である。Confessio Amantis では somdel 17 回、somdiel 31 回使用されている。

 

soore, sore (=exceedingly, sorely)

By god, ye maken me right sore a-drad,  (115)

Ye ben so wilde, it semeth as ye rave!

あきれた、本当に怖くなるわ、乱暴なことをおっしゃって、気違沙汰だわ。

 

 sore は苦痛などの程度の甚だしいことを意味する語であるが、例文のように単に強意の副詞として「はなはだしく」(exceedingly) の意味で用いられていると思われる場合がある。この用法は今日では古語・詩語である。

 

thrye (=thrice)

And with a sorwful syk she seyde thrye, (463)

彼女は悲しそうにため息をついて、三度言った。

 

 thrie, thye thrice の意味の副詞で、1500 年ころまで使用された。これに副詞形成語尾として adverbial genitive(副詞的属格)のsをつけた形もあり、こちらは 1600 年頃から thrice と綴られるようになって、今日に至っている。

 Troilus での thrye の使用回数は3回で、s の付いた thryes 1回である。Confessio Amantis では thires 8 回使用されている。

 

unethes, unnethe (=with difficulty, scarcely)

And he was ethe y-nough to maken dwelle.  (Troilus V. 850)

彼は簡単に長居させられることになった。

 

For in this see the boot hath swich travayle,

Of my conning, that unnethe I it stere:   (4)

船はこの海で行き悩み、私の技では船を進めがたいからだ。

 

For neither with engyn, ne with no lore, 

Unethes mighte I fro the deeth him kepe;  (566)

知恵を絞ってみても、お説教しても、彼を死から引き留めることはできそうにないのだ。

 

 eath は今日 easy の意味の形容詞、副詞としてスコットランド方言に残っているが、かつては広く用いられていた語であった。eth(e) 13 世紀から 16 世紀にかけてみられる綴りである。uneath はそれから作られた副詞で、‘with difficulty, scarcely’ の意味を持ち、1300 年頃から 1600 年頃にかけては非常によく用いられた語であった。uneaths はそれに副詞的属格 (adverbial genitive) s を添えた形で、意味は uneath と同じである。unnethe(s) 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴りである。

 Troilus での使用回数は ethe 1 回、unneth 1 , unnethe 9 , unnethes 2 , unethes 1 回であり、ほぼ同義の scarsly (=scarcely) 1 回使用されている。hardly が「ほとんど〜ない」の意味を持つに至ったのは 16 世紀で、OED  での初出は 1553 年のものであり、当然この意味での hardly の使用はチョーサーにはない。Confessio Amantis では eth 1 回、unethe 1 回、unethes 8 回、unnethes 1 回、scarsly 1 回使用されている。

 

wonder (=amazingly, very)

and wordes tho

That hadden prys, now wonder nyce and straunge (24)

Us thinketh hem;

昔優れていた言葉も、今では我々にはきわめて愚かしく、奇妙に思われる。

 

 「非常に」の意味の強意の副詞として wonder を用いる用法は、c1200 年から 1725 年まで OED  には用例があるが、今日では廃語となっている。

 この副詞用法の wonder Troilus での使用回数は 10 回である。Confessio Amantis では副詞用法の wonder 31 回使用されている。

 

y-wis, wis, wisly (=certainly)

Y-wis, I love him best, so doth he me; (846)

確かに、私はあの人を愛していて、あの人も私を愛している。

 

A thousand Troians who so that me yave,

Eche after other, god so wis me save,  (978)

Ne mighte me so gladen;

千人のトロイ人をくれる人がいたとしても、断言するが、これほどぼくを喜ばせることはできないだろう。

 

As wisly helpe me god the grete,   (1230)

I never dide a thing with more peyne

Than wryte this, to which ye me constreyne;

神様に誓って、この手紙を書くことほど苦労したことはなかった、おじさまが書けと仰るから書いたけれど。

 

 y-wis はドイツ語の gewiss (=certain, certainly) と同語源の語で、「確かに」(certainly) の意味の副詞である。ywis, y-wis, I wis など様々に書かれたので、後の作家の間ではあたかも ‘I wist’ (=I knew) の現在形であるかのように誤解され、‘I know’ の意味に誤用されることがあった。

 wis はこの y-wis の語頭母音消失形であり、wisly とともに certainly の意味。Troilus では wis wisly は主に断言で用いられている。

 Troilus での使用回数は y-wis 77 回、wis 7回、wisly 12 回である。Confessio Amantis では ywiss 8 回、iwiss 1 回、wiss 2 回使用されている。

 

ye (=yes)

         ‘...Or woot it Troilus?’

He seyde, ‘Ye, but wole ye now me here? ...’ (1628)

「トロイラスはご存じなんですか。」彼は言った、「ええ、ご存じです、でもまあ私の言うことを聞いてください。」

 

 yea は否定語を含まない疑問文に対する肯定の返答で使用された。一方、yes は否定語を含むの疑問文に対する返答に用いられる場合と、否定語を含まない疑問文に対する返答で用いられる場合の両方の用法があった。 Troilus では yea の方が圧倒的に多く使用されている。ye (=yea) 14 世紀から 16 世紀に見られる綴りで、Troilus ではもっぱらこの形が使用されている。

 否定の疑問文に対する返答には yes, 肯定の疑問文に対する返答には yea を使うという区別は、1600 年を過ぎると廃れていき、いずれの疑問文に対しても yes で答えるようになって、yea の方は古語となっていった。1611 年の欽定訳聖書では yes 4回使用されているだけであるが、そのすべては否定の疑問文に対する返答となっている。欽定訳聖書では yea 329 回使用されていて、yes よりも圧倒的に多いことが分かる。

 Troilus での使用回数は ye 38 回、yes 2 回(ともに Yes, yes という反復で)、yis 6 回である。Confessio Amantis では ye 8 回、yis 9 回使用されている。

 

nay (=no)

‘...Were it wel doon?’ Quod she, ‘Nay, by my trouthe!’ (1281)

...そんなことがあっていいのだろうか。」彼女は言った、「いいえ、絶対にいけませんわ。」

 

Ther-to nolde I nought ones have seyd nay, (481)

But that I dredde, as in my fantasye;

いろいろ想像して心配しなければ、それに対して嫌だなんて一度も言わなかったはずです。

 

 yes no かを尋ねる疑問文に対する返答の場合、チョーサーでは否定の場合 no よりも nay の方が普通の形であった。OED  によると古くは疑問文が否定語を含まないとき、返答には nay を用い、疑問文に否定が表明されているときには返答に no を用いた。返答に用いられた no Troilus での使用回数は4回であるが、たしかに、その前の疑問文にはすべて否定語が含まれている。また、 ‘say nay’ は決まった表現で、「断る」の意味である。

‘nay, nay’ のように重複した使用を1回と数えれば、nay Troilus での使用回数は 30 回であり、no よりも使用頻度が圧倒的に多いことが分かる。Confessio Amantis では nay 36 回使用されているが、 返答に no を用いた用法は見られない。

 

12 返答のyesyea, nonayの使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

yes

2

yis

9

ye

38

ye

8

no

4

no

0

nay

30

nay

36

 


 

II. 接続詞

 

目次

 

接続添加詞 that / after that (=according as) / al (=although) / and (=if) / as (=as if) / but, bot, but-if (=unless) / by cause that (=because) / er, or (=before) / for, for that (=because) / for-why (=because; wherefore) / other, outher (=either) / sin, sith, sithen (=since) / ther (=where) / 接続添加詞as: ther-as (=where) / wher (=whether)

 

 

接続添加詞 that

関係代名詞や従属節を導く疑問詞や接続詞の後に接続詞の that が虚辞的に添えられることがある。OED  that 6a 7 の項に説明されている用法である。

 

6. a. Added to relatives or dependent interrogatives (who, which, what, when, where, how, why, etc.). Obs.. or arch..

 

7. Formerly added with a conjunctive force to various words that are now commonly used conjunctionally without it; e.g. because, if, lest, only, the adv., though, till, while. arch.. or Obs..

 

 Middle English Dictionary はこの that particle として説明し、起源的には OE の接続詞・関係代名詞 D{t に由来するが、用例によっては代名詞と解釈できる場合もあるとしている。MED はいくつかの項に分類しているので見てみたい。

 

1. Following temporal subordinating conjunctions introducing adverbial clauses.

  例: after that, er that, til that, while that, etc.

2. Following nontemporal subordinating conjunctions introducing adverbial clauses of manner, purpose, cause, condition, etc.

  例: after that (=according as), though that, bicause that, but that, if that, ther that, etc.

3a. Following pronouns or quasi-pronouns in conjunctive prep. phrases introducing adverbial clauses.

 例: after than (that) (=after), er than that (=before), in that (=insofar as), on that (=concerning the fact that), etc.

3b. Following adverbs as subordinating conjunctions introducing noun clauses functioning as obj. of prepositions.

 例: from thanne that (=from the time when, since), biside ther that (=beside the place where), etc.

4. Followng prepositions.

 例: er that (=before [a period of time]), forto that (=until [a specific time]; to the point of [an action]).

5. Followng conjunctive phrases.

 例: bi so that (=if), but if (=unless), for as much that (=because), etc.

6. Following rel. pronouns.

例: which that, what that (=which), of that that (=of which), from thennes that (=from which place).

7. Followning rel. adverbs.

 例: ther that (=where), wher that, thider that (=to which), wher-in that (=in which), etc.

8. Following interrog. pronouns or quasi-pronouns in subordinate clauses.

 例: who that, what that, whether that (=which of two alternatives), etc.

9. Following interrog. or rel. adjectives.

 例: what...that, whos...that.

10. Follownig adverbs or subordinating conjunctions in indirecrt questions or misc. subordinate clauses, esp. noun clauses.

 例: hou that (=how), as that (=that), whenne that (=whence), whether that (=whether), etc.

11. Followning interrog. adverbs in direct questions.

例: hou many...that (=how many), wher-for that (=why), whider that (=whither).

12. Following independent generalizing or indefinite rel. pronouns.

 例: which that (=those who), who that (=whoever), what-ever that (=whatever), etc.

13. Followning independent generalizing or indefinite adjectives.

 例: what...that (=whatever), what...so-ever that (=whatever), what time that (=whenever), etc.

14. Following independent generalizing or indefinite adverbs used conjunctively.

 例: hou that ever (=in whatever way), whanne that ever (=whenever), wher that ever (=wherever), etc.

 

 OE (古英語) では、前置詞を指示代名詞thatの適当な格と結合することによって、接続詞の価値を持つfor þæm þe æfter þæm þe などの表現が生まれていた。ふつう関係詞の þe が付くが、OEの時代にすでにそれはなくてもよかった。ME (中英語) では þe はすでに失われていて、部分的には接続詞の that がこれに変わっていた。さらに屈折語尾が失われたために、主格・対格共通の that þæm など他の格の代わりに登場した。それで for þæm þe for that (that) になり、æfter þæm þe after that (that) になった。that は接続詞句の一要素になってしまっていたため、他の結合詞にも付けられるようになり、副詞や前置詞と結合した結果、これらの副詞や前置詞は接続詞としても働くようになった(now thatなど)。Mod E (近代英語) の初期までには that はすべての従属接続詞に付けられるほどひろまっていた。シェイクスピアにも次の形がある。

 

after that, because that, before that, but that, ere that, for that, how that, if that, as if that, in that, lest that, moreover that, now that, since that, sith that, so that, though that, till that, when that, where that, whether that, while(s) that, whilst that.

 

いったん表現が固定されると、that 自体はよけいなものとなり、やがては英語から取り除かれていった。今日 that が残っているのは、分詞が that と結合した、considering that, seeing that, provided that や複合接続詞の on condition that 以外では、but that, except that, now that, so that (=if) くらいのものである(Franz, pp. 727-729)。

 

 この接続添加詞 that の使用は Troilus ではきわめて多く見られる。どのような句で用いられているのかを表1にまとめてみた。表の中の数字は Troilus Skeat 版テキストでの使用回数を示す。全体で409回使用されていることが分かる。

 

1 接続添加詞that の使用回数

which that

94

what that

8

if that

71

sith that

6

whan that

42

but-if that

6

how that

27

whom that

6

sin that

24

lest that

5

er that

23

whether that

5

though that

21

who that

4

for that

14

after that

2

whyl that

14

wher that

2

til that

13

al-though that

1

but that

11

al-theigh that

1

as that

8

by-cause that

1

 

 次に主に Troilus 第二巻からいくつか用例をあげてみたい。

Now that I shal wel bringen it aboute 

To come ayein, sone after that I go,     (Troilus IV. 1276)

Ther-of am I no maner thing in doute.

あちらに行ったすぐ後、また戻って来れることに自信がありますわ。

 

For which delibered was by parlement

For Antenor to yelden out Criseyde,

And it pronounced by the president,

Al-theigh that Ector ‘nay’ ful ofte preyde.  (Troilus IV. 214)

それでアンテノーと引き替えにクリセイデを引き渡すことが議会で討議され、ヘクターが反対の嘆願をなんども繰り返したにもかかわらず、そのことが議長によって宣せられた。

 

Ther-to nolde I nought ones have seyd nay,

But that I dredde, as in my fantasye;  (482)

もしいろいろ想像して心配しなければ、一度だってお断りしなかったはずですわ。

 

And certeynly, but-if that bokes erre,  (Troilus III. 1774)

Save Ector, most y-drad of any wight; 

確かに、もし書物が誤っていなければ、ヘクターを除いて彼こそ何人にももっとも恐れられていた。

 

And thilke foles sittinge hir aboute 

Wenden, that she wepte and syked sore

By-cause that she sholde out of that route  (Troilus IV. 717)

Departe, and never pleye with hem more.

彼女の周りに座っている他愛ない婦人たちは、彼女が泣いてため息ばかりつくのは、この仲間たちから去り、もう一緒に遊べないからだと考えた。

 

And therfore, er that age thee devoure,  (395)

Go love,

だから年に食われないうちに恋をするんだよ。

 

And thanked be ye, lord, for that I love!   (850)

神様、私の感謝をお受けください、私が恋をしている故に。

 

It fel that I com roming al allone

Into his chaumbre, and fond how that he lay  (556)

Up-on his bed;

ぼくがたまたま一人でぶらぶらと彼の部屋に入っていくと、彼はベッドに横にになっておられたのだ。

 

It were good, if that ye wolde assente,     (1630)

She tolde hir-self him al this, er she wente.

もし彼が同意するなら、彼女が帰る前にこのことすべてを彼に話すのがいいでしょう。

 

He hadde in herte alweyes a maner drede,

Lest that Criseyde, in rumour of this fare,  (Troilus V. 53)

Sholde han ben slayn;

このような行動の噂が立てば、クリセイデが殺されるのではないかという一種の不安が絶えず彼の心にあった。

 

Sin that thee list, I will aryse and wryte;  (1059)

君が望むのだから、腰を上げて書くことにしよう。

 

And god wot, never, sith that I was born,  (568)

Was I so bisy no man for to preche,

誓って、生まれてこの方、あれほど熱心に人にお説教をしたことはなかった。

 

But though that he for wo was pale and wan,  (551)

Yet made he tho as freshe a countenaunce

As though he shulde have led the newe daunce.

彼は悲しみのために蒼白なのだが、新しいダンスを踊ったという風な、生き生きした顔つきをしておられた。

 

So longe abyd til that the night departe;  (990)

夜が明けるまで待ってください。

 

Whan that hir tale al brought was to an ende,  (218)

Of hire estat and of hir governaunce,

Quod Pandarus,

クリセイデの境遇や身の処し方についての話がすべて終わると、パンダラスは言った。

 

but man so sore grone

Ne herde I never, and what that was his mone,  (558)

Ne wist I nought;

あれほどのうめき声は聞いたことがなかった。そのうめきの原因が何であるか、ぼくには全然分からなかった。

 

For wo was him, that what to doon he niste,

But bad his folk to goon wher that hem liste.  (Troilus I. 357)

彼は悲しみのためにどうしていいか分からず、どこへでも好きなところに行ってくれと従者たちに命じた。

 

Criseyde, which that herde him in this wyse, (386)

Thoughte, ‘I shal fele what he meneth, y-wis.’

彼がこのように言うのを聞いたクリセイデは、彼の真意をはっきり探ってみようと思った。

 

And for-thy, who that hath an heed of verre, (867)

Fro cast of stones war him in the werre!

それ故、ガラスの頭を持つ人は、戦争で飛んでくる石に気をつけなければなりません。

 

And eek his fresshe brother Troilus,

The wyse worthy Ector the secounde,

In whom that ever vertu list abounde,...  (159)

それにまた賢明な第二のヘクターさんとも言うべき、元気な弟君のトロイラスさんは、美徳が満ちあふれたお方だが、...

 

That as that day ther dorste noon with-stonde,

Whyl that he held his blody swerd in honde.  (203)

あの日は、彼が血刀を抜いている限り、立ち向かえるものは誰もいなかった。

 

 この接続添加詞 that の頻度を見るために、文中で使用されている場合の品詞に関して解釈の問題があまり起きない if, though, whyl, whether について、that がある場合とない場合との Troilus での頻度数を示したのが表2である。though には al-though 等を含む数が示されている。

 

2 Troilusで接続添加詞thatを伴う場合の割合

 

全使用回数

thatを伴う場合

thatを伴わない場合

if

279

77  (28%)

202  (72%)

though

114

23  (20%)

91  (80%)

whyl

32

14  (44%)

18  (56%)

whether

10

5  (50%)

5  (50%)

合計

435

119  (27%)

316  (73%)

 

 次に、Confessio Amantis での接続添加詞 that を伴う場合の割合を表3で見てみたい。名詞の while (for) the while (that) という句となって全体が接続詞的に用いられている用法もここに含めた。

 

3 Confessio Amantisで接続添加詞thatを伴う場合の割合

 

全使用回数

thatを伴う場合

thatを伴わない場合

if

770

149  (19%)

621  (81%)

though

257

14  (5%)

243  (95%)

whyl

107

34  (32%)

73  (68%)

whether

9

3  (33%)

6  (67%)

合計

1143

200  (17%)

943 (83%)

 

4 上記表3though等とwhyl等の内訳

 

 

全使用回数

thatを伴う場合

thatを伴わない場合

though

thogh

235

10  (4%)

225  (96%)

though

22

4  (18%)

18  (82%)

whyl

whil

81

28  (35%)

53  (65%)

while

16

3  (19%)

13  (81%)

whyl

7

1  (14%)

6  (86%)

whyle

2

1  (50%)

1  (50%)

whyles

1

1  (100%)

0  (0%)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

after that (=according as)

And, after that these dees turnede on chaunces,  (1347)

So was he outher glad or seyde ‘Allas!’

運勢を占うさいころの転び具合に応じて、彼は喜んだり、悲鳴を上げたりした。

 

OED  after C. conj. or conjunctive adv. (elliptically from prep.) 2 の項で ‘Of manner: According as. Obs.. b. with relative particle (that or as)’ と説明している用法で「〜に応じて」の意味である。after が元来前置詞であるため上記の「接続添加詞 that」の項に含めなかった。

 

al (=although)

Al dredde I first to love him to biginne,  (874)

Now woot I wel, ther is no peril inne.

あの人を愛することを最初は恐れたけれど、恐れることはないことを、今ははっきりと知りました。

 

 この al (=all) は接続詞ではなく副詞であるが、便宜的にここで扱う。all OE では強意の副詞として用いられることは普通ではなかったが、 ME になって強意副詞として形容詞や副詞を修飾することが頻繁に行われるようになった。 ME の時期が過ぎるとこの強意副詞の用法は一般的ではなくなったが、 all right などの固定した表現に残った(Mustanoja, pp.316-317)。譲歩の構文で用いられる all はこの強意副詞である。

「たとえ〜であっても」の譲歩の意味を出すときに all を用いて all if all though などの表現がかつてはあり、前者は今日では廃れているが、後者は although と一語で書かれるようになって存続している。一方、仮定法の文では主語と動詞を倒置することによってif が省略される。この仮定を表す倒置構文の前に強意の all を添えたのが例文の構文で、although の意味を持つが、all 自体は接続詞ではないので、all の次には必ず「動詞+主語」という語順の倒置構文が続くのが特徴である。

OED  all adv. 10 c.で次のように説明している。

 

With the subj. mood, though or if, being expressed by the reversed position of vb. and subject (as in be they = if they be), were omitted, leaving all apparently = although.  Thus: al be I = all though I be.  Obs.. exc. in synthetic phrases albeit, albe.

 

 この用法の al Troilus 40回ほど使用されている。

 

and (=if)

Good aventure, O bele nece, have ye

Ful lightly founden, and ye conne it take; (289)

美しい姪よ、お前は幸運を易々とつかんでいるのだよ、それを受け入れることさえできれば。

 

 and if の意味の接続詞として用いられた用法。やがて if で補強した and if という言い方もされるようになり、それはシェイクスピアなどに見られる。

 if の意味の and Troilus 第二巻では他にも見られるので、次に引用しておく。

 

For prouder womman were ther noon on-lyve,

And ye it wiste, in al the toun of Troye;   (139)

もしお前がこのことを知れば、トロイの町中でお前ほど鼻の高い女はいないことだろうよ。

 

And, Venus here to borwe,

I hope, and thou this purpos holde ferme,  (1525)

Thy grace she shal fully ther conferme.

ビーナスに保証人になってもらって言えば、君が目的を堅持すれば、彼女も君に対する好意を強くすると思うよ。

 

Quod Pandarus, ‘And it your wille be     (1688)

That she may take hir leve, er that she go?’

パンダラスは言った、「もしよろしければ、おいとまする前に彼女にご挨拶させたいのですが。」

 

as (=as if)

And I with that gan stille awey to goon,

And leet ther-of as no-thing wist hadde I,   (543)

ぼくはそれを聞いてそっとそこを離れ、そのことについては何も知らないふりをした。

 

「まるで〜かのように」の意味を表すのに今日では as if, as though を用いるが、かつては as 節に仮定法構文を置いてこれを表現していた。as it were (いわば) というフレーズにこの as (=as if) の用法が残っている。 Troilus では as if 2回使用されている。

 

but, bot, but-if (=unless)

OED  but conj. 10 ‘Introducing a condition: If not, unless, except. arch. b. Expanded into but if. Obs. (Very common from 14th to 16th c.)’ と述べている ‘unless’ の意味の用法である。OED  が記しているように、この but の用法は今日では古語である。but if の方は Skeat Troilus ではすべて but-if と綴られている。but-if の使用回数は20回である。

この but の用法は形だけでは but の他の用法との区別が付きにくいので、Troilus 第二巻中のこの用法の用例すべてを挙げておく。

 

The noble Troilus, so loveth thee,

That, bot ye helpe, it wol his bane be.  (320)

高貴なトロイラスさんがお前に熱を上げていて、もしお前が助けてあげなければ、命取りになるほどなんだ。

 

Ther-ayeins answere I thus a-noon

That every wight, but he be fool of kinde,  (370)

Wol deme it love of freendship in his minde.

それに対してこう即答しよう、だれも生来の馬鹿でなければ、彼の性格が友情に厚いせいだと思うだろう、と。

 

Lo, this is he

Which that myn uncle swereth he moot be deed,

But I on him have mercy and pitee;  (655)

そうだ、もし私が同情しなければお命が危ないと叔父が言っていたのはこの方なんだわ。

 

For man may love, of possibilitee,

A womman so, his herte may to-breste,

And she nought love ayein, but-if hir leste. (609)

男の人が心が張り裂けるほどある女性を愛し、その女性が気が向かなければ愛を帰さないと言うことがあり得るからです。

 

Ther-to nolde I nought ones have seyd nay,

But that I dredde, as in my fantasye;  (482)

もしいろいろ想像して心配しなければ、一度だってお断りしなかったはずですわ。

 

by cause that (=because)

For he wole have the more hir grief at herte,

By cause, lo, that she a lady is;          (1633)

いいですか、あの人が女性なのだから彼もそれだけ彼女の悲しみを汲んで下さるでしょう。

 

 Troilus では because はふつう by-cause (6)bycause (1) のように綴られていて、by cause that のように離して綴られているのはこの用例のみである。Norman Davis bycause の項で ‘mss. and editions vary in treating as one word or two’ と述べている。なお、ガワーの Confessio Amantis では be cause (2), be cause that (4), be cause of (5) のように離して綴られている。

 

er, or (=before)

for which in wo to bedde he wente,

And made, er it was day, ful many a wente.  (63)

そのため彼は悲しみに包まれて就寝したが、朝になるまで何度も寝返りを打った。

 

And god wot, never, sith that I was born,

Was I so bisy no man for to preche,

Ne never was to wight so depe y-sworn,

Or he me tolde who mighte been his leche.  (571)

誓って、生まれてこの方、あれほど熱心に人にお説教をしたことはなかったし、あれほど心を込めて人に誓ったこともなかったよ、あの人をいやすことができる人の名を言ってくれるまではね。

 

er houres twyes twelve,

He shal thee ese, unwist of it him-selve.  (1400)

二十四時間以内に、彼がそれと気付かないであなたのお気持ちを和らげてくださるようにしてみましょう。

 

They mighte deme thing they never er thoughte! (Troilus III. 763

人が今まで考えもしなかったことを想像するかもしれない。

 

 ere before と同義で、before 同様、副詞、前置詞、接続詞として使用される。今日では ere は古語・詩語となっているが、Troilus では before の使用回数は、bifore 8回、biforn 21回、beforen 1回、計30回に対して、er の使用回数は85回となっていて、er の方が一般的な語であったことが分かる。なお、Troilus では before の意味の ere はすべて er と表記されていて、ere の綴りは ear () を表している。

 ere には rather than の意味の用法もあり、これは今日では古語・詩語である。「早く」(early)、「間もなく」(soon) の意味の用法もあったが、これは今日スコットランドに残っている。

 or ere と同義語で、今日では詩において通例 ever を伴って or ever または or e’er (〜するより早く)として用いれれる。シェイクスピアの King Lear に見れれる or ere はこれである。

 

I have full cause of weeping; but this heart

Shall break into a hundred thousand flaws,

Or ere I’ll weep.               (King Lear II. iv. 288)

泣きたい理由は十分にあるが、この胸が散りじりに裂けても泣くものか。

 

 Confessio Amantis に見られる afore や単独の fore(ともに before の意味)は Troilus には見られない。Confessio Amantis では before 15回、befor 2回、beforn 2回使用されているのに対して、er 139回使用されている。

 

for, for that (=because)

But most hir favour was, for his distresse   (663)

Was al for hir, and thoughte it was a routhe

To sleen swich oon, if that he mente trouthe. 

彼女が好意を持った最大の理由は、彼の苦悩が自分のためであるということであった。そして、もし彼に誠意があるなら、見殺しにするのは気の毒なことだと思った。

 

A womman, that were of his deeth to wyte,

With-outen his gilt, but for hir lakked routhe,  (1280)

Were it wel doon?

男性には罪がなくて、その女性に同情が欠けていたためにその男性が死んで、その責任が女性にあるという場合なのだが、そんなことがあっていいのだろうか。

 

And thanked be ye, lord, for that I love!   (850)

神様、私の感謝をお受けください、私が恋をしている故に。

 

 今日では、接続詞の for はコンマなどに続けて後から理由を述べる「というのは〜だから」という等位接続詞として用いられるが、以前は because と同様の従属接続詞としての用法があった。OED  for conj. 1 の項で、‘Introducing the cause of a fact, the statement of which precedes or follows: Because. Obs.. exc. arch..’ と説明されている用法である。

 

for-why (=because; wherefore)

Thow shalt gon over night, and that as blyve,

Un-to Deiphebus hous, as thee to pleye,

Thy maladye a-wey the bet to dryve, 

For-why thou semest syk, soth for to seye. (1516)

実際あなたは病人のように見えますから、病気を少しでもよく追い払うために気晴らしをする振りをなさって、今夜のうちに、しかも早く、デーイフォバスさんの所へお出かけになるんですよ。

 

For-why to every lovere I me excuse, (12)

That of no sentement I this endyte,

But out of Latin in my tonge it wryte.

それ故、私はすべての恋する人たちに弁解するのだ、個人的経験からこれを書くのではなく、ラテン語から我が国語に移しつつ語るのだと。

 

 forwhy には副詞として ‘why’ ‘therefore’ の意味があり、接続詞として ‘because’ ‘for’(というのは〜だから)の意味がある。1番目の引用文は接続詞としての ‘because’ の意味の用法であり、2番目のは副詞としての ‘therefore’ の意味の用法である。

 Troilus での for-why の使用回数は副詞用法、接続詞用法合わせて13回である。

Confessio Amantis では ‘forwhy and’ (=provided that) というフレーズで2回使用されているだけである。

 

other, outher (=either)

And, after that these dees turnede on chaunces,

So was he outher glad or seyde ‘Allas!’   (1348)

運勢占いのさいころ次第で、喜んでみたり、悲鳴を上げたりした。

 

if that I, thurgh my disaventure, 

Had loved other him or Achilles,  (416)

Ector, or any mannes creature,

Ye nolde han had no mercy ne mesure

On me, but alwey had me in repreve;

もし私が不幸にしてあの方なり、アキレス様なり、ヘクトル様なり、他の誰かを愛したのだったら、叔父様は同情したり手加減することなどなく、私を咎め続けたことでしょう。

 

 outher either と同義語で、16世紀まで用いられた語。Troilus での outher の使用回数は5回であり、other は上記引用箇所の1回であると思われる。一方 either 形は6回使用されている。Confessio Amantis では outher 2回、owther 4回、either 4回、eyther 2回使用されている。

 

sin, sith, sithen (=since)

Allas! Sin I am free,   (771)

Sholde I now love, and putte in Iupartye

My sikernesse, and thrallen libertee?

ああ、私は自由の身なのだから、今恋をして、安定した境遇を危うくし、自由を拘束していいのかしら。

 

Eek sith I woot for me is his distresse,    (719)

I ne oughte not for that thing him despyse, 

Sith it is so, he meneth in good wyse.     (721)

それにあの方の苦しみが私のためだと分かっているのだから、あの方がまじめな気持ちでいらっしゃる以上、そのためにあの方を軽蔑すべきではないわ。

 

And sithen thende is every tales strengthe,  (260)

And this matere is so bihovely,

What sholde I peynte or drawen it on lengthe

To yow, that been my freend so feithfully?’

最後に話の重点があるのだから、そしてこのことは役に立つんだが、忠実な友であるお前にどうして言葉を飾ったり、長々と引き延ばしたりすべきだろうか。

 

 sin, sith, sithen すべてが since (副詞、前置詞、接続詞)の意味である。since 15世紀から使われるようになった語で、チョーサーの時代にはまだ使用されていなかった。 since 1450 年頃 synnes という形で登場するが、これは sithenes (=since) th 音が脱落した中略形であり、sithenes sithen adverbial genitive(副詞的属格)の -s が付いた形であった。sithen OE siDDan に由来し、siDDan siD (=after) Dan (=that) から成る複合語で、‘after that’ を意味し、 Dan Dat (=that) の与格 (dative) である Dam の弱まった形であった。synnes 15 世紀に since という綴りで書かれるようになり、今日に至っている。

 Troilus での使用回数は sin 4回、 sith 12回、sithen 1回で、 sithens は使用されていない。まだ存在していなかった since は当然使用されていない。

Confessio Amantis では sith 3回、sithe 4回、sithen 12回、siththe 8回、siththen 1回使用されている。

 

ther (=where)

I see him deye, ther he goth up-right,  (333)

私は彼が立って歩いているところで死んでいくのを目にするのだ。

 

 OE の時期から16世紀ころまで there where の意味の関係副詞として使用する用法があった。また、OE 後期から where there が関係副詞として競合していたが、ついには where there に取って代わった。ME の作家たちはこれらの関係副詞としての where there をあまり区別していなかったようだと、Mustanoja は述べている (Mustanoja, pp. 337-338)

 

接続添加詞as

ther-as (=where)

A nightingale, upon a cedre grene,

Under the chambre-wal ther as she lay,

Ful loude sang ayein the mone shene,   (920)

彼女が臥している部屋の壁の下にある杉の上でナイチンゲールが声高く輝く月に向かってさえずった。

 

Lo, Troilus, right at the stretes ende,

Com ryding with his tenthe some y-fere,

Al softely, and thiderward gan bende

Ther-as they sete,         (1251)

ちょうどトロイラスが通りのはずれから、十人の仲間を連れて馬で静かにやってきた。そして彼らの座っている方に曲って来た。

 

 ther-as, there as は前項の there as が添えられた形で、OED  as 27の項で次のように説明している。

 

From its relative or conjunctive force, as was added (rarely prefixed) to the demonstrative adverbs there, then, thither, thence, after, to make them conjunctive; it was used for some time with the interrogatives where, when, whither, whence, after they were substituted for the demonstratives. When as is found in modern poets as an archaism; the others are Obs.  Cf. when that, after that; and see whereas, in which the local sense is now lost.

 

 Middle English Dictionary (MED) as 11 の項で ‘In a clause of place (where or to which): where, whither. (b) following ther, wher, thider, whider.’ と説明しているが、MED OED  もともに関係代名詞に as が続く用法については触れていないようである。今日ではこの as according as および whereas に残っている。

 この as の使用は Troilus では限られていて、there where に添えられたもの以外は見つからなかった。Troilus での使用回数は表5の通りである。

 

5 Troilus  内の接続添加詞asを伴った関係詞の使用回数

ther-as

13

there-as

2

ther as

4

wher-as

3

where-as

1

 

 この接続添加詞asを伴った関係詞の用法はチョーサーよりもがガワーの方が多用している。Confessio Amantis での使用回数を表6で示す。

 

6 Confessio Amantis  内のasを伴った関係詞の使用回数

wher as

44

72

where as

28

ther as

25

32

there as

7

which as

20

29

whiche as

9

hou as

4

6

how as

2

wherof as

4

 

who as

2

 

whom as

1

 

 

 

wher (=whether)

God woot wher he was lyk a manly knight! (1263)

じつに雄々しい騎士姿であることか。

 

 wher 13世紀から17世紀にかけて用いられた whether の縮約形である。

 

 

 

 


 

III. 前置詞

 

目次

 

前置詞と there, here, where との結合形 / afor-yeyn (=opposite) / ayeins (=against) / biforn (=before) / bitwixen (=between) / emforth (=according to) / fro (=from) / god to-forn (=by God) / in-with (=within) / thorugh, thurgh (=through) / til (=to) / with-outen (=without) /

 

 

前置詞と there, here, whereとの結合形(therewith, herewith, wherewith など)

 これらの結合における前置詞はもともと副詞であったもので、たとえば herebefore では here before も元来副詞であり、両者は並置されて同じ動詞を修飾していた。しかし、多くの副詞は形が前置詞と同一であり、また「ここ、もっと早い時期に」(here, at an earlier place) と「ここより早い時期に」(at an earlier place than this) との間には実質的な違いはなかったため、before などの副詞は here(この場所)を支配する前置詞であると感じられるようになっていった。この類推で、もともと副詞の機能を持たない前置詞からも there-, here-, where- との結合形が自由に作られるようになった。

 there here との結合形は OE の時代からあるが、ME の時期になるとこれら prepositional adverb の使用はかなり拡大し、新しい結合形が生まれるようになった。また ME 初期には、where との結合形が現れ始めた。それは whereabout(s), wheafter, wherat, whereby, wherefore, wherein, whereof, whereon, whereto, wherewith などである(Mustanoja, p. 434)。

 Norman Davis 編の A Chaucer Glossary には、there との結合形として theraboute, therafter, theragayn(s), therbiforn, therfro, therof, therout, therto, therupon, therwhyle, therwith, therwithal が挙がっており、また where との結合形として wherfore, wherfro, wherin, wherof, wheron, wherthrough, wherwith が挙がっている。

 これらの結合形にあっては、there that または it を意味し、here this を意味し、そして where which または what を意味する。したがって、thereof=of that [it] / hereof=of this / whereof=of which [what] ということになる。

 これらの前置詞との結合形の使用頻度を、比較のために Troilus での使用回数と Confessio Amantis での使用回数を表1〜表5 に示す。なお、therefore に関しては ‘for that’ の意味の場合と、「それ故」の意味の副詞の場合との区別が付きにくいため、表には含めなかった。もっとも、therefore の「それ故」の意味の用法は OED  では初出が a1400 年のものではあるのだが。

 

1 Troilus  内の前置詞とthereとの結合形の使用回数

ther-with

22

34

therwith

12

therwith-al

9

18

ther-with-al

7

therwithal

1

there-with-al

1

ther-to

14

15

therto

1

ther-of

7

8

therof

1

ther-after

3

 

ther-inne

3

 

ther-by

2

 

ther-on

2

 

ther-aboute

1

 

ther-ayeins

1

 

therby

1

 

ther-in

1

 

ther-fro

1

 

ther bifore

1

 

ther bi-syde

1

 

 

 この前置詞と there との結合形に関してはチョーサーとガワーとではかなり使用語彙に違いがあることが分かる。Confessio Amantis で使用されている主なものの使用回数をまとめると表2 のようになる。

 

2 Confessio Amantis  内の前置詞とthereとの結合形の使用回数

therof

142

therupon

113

therto

 75

therinne

 45

therayein

 16

therby

 13

therout(e)

  5

therafter

(ther after)

  4

therat(e)

  3

 

3 Troilus  内の前置詞とhereとの結合形の使用回数

her-after

1

5

here-after

4

her-biforn

1

5

here-biforn

4

her-upon

1

5

here-upon

2

here-up-on

2

her-of

3

 

her-to

1

2

herto

1

her-afterward

1

 

her-ayeins

1

 

here-tofore

1

 

 

 一方、ガワーはこの前置詞とhereとの結合形をあまり使用していないようで、herto 1 回)くらいしか見られない。

 whereとの結合形はそれほど使用頻度が高くはないが、Confessio Amantis での wherof だけが、その使用回数が532回となっていて、突出している。

 

4 Troilus  内の前置詞とwhereとの結合形の使用回数

wherby

1

wherfor

3

wherfore

6

wher-fore

1

wher-fro

1

wher-of

4

wher-on

2

wher-to

2

wher-with

3

 

5 Confessio Amantis  内の前置詞とwhereとの結合形の使用回数

wherby

1

wherfore

1

wherin that

2

wherinne

6

wherof

532

wheron

2

wherto

2

wherupon

2

wherwith

1

 

 Troilus のテキストから ther-aboute, ther-in, ther-of, ther-on, ther-to, ther-with, therwith-al, here-ayeins, here-biforn, her-of , wher-of の用例を見てみたい。

 

Men shal reioysen of a greet empryse

Acheved wel, and stant with-outen doute,

Al han men been the lenger ther-aboute.  (1393)

大きな仕事がうまく成就されて、確固としたものになるというのは愉快なことですよ、それについてそれだけ長い時間要したとしても。

 

If I my tale endyte

Ought hard, or make a proces any whyle, (268)

She shal no savour han ther-in but lyte

もし私が話をいくらかでも難しくしたり、くどくしたりすれば、彼女はそのことに少ししか興味を示さないだろう。

 

And sin ye woot that myn entente is clene, 

Tak hede ther-of, for I non yvel mene.  (581)

ぼくの意図が潔白だと言うことを君は知っているのだから、そのことを考慮してもらいたいんだ、ぼくには悪意はないのだから。

 

But ther-on was to heven and to done;  (1289)

そのことでは骨を折らなければならなかった。

 

Ther-to nolde I nought ones have seyd nay,  (481)

But that I dredde, as in my fantasye;

もしいろいろ想像して心配しなければ、それに対して一度だってお断りしなかったはずですわ。

 

And I my-self shal ther-with to hir goon;  (1009)

ぼく自身はそれを持って彼女のところに行きますから。

 

and therwith-al he gan to syke;   (1573)

そしてそう言うと彼はため息をついた。

 

Thenk here-ayeins, whan that the sturdy ook,  (1380)

On which men hakketh ofte, for the nones,

Receyved hath the happy falling strook,

The grete sweigh doth it come al at ones,

As doon these rokkes or these milne-stones.

これに対してこうお考えください、頑丈な樫の木が、そのために何度も斧でたたかれ、最後の一撃を受けると、岩や石臼のように突然大きくどさっと倒れるものですよ。

 

And how-so she hath hard ben her-biforn,   (1271)

To god hope I, she hath now caught a thorn,

She shal not pulle it out this nexte wyke;

これまでどれだけ冷淡であったにせよ、いまや彼女が棘で刺されて、一週間それを引き抜かないことを祈りましょう。

 

For her-of been ther maked bokes twelve:  (108)

このことは12巻の本になっているから。

 

Tho gan he telle him of his glade night,  (Troilus III. 1647)

And wher-of first his herte dredde, and how,

楽しかった夜のことや、最初はどんなことをどのように心配したかを彼に語った。

 

afor-yeyn (=opposite)

Nece, who hath arayed thus

The yonder hous, that stant afor-yeyn us? (1188)

ねえ、向かいに立っているあの家だが、誰があのようにきれいにしているのだろう。

 

 afor-yeyn OED  afornens の見出しで収録されている語である。aforen (=afore) aȝean または  aȝen (=again) との複合語で、前者は aforen, afore, afor などの形で現れる。語尾にsの付いた形はおもに北部のものである。意味は opposite、あるいは比喩的用法として before の意味である。OED  には13世紀から15世紀まで用例があり、上記引用文も収録されている。

 なお、afore OE on foran に由来するが、これは前置詞の on ‘in front’ の意味の foran が組み合わさったものである。on foran OE では頻繁に使用される句ではなかったが、14世紀になるとこれが結合した aforn, afore の使用が一般的となり、forn, fore に代わって用いられた。 afore は今日では廃語となり、before に取って代わられているが、方言としては今も使用されている。afore は欽定訳聖書や祈祷書では使用されていて、欽定訳聖書では afore 7 回、aforetime (=formerly) 7 回、aforehand (=beforehand) 1 回使用されている。

チョーサーは afore を一度も使用していない。Troilus での before の使用回数に関しては、 biforn 21回、 bifore 8 回、biforen 1 回である。 Confessio Amantis では afore 12 回、aforn 1 回使用されており、before に関しては、before 15 回、befor 2 回、beforn 2 回使用されている。

 

ayeins (=against)

Yet were it bet my tonge for to stille 

Than seye a sooth that were ayeins your wille.  (231)

本当でもお気に召さないことを言うより、黙っていた方がよさそうだよ。

 

 ayeins against 14世紀、15世紀に用いられた形。 against aȝen, ayen (=again) に由来する。aȝen, ayen 1130年頃イングランド南部で副詞的属格 (adverbial genitive) -es が語尾に付いた別形のaȝenes, againes を発達させた。これらは14世紀後期に、-es が音節を持たなくなった後、amongst, betwixt, amidst などと同様に寄生音のtを発達させ、前置詞形としての against が生まれた。この against 1525年頃に普遍的な文学英語の語となり、前置詞としてはもっぱらこの against を用い、副詞としては again のみを用いるというように、使い分けが生じた。aganis, agains は勢力が弱まって北部方言でのみ用いられる語となった。スコットランドやイングランド北部では against は用いられず、again が前置詞としても使用されている。

 Troilus での使用回数は ayeins 10 回、ayens 3 回、a-yeins 1 回、agains 1 回、a-yein (前置詞) 2 回である。Confessio Amantis ではsの付いた ayeins 2度使用されているだけで、他は s の付かない ayein 形で、ayein は副詞、前置詞あわせて315 回使用されている。

 

biforn (=before)

Tho gan she wondren more than biforn   (141)

A thousand fold, and doun hir eyen caste;

そこで彼女は以前よりも何倍もいぶかしく思い、目を伏せた。

 

 biforn before 14世紀から17世紀にかけて見られる綴り。before bi- (=by, about) foran (=from the front) からなる複合語で、その働きはおもに副詞としてのものであった。ともに用いられる名詞は与格 (dative) に置かれ、‘in front as to a thing’ の意味であったが、ここから前置詞へと移行していった。また、関係詞の省略によって接続詞としての用法が生まれた。

 Troilus での biforn 等の使用回数については上記 afor-yeyn の項で述べた通りである。

 

bitwixen (=between)

And Troilus he fond alone a-bedde,

That lay as dooth these loveres, in a traunce,

Bitwixen hope and derk desesperaunce.   (1307)

トロイラスが一人でベッドに横たわっていたが、恋するもののように夢うつつの有様で、希望と暗い絶望の間をさまよっていた。

 

 bitwixen between の同義語で、between 同様、前置詞、副詞の両方の用法を持つ。

 ME では betwix はイングランドの比較的北部の形で、一方、betwixen, betwixe は比較的南部の形であった。15世紀には語尾の e が脱落し、ともに betwix の形となった。すでに OE の時代に語尾に意味のない t が付いた betwyxt 形があり、これは ME では使用はまれであったが、1500年以降 betwixt がふつうの形となった。一方、イングランド北部では t の付かない betwix 形が保持された。betwixt は今日では古語・詩語または方言となっている。

 Troilus での使用回数は bitwixen 8 回、bitwix 3 回、bitwene 4 回で、between 形の使用の方がやや少ないことが分かる。これに対して、Confessio Amantis では betwen 70 回、betwene 9 回、betuene 5 回、betuen 2 回であり、betwix 形は使用されておらず、between 形のみが使用されている。

 

emforth (=according to, to the extent of)

and to this night

Have I nought fayned, but emforth my wit  (997)

Don al thy lust, and shal with al my might.

ぼくは今夜にいたるまでずっと偽ったこともなく、知恵の限りを尽くしてお気持ちに沿うようにしてきたし、これからも全力でそうするつもりですからね。

 

 emforth em (=even) forth との複合語で、おもに14世紀に使用された語で、according to を意味する前置詞である。

Troilus での使用回数は3 回。Confessio Amantis では使用されていない。

 

fro (=from)

For neither with engyn, ne with no lore,

Unethes mighte I fro the deeth him kepe;  (566)

知恵を絞ってみても、お説教しても、彼を死から引き留めることはできそうにないのだ。

 

 fro Old Norse (古ノルド語) から英語に入った語で、from と同義語である。おもにスカンディナビアの影響が強かった地域で用いられた。fro は今日では to and fro (あちこちに) という成句で用いられるのを除いては、スコットランド、イングランド北部の方言として用いられる。

 Troilus での fro の使用回数は95 回、 一方 from 62 回である。Confessio Amantis では fro の使用回数は286 回、一方 from 29 回であり、fro のほうが10倍くらい頻度が高いことが分かる。

 

god to-forn (=by God)

And god to-forn, yet shal I shape it so,    (1363)

That thou shalt come in-to a certayn place,

Ther-as thou mayst thy-self hir preye of grace. 

断然保証しますが、あなたをある場所に案内して、ご自身の口から彼女の好意を求めることができるように工夫してみます。

 

 to-forn (=tofore) before の同義語。tofore OE toforan に由来し、これは前置詞 to と副詞 foran との複合語である。 toforn 14世紀から16世紀にかけて見られる形。tofore には副詞としての用法と、前置詞、接続詞としての用法とがあるが、Troilus 内ではすべて ‘god to-forn’ という句で使用されていて、‘in God’s sight, by God’ の意味で、断言するときに用いられている。

 Troilus での使用回数は to-forn 8 回、toforn 1 回、to-fore 1 回であり、そのほか here-tofore 1 回使用されている。Troilus での before の使用回数に関しては afor-yeyn の項で述べたように、biforn 21回、 bifore 8 回、biforen 1 回である。これに対して、Confessio Amantis では before に代わって tofore が用いられることが多く、使用回数は befor(e), beforn が合わせて19 回であるのに対して、tofore 140 回と多く、tofor 12 回、toforn 2 回である。

 

in-with (=within)

This other day, nought gon ful longe whyle,

In-with the paleys-gardyn, by a welle,  (508)

Gan he and I wel half a day to dwelle,

この間、あまり前のことでもないんだが、王邸の庭の泉のそばにあの方とご一緒に半日もいたんだよ。

 

 in-with within の意味の前置詞、副詞であり、前置詞としては13世紀から16世紀にかけて用いられた。

 Troilus での in-with の使用回数は3 回である。一方、with-in 2 回、with-inne 22 回使用されている。Confessio Amantis では in-with の使用は見られず、withinne 189 回使用されている。

 

thorugh, thurgh (=through)

 ‘Ye, through the might of god!’ quod Troilus.  (1317)

「そうだ、神のご加護によって」とトロイラスは言った。

 

A cloudy thought gan thorugh hir soule pace,  (768)

くらい考えが彼女の心をよぎった。

 

For thurgh this strete he moot to palays ryde;  (616)

彼はこの通りを通って王邸に帰られるに違いない。

 

 上記の3つの例文に見られるように、同じ through の意味の前置詞としてこのように様々な形が使用されている。

 through OE þurh に由来する。þurh は強制のある副詞形として þuruh を発達させ、これが今日の thorough となった。この音の変化は OE burhborough, OE furhfurrow に見られるのと同様のものである。1300年頃 OE þurh は強制のない前置詞として þurh となり、それは更に音位転換 (metathesis) によって þruh、更には through となった。この音位転換形の through は元来イングランド北部の形であったが、ME の後期に全土に拡がり、前置詞としては標準形となった。

前置詞の through も再び強勢を受けることによって副詞としても使用されるようになり、一方、強勢のある thorough も前置詞の古形として through と並んで生き残った。今日 thorough through の意味の前置詞として用いるのは古語・詩語である。

 Troilus での使用回数は thorugh 28 回、through 22 回、thurgh 14 回である。一方、Confessio Amantis では thurgh 形だけが251 回使用されている。

 

til (=to)

Hir wommen sone til hir bed hir broughte.  (914)

次女たちがまもなく彼女をベッドへ導いた。

 

 Old Norse(古ノルド語)に由来する till 1300 年頃までは典型的なイングランド北部の前置詞であった。時を表す前置詞としては、until とともに 1300 年頃以降は一般的な語となっていったが、to の意味の場所を表す前置詞としては主に北部に限定されていた。この場所を表す用法は OED  によれば、今日ではイングランド北部およびスコットランドの方言であり、母音または h 音の前で to に代わって使用される。

Troilus ではこの用法の til 3 回使用されているが、それらは til hir bed, til her house, til him であり、すべて h 音の前になっている。

 

with-outen (=without)

To telle in short, with-outen wordes mo,  (1405)

くどくどお話しするのはやめて、手短かに申しましょう。

 

 withouten OE wiþutan に由来し、wiþutan wiþ (=with) utan (=out) との複合語で ‘outside of’ の意味であり、within の反意語である。12世紀から15世紀にかけては一語として書かれることも、二語として書かれるここともあった。

 withouten はおもに14世紀から16世紀にかけて見られる綴りで、また withoute という綴りも14世紀から16世紀にかけてみられる。 Troilus ではこれらの両方の形が使用されている。Troilus での使用回数は with-outen 52 回、with-oute 31 回である。Confessio Amantis では withouten 35 回、withoute 178 回使用されている。

 

 

 

 


 

IV. 代名詞

 

目次

 

everychoon (=everyone) / hem (=them) / her, hir (=their) / hit (=it) / ich (=I) / men (=one) / tho (=those) / what (=which) / what (=why) / who-so (=whoever) / your (=yours)

 

 

everychoon (=everyone)

The tyme com, fro diner for to ryse,

And, as hem oughte, arisen everychoon,  (1598)

And gonne a while of this and that devyse.

食事の席から腰を上げる時間が来たので、各人は適宜立ち上がり、しばらくあれこれの話をした。

 

Ther been so worthy knightes in this place,

And ye so fair, that everich of hem alle  (Troilus V. 170)

Wol peynen him to stonden in your grace.

ここには立派な騎士が何人もいることですし、あなたが美しいのですから、一人残らずあなたの気に入ろうとして骨を折ることでしょう。

 

 everychoon every one の意味。every には 13 世紀から 16 世紀にかけて everich, everych という形があり、これに on, oon (=one) が組み合わさって everychoon が出来ている。なお、everybody OED  での初出は c1530 年のものであり、チョーサーの時代には everybody という語はまだ存在していなかった。

 everich (=every) には単独で ‘everybody, every one’ (OED every 6) の意味の代名詞用法があり、OED a1225 年から 1502 年までの用例を挙げている。

 Troilus での使用回数は everichoon 5 回、everichone 4 回、everichon 1 回、everychoon 1 回、everychone 1 回、everich 3 回、everi 1 回、every 135 回である。Confessio Amantis での使用回数は everichoon 3 回、everichon 6回、everich on 2 回、everych on 1 回、everich 2 回、every 422 回である。

 

hem (=them)

Now here, now there, he hunted hem so faste,  (197)

Ther nas but Grekes blood;

彼はギリシア軍をここかしこと追い、見えるのはギリシア軍の血ばかりだった。

 

 hem OE の人称代名詞3人称複数(3 性共通)の与格 him, heom に由来する。1150 年までに中部ではこの与格の him, heom が、対格 hi に取って代わるようになり、この傾向は南部へも進行していき、1350年までに南部でも hem hi に取って代わった。このようにして、対格も与格と同一の hem という形となった。

 一方、them の方は古ノルド語(Old Norse)から北部の英語に入った語であり、thaim が北部では 1200 年までには一般的な形となっていた。15世紀には Caxton によって、theym hem の両方が用いられており、1500 年以降は them が標準形となり、通常 ’em と書かれる hem は主に口語の弱形として付随的なものとなった。南西部の方言では今も hem, ’em が残っている。チョーサーでは them は使用されておらず、3人称複数の与格、対格はともに hem が用いられている。

 Troilus での使用回数は、hem-self を含む hem 177 回で、themtheir 0 回である。Confessio Amantis では hem 823 回、themtheir 0 回である。

 

her, hir (=their)

And lat us of hir saluinges pace.  (1568)

彼らの挨拶の様子も省略しましょう。

 

For fere of which men wenen lese her lyves,  (Troilus IV. 381)

それを恐れて自分の命を失うのではと考える人もいる。

 

チョーサーでは人称代名詞の3人称複数属格としては their ではなく、hir, hire, her, here が使用されている。チョーサーの時代にすでに北部では、古ノルド語から入った thair が使用されていたが、チョーサーや他の南部および南中部の作家たちは her を保持していた。Caxton her their の両方を使用している。their 1500 年以前にすでに優勢になり、やがて her の方は与格、対格の hem, ’em を保持した方言からも消えていった。OED  によると hir, her の最後の用例は 1482 年のものである。

 

hit (=it)

Tel me how first ye wisten of his wo:

Wot noon of hit but ye?              (502)

彼の苦しみを最初どのようにご存じになりまして。あなた方以外にそのことを誰も知らないのですか。

 

 hit は人称代名詞中性形 it の古い形。OE では hit は主格、対格であり、一方、与格と属格は男性形 he と同一の him, his であった。ME の時期に標準英語では、最初は強勢のない場合、やがてはすべての位置で語頭の h が消失した。方言では、とりわけ北部では、語頭の h はずっと後まで保持され、スコットランド方言では今も強勢形は hit, 弱形は it が使用される。与格の him は対格の hit によって徐々に取って代わられていったが、この移行は17世紀初頭にはまだ完了していなかった。16世紀になると属格の his を男性に限定する傾向が生じた。中性の属格としては thereof, of it あるいは it で代用されたが、1600 年頃 it’s (=its) が属格として生じた。しかし、生前に出版されたシェイクスピアの作品や1611年の欽定訳聖書 (King James Bible) では its はまだ使用されていない。17世紀前半に its 形が普及するにつれて属格としての it は廃れていったが、 his の方は 1675 年にもまだ見られた。

 Troilus での人称代名詞 hit の使用回数は少なく、it 703 回であるのに対して、hit 2 回である。Confessio Amantis では人称代名詞 hit 1 回だけ使用されている。

 

ich (=I)

And blisful god preye ich, with good entente,  (1060)

The vyage, and the lettre I shal endyte,

So spede it;

祝福を授けてくれる神に心からこうお祈りしよう、企てと私が書く手紙とがうまくいきますようにと。

 

 ich は一人称代名詞Iの別形。 I OE においては ic であったが、これはドイツ語のich やラテン語の ego と同語源の語である。北部では ME の時期にも ic ic, ik として残っていたが、中部、南部では早くに口蓋化されて ich [ItS] となった。北部、中部では12世紀までに語尾の子音は、あとに子音が続くときには脱落し始め、i となっていった。14世紀に北部では依然として母音の前では ik が、子音の前では i が使用されていたが、1400年を過ぎると北部、中部では I のみが現れるようになる。南部では ich が、とりわけ母音の前では、ずっと永く残り、16世紀には短縮されて ch となり、動詞と結合して cham (=I am), chave (=I have), chill (=I will), chot (=I wot) などのように書かれた。ich 形は南西部の方言では18世紀あるいは19世紀の前半まで残っていた。i 形の方は、時代とともに最初は強勢のあるとき、ついには強勢のない時にも二重母音化され、今日の I [aI] の発音となった。

 Skeat Troilus での ich の使用回数は22 回であり、I 1430 回であるので、ich の使用頻度は1.5%と少ないことが分かる。なお、Confessio Amantis では ich は使用されていない。

 

men (=one)

Ne avauntour, seyth men, certein, he is noon;  (724)

世間の人も確かに言っているのだけれど、彼は自慢するような人では決してない。

 

For-why men seyth, “Impressiounes lighte  (1238)

Ful lightly been ay redy to the flighte.”

というのは世間でも言うじゃないか、軽い印象はすぐに軽々しく飛び立つと。

 

whan that the sturdy ook, 

On which men hakketh ofte, for the nones,  (1381)

Receyved hath the happy falling strook,

頑丈な樫の木が、そのために何度も斧でたたかれ、最後の一撃を受けると、

 

 上の例文では men man の弱形で、今日の one の意味の単数不定代名詞として用いられている。

 ME 初期においては冠詞の付かない man が不定代名詞としてポピュラーになったが、14世紀を過ぎるとそれほど永く続かなかった。men ME 初期には不定代名詞として man ほど一般的ではなかったが、ME 後期には man より頻繁に用いられるようになった。me という men の短縮形もあり、me ME 初期には men 以上にポピュラーであったが、15世紀には消滅した。OED  によると、この me の最後の用例は c1483 年の Caxton のものである。チョーサーにも The Romaunt of the Rose にこの不定代名詞 me の使用が若干見られる。

 不定代名詞の men ME 初期には単数扱いされる傾向があり、ME 後期には複数扱いされる傾向があった(Mustanoja, p. 221)。実際、この不定代名詞の men は、man の複数形との区別が難しい場合が多く、15世紀には men は単数と複数の区別が不確かとなり、さらには名詞と代名詞の区別も不明瞭となっていった(Mustanoja, p. 222)。ME の時期全体を通じて不定代名詞の man, men は衰えていき、15 世紀、16 世紀には they one に取って代わられていった。OED  によると、不定代名詞 men の初出は c1175 年のものであり、最後の用例は 1484 年のものである。

チョーサーでは men は上記の例文に見られるように単数扱いされることもあるが、複数扱いされることの方があきらかに多い。men は単数の「人」(one) の意味であるのか、それとも複数の「人々」の意味であるのか判断が難しいのであるが、Troilus 中で主語として用いられ、かつ somethe やその他の修飾語の付かない men の使用回数 105 回のうち、動詞の語尾 -eth などによって単数扱いされていることがはっきりと分かるものは8 回である。

 

tho (=those)

But tho that been expert in love it seye,  (1367)

恋の達人たちがこういっています。

 

 tho OE þā (=those) に由来する語で、those と同様に指示代名詞、指示形容詞の両方の用法がある。þā は北部方言ではそのまま残り、今日のスコットランド方言の thae になっているが、イングランド中部、南部では規則的に þō へと変化し、1550年頃まで thoとして残っていた。早くも1300年頃には北部では þā þās に取って代わられるようになったが、後に南部でも þō þōs によって取って代わられるようになり、この þōs が標準英語の those となった。チョーサーは tho のみを使用して、those は使用していない。

 文学においては those Caxton が印刷した作品において初めて一般的となり、tho thoseが同じ意味で使用されていたが、やがて tho の方は衰退していった。OED  によると tho の最後の用例は1579年の Spenser Shepheardes Calender からのものである。

 指示代名詞・指示形容詞の tho , then の意味の副詞 tho と同形なので区別が難しい場合もあるが、Troilus での指示代名詞・指示形容詞の tho の使用回数は22 回であると思われる。

 

what (=which)

But god and Pandare wiste al what this mente.  (1561)

この会食が意味することのすべてを知っていたのは神とパンダラスのみでした。

 

 この例文の解釈は分かれる可能性があるが、what を関係名詞と解して ‘al what this mente’ ‘all that this meant’ (このことが意味したすべて) の意味にとることも可能である。ドイツ語の ‘alles, was da passiert war’ (そこで起こったことすべて) was と同じように、英語の what にも which thatの意味の関係代名詞の用法があった。OED  what C. 7の項で説明している用法である。

 

As simple relative (sing. or pl.): Which (or who); that.

a. referring to a pron. (demonstr. or indef.), occas. to a noun; orig. introducing a dependent question in apposition with it; esp., in later use only, in all what (now dial. or vulgar).

 

 ただし、例文の what をふつうの疑問詞にとって、「このことが何を意味するかをすべて知っていた」のように解することも可能である。なお、Norman Davis 編の A Chaucer Glossary には what which, that の意味の関係代名詞の用法は記載されていない。

 

what (=why)

What sholde I lenger sermon of it holde?  (965)

どうしてこれ以上くどくどとお話しする必要があるでしょうか。

 

What sholde I lenger in this tale tarien?  (1622)

どうしてこれ以上この話にぐずぐずする必要があるでしょうか。

 

ここでは what は副詞として why(何故)の意味で使用されている。OED  what A. 19の項で ‘For what cause or reason? for what end or purpose? why? Obs..’ と説明している用法である。この用法は今日では廃義であり、OED  の最後の用例は a1677年のものである。

 

who-so (=whoever)

But harm y-doon, is doon, who-so it rewe.  (789)

起きてしまった不幸は、誰が同情したって、あとの祭りだ。

 

 who-so whoever または whosoever の同義のであり、今日では古語となっている。

 Troilus での who-so の使用回数は 24 回であり、whosoever whoever は使用されていない。Confessio Amantis では who so 21 回使用されている。

 

your (=yours)

Ther were never two so wel y-met,

Whan ye ben his al hool, as he is youre:  (587)

彼とお前が完全にお互いのものとなれば、これほど似合いの二人はいないことだろう。

 

 ここでは your yours の意味で使用されている。これは OED  your 3の項に ‘absol. or as pron. (predicatively, or standing for your + n.) = yours. Obs.と説明されている用法で、OED  の最後の用例が a1625年のFletcherからのものである。

 

 

 

 

 


 

V. 形容詞

 

目次

 

afered (=afraid) / along on (=because of) / bele (=beautiful) / besy (=attentive) / bihovely (=useful, needful) / dreedful (=frightended, anxious) / free (=noble, generous) / fremde (=strange) / goodly (=good-looking; excellent; kind) / hool (=whole, healthy) / hoomly (=familiarly, intimately) / hust (=hushed) / ilke (same, very) / inwardly (=intimately) / leef (=dear) / 接尾辞 -lich, -liche / nyce (=foolish) / o, oo (=one) / parfit (=perfect) / payed (=satisfied) / prest (=ready) / propre (=own) / quik (=alive) / sauf (=safe) / sely (=happy; innocent; pitiable) / shene (=beautiful, bright) / siker (=secure, sure) / skile (=reason), skilful (=reasonable) / sucred (=sugared) / swich (=such) / thilke (=thtat same) / thridde (=third) / thrifty (=prosperous, respectable) / unkouth (=strange) / unsittinge (=unsuitable) / unwist (=unknown) / wel begoon [bigoon] (=happy) / weldy (wieldy=vigorous, nimble) / wikke (=wicked) / wode (=mad)

 

 

afered (=afraid)

but whan that she

Was ful avysed, tho fond she right nought 

Of peril, why she oughte afered be.  (606)

しかしよく考えてみると、恐れなければいけないような危険は全くないということに気づいた。

 

 afeard, afeared ‘frighten, terrify, or make afraid’ (OED) の意味の動詞 afear ed が付いた形で、‘frightened, afraid’ の意味の過去分詞である。 afered 12 世紀から 15 世紀にかけて見られる綴り。Shakespeare はこの afeard 30 回以上使用しているが、afeard afraid に取って代わられるようになっていき、1700 年以降の文学で使用されることはまれとなった。しかし afeard は今日でも民衆語では方言として生き残っている。affray や元来その過去分詞である afraid は、afeard より遅れて、14 世紀に現れた語である。

 Troilus での afered の使用回数は 2 回で、affray(e), affrayed は使用されていない。Robinson The Canterbury Tales では afer(e)d 8 回、affray(e) 4 回、affrayed 4 回使用されている。Confessio Amantis では afered 4 回、affray 4 回、affraied 3 回使用されている。

 

along on (=because of)

And if thou nilt, wyte al thy-self thy care, 

On me is nought along thyn yvel fare.    (1001)

もしそれがおいやなら、あなたのお苦しみはは自業自得で、ご不幸はぼくのせいじゃありませんよ。

 

 along はこの場合形容詞であり、along on ‘owing to, because of’ の意味の熟語となっている。OED  along of、または along on ‘chargeable, attributable, owing to; on account of’ と説明している用法である。 along on の方は 11 世紀から 15 世紀にかけて用いられ、今日では廃語であるが、along of は今日でも方言で使用され、OED   ‘common in London, and southern dialects generally’ と述べている。along の語頭母音が脱落した long on, long of という同じ意味の表現もあり、long on は今日では廃語であるが、long of は方言で使用されている。

 Troilus での along on の使用回数は 2 回である。Confessio Amantis では along (up)on 7 回使用されている。一方、前置詞や副詞としての along(〜に沿って)は Troilus では 1 度も使用されていない。Robinson The Canterbury Tales では形容詞、前置詞、副詞のいずれの along も使用されていない。

 

bele (=beautiful)

Good aventure, O bele nece, have ye    (288)

Ful lightly founden, and ye conne it take;

ねえ、美しい姪よ、お前は幸運を易々と見いだしているのだよ、それを受け入れることさえ出来れば。

 

 bel は「美しい」という意味のフランス語 bel, belle からの借用語で、bele はその14世紀から15世紀にかけての綴り。 1600 年以降は意識的にフランス語として使用された。OED  の初出は 1314 年頃のものであり、最後の用例は 1678 年のものである。

 Troilus での使用回数は上記の引用文のみで、1 回である。Confessio Amantis での使用回数は 2 回である。

 

besy (=attentive)

And loked on hir in a besy wyse,   (274)

そして彼女をまじまじと見た。

 

 besy 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる busy の綴り。Troilus では他の箇所で bisy という綴りも見られる。ここでは besy 14世紀、15世紀に用いられた ‘Solicitous, anxious, uneasy; careful, attentive. Of desires, prayers, etc.: Earnest, eager, importunate. Obs.’ (OED  busy 6. a.) の意味で用いられていおり、besy のこの意味は今日では廃義である。

 

bihovely (=useful, needful)

And sithen thende is every tales strengthe, 

And this matere is so bihovely,             (261)

What sholde I peynte or drawen it on lengthe

To yow, that been my freend so feithfully?

結論がすべての話の肝心な点で、このことこそ役に立つんだから、どうして話を飾ったり、引き延ばしたりすべきだろうか、親友であるお前に対して。

 

 bihovely は、‘use’ (使用)‘advantage’ (利益) の意味の behoof -ly が付いた語で、‘of use; useful, profitable; needful, necessary’ (OED) の意味である。T. S. Eliot Little Gidding でも使用されている語であるが (Sin is Behovely, but All shall be well.)、今日では古語となっている。

 Troilus での bihovely の使用回数は 1 回である。Confessio Amantis では behovely 5 回、behovelich(e) 2 回使用されている。

 

dreedful (=frightended, anxious)

Criseyde, whan that she hir uncle herde, 

With dreedful herte, and desirous to here  (1101)

The cause of his cominge, thus answerde:

クリセイデは叔父の話を聞いたとき、怖いような気持ちで、そして叔父が来た理由を知りたくて、このように答えた。

 

 dreadful は今日「恐怖を与える」(inspiring dread) という意味で使用されるのがふつうであるが、13世紀から17世紀にかけては、文字通り ‘full of dread’ (恐怖に満ちた、怖がる) の意味の用法も同時に存在した。チョーサーではどちらかというとこの語源的な ‘frightened’ (脅えた)‘anxious’ (心配した) の意味で使用されることの方が多い。

 

free (=noble, generous)

Now, nece myn, the kinges dere sone,

The goode, wyse, worthy, fresshe, and free,  (317)

Which alwey for to do wel is his wone,

The noble Troilus, so loveth thee,

That, bot ye helpe, it wol his bane be. 

ねえ、お前、王様のご子息、善良で、賢明で、立派で、はつらつとして、寛大で、善行を積むのが習慣になっている高貴なトロイラスさんのことなんだけど、お前にとても熱を上げておられるので、お前がお助けしなければ、お命も危ないくらいなんだ。

 

 free には17世紀頃まで「高貴な生まれの」、「寛大な」の意味があったが、これらの意味は今日では廃義となっている。OED  の定義34に相当する。

 

3. Noble, honourable, of gentle birth and breeding. In ME. a stock epithet of compliment.

4. a. Hence in regard to character and conduct: Noble, honourable, generous, magnanimous. Obs..

 

fremde (=strange)

Lat be to me your fremde manere speche,  (248)

And sey to me, your nece, what yow liste:’

私に対してよそよそしい態度はおやめになって、姪である私に仰りたいことを話てください。

 

fremde fremd 12世紀から16世紀にかけて見られる綴り。fremd は「外国の」(foreign)、「見慣れない」(strange) の意味を持ち、そこから「よそよそしい」(unfriendly) の意味にもなる。引用文では「よそよそしい」の意味で使用されていて、この箇所は OED に引用されている。

 Troilus での fremde, fremd の使用回数は2 回である。Confessio Amantis では使用されていない。

 

goodly (=good-looking; excellent; kind)

God woot if he sat on his hors a-right,

Or goodly was beseyn, that ilke day! (1262)

まことにその日は、彼は堂々と馬上に座り、美しく見えた。

 

ここでは goodly ‘good-looking’ の意味で用いられている。

 

Criseyde, which that alle these thinges say,  1265

To telle in short, hir lyked al y-fere,

His persone, his aray, his look, his chere,

His goodly manere, and his gentillesse,   (1268)

So wel,

この有様をすべてみていたクリセイデには、要するに、彼の姿、服装、顔立ち、表情、立派な態度、気高さ、これらすべてが気に入ったので...

 

 ここでは goodly は「立派な」の意味である。

 

Eleyne, in al hir goodly softe wyse,   (1667)

Gan him saluwe, and womanly to pleye,

ヘレンは優しいもの柔らかな仕方で彼に挨拶し、女性らしく冗談を言った。

 

 ここでは goodly は「愛想のいい、親切な」(pleasant, kind)の意味である。

 

And goodly on Criseyde she biheld,   (1606)

彼女は優しくクリセイデの方を見た。

 

 ここでは goodly は副詞で、‘kindly, pleasantly’ の意味である。

 

 OED  によると goodly の形容詞としての用法はだいたい次の4つである。

 

1「美貌の」(good-looking)

2「大きい、たくさんの」

3「立派な」(excellent)

4「親切な」(kind) (今日では廃義、最終用例はc1440年のもの)

 

大まかに言えば、これらのうちチョーサーでは 2「大きい、たくさんの」を除く他の 3 つの意味のいずれかで使用されている。 Norman Davis 編の A Chaucer Glossary goodly, goodlich という語の形容詞としての用法を 1 pleasant; 2 kind; 3 good-looking 3 種類に分類している。OED  4「親切な」(kind) のところに、Davis が挙げている 1 pleasant の意味をも含める方がわかりやすいかもしれない。今日では goodly 2「大きい、たくさんの」の意味で用いられるのががふつうで、1「美貌の」や 3「立派な」の意味は古語となっている。また、goodly の副詞としての用法では OED  1 elegantly, beautifully; 2 kindly; 3 excellently; 4 conveniently の意味を挙げている。

Troilus での goodly の使用回数は goodliheed 等を含めると、37 回である。Confessio Amantis では goodly 23 回、goodli 12 回、goodliche 1 回、goodlych 1 回、goodlihiede 1 回で、計 38 回使用されている。

 

hool (=whole, healthy)

For I am hool, al brosten been my bondes;   (975)

ぼくは癒され、心の枷はすっかりとれたのだから。

 

 hool whole 14世紀から16世紀にかけて用いられた綴り。w が入った whole の綴りは 15 世紀以降のものであり、Troilus では一様に hool のように綴られている。

OE hāl は北部では hale となり、中部、南部では hol となったあと、今日の whole となった。hale は今日「壮健な」という意味であるが、スコットランドやイングランド北部では「傷のない」や「完全な」(whole) の意味の用法が方言として残っている。

 whole には「完全な、全体の」の意味の他に、「傷のない」(unhurt, undamaged)、「健康な」(healthy) の意味があり、チョーサーではこれら 3 通りの意味の用法が見られる。上記引用文の hool ‘healthy’ の意味である。

 Troilus での hool の使用回数は 12 回である。Confessio Amantis では hol 29 回、hool 1 回使用されている。

 

hoomly (=familiarly, intimately)

But as his suster, hoomly, sooth to seyne,  (1559)

She com to diner in hir playn entente. 

彼女は実は妹として、打ち解けた気持ちで、疑いも抱かず食事に訪れた。

 

  hoomly (=homely) はここでは ‘familiar, intimate’ (OED  2) の意味で使用されている。この用法は今日では古語となっている。

 Troilus での使用回数は1 回である。

 

hust (=hushed)

Whan al was hust, than lay she stille, and thoughte  (915)

Of al this thing the manere and the wyse.

すっかり静まりかえると、彼女は静かに横になって、このことすべてについて、さまざまに考えた。

 

 OED  によると、この hust は「静かに!」の意味の間投詞 hust ‘silent, quiet, hushed’ の意味の形容詞に用いた用法である。上記引用文が OED  の初出で、OED  が形容詞 hust の項で挙げている4個の用例はすべてチョーサーからのものである。

 Troilus での使用回数は2 回である。Confessio Amantis には hust は見られない。

 

ilke (=same, very)

This ilke thing they redden hem bi-twene;  (1706)

このものを(書状を)二人は一緒に読んだ。

 

 ilke ilk 13 世紀から 16 世紀にかけてみられる形。ilk same, very の意味の形容詞で、通常 the [this, that] ilk などの形で使用される。OED  that ilk day, night, year, etc.などの時の表現で用いられることが多いと述べているが、Troilus でも that ilke day 3 回見られる。名詞用法の ilk は「同類」という意味で今日でも用いられるが、「同じ」という意味の形容詞用法は今日ではスコットランド方言に限られる。OED  による ilk の形容詞用法の最後の用例は c1480 年のものである。

Troilus では that ilke (6 ), this ilke (7 ), thise ilke (7 ), these ilke (2 ) という形で、計 22 回使用されている。Confessio Amantis では that ilke (52 ), this ilke (10 ), these ilke (1 ) という形で、計 63 回使用されている。

 

inwardly (=intimately)

And with that word he gan right inwardly (264)

Biholden hir, and loken on hir face, 

そしてこう言うと、彼女を見てその顔をしげしげと見つめた。

 

 inwardly の文字通りの「内部で」の意味の用法はチョーサーの時代にはまだなかったようで、OED  での初出は 1483 年のものである。上記引用文での意味は ‘intimately, closely’ で、この意味では OED  a1225 年からの用例が挙がっている。チョーサーで inwardly が使用されているのはこの 1 例のみのようである。Confessio Amantis では使用されていない。

 

leef (=dear)

Ye two,

Deiphebus, and my suster leef and dere,  (1693)

To yow have I to speke of o matere,

デーイフォバスさんと親愛なる姉上のお二人に、お話ししたいことがあります。

 

Yet hadde I lever unwist for sorwe dye.  (1509)

しかし悲しみで人知れず死んだ方がましだ。

 

For, dredelees, men tellen that he dooth

In armes day by day so worthily,

And bereth him here at hoom so gentilly

To every wight, that al the prys hath he

Of hem that me were levest preysed be.   (189)

だって、確かに、世間の噂では、彼は毎日戦いで立派な働きをなさるし、家では誰に対しても優しく振る舞うので、私がほめてもらいたいと思うような人々の賞賛を一身にお集めになっておられるのですから。

 

 leef lief 14世紀から16世紀にかけて見られる綴り。 lief はドイツ語の lieb (=dear 親愛な) と同語源の語で、dear, beloved の意味であり、場合によっては pleasing, desirable の意味となる。また名詞用法として beloved one の意味がある。比較級は preferable の意味となり、比較級を用いた liefer was me I had liefer 等で I had rather, I prefered などの意味となる。最上級を用いた場合、me were levest I would most like の意味となる。

 lief はかつてよく用いられた語であるが、17 世紀に衰えを見せ、それに代わって want love が多用されるようになっていった。今日では lief は古語になっている。

 Troilus での使用回数は lief 3 , leef 18 , lever 12 , levest 1 回で計 34 回である。Confessio Amantis では lief 27 回、lievest 5 回、levere 30 回で計62 回使用されている。

 

接尾辞 -lich, -liche

Y-wis, thou nedelees

Conseylest me, that sykliche I me feyne,...  (1528)

確かに、君はぼくに仮病を使うように不必要に忠告してくれているのだ。

 

 sykliche sickly、すなわちここでは sick の意味である。-lich, -licheは今日の接尾辞 -ly に相当する接尾辞である。-lich および -liche はともに、1 名詞または形容詞に付加して形容詞を形成する働きと、2 主に形容詞に付けて副詞を形成する働きとがある。

 OE では副詞は形容詞に -e を付加することによって形成された。形容詞がすでに -e で終わる場合には、形容詞と副詞の間に形態的な違いはなかった。-e を付加する方法は、-lic で終わる形容詞から副詞を形成するのに一般に用いられたので(freondlic, freondlice など)、-lice の語尾は副詞形成語尾と見なされるに至り、-lic で終わらない形容詞からも副詞を形成するのに用いられるようになった。 ME の時期に入ると語尾の -e は発音されないようになり、そのため、形容詞と、その形容詞に接尾辞 -e を付加して形成された副詞との形態上の区別は消滅した。この結果、形容詞はしばしばそのままで副詞として用いられ、場合によっては逆に、副詞が形容詞としても用いられるようになった (Mustanoja, p. 314)。

 OE -lice ME では南部では -liche に、そして北部では -like になった。14 世紀には East Midland で使用されていて、15 世紀には全土に広がった -li, -ly 形は、古ノルド語の影響によると考えられている。OED  によると、-liche 12 世紀〜15 世紀に、-lich 14 世紀〜15 世紀に、-ly 14 世紀以降に使用されている形である。チョーサーでは -ly 形が最も多いが、-liche 形や -lich 形も使用されている。

 副詞、形容詞を一緒に数えれば、 Troilus での使用回数は -liche 28 回、-lich 8 回、-ly 467 回である。Confessio Amantis では like liche のように綴られているので、たとえば alike aliche となり、数えるのが難しいのであるが、-ly に相当する -liche 120 回、-lich 16 回使用されていると思われ、また -ly 571 回使用されている。

 表 1 Troilus で使用されているすべての -lich(e) 形の単語と、Troilus で見られるそれに対応する -ly 形の使用回数を示したものである。概して -ly 形の方が数が多いことが分かる。

 

1 Troilus に見られる-lich(e) 形の語と-ly形の語 (数字は使用回数)

-lich(e)

使用回数

-ly

使用回数

cruelliche

1

cruelly

1

deedlich

1

dedly

2

deliverliche

1

 

0

digneliche

1

 

0

ententiflich

1

 

0

esiliche

1

esily

2

estatliche

1

 

0

ferventliche

1

 

0

fulliche

fullich

2

fully

23

nameliche

namelich

2

namely

6

onliche

2

only

13

rewfulliche

1

rewfully

2

secoundlich

1

 

0

soberliche

3

sobrely

7

sodeinliche

sodeynliche

4

sodeinly

sodeynly

20

sternelich

1

 

0

sykliche

1

 

0

tendreliche

2

tendrely

4

treweliche

trewelich

3

trewely

trewly

36

verrayliche

verraylich

2

 

0

wommanliche

3

wommanly

womanly

3

wonderliche

1

wonderly

1

 

 

nyce (=foolish)

this nyce opinioun (1297)

Shal not be holden fully yeres two.

こんな愚かな意見は二年と続かないだろう。

 

 nice は今日 ‘agreeable, delightful’ の意味のほめ言葉として用いられるが、これは 18 世紀の後半に一般的となった用法で、OED  での初出は 1769 年のものである。nice はラテン語の nescius に由来し、このラテン語は「無知な」(ignorant) の意味の形容詞であった。したがって、英語の nice も最初は「愚かな」(foolish) の意味を持ち、14 世紀、15 世紀にはこれがこの語の一般的な意味であった。チョーサーが使用している nyce も大部分はこの意味であり、他に「きちょうめんな」(scrupulous) などの意味の場合もある。nyce 13 世紀から 17 世紀にかけて見られる綴りで、Troilus ではこの綴りが使用されている。

 Troilus での使用回数は nyce 21 , nycely 1 , nycetee 2 回である。Confessio Amantis では nyce 15 回、nycete 4 回使用されている。

 

o, oo (=one)

For greet power and moral vertu here

Is selde y-seye in o persone y-fere.   (168)

武勇と美徳が同じひとりの人に見られることは滅多にありませんから。

 

 o, oo は、子音の前で one n が脱落した形。one (一、ひとつの) を表す OE の語は、ラテン語の unus やドイツ語の ein と同語源の án であった。án は北部では ME の時期に ān と音が保持され、やがて母音が短くなって ân へと変っていった。中部、南部方言では án ôn へと音を変化させた。ân ôn は子音の前で n を落とし â ô となり、これらは16世紀まで続いた。南西部、西部では ôn は語頭の w- 音を発達させ、それが今日の one [wVn] の発音となっている。そして強勢を持たない an, a から今日の不定冠詞が発達した。

 Troilus での使用回数は o 27 回、oo 1 回であり、すべて子音の前に置かれたattributive な用法となっている。一方、oon 56 回使用されているが、名詞を限定するattributive な用法の場合は、すべて of oon assent などのように母音の前に置かれている。Confessio Amantis では o 86 回使用されている。

 

parfit (=perfect)

But wene ye that every wrecche woot 

The parfit blisse of love? Why, nay, y-wis;  (891)

誰にでも恋愛の完全な喜びが分かるとお考えになって?そんなことはないわ、絶対に。

 

 parfit perfect の別形である。OED  によれば、perfect にはこれまでに様々な形が見られる。OED  5 種類に分類しているが、それらはおおざっぱに見ると (1) parfight (16 世紀まで); (2) perfite (16 世紀まで); (3) parfit (13 世紀〜16 世紀), perfit (14 世紀〜17 世紀); (4 ) parfet, perfet (17 世紀まで); (5) perfect (16 世紀〜今日) である。

 チョーサーが用いているのは (3) parfit perfit の形である。 perfect という今日の形は 16 世紀以降のものなので、当然チョーサーは使用していない。

 perfect はもとはラテン語の perficere (成し遂げる) の過去分詞 perfectus に由来するが、これは per (=through) facere (=do, make) の複合語である。英語には ME の時期に古フランス語の parfit(e) から入って来たので、最初の綴りはフランス語に倣ったものであった。par- から per- への変化は、14 世紀から 16 世紀にかけて進行した。また、形は徐々にラテン語の perfectus に一致したものへと変っていき、今日の perfect となった。16 世紀まで強勢は perfíte pérfit の両方があり、今日でもスコットランド方言では両方の強勢が残っている。

 Troilus での使用回数は parfit 6 回、perfit 1 回である。Confessio Amantis ではparfit 10 回使用されている。

 

payed (=satisfied, pleased)

And also blisful Venus, wel arayed, 

Sat in hir seventhe hous of hevene tho,

Disposed wel, and with aspectes payed,  (682)

To helpen sely Troilus of his wo.

祝福の女神ビーナスもまたそのとき、機嫌うるわしく、天の第七宮に座り、諸星の相に満足して、哀れなトロイラスをその悲しみから助けてやろうという気になっていました。

 

 英語の pay は、ラテン語 pax (=peace) の動詞形 pacare (=pacify) に由来するフランス語 payer (=pay, 古フランス語では satisfy の意味も) が英語に入ったものである。‘pacify a creditor’ (債権者を満足させる) という場合の ‘pacify’ の意味が、ロマンス諸語で「支払う」という意味を生じさせた。今日ロマンス諸語の中には pay に相当する語が「満足させる」と「支払う」の両方の意味を持つ言語もあるが、フランス語や英語では「満足させる」という意味は廃義となっている。

 pay ‘satisfy, please’ の意味は OED  1 の項で挙げているもので、用例は c1200 年から 1501 年までのものが見られる。OED  ‘most frequent in past participles’ と述べているように、過去分詞が「満足した」(satisfied, pleased) の意味で使用されることが多かった。チョーサーも過去分詞をこの「満足した」の意味で使用している。

 名詞としての pay にもやはり「満足、喜び」(satisfaction, pleasure) の意味があり、OED  1 の項で挙げているのはこの用法である。たとえば、to my pay to my satisfaction の意味の使用が The Parlement of Foules に見られる。

 Troilus での payed の使用回数は 1 回である。Confessio Amantis では「満足した」の意味での paid 10 回、paied 3 回、payd 1 回使用されていると思われ、比較的多用されている。

 

prest (=quick, ready)

Also these wikked tonges been so prest  (785)

To speke us harm,

それに意地悪な人たちは、私たち女性の悪口を言おうと待ち構えているんだから。

 

 prest ‘ready, prompt’ の意味の形容詞であるが、これはフランス語の prêt (=ready) と元来同一語である。古フランス語の prest はラテン語の praesto に由来するが、praesto は「前」の意味の prae と「場所」の意味の situs の奪格または与格との複合語であり、‘at hand, ready’ を意味した。

Troilus での使用回数は prest 5 回、preste 1 回である。一方、redy (=ready) 13 回使用されている。Confessio Amantis では形容詞の prest は使用されていないが、redy 35 回、redi 26 回使用されている。

 

propre (=own)

Deiphebus, of his owene curtasye,

Com hir to preye, in his propre persone,  (1487)

デーイフォバスが自ら丁重にやって来て、彼女にじきじきに懇請した。

 

 ここでは propre (=proper) one’s own「自分の」の意味で使用されている。この one’s own の意味での proper の使用は今日では古語となっている。ラテン語の proprius (=one’s own) がフランス語の propre となり、それが ME の時期に英語に入ったものであり、OED  では one’s own「自分の」の意味を 1 の項で挙げている。チョーサーには他に ‘handsome, good-looking’ (OED  9) ‘complete, thorough’ (OED  7) の意味の propre の用法も見られるが、一番多いのはこの one’s own の意味の用法である。

 Troilus での propre の使用回数は 3 回である。一方、owene (=own) 47 回、owne 6 回使用されている。Confessio Amantis では propre 32 回使用されていて、owen 1 回、owne 1 回使用されている。

 

quik (=alive)

In May, that moder is of monthes glade,

That fresshe floures, blewe, and whyte, and rede,

Ben quike agayn, that winter dede made,   (52)

And ful of bawme is fleting every mede;

楽しい月々の母である五月、冬が死なせていた青や白や赤の新鮮な花が生き返り、牧場という牧場に香りが漂う五月に。

 

 ここでは quick は「生きた」(living, alive, lively) の意味で使用されている。これが quick の意味としては古くは最も一般的であった意味であり、チョーサーに見られる quik はだいたいこの意味で使用されている。今日 quick の意味として一般的な「すばやい」という意味は OED  では初出が c1450 年のものであり、チョーサーでは使用されていない。quick の「生きた」の意味は今日では古語・方言となっている。1611 年の欽定訳聖書 (King James Bible) では ‘the quick and the dead’ (生者と死者) という表現が見られ、また D. H. Lawrence の小説にもこの意味の quick が見られる。

 Troilus での使用回数は quike 3 回、quik 1 回である。Confessio Amantis では quik 2 回、quyk 1 回、qwike 2 回使用されている。

 

sauf (=safe)

but elles wol I fonde,

Myn honour sauf, plese him fro day to day;  (480)

しかしそうでなければ、私の体面が保てれば、次第に彼の気に入るように試みましょう。

 

‘O, elles god for-bede,’ tho quod he, 

‘If that she vouche sauf for to do so.’ (1691)

すると彼は言った、「是非そうしてもらいたいね、もし彼女がそうして下さるならば。」

 

 safe はラテン語 salvus (=safe, uninjured) に由来するが、salvus salus (=health) salve! (=hail!) と同語源である。sauf 13 世紀から 16 世紀にかけてみられる綴りで、今日の safe という綴りは 14 世紀以降に見られるものである。チョーサーでは sauf の方の綴りが使用されている。

 Troilus での使用回数は 1 回であるが、vouch-sauf 2 , vouch sauf 5 , saufly 1 回使用されている。Confessio Amantis では sauf 26 回使用されている。

 

sely (=happy; innocent; pitiable)

And also blisful Venus, wel arayed,

Sat in hir seventhe hous of hevene tho,

Disposed wel, and with aspectes payed,

To helpen sely Troilus of his wo.        (683)

祝福の女神ビーナスもまたそのとき、機嫌うるわしく、天の第七宮に座り、諸星の相に満足して、哀れなトロイラスをその悲しみから助けてやろうという気になっていました。

 

 sely は、silly と同一語である seely 13 世紀から 17 世紀にかけて見られる綴り。seely は今日では方言に残っているのを除けば、古語または廃語となっている。seely は「幸福な , 祝福された」(happy, blessed) や「無邪気な , 無害な」(innocent, harmless) の基本的な意味を持ち、それ以外に「不運な、哀れな」(hapless, pitiable)、「敬虔な、神聖な」(pious, holy) などの意味を持つ。「愚かな」(foolish) の意味もあるが、OED  では a1529 年の Skelton の用例がこの意味の初出となっている。

 今日使用されている silly 15 世紀に seely の母音が短母音化されることによって生じたものである。今日silly は「愚かな」という意味で用いられるが、方言や古語としては「哀れな」や「弱い」の意味もある。

 Troilus での sely の使用回数は 8 回である。Confessio Amantis では seli 1 回使用されている。

 

shene (=beautiful, bright)

Til at the laste Antigone the shene  (824)

Gan on a Troian song to singe clere, 

やがて、美しいアンティゴネーがきれいな声でトロイの歌を歌い始めた。

 

A nightingale, upon a cedre grene,

Under the chambre-wal ther as she lay,

Ful loude sang ayein the mone shene,   (920)

彼女が臥している部屋の壁の下にある杉の上でナイチンゲールが声高く輝く月に向かってさえずった。

 

 shene sheen 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。sheen の基本的な意味は「美しい」(beautiful) と「輝く」(bright, shining) の二つである。初期の用法では単に「美しい」の意味であるのか、それともそこに「輝く」の意味が同時に加わっているのか、判断が難しい場合があると OED  は述べている。時代が下るにつれて shine という語に影響され、sheen の「美しい」と「輝く」の二つの意味のうち「輝く」の方が優勢になっていった。

 なお、Troilus では beautee (=beauty) という語は使用されているが(15 回)、beautiful は使用されていない。それは、beautiful 16 世紀に生まれた語であって、チョーサーの時代にはまだ存在していなかったからである。また pretty (きれいな) という語も一般にはチョーサーの時代のあとで使用されるようになった語で、「きれいな」の意味での OED  での初出は c1440 年のものであり、当然チョーサーでは使用されていない。Troilus では「美しい」を表すのに sheen, fair, bright などが使用されている。

 Troilus での shene の使用回数は 9 回である。Confessio Amantis では sheen は使用されていないようである。

 

siker (=secure, sure)

It is oon of the thinges that furthereth most,

A man to have a leyser for to preye,

And siker place his wo for to biwreye;    (1370)

男性が求愛の機会と自分の苦しみを打ち明ける確かな場所を持つことが、恋愛を一番推進させる事柄の一つなんです。

 

For al so siker as thow lyst here by me,  (991)

And god toforn, I wol be there at pryme,

絶対に間違いなく、神に誓って、明日の朝早くそこに行きますから。

 

Allas! Sin I am free,

Sholde I now love, and putte in Iupartye

My sikernesse, and thrallen libertee?   (773)

ああ、私は自由の身なのだから、今恋をして、安定した境遇を危うくし、自由を拘束していいのかしら。

 

 siker sicker の別綴り。sicker はラテン語 securus (=secure) がゲルマン諸語に借用された語であり、強勢が第一音節に移行したものである。sicker secure, sure の意味の形容詞であるが、securely, surely の意味の副詞としても用いられた。siker 1番目の用例では形容詞であり、2番目の用例では副詞として使用されている。ME では sicker は形容詞、副詞として広く用いられたが、正確な意味は必ずしも明瞭でない場合があると OED  は述べている。sicker 1500 年以降はスコットランドおよびイングランド北部以外ではまれな語となっていった。

sure という語もやはりラテン語 securus (=secure) に由来する点では同語源語であるが、こちらは古フランス語から入ったものである。英語の単語としては sure の方が sicker よりも新しい語であり、チョーサーが生きた 14 世紀に英語に入ったものである。

certain という語はラテン語の「決定する」という意味の動詞 cernere の過去分詞 certus (決定された、定まった) に由来し、チョーサーでも「決定された」(settled) という意味の場合と、「確かな」(sure) の意味の場合とがある。

 Troilus での使用回数は siker 6 , sikerly 3 , sikernesse 7 , sykerly 1 回であり、seur (=sure) 2 回、seurtee 1 回使用されているが、certain(ly), certes 等は多く、全部で 70 回使用されている。 Confessio Amantis では siker 15 , sikerest 1 , sikerly 2 , kicerliche 3 , sikernesse 10 回使用されており、seur (=sure) は使用されておらず、また、certain, certes 等は全部で 77 回使用されている。ともに certain の使用頻度が高いことが分かる。

 (なお、副詞の sikerly については副詞の章を参照)

 

skilful (=reasonable), skile (=reason)

Lo, this request is not but skile, y-wis,  (365)

Ne doute of reson, pardee, is ther noon.

ねえ、頼みは確かに筋の通ったことなんだから、全くのところ、心配することはないんだ。

 

certayn, best is

That ye him love ayein for his lovinge,

As love for love is skilful guerdoninge.   (392)

確かに、一番いいのは、彼の愛情に対して愛情でお返しすることだよ、愛には愛を持ってするのが理にかなったお返しの仕方だから。

 

 今日では skilful は「熟練した」(possessing skill) の意味で用いられるが、チョーサーではこの意味での使用は見られない。OED  skilful の「熟練した」という意味の初出は 1338 年のものなので、チョーサーの時代にはこの用法はすでに存在していたのであるが。チョーサーは skilful をもっぱら reasonable (理にかなった)discerning (眼識のある) の意味で使用している。

 もとの名詞 skill は「区別」を意味する古ノルド語 skil から英語に入ったもので、OED  での初出は c1200 年のものである。(1)「理性、判断力」、(2)「理にかなったこと」、(3)「理由、原因」などが skill の最初の意味であり、これらの意味が ME の時期の主要な意味であった。今日一般的となっている skill の「技能」という意味は、OED  では初出が a1300 年の Cursor Mundi からのものとはなっているものの、二番目の用例が一気に 1553 年のものへととんでいる。したがって、「技能」の意味が一般的となったのは 16 世紀であると考えられるのである。チョーサーやガワーには skill の「技能」という意味での用法は見られない。

 Troilus での使用回数は skile 2 回、skilful 3 回、skilfully 1 回である。なお、reson については、reson 11 回、resoun 2 回、resonable 2 回、resoninge 1 回使用されている。Confessio Amantis では、「推論する」の意味の動詞の用法も含めて skile 31 回、skyle 1 回使用されており、skilful の使用は見られない。reson については、reson 123 回、resoun 38 回、resonable 25 回使用されている。

 

sucred (=sugared)

But alwey, goode nece, to stinte his wo,

So lat your daunger sucred ben a lyte,   (384)

That of his deeth ye be nought for to wyte.

しかし姪よ、彼の悲しみを止めるために、お高くとまる態度をいつもすこし和らげてもらいたいんだ、彼が死んだ責任がお前にあるといって非難されないように。

 

 今日「砂糖」は sugar と綴られるが、これは 16 世紀以降の綴りである。フランス語で「砂糖」を sucre というが、これの古フランス語形 çucre が英語に入り、最終的には sugar という形になったのである。英語では sugar が様々な綴りで書かれたが、sucre 14 世紀、15 世紀に見られる形で、チョーサーやガワーではこの形が使用されている。

 Troilus での使用回数は sucre 1 回、sucred 1 回である。Confessio Amantis では sucre 2 回使用されている。

 

swich (=such)

And sith he hath to see me swich delyt,  (709)

私を見ればあれほどお喜びになるんだから、

 

 such swa (=so) *lîko との複合語で、OE での形は swylc, swilc であった。9 世紀頃に母音の円唇化が始まり、swilc swylc を経て、1000 年頃から swulc という形で現れ始める。ME の時期になると、swylc, swulc swulch となり、さらに w が吸収され、l もとれて such という形になって今日に至っている。such 13 世紀以降の形である。swich 12 世紀から 15 世紀にかけて見られる形で、チョーサーでは主にこの swich 形が使用されている。一方、ガワーでは主に such 形が使用されている。

 Troilus での使用回数は swich 146 回、swiche 15 回、swych 1 回、such 2 回、suche 2 回使用されている。Confessio Amantis では such 689 回、suche 101 回、sich 1 回、swich 3 回、swiche 3 回使用されている。

 

thilke (=that same)

This Troilus, as he was wont to gyde

His yonge knightes, ladde hem up and doun

In thilke large temple on every syde,  (Troilus I. 185)

Biholding ay the ladyes of the toun,

トロイラスは、よく若い騎士たちをつれて歩いたものですが、この日も彼らをつれてその大きな神殿の中であちこち歩き、町の女性たちに目を注いだ。

 

 thilk ilk (=same) に定冠詞の the が付いたもので、the same, that same の意味である。thilke 13 世紀から1 7 世紀にかけてみられる綴り。OED  では thilk の方が単独の ilk よりも遅い時代までの用例が載っているが、thilk は今日では古語または方言となっている。

 Troilusでの thilke の使用回数は20 回である。Confessio Amantis でのthilke の使用回数は353 回であり、多用されていることが分かる。

 

thridde (=third)

Whan Phebus doth his brighte bemes sprede

Right in the whyte Bole, it so bitidde 

As I shal singe, on Mayes day the thridde,  (56)

ちょうど白い牡牛座にある太陽が輝く光を投げかけるとき、これからお話しするように、たまたま五月の三日に、

 

 thridde third (3 番目の) 14 世紀から 16 世紀にかけてみられる形。今日の形である third thrid の音位転換 (metathesis) によって出来た形である。third 950 年頃の Northumbria 方言にすでに見られるが、16 世紀までは thrid の方が優勢であった。チョーサーやガワーでは一貫して thridde が用いられている。

 thridde の使用回数は Troilus 5 回、Confessio Amantis 42 回である。

 

thrifty (=prosperous, respectable), thrift (=success, forttune), thriftieste (=worthiest)

Now good thrift have he, wher-so that he be!  (847)

あの人が栄えますように、どこにおられようと。

 

I thenk eek how he able is for to have

Of al this noble toun the thriftieste,    (737)

To been his love, so she hir honour save;

あの方は、この気高い町じゅうで一番すばらしい女性を恋人に持つことが出来る方だと思うわ、その女性の体面が保たれさえすれば。

 

 今日 thrift は「倹約」という意味で、また thrifty は「倹約な」という意味で使用されるのが一般的であるが、この thrift の「倹約」の意味は 16 世紀からのもので、OED  での初出は 1553 年である。thrift は動詞 thrive (繁栄する) の名詞形であり、もとの意味は「繁栄、成功」(prosperity, success) であった。チョーサーにあってもやはり thrift は主にこの「繁栄、成功」の意味で使用されている。チョーサーが使用している thrifty は「尊敬すべき , りっぱな」(OED  thrifty 2) という意味が中心的な意味であると思われるが、OED  ‘In many early quotations, it is not possible to fix the meaning of this adj.; two or three senses equally well suiting the context.’ と述べているように、使用されているコンテクストによって微妙な意味のずれがあるようである。

 Troilus での使用回数は thrift 8 回、thriftiest 2 回、thrifty 1 回、thriftily 1 回である。Confessio Amantis では thrift 1 回だけ使用されている。

 

unkouth (=strange)

So after this, with many wordes glade,

And freendly tales, and with mery chere,

Of this and that they pleyde, and gunnen wade

In many an unkouth glad and deep matere,    (151)

それでそのあと、おもしろい言葉、親しい話をかわしながら、楽しそうな顔つきで、あれこれに興じ、数々の珍しい深い事柄にも話が及んだ。

 

This thing anoon was couth in every strete,   (Troilus IV. 61)

このことはすぐに町中に知れ渡った。

 

 couth OE cunnan (=can) の過去分詞 cuðe に由来する。「〜できる」の意味の can の元の形である cunnan は、ドイツ語の kennen (=know) とも同語源の語であり、「知る」(know) が本来の意味であったが、「〜することを知っている」(know how) から ME の時期に「〜できる」(be able to) の意味を発達させた。cunnan ME では cunne となるが、m, n, u のそばでは u o で表す当時の写字生の習慣で conne と書かれた。この conne がチョーサーでは know の意味の動詞として、また be able の意味の助動詞 can として使用されている。 直説法現在形は 1人称、3 人称が can 2 人称が canst 複数が connen, conne であり、接続法現在形は単数が conne、複数が connen, conne であり、不定詞は conne であった。過去形は coude, couthe であり、過去分詞は coud, couth であった。今日過去形を could のように書くが、これは 1525 年頃 should, would の模倣によって l が挿入されたからである。

 couth は「知られた」(known) の意味の過去分詞であり、形容詞のように用いられることも多かった。unkouth (=uncouth) couth に否定の接頭辞を添えて出来た形容詞で、unknown の意味から、unfamiliar, strange の意味を持っていた。

 Troilus での使用回数は unkouth 2 回、couth 1 , couthe 1 回である。Confessio Amantis では uncouth 1 回使用されている。

 

unsittinge (=unsuitable)

And were it thing that me thoughte unsittinge,  (307)

To yow nolde I no swiche tales bringe.

もしふさわしくないと思われることだったら、こんな話をお前のところに持ってきたりはしないよ。

 

 sit の現在分詞に否定の接頭辞 un- 付いた形で、unfitting の意味を持つ。Troilus のこの引用文が OED  での初出で、 最後の用例は1585 年のものである。OED  unsitting 1390 年から 1550 年にかけてはよく用いられた語であると述べている。

 Troilus での使用回数は 1 回である。Confessio Amantis には同義の unsittende 1 回用いられている。

 

unwist (=unknown)

‘For playnly hir entente,’ as seyde she,

‘Was for to love him unwist, if she mighte,...’ (1294)

彼女も言うように、明らかに彼女の意図は出来ることなら、人に知られずに彼を愛するということだった。

 

‘Now,’ quod Pandare, ‘er houres twyes twelve,

He shal thee ese, unwist of it him-selve.’     (1400)

「それじゃ、二十四時間以内に、彼がそうと気づかないで、あなたのお気持ちを和らげてくれるようにしてみましょう。」とパンダラスは言った。

 

 unwist wit (=know) の過去分詞 wist (=known) に否定の接頭辞 un- が付いた語で、unknown (知られずに)の意味であるが、unknowing, unaware (気づかない) の意味で用いられることもある。上記1番目の引用文が OED  での unknown の意味での初出で、 2 番目の引用文が unknowing の意味での初出である。unwist は今日では廃語または古語である。

 Troilus での unwist の使用回数は 9 回であり、unknowe (=unknown) 3 回、unknowen 1 回使用されている。Confessio Amantis では unwist は使用されておらず、unknowe (=unknow) 16 回使用されている。

 

wel begoon, wel bigoon (=happy, lucky)

Yif me your hond, for in this world is noon,

If that yow list, a wight so wel begoon.    (294)

さあ握手だ、この世にはお前さえその気になれば、お前ほど幸運な人はいないんだ。

 

And lord, he was glad and wel bigoon!  (597)

確かに、彼はうれしくて、幸運だった。

 

For in this world ther liveth lady noon,

If that ye were untrewe, as god defende!

That so bitraysed were or wo bigoon    (Troilus IV. 1648)

As I,

万一あなたが不誠実なことをなされば、(そんなことがありませんように)、私ほど裏切られて、不運な女性はこの世にいません。

 

Now was this Ector pitous of nature,

And saw that she was sorwfully bigoon,  (Troilus I. 114)

さてこのヘクトルは生まれつき憐れみぶかいひとで、彼女が悲しんでいるのを見て取った。

 

 今日では廃語の bego (=go about, beset, surround) に「環境として影響を与える」(beset as an environment or affecting influence, good or evil) (OED  bego 8) という意味の用法があった。主に過去分詞 begone の形で用いられ、例えば、woe-begone ‘affected by an environment of woe’ の意味となった。もとは ‘him was wo begone’ (=to him woe had closed round) のような構文で用いたが、後には ‘He was wo begone’ のような構文で用いられた。wel bigon happy の意味となる。woebegone (悲しみに沈んだ; みすぼらしい) は今日でも使用されている語である。

 Troilus での使用回数は bigoon 5 回、begoon 1 回である。Confessio Amantis ではbegon 17 回使用されている。

 

weldy (wieldy=vigorous, nimble)

And eek to seen him in his gere him dresse,

So fresh, so yong, so weldy semed he,      (636)

It was an heven up-on him for to see.

それにまた彼が鎧を着ている姿を見れば、溌剌として、若々しく、元気いっぱいだったので、彼を見ることはすばらしかった。

 

 「(剣などを)ふるう」という意味の動詞 wield から出来た wieldy という形容詞は、今日「使いやすい」という意味で用いられる。しかし、この引用文では「力強く機敏な」という少し異なる意味で使用されている。これは OED  wieldy 1 の項で ‘Capable of easily ‘wielding’ one’s body or limbs, or a weapon, etc.; vigorous, active, agile, nimble. Obs. exc. dial.’ と説明している用法で、上記の引用箇所が OED  では初出として引用されている。

 Troilus での使用回数は 1 回で、Confessio Amantis では使用されていない。

 

wikke (=wicked)

Unhappes fallen thikke

Alday for love, and in swich maner cas,

As men ben cruel in hem-self and wikke;  (458)

恋愛のためにいつも不幸が次々と起こる。そのような場合には、人々は残酷になり、悪くなる。

 

 wikke wick 13 世紀から 15 世紀にかけてみられる形。wick wicked と同義語であり、wicked よりも古い形である。wick OE wicca (=wizard 魔法使い) の形容詞用法に由来する。wicca の女性形は wicce(魔女)であり、これが今日の witch となっている。 wicked 13 世紀に wick から作られた語であり、意味の点では同一である。wick は今日方言を除いては廃語となっている。

 Troilus での使用回数は wikke 5 回、wkked (=wicked) 13 回、wikkedly 1 回、wikkednesse 1 回である。同義語である evil に関しては、yvel 10 回使用されている。Confessio Amantis では wicke 9 回、wikke 1 回、wicked 3 回、wikkid 1 回、wickedly 1 回、wickednesse 1 回、wikkidnesse 1 回使用されている。また、evil に関しては、evel 6 回、evele 15 回使用されている。

 

wode (=mad)

And Pandarus, that sey his wode peyne,  (1355)

Wex wel neigh deed for routhe, sooth to seyne,

パンダラスはその狂気のような苦しみを見て、実際、憐れみのためにほとんど死にそうになった。

 

 形容詞の wood (=mad, insane) は今日では古語となっている。wode 13 世紀から 17 世紀にかけてみられる綴り。

 Troilus での使用回数は wode 2 回、wodnesse 1 回である。同義語である mad に関しては、動詞用法も含めると madde 2 回である。 Confessio Amantis では wod 13 回、wode 6 回使用されており、make の過去分詞 made との区別が紛らわしい mad を除外すれば、madd (=mad) 3 回使用されている。

 

 


 

VI. 名詞

 

目次

 

accesse (=fever) / auctor (=author) / avysement (=deliberation) / beheste, biheste (=promise; command) / borwe (=surety) / bote (=benefit, remedy) / brid (=bird) / condicioun (=character) / conning (ability) / cure (=care) / daunger(=disdain, etc.) / disaventure (=misfortune) / disese (=distress, suffering) / drede (=doubt) / eem (=uncle) / elde (=age) / empryse (=enterprise) / fare (=behaviour; fuss; condition) / no fors (=mo matter) / fyn (=end, purpose) / governaunce (=self-contro, etc.) / hele (=health, etc.) / Iupartye (=jeopardy) / kinde (=nature) / leche (=doctor) / lust (=pleasure, desire, wish) / Marte (=Mars) / morwe, morwen (=morning) / for the nones (=for the purpose) / ordenaunce (=arrangement, etc.) / plyt (=condition) / prees (=crowd) / proces (=discourse, argument) / prow (=profit) / prys (=price, praise, prize) / purveyaunce (=foresight, etc.) / pyne (=suffering) / reed (=advice, etc) / routhe (=pity) / savacioun (=salvation) / sawes (=speech) / sikernesse (=security) / skile (=reason, cause) / soun (=sound) / syk (=sigh) / tene (=ill-will, trouble) / thrift (=success, profit) / throwe (=time, while), throwes (=torments) / tweye, tweyne (=two) / wawe (=wave) / weder (=weather) / wele (=joy, happiness) / wente (=path, turn) / wight (=person; time) / wone (=habit) / wreche (=vengeance, torment) / wyke, wouke (=week) / wyse (=way, manner) / wyte (=blame)

 

accesse (=fever)

Thou shalt aryse and see

A charme that was sent right now to thee,

The which can helen thee of thyn accesse,  (1315)

起きあがってたった今届けられたまじないをご覧下さい、あなたの熱病を治すことが出来る物ですよ。

 

 「接近」を意味する access が、「急病」(OED 9: A coming on of illness or disease, especially of sudden illness) や「発熱」(OED 10: An ague fit; ague, intermitting fever) の意味で使用されることがある。チョーサーは Troilus 3 回これらの意味で access を用いている。上記の用例が OED における「発熱」の意味での初出用例である。「発熱」の意味での access の最後の用例は 1751 年のもので、「発熱」の意味は今日では廃義である。

 

auctor (=author)

For as myn auctor seyde, so seye I.  (18)

原作者の語るままに、私は語るのですから。

 

 auctor 14 世紀から 17 世紀にかけてみられる author の綴り。

 auctor はラテン語の augere=increase 増大させる) から形成された行為者を表す名詞であり、英語でも 14 世紀から 17 世紀にかけては auctour などのように -c- を持った綴りが見られる。チョーサーは「生み出す人」、「発明者」、「造物主」、「著者」などの意味で使用している。

今日の author という綴りに見られるように -th- が現れるのは、16 世紀以降であり、1550 年頃 auctour の写本の異形として aucthour が登場した。このように -th- は人為的なものであったが、今日では th 音で発音されるようになっている。今日使用されている -c- のない author 形は 16 世紀に現れた形である。

 auctor Troilus 内での使用回数は 11 回である。

 

 

avysement (=deliberation)

Avysement is good bifore the nede.  (343)

困らないうちによく考えるのがいい。

 

 avysement advisement 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。 advise はフランス語 aviser からの借用語であり、aviser は後期ラテン語の advisare(見る) に由来する。avysement はチョーサーでは「見ること」(viewing)、「熟考」(deliberation) の意味で使用されており、‘take avysememt’で「よく考える」の意味で用いられている。

 Troilus での使用回数は 4 回である。

 

beheste, biheste (=promise; command)

what for hope and Pandarus biheste,   (1329)  (biheste=promise)

His grete wo for-yede he at the leste.

希望やパンダラスの約束もあって、彼は少なくとも大きな悲しみを捨てた。

 

I yow nought requere,

To binde yow to him thorugh no beheste,  (359)  (beheste=command)

Norman Davis の解釈)

ぼくは何も命令で彼と契りを結んでくれと言っているわけではない。

 

 biheste, beheste behest 12 世紀から 16 世紀にかけての形。behest OE 期には「約束」の意味しか持たなかったが、ME 期に hest(命令) の意味をも持つようになった。チョーサーでは「約束」(promise)、「命令」(command) の両方の意味で使用されている。「約束」の意味は今日では廃義で、OED による最後の用例は 1634 年のものである。今日では文語として「命令」、「頼み」の意味で用いられるだけとなっている。

 Troilus での使用回数は biheste 5 回、bihestes 1 回、beheste 2 回である。

 

borwe (=surety)

And, Venus here to borwe,  (1524)

I hope, and thou this purpos holde ferme,

Thy grace she shal fully ther conferme.’

ヴィーナスに誓って言いますが、もし目的を堅持なされば、彼女のあなたに対する好意も確かな物になると思いますよ。

 

 borwe borrow 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。 borwe は元来「保証」(surety)、「担保、人質」(pledge, hostage) の意味で、‘to borwe’ で「〜を担保にして」の意味となる。‘Venus to borwe’は「ヴィーナスを保証として」、すなわち「ヴィーナスに誓って」の意味となる。動詞の場合は何かを借りるときに「担保を与える」の意味から、borrow は「借りる」の意味となる。

 Troilus での名詞 borwe の使用回数は 5 回で、borw 1 回である。

 

bote (=benefit, remedy)

Wo worth that herbe also that dooth no bote !  (345)

薬効なき薬草は禍なるかな。

 

 bote boot(利益) 13 世紀から 16 世紀にかけてみられる形。boot は今日でも古語・詩語として用いられるが、かつては広く用いられた語であった。チョーサーでは「利益」(benefit)、「治療」(remedy)、「救済」(salvation) などの意味で用いられている。

 Troilus での使用回数は bote 12 回、boot 1 回、botelees 1 回である。

brid (=bird)

Under the chambre-wal ther as she lay,

Ful loude sang ayein the mone shene, 

Paraunter, in his briddes wyse, a lay  (921)

Of love,

[夜鳴鳥が] 彼女が臥している部屋の壁の下で、輝く月に向かって声高に、恐らく鳥なりに恋の歌を歌った。

 

 brid bird(鳥) OE 以来の古い形で、15 世紀まで広く使用された。bird は音位転換(metathesis) によって出来た形で、13 世紀から 15 世紀まで北方の形として使用され、15 世紀以降は標準形となった。逆に、brid のほうは 15 世紀以降は方言として使用されるだけとなった。チョーサーでは brid 形のみが使用されていて、bird 形は使用されていない。brid の意味は「鳥」、「若鳥」である。

 Troilus での使用回数は brid 1 回、briddes 2 回である。

 

condicioun (=character)

For trewely I holde it greet deyntee

A kinges sone in armes wel to do, 

And been of good condiciouns ther-to; (166)

王子様が武勇に優れ、その上性格もよければ、ほんとうに、大変結構なことだと思います。

 

 condicio(u)n condition 14 世紀から 16 世紀にかけてみられる形。今日の condition 形は 15 世紀以降使用されるようになった綴りである。condition は今日使用されている意味で用いられていただけでなく、「性質、人柄」という今日では廃義となっている用法が見られる。

 Troilus での condicioun の使用回数は 4 回である。

conning (=knowledge, skill)

And that she sholde han his conning excused, (1079)

That litel was,

自分の貧弱な知識を大目に見ていただきたいと、

 

 conning cunning 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。cunning という綴りは 15 世紀以降のものである。can の元の意味は「知る」であったが、conning はその動名詞であり、「知識」(scientia) が原義であった。cunning は「技術」(skill) という意味では今日でも使用されることがあるが、「知識」(knowledge) という意味は今日では廃義である。

 Troilus での使用回数は 8 回である。

 

cure (=care)

And yet his lyf al lyth now in my cure,  (741)

しかも、彼の命は今わたしの力の中にあるんだわ。

 

 cure はラテン語の cura (=care) が古フランス語経由で英語に入ったもので、今日の「治療」(remedy) の意味の他に、「配慮、世話」(care, attention) という意味をその主要な意味として持っていた。したがって、今日 care が使用されるような場合にも ME では cure が使用された。

 一方、care OE からの語で、ME では「悲しみ、心配」(sorrow, anxiety) がその中心的な意味であった。

 Troilus での cure の使用回数は名詞 cure 14 回、動詞 cure(治療する) 3 回である。

 

daunger(=disdain, etc.)

So lat your daunger sucred ben a lyte,  (384)

だからお高くとまる態度は少し和らげてもらいたい。

 

daunger danger 13 世紀から 16 世紀に見られる綴り。danger は、ラテン語の dominus(主人) の派生語 dominium(支配) に由来する後期ラテン語 dominiarium が、古フランス語経由で英語に入った語である。daunger は元来「主人の支配権」、「人に危害を加えうる力」を意味し、チョーサーの英語では 1「軽蔑」(disdain)、「(女性の) よそよそしさ」(reserve)2「支配、力」(power)3「ためらい」(hesitation) などの意味で使用されている。今日普通となっている「危険」という意味はチョーサーの時代にはまだ一般的とはなっていなかった。

 daunger の形容詞形 daungerous もチョーサーではまだ「危険な」という意味ではなく、「高慢な」(haughty)、「よそよそしい」(aloof) というのがその一般的な意味であった。

 Troilus での daunger の使用回数は 5 回で、そのうち 1 回は Daunger と大文字で書かれて擬人化されている。

 

disaventure (=misfortune)

Allas! I wolde han trusted, doutelees,

That if that I, thurgh my disaventure,  (415)

Had loved other him or Achilles,

Ector, or any mannes creature,

Ye nolde han had no mercy ne mesure

On me, but alwey had me in repreve;

ああ、もしわたしが不幸にも、あの方なり、アキレス様なり、ヘクトル様なり、あるいはどなたかほかの男の方を愛したのだったら、叔父様は同情してくださったり、手加減なさったりすることなく、わたしを叱り続けたことでしょう、きっとそうだと思いますわ。

 

disaventure disadventure の古い形で、「不運」(misfortune) の意味。今日では廃語であり、OED では初出が Troilus の上記引用箇所で、最後の用例が 1638 年のものである。

 Troilus での使用回数は 4 回である。

 

disese (=distress, suffering)

God woot that thy disese dooth me wo.  (1360)

全く、あなたの苦悩でぼくも気が滅入ってしまいますよ。

 

 disese disease 14 世紀から 15 世紀にかけて見られる綴り。disease は語源的に「安楽の欠如」(absence of ease) を意味し、「悩み、苦しみ」(=distress, suffering) が元の意味であった。チョーサーはだいたいこの意味で disese を使用している。今日普通となった「病気」という意味はチョーサーの晩年頃に現れたようで、OED による disease の「病気」という意味の初出用例はチョーサーの同時代人 Gower Confessio Amantis からのものである。

 Troilus での名詞 disese の使用回数は 12 回である。

 

drede (=doubt)

I am oon the fayreste, out of drede, (746)

疑いもなく、わたしくらい美しい女性はいない。

 

 drede dread 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。「恐れ」を意味する dread には 14 世紀から 16 世紀まで「疑い」(doubt) という意味の用法があった。 ‘withouten (any) drede’‘out of drede’で「疑いもなく」(doubtless) という意味で使用された。OED での dread の「疑い」という意味の初出は 1340 年のものであり、最後の用例は 1556 年のものである。

 Troilus での名詞 drede の使用回数は 52 回である。

eem (=uncle)

‘Now, my good eem, for goddes love, I preye,’  (309)

Quod she, ‘com of, and tel me what it is; ...’

彼女は言った「ねえ、叔父様、後生ですから、さあ仰って、何のことだか。」

 

 eme OE からの語で「叔父」(uncle) の意味。Troilus では同義の uncle も使用されているが、uncle はラテン語の avunculus(母方の叔父) が古フランス語経由で英語に入ったものである。

 Troilus での使用回数は eem 15 回、em 1 回、emes 2 回であり、一方、uncle 19 回使用されている。

 

elde (=age)

And elde daunteth daunger at the laste.  (399)

最後には老齢が軽蔑を打ち砕く。

 

Thenk eek, how elde wasteth every houre (393)

In eche of yow a party of beautee;

考えてもらいたいんだ、時がたつにつれて女性一人一人の美しさがいくぶん失われていくっていうことを。

 

 elde eld 12 世紀から 16 世紀にかけてみられる綴り。eld は「老齢」(old age)、「年齢」(age)、「(破壊するものとしての) 時間」(time) を意味する。eld は今日では古語・詩語であり、「年齢」の意味では方言である。

 Troilus での elde の使用回数は 3 回である。

 

empryse (=enterprise)

Men shal reioysen of a greet empryse (1391)

Acheved wel,

大きな仕事がうまく成就されたときには人は喜ぶでしょう。

 

 empryse emprise, emprize 14 世紀から 15 世紀に見られる綴り。emprise はラテン語の prehendere (=take) in- の付いた *imprendere の過去分詞が、古フランス語経由で英語に入ったものであり、「企て」(undertaking)、「冒険」(adventure) の意味で使用された。empryse は今日では古語である。

 Troilus での使用回数は 3 回である。

 

fare (=behaviour; fuss; condition)

Now is this the grettest wonder

That ever I sey!  Lat be this nyce fare !  (1144)

こんなに驚いたことはなかった。こんな馬鹿なまねはよしてもらいたいね。

 

And if thou nilt, wyte al thy-self thy care, 

On me is nought along thyn yvel fare.  (1001)

もし嫌なら、いくら苦しまれても自業自得で、あなたのご不幸はぼくのせいじゃありません。

 

 元来「行くこと、旅」を意味した fare は、チョーサーでは 1「ふるまい」(behaviour)2「大騒ぎ」(fuss)3「状態」(condition)、「繁栄」(prosperity) などの意味で使用されている。 また ‘yvel fare’ で「不運」(misfortune) の意味となる。

 Troilus での名詞 fare の使用回数は 15 回である。

 

no fors (=mo matter)

No fors of that;           (1477)

そんなことは何でもありません。

What fors were it though al the toun behelde?  (378)

たとえ町中の人が見たとしてもたいしたことではないよ。 

 

 fors force () 13 世紀から 16 世紀にかけてみられる綴り。この語がフランス語から英語に入った13 世紀頃から 17 世紀まで、it is no force で「かまわない」(=it does not matter)what force? no force で「かまうものか」(=what matter?) のような用法があった。この用法はフランス語の同様な表現と平行したものであった。

 Skeat Troilus では force という綴りも 2 回使用されているが、それらは「力」という意味の用法の場合で、「かまわない」という意味ではすべて fors という綴りが使用されている。Troilus での使用回数は、no fors 5 回で、what fors 1 回である。

 

fyn (=end, purpose)

For for o fyn is al that ever I telle.  (1596)

すべて一つの結末のために話をしているのですから。

 

 fyn fine(終り) 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。ラテン語の finis(終り) が古フランス語の fin となり、ME に入ったものである。fyn の意味は 1「終り」(end)2「目的」(purpose) である。

 Troilus での名詞 fyn の使用回数は 19 回である。一方、同義の名詞 ende 30 回使用されている。

 

governaunce (=self-contro, etc.)

Ryd forth thy wey, and hold thy governaunce;  (1020)

馬に乗っていくんですよ、そして自制心を保ってください。

 

 governaunce はチョーサーでは 1「支配」(rule)2「管理」(management)3「ふるまい」(behaviour)、「自制心」(self-control) などの意味で使用されている。このうち 3 の「ふるまい」、「自制心」の意味は今日では廃義である。

 Troilus での使用回数は 9 回である。

 

hele (=health, etc.)

For myn estat, and also for his hele.  (707)

私の身分のためにも、またあの方のご健康のためにも。

 

 hele heal 12 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。チョーサーでは 1「健康」(health)2「繁栄」(prosperity)3「救済」(salvation) などの意味で使用されている。

動詞 heal(癒す) の名詞用法は今日では廃語であり、今日ではその派生語 health が用いられている。なお動詞 heal whole と同語源で、make whole を意味する。

Troilus での使用回数は 14 回である。

 

Iupartye (=jeopardy)

For myn estat lyth in Iupartye,  (465)

わたしの立場が危機に瀕しているんですから。

 

For Troye is brought in swich a Iupartye, (Troilus V. 916)

That, it to save, is now no remedye.

トロイは危機に瀕していて、それを救う手だてもない状態ですから。

 

 iupartye jeopardy 14 世紀から 15 世紀にかけて見られる綴り。この語は元来チェスなどのゲームの用語で、古フランス語の ‘iu parti’, 後の ‘ieu parti’ に由来し ‘divided play or game, even game’ を意味し、そこから「不確かさ」(uncertain chance, uncertainty) の意味となった。音韻変化により -parti -pardy となり、17 世紀以降 jeopardy という綴りで書かれるようになった。

 iupartye には「(チェスの)問題」もあり、チョーサーはこの意味でも使用しているが、

1 の引用文は OED 2 の定義で説明している

‘A position in a game, undertaking, etc. in which the chances of winning and losing hang in the balance; an even chance; an undecided state of affairs; uncertainty; chance.’

の意味であり、OED にはこの箇所が引用されている。

 また、第 2 の引用文の iupartye は「危険」の意味で使用されていて、OED 3 の定義で述べている

‘Risk of loss, harm, or death; peril, danger.’

にあたり、OED はこの箇所をこの意味の初出用例として引用している。

 Troilus での使用回数は iupartye 7 回、iupertye 2 回である。Confessio Amantis では jeupartie 6 回使用されている。

 

kinde (=nature)

That every wight, but he be fool of kinde,  (370)

Wol deme it love of freendship in his minde.

生まれつきの馬鹿でなければ、誰でもそれが彼の人柄の友情に厚いせいだと思うだろう。

 

 kind はいろいろな語義において nature と同義であった。今日「自然」という意味では nature という語を用いるところを、本来の英語では kinde で表現していた。nature はラテン語の natura がフランス語経由で英語に入ったもので、OED での初出用例は a1300 年の Cursor Mundi からのものである。of kinde by nature(生まれつき) の意味となる。

 チョーサーでは kinde nature の両方が使用されている。Troilus での kinde の使用回数は 22 回であり、nature の方は 6 回使用されている。

 

leche (=doctor)

And every wight gan waxen for accesse

A leche anoon,            (1579)

すぐに誰もが熱病の医者になった。

 

 leche leech 12 世紀から 16 世紀まで見られる綴り。leech の「医者」(doctor) という意味は今日では古語・詩語となっている。

 Troilus での使用回数は leche 7 回、leches 1 回である。

 

lust (=pleasure, desire, wish)

I shal myn herte ayeins my lust constreyne.  (476)

無理にでもそう言う気持ちになってみますわ。

 

 lust はチョーサーでは 1「喜び」(pleasure)2「欲望」(desire)3「願い」(wish) の意味で用いられている。「欲望」以外の意味では今日では廃義である。

 Troilus での使用回数は 23 回である。

 

Marte (=Mars)

O cruel god, O dispitouse Marte,  (435)

残酷な神よ、無慈悲な軍神よ。

 

 Marte 軍神(あるいは火星) Mars の別綴り。ギリシアの軍神 Ares と同一視されたローマの戦の神 Mars は、対格などの斜格では Martem などのように t が現れたため、チョーサーの作品では Mars という形と Marte という形の両方が用いられている。

 Troilus での使用回数は Mars 8 回、Marte 2 回、Martes 1 回である。Confessio Amantis では Mars 15 回、Mart 4 回、Marte 3 回、Martes 2 回使用されている。

 

morwe, morwen (=morning)

Whan morwe com, (65)

朝が来たとき

 

The morwen com, and neighen gan the tyme  (1555)

Of meel-tyd,

朝が来て、食事の時間が近づいた。

 

 morwe morrow(朝) 14 世紀から 16 世紀にかけての形であり、morwen morn(朝) 13 世紀から 15 世紀にかけての形である。チョーサーは morning 13 世紀から 14 世紀にかけての形である morweninge を他の作品で使用しているが、Troilus では見られない。morwe は「朝」、「翌日」の意味である。

 Troilus では「朝」という語として morwe が最も多く使用されていて、46 回見られる。morwen 2 回使用されている。

 

for the nones (=for the purpose)

the sturdy ook,

On which men hakketh ofte, for the nones,  (1381)

そのために何度も切り刻まれた頑丈な樫の木が、

 

*for þan anes(その一つのことのために) for þe nanes [nones] のように誤って分析されて生まれたフレーズである。文字通りには ‘for or with a view to the one (thing, occasion, etc.)’ の意味。*for þan anes の属格 anes は、元来、与格の ane であったものが、属格 anes によって置き換えられたものである。意味は 1「その目的のために」(OED: for the particular purpose)2「韻文であまり意味のない埋め草」として使用されることがある。

 Troilus での for the nones の使用回数は 4 回である。

 

ordenaunce (=arrangement, etc.)

Right for to speken of an ordenaunce,   (510)

How we the Grekes myghte disavaunce.

まさにギリシャ軍を撃破する計画を話すために。

 

ordenaunce ordinance 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。ordinance はラテン語の ordinare(配置する) の派生語 ordinantia が古フランス語経由で英語に入ったもので、チョーサーでは 1「配置、秩序、神の配剤」(arrangement, order, divine dispensation)2「準備、計画」(preparation, plan)3「命令」(command) などの意味で使用されている。ordinance は今日では「法令」という意味をもち、上記の意味はおおむね廃義となっている。

 Troilus での使用回数は 5 回である。

 

plyt (=condition)

and knew in good plyt was the mone  (74)

To doon viage, and took his wey ful sone 

Un-to his neces paleys ther bi-syde;

[パンダラスは] 月の位置がいいことがわかったので、すぐ近くの姪の館に急いだ。

plyt plight 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。plight はラテン語の plicare=fold 折りたたむ) の過去分詞 plicitum が古フランス語経由で英語に入ったもので、1「折りたたむこと、ひだ」(fold)2「状態、位置」(condition, position) の意味を持つ。チョーサーでは 2「状態、位置」の意味で使用されている。別語であった plight(危険) の影響で、plyt, plite plight とも綴られるようになり、16 世紀には plight の綴りが plite に取って代わった。今日では 1「折りたたむこと、ひだ」の意味では plait(おさげ、ひだ) と綴られている。

 Troilus での plyt の使用回数は 10 回である。

 

prees (=crowd)

I wol have no wyte,

To bringe in prees that mighte doon him harm (1649)

Or him disesen,

私は大勢の人を連れ込んで彼の健康を害したとか、お気持ちを乱したとかいって責められたくはない。

 

prees press 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。press には「混み合っていること、大勢」(crowd) の意味があり、Troilus ではこの意味で使用されている。この意味は今日では古語となっている。

Troilus での名詞としての使用回数は prees 4 回、presse 1 回である。

 

proces (=discourse, argument)

What sholde I lenger proces of it make?  (292)

どうしてこれ以上議論する必要があるだろうか。

 

 proces process 14 世紀から 17 世紀にかけて見られる綴り。proces Troilus では他の意味のほか、「話、議論」(OED: 4. a. A narration, narrative; relation, story, tale; a discourse or treatise; an argument or discussion) の意味で使用されている。この語義は今日では廃義となっている。

 Troilus での proces の使用回数は 12 回である。

 

prow (=profit)

Eek other thing that toucheth not to here,

He wol me telle, I woot it wel right now,

That secret is, and for the tounes prow.   (1664)

私は今よく分かっているんですが、彼女には関係のない町の利益になる秘密事項も、彼は私に語ってくれるでしょう。

 

 prow は「利益」(profit) の意味。この語は今日では廃語で、OED による最後の用例は c1557 年のものである。

 Troilus での使用回数は 3 回である。

 

prys (=price, praise, prize)

After compleynt, him gonnen they to preyse,

As folk don yet, whan som wight hath bigonne

To preyse a man, and up with prys him reyse  (1585)

A thousand fold yet hyer than the sonne: --

誰か一人がある人を褒め始めると皆がそうするように、気の毒がった後、皆は彼をほめ始め、賞賛で太陽よりも千倍も高く褒めそやした。

 

 prys price 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。price はラテン語の pretium(価値、価格) が古フランス語 pris 経由で英語に入ったものである。チョーサーの英語では prys は、1「価格」(price)2「賞賛、価値、名誉、名声」(praise)3「賞」(prize) のすべての意味で使用されている。 pris i が長音であることを示すために、語尾に e を添えて prise と書かれるようになり、その後 s が有声音でなく、無声音であることを示すために price と書かれるようになった。

 prys は、最初、今日の price, praise, prize の三者の意味をもった語であった。しかし 15 世紀には同語源語 preisen から praise という語が作られて、「賞賛、価値」の意味を担うようになると、prys の方はこの「賞賛、価値」という意味を捨てた。さらに 16 世紀に prys の異形である prize が「賞」という意味を担うようになると、prys は今度はこの「賞」という意味も捨てることになり、結局、prys すなわち price には「価格」という意味だけが残った。

 Troilus での prys の使用回数は 6 回である。

 

purveyaunce (=foresight, etc.)

O god, that at thy disposicioun

Ledest the fyn by Iuste purveyaunce,  (527)

正しい摂理によって人間の最期を御心のままに導き給う神様、

 

 purveyaunce purveyance 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。 purveyaunce はラテン語の providentia(先見の明、摂理) に由来する語で、その点、同じく providentia に由来する同系語 providence と意味が類似している。

 purveyaunce は今日では「調達」という意味であるが、チョーサーでは 1「先見の明、摂理」(foresight, providence)2「調達、準備、備品」(preparation, provision)3「分別」(prudence) などの意味で使用されている。

 Troilus での使用回数は 10 回である。

 

pyne (=suffering)

I have so greet a pyne  (1165)

For love, that every other day I faste

ぼくは大きな恋の苦しみを抱えているので、一日おきに断食をしているんだ。

 

pyne pine 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。pine は今日では動詞として「思い焦がれる、憔悴する」という意味で用いられる語であるが、語源的にはラテン語の poena(罰) にさかのぼる語である。チョーサーでは「苦しみ、苦痛」(suffering, pain) という意味で用いられている。同じくラテン語 poena(罰) に由来し、pine よりもすこし遅れて英語に入った同語源の語 pain も、チョーサーでは peyne という綴りで 1「苦しみ、苦痛」(suffering, pain)2「罰」(punishment)3「努力」(endeavour) などの意味で使用されている。

Troilus での使用回数は pyne 9 回であり、一方、peyne 58 回、peynes 12 回である。

 

reed (=advice, etc)

And to Pandarus reed gan al assente, (1539)

パンダラスの忠告に全員が同意した。

 

 reed rede 13 世紀から 17 世紀にかけて見られる綴り。チョーサーでは reed は、1「忠告」(advice)2「計画、決定」(plan, decision)3「助け」(help) などの意味で使用されている。この rede という語は元来 read(読む) と同一語であったもので、意味によって形態の分化が起こったものである。

 rede(忠告) OE および ME 初期には頻繁に用いられた語であった。そして 17 世紀初頭まで文語においては使用され続けていた。その後すたれたが、19 世紀に古語・詩語として復活した。

 今日「忠告」を意味する advice は、チョーサーでは avys(意見、忠告) という形で現れる。名詞 avys Troilus 3 回使用されている。reed の使用回数は 13 回である。

 

 

routhe (=pity)

Lord! Have routhe up-on my peyne,  (523)

神様、私の苦しみを憐れんでください。

 

 routhe ruth 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。チョーサーでは routhe は、1「あわれみ、同情」(pity)2「悲しみ」(grief)3「残念なこと」(a pity) などの意味で使用されている。

 Troilus での routhe の使用回数は 29 回である。一方、pitee (=pity あわれみ) 12 回使用されている。

 

savacioun (=salvation)

And god so wis be my savacioun,  (381)

神に誓って(= 神が私を救済くださいますように)

 

 savacioun salvation(救済) 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。Troilus ではこの綴りが用いられている。

 Troilus での使用回数は 5 回である。

 

sawes (=speech)

If that they ferde in love as men don here,

As thus, in open doing or in chere,

In visitinge, in forme, or seyde hire sawes;  (41)

もしかりに彼らがこの国の人たちと同じ恋の仕方をすれば、たとえば表だった行動や表情、訪問、形式、あるいは言葉遣いにおいて。

 

 今日「ことわざ、格言」を意味する saw は、チョーサーではこれらの意味の他に、「ことば、発言」(speech, saying) という意味で使用されている。この saw say(言う) と同系語である。

 Troilus での使用回数は sawes 2 回、sawe 1 回である。

 

sikernesse (=security)

Sholde I now love, and putte in Iupartye

My sikernesse, and thrallen libertee?  (773)

今恋をして、確かな境遇を危うくし、自由を拘束していいものかしら。

 

 sikernesse (=sickerness) はラテン語の securus (=secure) に由来する語で、「安全、確かな状態」(security) の意味。

 Troilus では sikernesse 7 回使用されている。

 

skile (=reason, cause)

Lo, this request is not but skile, y-wis,  (365)

この頼みは確かに理にかなったことだ。

 

 skile skill 12 世紀から 15 世紀にかけて見られる綴り。skill の「技術」という意味が一般的となったのは 16 世紀以降のようで、古くは 1「理性、道理、理にかなったこと」(reason)2「理由、原因」(reason, cause) というのがその基本的な意味であり、チョーサーもこれらの意味で skile を用いている。

 Troilus での skile の使用回数は 2 回である。一方、reson (=reason) 10 回、resoun 2 回使用されている。

 

soun (=sound)

And who may stoppen every wikked tonge,

Or soun of belles whyl that they be ronge?   (805)

悪口や鳴り響く鐘の音を止められる人がいるかしら。

 soun sound(音) 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。この語はラテン語の sonus=sound ) に由来し、古フランス語の son Anglo-French soun 経由で英語に入ったもので、もともと語尾の d は存在しなかった。語尾の余分な剰音 d が確立したのは 16 世紀においてであった。勿論、チョーサーの時代には語尾の d はなく、チョーサーでは soun 形が用いられている。

 Troilus での名詞 soun の使用回数は 4 回である。

 

syk (=sigh)

And with a syk she seyde him at the laste,  (145)

とうとうため息をつきながら彼女は言った。

 

 syk sigh(ため息) 13 世紀、14 世紀に見られた別形。

 Troilus では名詞 syk 6 回、sykes 11 回使用されている。動詞に関しては、syke 15 回、syked 3 回、そして sighed 1 回使用されている。

 

tene (=ill-will, trouble)

So shoop it, that hym fil that day a tene (61)

In love,

その日は恋の苦悩が彼を襲うことになった。

 

 tene teen 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。 teen 1「危害」(harm)2「いらだち、怒り、悪意」(irritation, anger, ill-will)3「苦悩、悲しみ」(suffering, trouble, grief) などの意味を持っていたが、チョーサーでは 2 3 の意味で用いられている。1 の語義は今日では廃義となっており、2 の語義は今日ではスコットランド方言であり、3 の語義は古語となっている。

 Troilus での teen の使用回数は 7 回である。

 

thrift (=success, profit)

‘Good thrift have ye,’ quod Eleyne the quene.  (1687)

「ご成功を」と王妃ヘレンは言った。

 

 thrift thrive(繁栄する) の名詞形で、チョーサーでは、1「繁栄、成功、運」(prosperity, success, fortune)2「利益」(profit) の意味で使用されている。thrift は今日では「倹約」を意味するが、この意味は 16 世紀からのもので、OED による初出は 1553 年のものである。

 Troilus での名詞 thrift の使用回数は 8 回である。

 

throwe (=time, while), throwes (=torments)

Now lat us stinte of Troilus a throwe, (687)

さてトロイラスのことはしばらく置いておきましょう。

 

So were his throwes sharpe and wonder stronge. (Troilus V. 1201)

彼の苦悶は鋭く、強烈であった。

 

 throw 16 世紀まで使用された語で、「(短い) 時間」(space of time, while) または「機会」(occasion) の意味で、many a throwe では「しばしば」(often) という意味になる。

 上記 2 番目の用例にある throwes は、実は、「時間」という意味の throw とは別語であって、今日 throe(激痛、苦悶) と綴られている語である。この throwes Troilus 2 回使用されている。

 throwe(時間) Troilus での使用回数は 10 回である。なお、Troilus で同じ「時間」の意味の名詞 whyle 18 回、while 1 回使用されている。

 

 

tweye, tweyne (=two)

the king hath sones tweye,  (170)

王には二人の息子がいる。

 

With that com he and al his folk anoon

An esy pas rydinge, in routes tweyne,  (620)

するとすぐに彼と仲間たちが二隊に分かれてゆっくりと馬を進めてやって来た。

 

god save hem bothe two ! (163)

神様がお二人をお守り下さいますように。

 

 Troilus では「二」(two) を表すのに 3 種類の語が使用されている。それらは two, tweye, tweyne である。tweye は、two の別形 tway 13 世紀から 15 世紀にかけて見られる綴りで、tweyne は、やはり two の別形 twain 13 世紀から 15 世紀にかけて見られる綴りであった。これらの使用頻度を表にすると次のようになる。

 

Troilusにおける「二」を表す語の使用回数

two

tweye

tweyne

58

24

16

 

wawe (=wave)

Out of these blake wawes for to sayle,  (1)

O wind, O wind, the weder ginneth clere;

この暗い波を抜けて航海するためなのか、風よ、風よ、天候は晴れ始めた。

 

 英語では「波」を表す語は本来 waw という語であった。しかし、16 世紀に現れた wave という語によって waw は取って代わられ、waw は消滅した。当然、チョーサーの時代には wave という語は存在せず、Troilus では wawe が使用されている。

 Troilus での使用回数は wawes 2 回である。

 

weder (=weather)

O wind, O wind, the weder ginneth clere; (2)

風よ、風よ、天候は晴れ始めた。

 

 weder weather(天候;荒天) 12 世紀から 15 世紀にかけて見られる綴り。この weder 形が OE から続いていた本来の形であった。15 世紀にスペリングの上にも d の代わりに th が現れ、16 世紀末までには th が一般的となった。しかし、スコットランドやイングランド北西部の方言では今も d 音が残っている。当然、チョーサーの時代には th を用いた形は存在せず、チョーサーでは weder が用いられている。

 Troilus での使用回数は 3 回である。

 

wele (=joy, happiness)

No wele is worth, that may no sorwe dryen.  (866)

悲しみに耐えられない人は幸福に値しない。

 

 wele weal 12 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。チョーサーでは、1「喜び」(joy)2「幸福、繁栄、成功」(happiness, prosperity, success) などの意味で使用されている。weal は今日ではその使用は文語に限られる。

 Troilus での使用回数は 8 回である。

 

wente (=path, turn)

for which in wo to bedde he wente,

And made, er it was day, ful many a wente. (63)

そのため悲しみに包まれて就寝し、夜が明けるまで幾度となく寝返りを打った。

 

 went は、go の過去形として用いられている went の原型 wend(行く) と関連のある語で、チョーサーでは、1「道」(path, way)2「回転」(turn) の意味で用いられている。

 Troilus での使用回数は 4 回である。

 

wight (=person; time)

This knoweth many a wys and worthy wight.  (180)

このことは賢明で優れた多くの人が知っている。

 

 wight 1「生き物」(creature)、「人間」(person)、「超自然的存在」(supernatural beings)2「時間」(time)、「距離」(distance) の意味を持つ語で、チョーサーでもこれらの意味で使用されている。チョーサーでは特に「人」(person) の意味での使用が多い。

wight OE では wiht という形であったが、この語はドイツ語の Wicht(こびと) と同語源である。また anything の意味の aught は、OE では awiht であったが、これは wiht (=wight) から作られた合成語である。wiht には「物」(thing) の意味もあったからである。また、否定辞の not はもとは nought の弱形であったが、この語は OE no-wiht に由来する。wight(生き物, ; 超自然的存在) は今日では古語となっている。

 Troilus での使用回数は wight 119 回で、wightes 3 回である。

 

Troilus で「人」を表す語の使用回数

wight

man

men

creature

persone

122

94

122

25

5

 

Troilus で「みんな」(everyone, everybody)、を表す表現の使用回数

every wight

everchoon

every man

every creatue

30

10

3

5

(注) everchooneverichon, everichoneの綴りを含む

 

Troilus で「誰も〜ない」(no one, nobody)、を表す表現の使用回数

no wight

no man

no creature

29

14

1

 

wone (=habit)

Which alwey for to do wel is his wone, (318)

絶えず善行を施すことが習慣になっている、

 

 wone は「習慣」(habit, custom) という意味で、wontするのを常とした) と同系語である。

 Troilus での使用回数は 2 回である。

 

wreche (=vengeance, torment)

Our wreche is this, our owene wo to drinke. (784)

私たち女性に出来る復讐といえば、自分の悲しみを飲み干してしまうことなんだわ。

 

 wreche 16 世紀まで使用された語で、1「復讐、罰」(vengeance, punishment)2「苦しみ、苦痛」(torment) の意味で使用されている。この名詞は今日廃語であるが、動詞の wreak(復讐する) は今日でも使用されている。wreche wreak の他、wrack(破滅)wreck(難破、難破船)wretch(哀れな人、[原義] 追放された人) などの語とも同系語である。

 Troilus での使用回数は 3 回である。

 

wyke, wouke (=week)

I shal no-more come here this wyke,  (430)

今週はもうここに来ないことにするよ。

 

For dredeles, with-inne a wouke or two,  (Troilus IV. 1278)

I shal ben here;

必ず一、二週間のうちにここに戻って参ります。

 

 wyke week(週) 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる形で、wouke 13 世紀から 15 世紀にかけて見られる形であった。week という語は OE では wice であったが、語頭の w 音の影響で次の母音がいろいろ変化した形が生まれた。Skeat Troilus では wyke wouke とが用いられている。今日の week という綴りは 16 世紀以降のものである。

 Troilus での使用回数は wyke 2 回、wouke 2 回、woukes 1 回である。

 

wyse (=way, manner)

And sette him doun, and wroot right in this wyse.  (1064)

[トロイラスは] 腰を下ろして、このように書いた。

 

 wise(方法) を用いた in like wise (同じように) のような表現は、今日では古語となっているが、このような表現は Troilus では多用されていて、全部で 54 回見られる。そのうちの多くは行末の脚韻語となっている。wise はドイツ語の Weise(方法) と同語源で、英語の in this wise はドイツ語の auf diese Weise(この仕方で、このように) に対応する。

in this wyse のように前に前置詞が付く場合と、any wyse のように前置詞が付かない場合とがあるが、大部分は前置詞が付いた形である。Troilus では前置詞が付かないものは 3 回と少なく、残りの 51 回では前置詞が用いられている。前置詞の大部分の 49 回は in であり、2 回では on が使用されている。

 

(a) 前置詞 in が付いたもの

in a besy wyse / in a ful secree wyse / in a grisly wyse / in a sobre wyse / in a wonder cruel wyse / in al hir beste wyse / in al hir goodly softe wyse / in any wyse / in curteys wyse / in diverse wyse / in every humble wyse / in ful humble wyse / in good wyse (2 ) / in his beste wyse (2 ) / in his briddes wyse / in no sodeyn wyse / in no wyse / in so discreet a wyse / in so short a wyse / in so unkouth wyse / in som wyse (2 ) / in sondry wyse (3 ) / in swich a wyse / in swich wyse / in the same wyse / in the wyse / in this wyse (13 ) / in thrifty wyse / in what maner wyse / in what wyse so yow leste / in wyse of curteisye / in that selve wyse

(b) 前置詞 on が付いたもの

on any wyse / on this same wyse

(c) 前置詞が付かないもの

non other wyse / ofte wyse / any wyse

 

in swich a wyse in swich wyse のように、一方では不定冠詞 a があるのに、他方ではないというような場合があることが分かる。

wyte (=blame)

for I wol have no wyte,   (1648)

To bringe in prees that mighte doon him harm

私は大勢の人を連れ込んで、彼の体に障ることをしたといって責められたくないんです。

 

 wite または wyte は、1「罰」(punishment)2「非難」(blame) の意味を持つ語で、今日では 1 の意味では古語であり、2 の意味ではスコットランド方言となっている。チョーサーでは 2 の「非難」の意味で使用されている。

 Troilus での名詞 wyte の使用回数は 2 回である。

 

 

 


VII. 動詞

 

目次

 

agaste (=frighten) / agoon, ago (=gone; ago) / arede (=guess; explain) / astonied (=stunned, astonished) / avyse (=look at; consider) / axe (=ask) / bidde (=pray) / biwreye (=bewray, reveal) / blende (=blind, deceive) / brenne (=burn) / breste (=break, burst) / caste (=calculate, consider) / chese (=choose) / clepe (=call, name) / com of (=come on, hurry up) / defende (=forbid) / devyse (=describe, contrive, etc.) / disesen (=disturb) / do wey (=cease) / do (=make) / dress (=prepare, etc.) / dryen (=endure, suffer) / dwelle (=delay, etc.) / fallen (=happen, etc.) / flete (=float, drift) / fonde (=try) / fyne (=stop, finish) / ginne, gan (=begin, did) / hente (=seize) / highte (=promise, be called) / lere (=teach; learn) / lese (=lose) / lette (=prevent) / leve (=allow, grant) / leve (=believe) / like (=please) / list, lest (=please) / longe (=befit, belong; desire) / mete (=dream) / mote, moot (=must) / mowe (=be able) / 否定辞 ne と動詞 (助動詞)との結合形 / pleyne (=complain) / quod (=said) / recche (=care) / rede (=advise, guide) / saluwe (=salute) / say (=saw) / seche (=seek) / shape (=destine, etc.) / shenden (=disgrace, ruin, etc.) / spede (=succeed, cause to succeed) / sterve (=die) / stinte (=stop) / syke (=sigh) / thar (=it is necessary) / thenke (=think) / think (=seem; think) / 分離を表す接頭辞 to- / triste (=trust) / trowe (=believe) / wene (=think) / wex (=grow) / wite (=know) / wrye (=cover; =go) / wyte (=blame) / yeve, yif (=give) / 接頭辞 y-

 

agaste (=frighten)

And ay gan love hir lasse for to agaste901)

Than it dide erst,

次第に恋というものが最初ほど彼女を怖がらせることはなくなっていった。

 

 agaste aghast 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。16 世紀以降は aghast と綴られるようになり、今日では過去分詞 aghast(仰天して)が形容詞としてのみ用いられている。元は「おびえさせる」(frighten) の意味の動詞であった。チョーサーではこの意味で使用されている。

 Troilus での使用回数は agaste 1 回、agast 6 回である。

 

agoon, ago (=gone; ago)

For of this world the feith is al agoon !410)

この世から誠実というものがすっかりなくなってしまった。

 

 ago(〜前に)はもともと ago という動詞の過去分詞であった。動詞 ago go という動詞に、away を意味した接頭辞 a- が付いた複合語であり、1「(時間が)過ぎ去る」(pass away)2「去る」(go away) を意味した。この動詞は 1300 年以降はあまり使用されなくなり、一般には過去分詞の ago, agone のみが使用されるだけとなった。agone=gone by) の短縮形 ago 14 世紀末に方言に現れ、そして Caxton 以降 ago の形が標準形となった。agone の方は方言に残り、今日でも古語・詩語として使用される。

 チョーサーでは agoon または ago は、‘gone; gone away; past; ago’ などの意味で使用されている。Troilus での使用回数は agoon 7 回、ago 2 回である。

 

arede (=guess; explain)

My wit is for to arede it al to lene;132)

それを説明するにはわたしの頭では貧弱すぎる。

 arede aread の別綴り。接頭辞 a-=out) read との合成語で、チョーサーでは 1「推測する」(guess)2「解釈する、説明する」(interpret, explain) の意味で使用されている。

 Troilus での使用回数は 4 回である。

 

astonied (=stunned, astonished)

For so astonied am I that I deye!427)

わたしは気が顛倒して息も絶え絶えですから。

 

 今日では astonied は「茫然として」という意味の古語である。ラテン語の *extonare (ex out + tonare to thunder) に由来する古フランス語 estoner(現代フランス語 étonner 驚かせる) astony(茫然とさせる)として英語に入ったもの。別形に astone(茫然とさせる、ひどく驚かす)という動詞がある。16 世紀には astonish というさらに別形が生じた。チョーサーの時代には astonish はまだ存在していなかった。

 Troilus での astonied の使用回数は 2 回である。

 

avyse (=look at; consider)

Lord!  So faste ye me avyse !276)

まあ、そんなに私をじっとご覧になって。

 

And in-to a closet, for to avyse hir bettre,  (1215)

She wente allone,

よく考えたいものだと、彼女は一人自室に入った。

 

avyse advise 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。avise=avyse) は、後期ラテン語 advisare に由来するフランス語 aviser からの借用語である。15-16 世紀に中期フランス語にあったスペリング adviser(気づく、考察する)の影響で advise という形になった。

チョーサーにおける avyse の意味は、「見る」(look at)、「考察する」(consider) である。再帰用法で「考察する」(consider) という意味に用いられる場合もある。過去分詞の avysed で「考えて」(having considered)、「決心して」(determined) などの意味で用いられたり、「用心して」(wary)、「気づいて」(aware) など形容詞に近い意味でも用いられている。

 どういうわけか、今日の「忠告する」という意味ではチョーサーは avyse を用いていないようである。「忠告する」という意味の語としてチョーサーは rede を用いている。

 Troilus での使用回数は avyse 6 回、avysed 7 回、aviseth 1 回、avyseth 1 回である。

 

axe (=ask)

Til she gan axen him how Ector ferde,153)

やがてクリセイデは彼にヘクトルの近況を尋ねた。

 

 axe ask 14 世紀から 16 世紀にかけて見られた別形。axe 1600 年頃までは文語の標準形であったもので、今日でも中部、南部の方言では使用されている。標準語では ask によって取って代わられたが、この ask は本来北部の方言であった。

 Troilus では axe ask の両方が使用されている。 axe 12 回(axe 2 回、axen 6 回、axeth 2 回、axed 2 回)使用され、一方、ask 9 回(aske 2 回、asked 4 回、asken 2 回、asketh 1 回)使用されている。

 Confessio Amantis では、ask 8 回(aske 1 回、asken 1 回、asketh 5 回、askinge 1 回)使用され、axe 146 回(axe 39 回、axeth 75 回、axen 8 回、axed 10 回、axede 2 回、axinge 9 回、axinges 2 回)使用されている。

 

Troilus Confessio Amantis におけるaskaxeの使用回数

 

  Troilus  

Confessio Amantis

ask およびその変化形

943%)

85%)

axe およびその変化形

1257%)

14695%)

 

 上の表から Confessio Amantis では ask 形が少なく、axe 形が圧倒的に多用されていることが分かる。これはガワーが南部の英語を使用していたためだと思われる。

 

bidde (=pray)

But swich a nede was to preye him thenne,

As for to bidde a wood man for to renne.1554)

しかしそのとき彼にそのようなことを依頼する必要がなかったのは、狂人に走れと命じる必要がないのと同じだった。

 

 bidde bede は、bid 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。bid はチョーサーでは、1「頼む」(beg, ask)2「命令する」(command)、「言う」(tell)3「願う」(wish, desire) などの意味で使用されている。

bid は実は元々別の 2 語、OE beodan=command, announce) OE biddan=beg, pray) が、混同されて 1 語となったものである。 beodan ME における通常の形は bede(n) で、biddan ME における通常の形は bidde(n) であった。1400-1500 年以後にはこの混同は完全なものとなって、両者の区別が付かなくなった。bode(〜の前兆となる)は同系語である。

 Troilus での使用回数は、bid 2 回、bidde 10 回、biddest 1 回、biddeth 3 回、bede 2 回、bad 11 回、boden 1 回である。

 

biwreye (=bewray, reveal)

It is oon of the thinges that furthereth most,

A man to have a leyser for to preye,

And siker place his wo for to biwreye;1370)

男が求愛の機会と、悲しみを打ち明ける安全な場所を持つことが、恋愛を一番進めるものの一つである。

 

 biwreye bewray=reveal 暴露する、うっかり漏らす) 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。bewray は今日では古語となっている。

 Troilus での使用回数 2 回である。

 

blende (=blind, deceive)

And how that he Deiphebus gan to blende;1496)

彼がデーイフォバスを欺いたことを、

 

 blende は「盲目にする、〜の目をくらます」(make blind)、「欺く」という意味。blende が用いられたのは 1600 年頃までで、やがて blind(盲目にする)に取って代わられた。

 Troilus での使用回数は、blende 6 回、blent 2 回、blente 1 回である。

 

brenne (=burn)

So through this lettre, which that she him sente,

Encresen gan desyr, of which he brente.  (1337)

クリセイデが送った手紙によって欲望は増大し、それによって彼は身を焼く思いがした。

 

 brenne burn(燃える、焼く)の 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。burn OE の他動詞 bærnan(燃やす)と OE の自動詞 beornan(燃える)という二つの別の動詞が一つになったものである。 ME 後期から 16 世紀までは音位転換形の brenne が最も一般的な形であった。16 世紀以降今日の burn 形が優勢となった。チョーサーでは burn 形は使用されていない。

 Troilus での使用回数は、brenne 3 回、 brennen 1 回、brenneth 1 回、brende 7 回、brente 1 回、brent 1 回、y-brend 2 回、brenningly 1 回である。

 

breste (=break, burst)

And she to-laugh, it thoughte hir herte breste.1108)

彼女は笑い崩れて心臓が裂けるかと思われた。

 

 breste burst 14 世紀、15 世紀に見られる形。チョーサーでは breste ‘break, burst’ の意味で使用されている。

 burst は音位転換が交互した語であり、西ゲルマン語での形は brest- であったが、OE では berstan となり、ME では音位転換形の bresten が主流で、16 世紀末以降は burst 形が優勢となった。ME 期にも burste 形は存在したが、チョーサーでは使用されていない。

 Troilus での使用回数は、breste 9 回、 bresten 1 回、 to-breste 2 回、out-breste 2 回、brostenbroken) 1 回、brast 2 回、braste 2 回である。一方、 break という語の方は、 breke 5 回、breken 2 回、breketh 1 回使用されている。

 

 

Troilus でのbrestebrekeの使用回数

breste

19

breke

8

 

caste (=calculate, consider)

And as they casten what was best to done,1485)

彼らが最善の方策を考えているとき、

 

 チョーサーでは cast は今日と同じ「投げる」(throw) という意味のほか、1「計算する」(calculate, reckon)2「考える、決心する」(consider, contrive, decide) という意味で使用されることが多い。

 Troilus での使用回数は、caste 32 回、casten 4 回、cast 6 回である。

 

chese (=choose)

Of harmes two, the lesse is for to chese;470)

二つの不幸のうち小さい方を選ぶべきだ。

 

chese choose(選ぶ)の 12 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。現在形としての choose 16 世紀頃以降の形である。チョーサーでは現在形としては chese, cheese が使用されている。

 Troilus での使用回数は、chese 4 回、chees 1 回である。

 

clepe (=call, name)

The nightes fo, al this clepe I the sonne,905)

夜の敵、このような名でわたしは太陽を呼ぶ。

 

 clepe は「呼ぶ」(call)、「名づける」(name) の意味の語で、今日では古語である。

 Troilus での使用回数は、clepe 9 回、cleped 2 回、clepeth 2 回、y-cleped 2 回、clepinge 1 回である。一方、ほぼ同義の call に関しては、calle 15 回、callen 2 回、called 8 回、calling 1 回使用されている。

 Confessio Amantis では、clepe 22 回、 cleped 110 回、 clepen 13 回、clepeth 8 回使用されている。一方、call に関しては、calle 39 回、calleth 7 回使用されている。

 

Troilus Confessio Amantis でのclepecalleの使用回数

 

Troilus

Confessio Amantis

clepe

1638%)

15377%)

calle

2662%)

46 23%)

 

com of (=come on, hurry up)

come of now, if ye conne;1742)

さあさあ急ぐんだ、もしできるなら。

 

 come of ‘come off’ と同じで、これは今日の ‘come on’(さあ , 早く早く)と同じ意味である。OED come 65. come off の項に ‘Formerly in imperative as a call of encouragement to action: come! come along! come on! Obs.と説明されている用法である。この ‘come off’ Skeat Troilus ではすべて ‘come of’ と綴られている。

 Troilus でのこの ‘come off’ の使用回数は 3 回である。

 

defende (=forbid)

I conjure and heighly yow defende,...1733)

Slee nought this man,

頼むから、あの方のお命をうばうなんてことはしないでおくれ。

 

 defend には今日と同じ「防衛する」、「守る」などの意味の他に、今日では古語となっている「禁ずる」(forbid) の意味の用法があった。

 Troilus での使用回数は、defende 5 回、defendeth 1 回である。

 

devyse (=describe, contrive, etc.)

And gonne a while of this and that devyse.1599)

[各人は] しばらくあれやこれやについて語った。

 

 今日「案出する」を意味する devise は、チョーサーでは様々な意味において用いられている。 1「ことばで述べる」(describe)、「語る」(relate)2「想像する」(imagine)、「考える」(consider)3「計画する」(plan)、「案出する」(contrive) などの意味での使用が見られる。

 Troilus での devyse の使用回数は 38 回である。

 

disese(n) (=disturb)

for I wol have no wyte,

To bringe in prees that mighte doon him harm

Or him disesen,                     1650)

大勢の方をお連れして、お体に障ったとか、ご不快にしたとかいって責められたくないからです。

 

disese disease 14 世紀、15 世紀に見られる綴り。チョーサーでは動詞 disese は、「不快にする」(make uncomfortable)、「〜の気持ちを乱す」(disturb) の意味で用いられている。これらの意味は今日では廃義である。

Troilus での動詞 disese(n) の使用回数は、disese 2 回、disesen 2 回、disesed 2 回である。

 

do (=make)

And we shal speke of thee som-what, I trowe,

Whan Thou art goon, to do thyne eres glowe!1022)

お姿が見えなくなったら、なにかあなたのお噂をして、お耳を熱くさせますよ。

 

 do には今は廃義になっている用法で、make cause に相当する「〜させる」という使役の用法があった。OED do 2223 の項に説明されている用法である。

 He did them come.=He made them come. 彼は彼らを来させた) のように to のない不定詞が続くこともでき、また to のある不定詞が来て、He did them to come. のように言うこともできた。 do somebody to wit [know, understand] では「知らせる」( cause somebody to know) の意味となった。また、受動態の不定詞が続いて、do himto) be slain(彼を死なせる)という表現もあった。この場合も、to を用いても、用いなくても、どちらでもよかった。

 また、不定詞の意味上の主語になる目的語を省略する言い方もあった。do bind him= make somebody bind him 彼を縛らせる) のような表現である。この場合、不定詞には通例、自らの目的語を持った他動詞が用いられた。フランス語の faire lier やドイツ語の binden lassen に相当する表現である。

 

do wey (=cease)

Do wey your book, rys up, and lat us daunce,111)

本は片付けて、立ち上がって、踊ろうじゃないか。

 

Do wey, do wey, they woot no-thing of this!893)

よして頂戴、あの人たちは恋愛というものが分っていないんだわ。

 

 do には「置く」(=put) という意味があり、また wey=way) away の意味で、do wey ‘put awy, leave off’ などの意味の熟語となる。

 Troilus での do wey の使用回数は 4 回である。

 

dress (=prepare, etc.)

And gan to calle, and dresse him up to ryse,71)

[パンダラスは] 声を上げて、起きる用意をした。

 

 dress はチョーサーでは今日よりも様々な意味で使用されている。1(他動詞、再帰動詞、自動詞として)「準備をする」(prepare) の意味で使用されることが一番多い。また、2 dress him up で「起きあがる」(raise oneself up) という意味になった。3「導く」(direct)、(再帰動詞、自動詞で)「行く」(go) という意味になることもあった。

 Troilus での使用回数は、dresse 5 回、dressede 1 回である。

 

dryen (=endure, suffer)

No wele is worth, that may no sorwe dryen.866)

悲しみに耐え得ない人は幸福に値しない。

 

 drye dree 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。dree は「我慢する、こうむる」(endure, suffer) の意味で使用される。今日ではスコットランド方言または古語である。

 Troilus での使用回数は、drye 4 回、dryen 2 回、dryeth 1 回である。

dwelle (=delay, etc.)

‘... What sholde I lenger,’ quod he, ‘do yow dwelle?’1614)

「長時間お引きとめはしません」と彼は言った。

 

 dwell は今日一般的な意味である「住む」、「とどまる」などの他に、チョーサーでは「ぐずぐずする」(delay)、「存続する」(persist) の意味で使用されることがあった。

 Troilus での使用回数は、dwelle 32 回、dwellen 2 回、dwelleth 2 回、dwelled 1 回である。

 

fallen (=happen, etc.)

And for the harm that mighte eek fallen more,

She gan to rewe and dredde hir wonder sore;  (455)

このうえさらに危害が起こるかも知れないと思い、彼女は気の毒に思い、ひどく心配し始めた。

 

 fall は今日も用いられる意味の他、チョーサーでは「起こる」(befall, happen) の意味でも用いられている。

 Troilus での fall の使用回数は、falle 31 回、fallen 12 回、falleth 3 回、falling 2 回、fallinge 1 回、fille 3 回、fillen 2 回、felle 4 回、fellen 2 回、fil 15 回、y-falle 1 回で、計 76 回である。一方、befall に関しては、bifalle 4 回、bifallen 1 回、bifalling 1 回、bifallinge 1 回、bifel 5 回、bifalle 4 回、bifallen 1 回、bifalling 1 回、bifallinge 1 回で、計 19 回使用されている。

 

flete (=float, drift)

And ful of bawme is fleting every mede;53)

牧場という牧場にはいい香りが漂っていた。

 

 flete fleet 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。fleet は今日、形容詞として詩語で「速い」という意味で用いられたり、動詞として「(雲などが)素早く動く」、「(時が)流れ去る」という意味を持つ語である。元来は、ドイツ語の fliessen=flow 流れる) と同語源の語であり、「浮かぶ」(float)、「漂う」(drift) という意味であった。チョーサーでもだいたいこの意味で用いられている。また、「満ちあふれる」(abound, overflow) という意味で用いられることもある。上記の用例ではこの「満ちあふれる」の意味である。チョーサーは、fleet と同義の float と言う語は使用していないようである。

 Troilus での使用回数は、flete 2 回、fleting 1 回である。

 

fonde (=try)

For-thy hir wit to serven wol I fonde273)

それ故、彼女の頭で分るように話すよう努めよう。

 

 fond は今日では廃語であり、チョーサーでは「試みる」(try)OED fond. 5: To attempt, try. Const. to with inf.) の意味で使用されている。

 Troilus での使用回数は 5 回である。

 

fyne (=stop, finish)

And took his leve, and never gan to fyne,1460)

But to his neces hous, as streyt as lyne,

He com;

[彼は] 別れを告げ、止まることなく姪の家までまっすぐにやって来た。

 

 fyne fine 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。fine はラテン語の finis (終り)に由来する古フランス語の finer が英語に入ったものである。16 世紀まで使用されて、廃語となった。自動詞として「終わる」(end)、「止まる」(stop)、「断念する」(desist) の意味を持ち、他動詞として「終える」(finish) の意味を持った。

 Troilus での使用回数は 3 回である。

 

ginne, gan (=begin, did)

And sette hir doun, and gan a lettre wryte,1218)

腰をおろして、手紙を書いた。

 

and out he gan to goon

In-to the grete chambre,      1711)

彼は広間に入っていった。

 

but al hir humble chere

Gan for to chaunge,          1130)

彼女の慎ましやかな表情が変り始めた。

 

 gin(チョーサーでは ginne) begin の語頭音消失形である。意味も begin と同じく「始める」であるが、それ以外に、迂言的助動詞として今日の do に相当する用法もあった。この場合、原形不定詞が続くことも、to- 不定詞が続くこともあった。場合によっては、to の代わりに for to が用いられることもあった。

 頻繁に見られたのが、gan などの過去形を、今日の did に相当する単に過去を表す助動詞として用いる用法であった。その場合、gan には原形不定詞が続くことも、to- 不定詞(あるいは for to- 不定詞)が続くこともあった。上記三つの用例では、それぞれ gan に原形不定詞、to- 不定詞、for to- 不定詞が続いている。この用法では、gan が単なる過去を表すしるしであるのか、それとも「始める」と言う意味が残っているのか、判断が難しい場合もある。Mustanoja は、チョーサーでは gan ‘begin’ の意味が完全な形で残っている場合は少ないと述べている(Mustanoja, p.613)。また、この gan は韻律を合わせる目的や、gan に続く不定詞に脚韻を踏ませる目的で使用されることが多い(Mustanoja, p.612)。チョーサーでは迂言的用法の助動詞としてはこの gan が多用されていて、迂言的助動詞 do の使用は少ない(Mustanoja, p.614)。

 チョーサーの作品の中では gan の使用はTroilus においてピークに達した(Mustanoja, p.613)。Troilus gan という形は293回使用されているが、そのうちの 1 回は目的語として名詞が続く用例なので除外し、残りの292回について、gan に続く不定詞が、原形不定詞、to が付く不定詞、for to が付く不定詞、のいずれであるかの頻度を見たのが次の表である。不定詞が二つ続く場合、最初の不定詞に to が付かず、二つめが for to が付いた不定詞となっている用例が一つ見られるが (Gan westren faste, and dounward for to wrye, II. 906)、この場合、最初の不定詞にしたがって、to が付かない不定詞に数えた。比較として、Confessio Amantis での gan の使用回数を挙げた。なお、Confessio Amantis では for to はすべて forto のように一語に綴られている。、

 

Troilus Confessio Amantis における gan に続く不定詞の種類

 

Troilus

Confessio Amantis

原形不定詞

173  (59%)

39  (44%)

to不定詞

92  (32%)

46  (52%)

for to不定詞

27  ( 9%)

3  ( 3%)

292  (100%)

88  (100%)

(注)端数を四捨五入しているため%の合計が100%になっていない場合がある。

 

 Troilus での使用回数は、ginne 2 回、ginneth 4 回、binning 1 回、ginninge 1 回、gan 293 回、gonne 8 回、gonnen 9 回、gunnen 1 回であり、計 319 回である。

 一方、begin の使用回数は、biginne 15 回、biginneth 3 回、biginning 1 回、bigan 19 回、bigonne 8 回であり、計 46 回である。

 

hente (=seize)

Til at the laste the dede sleep hir hente.924)

そのうちとうとう深い眠りが彼女を捕らえた。

 

 hente hent 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。「つかむ、捕らえる」(seize, catch) の意味である。

 Troilus での使用回数は hente 7 回、hent 2 回である。

 

highte (=promise, be called)

they hir highten

To been hir helpe in al that ever they mighten.1623)

彼らはできる限りのことをして彼女を助けると約束した。

 

Up-on hir fo, that highte Poliphete,1616)

ポリフェーテと呼ばれる彼女の敵について、

 

 hight は今日その過去分詞が古語・詩語として「〜と呼ばれた」(called, named) という意味で残っている語である。チョーサーでは、1「〜と呼ばれている」(be called)2「約束する」(promise) の意味の動詞として用いられている。

 Troilus での使用回数は、hatte 1 回、highte 5 回、highten 1 回である。

 

lere (=teach; learn)

this charme I wol yow lere.1580)

このまじないをお教えしましょう。

 

for wrecches wol not lere Troilus III. 934)

For verray slouthe or othere wilful tecches;

劣等生はまさに怠惰だったり、わがままな欠点があったりで、学ぼうとしないんだから。

 

 lere lore(知識、教え)の動詞形で、1「教える」(teach)2「学ぶ」(learn) の意味。今日では lere は廃語である。

 Troilus での使用回数は lere 5 回、lered 1 回、 y-lered 1 回である。

 

lese (=lose)

Yet have I lever maken him good chere

In honour, than myn emes lyf to lese;472)

でも叔父様のお命を失うくらいなら、体面を保ちながら、あの方にいい顔をして差し上げますわ。

 

He seyde, he nas but loren, waylawey!Troilus IV. 957)

悲しいかな、ぼくはもうだめだ、と彼は言った。

 

 lese leese(失う)の 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる綴り。チョーサーでは過去形単数として lees、過去分詞として lore(n),  ylor(e)n などが使用されている。

 leese OE leosan に由来する語で、ドイツ語の verlieren=lose)と同語源で、今日の lose と同義である。一方、lose OE losian に由来し、元来「滅びる」の意味であったが、やがて lose leese は同義語となり、ついには leese lose によって取って代わられた。

 Troilus での leese の使用回数は、lese 8 回で、lesen 1 回である。

 チョーサーでは lose の過去形 loste と過去分詞 lost は使用されているが、現在形の lose は使用されていないようである。Troilus での使用回数は、過去分詞 lost 25 回、y-lost 2 回、lorn 9 回、y-lorn 1 回である。

 

lette (=prevent)

Ther-with a thousand tymes, er he lette, 1089)

He kiste tho the lettre that he shette, 

そして、封をした手紙に、止めるまで幾度となく口づけした。

 

 lette let 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。let は他動詞として「妨げる」(hinder, prevent) の意味。また、自動詞として「思いとどまる、止める」(desist, cease)、「待つ」(wait) の意味で用いられた。let は名詞としては「妨げること、妨害」の意味となる。let(妨げる)は今日では古語となっている。

 Troilus での動詞 let の使用回数は、lette 5 回、letten 3 回、letteth 1 回、let 3 回である。名詞 lette 6 回使用されている。

 

leve (=believe)

This false world, allas!  Who may it leve?420)

ああ、こんな虚偽の世の中、誰に信じられるだろうか。

 

 leve=believe)はドイツ語 glauben(信じる)と同語源の y-leve の短縮形である。believe は、この leve に接頭辞 be- が付いたもので、もとは beleeve という形であったが、17 世紀に誤って believe と綴られるようになったものである。チョーサーでは bileve も使用されているが、leve の方が頻度は高い。bileve Troilus では動詞として 1 回、belief の意味の名詞として 1 回使用されているだけである。

 Troilus では leve という形は、実はいくつかの同音異義語が同一形になっていて、様々な語である可能性がある。「親愛な」(=dear) という意味の形容詞、「許可」(=permission) という意味の名詞、「去る、残す」(=leave) という意味の動詞、「信じる」(=believe) という意味の動詞、「許可する」(=grant) という意味の動詞などの場合がある。

Troilus leve=believe) 16 回使用されていると思われる。

 

leve (=allow, grant)

‘Depar-dieux,’ quod she, ‘God leve al be wel!...’1212)

彼女は言った、「神様、万事うまくいきますように」

 

 この語は前項の leve と同じ形であるが、別語であって、「許可する」(allow, grant) の意味である。主語を God にした祈願文で用いられることが多い。leve の次に目的語+(to 付き、または to なし)不定詞が続くことも、あるいは that 節が続くこともある。

 Troilus での leve=grant) の使用回数は 6 回である。

 

like (=please)

So whan it lyked hir to goon to reste,910)

彼女が就寝したくなったとき、

 

 like は「〜に気に入る、喜ばす」(=please) の意味で用いられる。与格を伴って非人称構文で用いられることも多い。If it like yow.=If you please.) などの表現である。

 チョーサーでも今日の like と同様の「好む」という意味の用法もあるにはあるが、大部分は please の意味の用法であり、Troilus で見られる lyke はすべて「〜に気に入る」の意味であると思われる。この非人称構文での like は今日では古語または方言となっている。

 Troilus での使用回数は、 lyke 12 回、lyken 4 回、lyketh 8 回、lyked 4 回、liketh 1 回である。

 Troilus では「好む」という意味を表すとき、次の表に見られるように、lyke よりも list の方が多用されていることが分る。

 

Troilus におけるlist (=please) lyke (=please) の使用回数

list

117

lyke

29

 

list, lest (=please)

And every wight out at the dore him dighte,

And wher him liste upon his wey him spedde;949)

各人はドアから出て、思い思いのところに急いだ。

 

I have no cause, I woot wel, for to sore

As doth an hauk that listeth for to pleye,Troilus I. 671)

遊び好きの鷹のように空に舞うことができないことはよく分っていますが、

 

 list には非人称構文の用法と人称構文の用法とがあった。非人称構文では元来対格または与格の人称代名詞などを伴って、‘be pleasing to’ の意味を持ち、me list [listeth] I like [care, desire] の意味となった。不定詞を伴って、例えば me list not (to) pleye で、「私は遊ぶ気にならない」の意味になった。しかし、as, if, what, when などの中の従属節では不定詞が表現されない ‘but tel me, if thee liste,...’(もしよかったら言ってくれないか)のような表現も多く見られる。

 人称構文では、list ‘like, wish, desire’ などの意味を持ち、非人称構文の場合と同様、ふつう不定詞(to 付き、または to なし)を伴ったが、不定詞が表現されないことも多かった。

yow=you) などの人称代名詞は主格と対格(または与格)が同形なので、非人称構文なのか人称構文なのか区別が付きにくい場合もあるが、チョーサーでは、list に関しては人称構文よりも非人称構文の方がはるかに多い。

 今日では list(気に入る ; 望む、欲する)は古語となっている。

 Troilus での使用回数は、 list 55 回、 liste 26 回、listen 2 回、listeth 3 回、leste 28 回、lest 3 回である。

 

longe (=befit, belong; desire)

And dide also his othere observaunces 

That to a lovere longeth in this cas;  1346)

このような場合に恋人にふさわしい他のおつとめも行った。

 

And eek me longeth it to wite, y-wis.312)

また知りたくて仕方がないんだもの。

 

 上記二つの例文のそれぞれの longeth は実は別の語である。

最初の例文の longeth belong の接頭辞のない形で、「適切である , ふさわしい」(befit, be appropriate)、「属する」(belong) の意味の語である。この語はその後 belong に取って代わられ、今日では long は古語または詩語となっている。

 二番目の例文の longeth ‘Thanne longen folk to goon on pilgrimages’(そのとき人々は巡礼に出かけたくなる)(The Canterbury Tales, General Prologue, 12) に見られる longen と同じ語で、desire(欲する)の意味である。この語には与格を伴った非人称構文の用法があり、例文の me longeth I desire の意味である。

 Troilus での使用回数は、「適切である , ふさわしい」の意味の longelongeth) 2 回、「欲する」の意味の longe 4 回である。

 

mete (=dream)

And as she sleep, anoon-right tho hir mette,925)

眠ると、すぐに彼女は夢を見た。

 

 mete 17 世紀まで用いられて廃語となった動詞。普通の人称動詞として「夢を見る」(=dream) という意味に用いられたり、非人称動詞として与格とともに me mette=I dreamt)「夢を見た」のように用いられることもあった。

 Troilus での使用回数は、mete 3 回、meten 1 回、mette 4 回である。

 

mote, moot (=must)

Thorugh which I woot that I mot nedes dyen;536)

そのため私の命は必ず絶えるだろうと思っています。

 

So longe mote ye live, 402)

長生きされますように。

 

 mote は助動詞で、今日の must may の意味を持っていた。今日の must はこの mote の過去形であり、チョーサーでは moste という形で用いられている。過去形が接続法過去として現在形の意味を持つようになり、今日では must は現在形として使用されている。今日の may はチョーサーでは基本的には ‘be able, can’ の意味であった。

 チョーサーでは mote は、1「〜してもよい」(may)2 今日の may と同様に祈願文で願望を表す「〜ならんことを」、3「〜しなければならない」(must) 3 通りの意味で使用されている。

 Troilus での使用回数は、mote 17 回、mot 27 回、moten 1 回、moot 17 回、moste 34 回、mosten 2 回である。

 

mowe (=be able)

For who is that ne wolde hir glorifye,

To mowen swich a knight don live or dye?1594)

このような騎士を生かすことも、死なせることもできることを、誇りに思わない者がいるだろうか。

 

 mowen は助動詞 may の不定詞形。そのほかチョーサーでは、mowe(n) が直説法現在複数あるいは接続法現在複数で、mowe が接続法現在単数で用いられている。直説法現在 1 人称単数、3 人称単数あるいは ye に続く形としては、たいてい may が使用されている。直説法現在 2 人称単数では mayst、あるいは thou が一緒になった maystow が使用されている。チョーサーで使用されているうちの圧倒的多数は may という形である。

 may の意味に関しては、チョーサーでは今日と同じ「〜かもしれない」という用法も見られるが、大多数は may の基本的意味である「〜できる」(have power, be able, can) という意味で使用されている。

 Troilus での使用回数は、may 284 回、mayst 19 回、maystow 8 回、mowe 3 回、mowen 2 回、mighte 117 回、might 11 回、mightest 1 回、mighten 4 回である。

 

否定辞 ne と動詞 (助動詞)との結合形

 否定辞 ne n- のように短縮されて、動詞と結合形を作ることがある。次の結合形が Troilus で使用されている。数字は Troilus における使用回数を示す。

 

nam (=am not) 3 / nas (=was not) 23 / nere (=were not) 12 / nis (=is not) 25 / nath (=hath not) 2 / nil (=will not) 40 / nel (=will not) 1 / nilt (=wilt not) 4 / nolde (wolde not) 29 / noldestow (=ne woldest thou) 1 / noot (=ne woot) 17 / not (=ne wot) 4 / niste (=ne wiste) 11 / ne axe (=ne axe) 1

 

Ther nas no cry but “Troilus is there!”196)

「トロイラスだ」と叫ぶ声ばかりであった。

 

Al nere it but for man I love most,1410)

My brother Troilus;

最愛の友トロイラスのためでなければ、

 

In al this world ther nis a bettre knight177)

Than he,

世界中でこの方より優れた騎士はいない。

 

Ther loveth noon, that she nath why to pleyne.777)

恋をする女性には悩みの種がつきものだ。

 

For trewely I nil no lettre wryte.1161)

だって本当に手紙なんて書く気になれない。

 

To yow nolde I no swiche tales bringe.308)

おまえにはそんな話を切り出そうとはしないだろう。

 

I noot nat what ye meene.133)

何の意味なのかさっぱり分らないわ。

 

pleyne (=complain)

And pitously gan ay til him to pleyne,1353)

絶えず哀れにも彼に泣き言を述べた。

 

Ther was no wight to whom she dorste hir pleyne.Troilus V. 728)

彼女には自分の悲しみをあえて訴えることのできる人が誰もいなかった。

 

 pleyne plain 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。 plain はラテン語の plangere(胸をたたく、嘆き悲しむ)に由来し、「嘆く、泣き言をいう」(=complain) という意味であり、 強意の接頭辞 com- の付いた complain と同義である。チョーサーでは pleyne compleyne の両方が使用されている。

上記の二番目の例文のように、再帰動詞として hir pleyne で「泣き言をいう」の意味になる用法も見られる。

 Troilus での使用回数は pleyne 27 回、y-pleyned 1 回、一方、compleyne 11 回、compleynen 2 回、compleyned 3 回である。

 

quod (=said)

‘A! God forbede!’ quod she. ‘Be ye mad?...’113)

「あら、嫌だ、お気は確か」と彼女は言った。

 

Quod Pandarus, ‘Al this knowe I my-selve,...’106)

パンダラスは言った、「このことは私自身知っていますよ」

 

 quod は「〜と言った」(said) の意味の過去形の動詞。bequeath(遺言で譲る)という語に見られる -queath と同じ quethe=say 言う)という動詞の過去形が quoth=said) であるが、quod はこの quoth 14 世紀から 17 世紀にかけて見られる形。特に 1350 年頃から 1550 年にかけては、quod が最も普通の形であった。チョーサーでは quod が使用され、quoth は使用されていない。今日 quoth は古語となっている。

 この quod は必ず倒置して主語の前に quod he のように置かれ、そしてふつう引用文の初めのあたりに挿入されるのを特徴とした。しかし、文頭に置かれたり、文末に置かれることもあった。この quod は直接話法で用いられ、間接話法で said that ...のように that などが続くことはなかった。

 

Troilus における「言った」を意味するquod seydeの使用回数

quod

210

seyde

240

 

recche (=care)

Of him ye recche leest wher he bicome,1151)

And whether that he live or elles sterve.

女性たちは男性がどうなろうと、生きようが死のうが全然かまわないのだ。

 

He roughte not what unthrift that he seyde.Troilus IV. 431)

彼はくだらないことを喋っていることに頓着しなかった。

 

 recche reck 12 世紀から 15 世紀にかけて見られる形。1600 年頃から reck が通常の文語形となった。今日では reck は古語または詩語である。Troilus で用いられている recche の過去形は roughte である。

 reck はふつう否定文で用いられ、また what などの疑問文でも用いられ、「気にかける、かまう」(care) の意味である。

 Troilus での使用回数は、recche 11 回、roughte 8 回である。

 

 

rede (=advise, guide)

I yow rede  Troilus I. 258)

To folwen him that so wel can yow lede.

人を導く力のある方に従われるよう皆さんに忠告いたします。

 

 rede は「忠告する」、「導く」という意味の語で、元来、read(読む)と同一語であった。今日では「忠告する」の意味では古い綴りを残して、rede と綴られ、「読む」の意味では read と綴られるようになっている。チョーサーでは両者は共に rede と綴られている。

 

saluwe (=salute)

With that he gan hir humbly to saluwe1257)

すると彼はていねいにクリセイデに挨拶した。

 

 salue は、ラテン語の salutare=greet) に由来するフランス語の saluer が英語に入ったもので、salute と同義である。一方、salute はラテン語 salutare が直接英語に入ったものである。

 Troilus での saluwe の使用回数は 4 回である。salute はチョーサーでは使用されていないようである。

 

say (=saw)

Criseyde, which that alle these thinges say,1265)

この様子をすべて見ていたクリセイデは

 

Who sey ever or this so dul a man?548)

誰がこんな鈍感な人を見ただろうか。

 

 see(見る)の過去形はチョーサーでは様々な形があり、say(言う)との区別が紛らわしい say=saw)sey=saw) のような形も見られる。

 Troilus での see の過去形の使用回数は、saw 16 回、saugh 16 回、saysaw) 11 回、sey 5 回、seigh 2 回である。

 

seche (=seek)

and eek these othere termes alle,

That in swich cas these loveres alle seche;1068)

このような場合に、すべての恋人たちが求める他のすべての名前、

 

 seche seek(求める)の 12 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。Troilus では seke も使用されているが、これは 12 世紀から 17 世紀にかけて見られる形である。

 Troilus での seek の現在形の使用回数は、seche 10 回、seke 2 回、seken 2 回、sekestow 1 回、seketh 1 回である。

 

shape (=destine, etc.)

 shape という語はチョーサーでは様々な意味において用いられている。チョーサーが用いている主な用法を次にまとめてみる。

1.「創造する」(create)、「作る」(fashion)

2.「考案する」(devise)、「計画する」(plan)、「用意する」(prepare)、「割り当てる」(appoint)、「促す」(prompt, induce)

3.  再帰用法で「準備する」(prepare, intend)

この用法は、OED shape 15 の項で、refl. To set oneself, prepare. Const. to with inf., or for. Obs. Very common in Chaucer.’ と述べているように、チョーサーでは多用されている用法である。

4.「(神、運命が)運命づける」(destine, decree)、「決定する」(determine)

5. 自動詞として「起こる」(happen)

 

用例

1.  A-cursed be the day which that nature

Shoop me to ben a lyves creature!  Troilus IV. 252) (Shoop=created)

造物主がぼくを生あるものとして作り給うた日は呪われよ。

 

O blake night, as folk in bokes rede,

That shapen art by god this world to hydeTroilus III. 1430) (shapen=created)

書物に書いてあるように、神がこの世を隠すために作り給うた暗い夜よ。

 

2.  For to every wight som goodly aventure

Som tyme is shape,         (281) (shape=prepared)

誰にでもときには何か幸運が用意されるものだから。

 

yet shal I shape it so,1363) (shape=arrange, devise)

That thou shalt come in-to a certayn place, 

あなたをある場所へお連れするよう取り計らいましょう。

 

At which the god of love gan loken rowe

Right for despyt, and shoop for to ben wroken;Troilus I. 207)  (shoop=planned)

これを聞くと、恋の神は悪意で色をなし、懲らしめようと計画した。

 

The fate wolde his soule sholde unbodie, 

And shapen hadde a mene it out to dryve;Troilus V. 1551)  (shapen=devised)

運命は彼の魂が肉体から離脱することを欲し、肉体から追い出す手段を工夫した。

 

3.  He can now seen non other remedye, 

But for to shape him sone for to dye.Troilus V. 1211) 

(shape him=intend, prepare)

彼はすぐにも死のうと意図するほかに取るべき方策を見いだし得なかった。

 

4.             Lettre, a blisful destenee

Thee shapen is, my lady shal thee see.1091) (shapen=destined)

手紙よ、幸運がお前に用意されている、あの方がお前を見るんだから。

 

5.  So shoop it, that hym fil that day a tene61) (shoop=happened)

In love,

たまたまその日彼は恋の苦悩に襲われた。

 

 Troilus での shape の使用回数は、shape 7 回、shapeth 2 回、y-shape 1 回、shapen 4 回、y-shapen 1 回、shoop 6 回である。

 

shenden (=disgrace, ruin, etc.)

 shend Troilus では次のような意味で使用されている。これらは今日では古語となっている。

1.「辱める」(put to shame; disgrace)

2.「非難する」(blame)、「叱る」(scold)

3.「破壊する」(destroy)、「損ねる」(damage)、「だめにする」(spoil)、「汚す」(defile)

用例

1.  That Manes, which that goddes ben of peyne,

Shal been agast that Grekes wol hem shende. (Troilus V. 893)  (shende=disgrace)

呵責の神であるマネスでさえ、ギリシア軍に辱められるとおびえるだろう。

 

2.  for thise bokes wol me shende.Troilus V. 1060) (shende=blame)

これらの本はぼくを非難するだろう。

 

3.                 in what maner wyse

This town to shende,            Troilus IV. 79) (shende=destroy)

いかなる仕方でこの町を破壊するか、

 

As helpe me god, ye shenden every deel!590) (shenden=spoil)

本当に、なにもかもだめにしてしまわれるわ。

 

 Troilus での使用回数は、shende 7 回、shenden 1 回、shent 2 回、shente 2 回である。

 

spede (=succeed, cause to succeed)

God woot that wel the soner spedde he.686) (spedde=succeeded)

確かに、彼の運はそれだけ早く開けた。

 

the devel spede him that it recche!Troilus IV. 630)

(spede=cause to succeed, assist)

くよくよする人を悪魔が助けんことを。

 

They spedde hem fro the souper un-to bedde;947) 

(spedde hem=made haste)

彼らは夕食からベッドへと急いだ。

 

 spede speed 13 世紀から 15 世紀にかけて見られる形。過去形は spedde が使用されている。

 チョーサーでは spede は次の意味で使用されている。

1.「成功する、成功させる」(succeed, cause to succeed)、「繁栄する、繁栄させる」(prosper, cause to prosper)

2.「促進する」(promote)、「成し遂げる」(accomplish)

3.「扱う」(deal with)

4.「急がせる」

5. 再帰用法または自動詞で、「急ぐ」(make haste)

 

頻度の高い 1 の「成功する」(succeed) の意味は今日では古語である。チョーサーは Troilus 以外の作品で succeed という語を使用しているが、それは「(〜に)続く」という意味での使用であって、「成功する」という意味においてではない。

 Troilus での spede の使用回数は、spede 7 回、spedde 10 回、spedden 1 回である。

 

sterve (=die)

So that wel neigh I sterve for the peyne.1530)

それでぼくは苦悩のあまり死にそうなんだ。

 

 sterve starve 14 世紀から 17 世紀にかけて見られる形。今日 starve は「餓死する、餓死させる」という意味であるが、この意味は 16 世紀以降の意味である。starve は元来ドイツ語の sterben(死ぬ)と同語源の語で、「死ぬ」(die) という意味であった。チョーサーでは sterve はすべて「死ぬ」という意味で用いられている。

 Troilus での使用回数は、sterve 23 回、sterven 2 回、starf 5 回である。一方、die(死ぬ)に関しては、Troilus では、deye 41 回、deyen 2 回、deyde 11 回、deydest 1 回、deyinge 1 回、dye 29 回、dyen 7 回、dyeth 1 回使用されている。

 Confessio Amantis では、sterve に関しては、sterve 8 回、sterven 1 回、sterveth 2 回、starf 1 回、storve 1 回、storven 1 回使用されている。die に関しては、deie 52 回、die 13 回、dye 15 回、dyen 1 回、deide 23 回、deiden 1 回、deiede 1 回、dyde 2 回、deyinge 1 回使用されている。

 

Troilus Confessio Amantis における「死ぬ」の意味のstarvedieの使用回数

Troilus

使用回数

Confessio Amantis

使用回数

sterve

3024%)

sterve

1411%)

deye, dye

9376%)

deie, dye

10989%)

 

stinte (=stop)

But woltow stinten al this woful chere,1361)

この悲しそうなお顔をよしてくださいませんか。

 

 stint は今日では「〈金・食料などを〉切り詰める」という意味で用いられる語であるが、この意味は 18 世紀以降のものである。チョーサーでは他動詞・自動詞として「止める、止む」(stop, cease) という意味で用いられている。また「〈悲しみなどを〉消す」(assuage, quench) という意味で使用される場合もある。

 Troilus での使用回数は、stinte 9 回、stint 2 回、stinten 2 回、stinteth 3 回、stente 11 回、stenten 1 回である。一方、同義の stop に関しては、Troilus stoppen 1 回使用されているだけである。また、別の同義語 cease に関しては、cesse 6 回、cessed 2 回、cesseth 2 回、cese 1 回使用されている。

 

Troilus における「止める」の意味のstintceasestopの使用回数

stinte

28

cesse

11

stoppen

1

 

syke (=sigh)

With that she gan ful sorwfully to syke;428)

こう言って、彼女はさも悲しそうにため息をついた。

 

 syke=sike) sigh(ため息をつく)の別形。過去形としては syked sighte の両方が用いられている。

 Troilus での使用回数は、syke 14 回、syked 3 回、sighte 9 回である。

 

thar (=it is necessary)

And eek, for she is straunge, he wol forbere 

His ese, which that him thar nought for yow;1661)

それに彼女はなじみが薄いので、彼は固くおなりになるでしょう、あなた方に対してならそうする必要がないのに。

 

 thar は非人称構文で it is necessay の意味で用いられる。him thar he need の意味となり、上記の例文にある him thar nought では he need not の意味となる。この thar は今日では廃語である。

 Troilus での使用回数は、thar 1 回、thurfte 1 回、thurste 1 回である。一方、nedeth(必要である)は 17 回使用されている。

 

thenke (=think), think (=seem; think)

And were it thing that me thoughte unsittinge,307)

To yow nolde I no swiche tales bringe.

もしふさわしくない話だと思ったなら、こんな話は持ってこないよ。

 

and wordes tho

That hadden prys, now wonder nyce and straunge

Us thinketh hem;                         25)

昔価値を持っていた言葉も、今ではわれわれには愚かに、異様に思われる。

 

 チョーサーでは thinke (=think) の用法に非人称構文が見られ、ふつう与格の代名詞を伴って「思われる」(seem) という意味になる。上記の二つめの例文では、人称構文との混同が見られ、あたかも人称構文であるかのごとくに目的語の hem を伴っている。

 think には、OE では二つの別の語があった。一つは、þencan(思う)(過去形 þohte, 過去分詞 geþoht)であり、これはドイツ語の denken(考える)と同語源の語で、ふつうの人称構文を取った。もう一つは、þyncan=seem 思われる)(過去形 þuhte, 過去分詞 geþuht) で、この語は非人称構文を取った。しかし、ME 期には両者の混同が起こり、やがて非人称構文の方は methinks(過去 methought) に形をとどめるだけとなって、消滅していった。

 チョーサーでも両者の混同が見られる。チョーサーでは thenk- 形と think- 形とが用いられており、それら両者の過去形・過去分詞としてはともに thought- 形が用いられている。 Skeat Troilus で見る限り、thenk- 形は例外なくすべて「思う」という意味の人称構文で用いられている。一方、think- 形は、「思われる」という非人称構文の場合と、「思う」という人称構文の場合とがあり、think- 形では二つの動詞が混同されていることがうかがわれる。過去形、過去分詞の thought- 形では両者が一体となっており、当然、両方の構文が見られる。

 Troilus では think-, thenk-, thought- すべて合わせて、149 回使用されており、そのうち「思う」の意味の人称構文が 110 回、「思われる」の意味の非人称構文が 39 回である。

 

think-, thenk-, thought- の人称構文、非人称構文の割合

人称構文

11074%)

非人称構文

3926%)

149100%)

 

それぞれの形の人称構文、非人称構文の割合

 

人称構文

非人称構文

thenk-

48100%)

00%)

48100%)

think-

936%)

1664%)

25100%)

thought-

5370%)

2330%)

76100%)

 

「思われる」の意味のthinkseemの使用回数

think-, thought-

3957%)

seme

3043%)

69100%)

 

分離を表す接頭辞 to-

to-breste / to-cleve / to-dasshed / to-greve / to-hewen / to-laugh / to-melte / to-rende /  to-rente / to-sterte / to-tornto-breste 2 回、その他は 1 回ずつ使用されている)

 

For man may love, of possibilitee,

A womman so, his herte may to-breste,608)

男性が胸の張り裂けるほど女性を愛することもあり得る。

 

 Troilus では動詞に分離を表す接頭辞 to- の付いたものが見られる。この to- は「分離」(asunder, apart, in pieces)の意味を持つ。動詞自体が分離の意味を持つものに付けられることが多かったため、これらの場合、to- はあまり分離の意味を添えることがなかった。それで分離の意味を持たない動詞にも「強意」として to- が付けられるようになった。

 この to- 15 世紀には急速に消えていき、1500 年以降残ったのはわずかとなった。Troilus では合計 11 個の to- 動詞が見られる(そのうちの 1 つは 2 回使用されている)。

 

triste (=trust)

As ye ben he that I love most and triste,247)

私の一番好きな、信頼している叔父様なんだもの、

 

 triste 13 世紀から 16 世紀頃まで用いられた trust の別形。Troilus では名詞・動詞ともに、trist trust の両方が使用されている。変化形を含めると、trist 21 回、trust 18 回使用されている。

 

trowe (=believe)

I trowe it be the beste;1448)

それが一番いいと思うよ。

 

 trow true trust と同系の語で、「信じる」(believe)、「信頼する」(trust) の意味であり、「思う」という意味で使用されることもあった。trow は今日では古語となっている。

 Troilus での使用回数は、trowe 31 回、trowed 3 回、trowen 5 回、troweth 1 回である。

 

Troilus における「信じる」を表す語の使用回数

trowe

40

leve=believe)

16

bileve

2

 

wene (=think)

But wene ye that every wrecche woot890)

The parfit blisse of love?

誰にでも恋愛の完全な喜びがわかるとお思いになって?

 

 wene ween=think 思う)の 13 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。ween 17 世紀に一般には使用されなくなったが、archaism として I ween=I think) という挿入句として残った。今日では古語または詩語である。

 Troilus での使用回数は、wene 15 回、wenen 3 回、wenest 2 回、weneth 2 回、wende 19 回、wend 2 回、wenig 1 回、weninge 1 回で、計 45 回使用されている。

 

wex (=grow)

And every wight gan waxen for accesse1578

A leche anoon,

誰もがすぐに熱病に対する医者になった。

 wax は元来 grow と同義語であり、grow よりも頻繁に使用される語であったが、やがてその使用は文語に限られるようになり、口語では grow に取って代わられた。チョーサーでは become(〜になる) と同義の用法も見られる。

 Troilus での使用回数は wax 2 回、waxen 7 回、wexen 1 回、y-waxen 2 回、waxeth 1 回である。意味を度外視した wax, grow, become の使用頻度は、次の表の通りである。

 

Troilus におけるwax, grow, becomeの使用回数

wax

13

grow

5

become

5

 

wite (=know)

And eek me longeth it to wite,312)

それに知りたくて仕方がないんだもの。

 

And sin ye woot that myn entente is clene,580)

ぼくの意図がきれいなことは知ってくれているだろうから、

 

Tel me how first ye wisten of his wo:501)

仰ってください、最初どうやってあの方の煩悶を知ったのかを。

 

 wite wit 13 世紀から 15 世紀にかけて見られる形。OE では witan という形であったこの語は、ドイツ語の wissen(知る)と同語源の語であり、名詞の wit(機知)とも同系語である。wite はラテン語の videre=see 見る)とも同系語であり、元来 ‘have seen’ という意味であったものが、‘know’ という意味を持つに至ったものである。

 チョーサーでは I wot, thou wost, he wot, we [ye, they] wite(n), 過去形 wiste, 過去分詞 wist などと変化している。意味は know(知る)と同義である。Troilus では God wot=God knows 確かに、誓って) というフレーズで用いられることも多い。

 Troilus での使用回数は、woot 73 回、wot 40 回、wite 5 回、witen 5 回、 witeth 1 回、wiste 34 回、wisten 1 回、wistestow 1 回、wist 18 回である。次の表から、「知る」という意味の語としては、know よりも wite の方が多く用いられていることが分る。 

 

Troilus におけるwiteknowおよびそれらの変化形の使用回数

wite

178

know

71

 

wrye (=cover; =go)

And wel the hotter been the gledes rede,

That men hem wryen with asshen pale and dede.539)

鉛色の冷たい灰をかぶせられた赤い炭はますます熱くなる。

 

The nightes fo, al this clepe I the sonne,

Gan westren faste, and dounward for to wrye,906)

私が太陽と呼ぶ夜の敵は、足早に西に向かい、そして沈んだ。

 

 上記の最初の例文の wrye は「おおう」(cover)、「隠す」(conceal) の意味。この語は今日では廃語となっている。

 Troilus での wrye=cover) の使用回数は、wrye 4 回、wryen 1 回、y-wrye 1 回である。

 上記の二つめの例文の wrye は別の語であって、「行く」(go, turn) の意味である。

 Troilus での wrye=go) の使用回数は wrye 1 回、y-wryen 1 回である。

 

wyte (=blame)

That of his deeth ye be nought for to wyte.385)

おまえがあの方のお命を奪ったといって責められないように。

 

 wite は今日でもスコットランドに残っている語で、「とがめる、責める」(blame)、「〜のせいにする」(impute) であり、名詞としては「非難」(blame, reproach) の意味である。

 Troilus での wyte の使用回数は、動詞が 6 回、名詞が 2 回である。

 

接頭辞 y-

Who hath ben wel y-bete940)

To-day with swerdes

誰でした、今日剣で散々たたかれたのは。

 

Nece, y-see who cometh here ryde!1253)

ねえお前、ご覧よ、こちらに馬を進めてこられる人を。

 

 接頭辞 y- は、元来 ‘with, together’ を意味した OE の接頭辞 Ze- ME 期には i- となり、そしてさらには y- となったものである。これはドイツ語の gewiss(確かな)や getrunken=drunk) など過去分詞に見られる接頭辞の ge- と語源的には同じものである。ドイツ語の gewiss はチョーサーの英語では i-wis(確かに)に対応する。またドイツ語の gleich(同じ)は y-lyke=alike) に対応する。

y- の意味は「一緒に」という元の意味の他、「完了、達成」であったり、単に「強意」であったり、あるいはほとんど意味のないこともあった。

 OE Ze- は北部の英語では、接頭辞と分る形では 1200 年までにほとんど消失した。大陸の低地ドイツ語や高地ドイツ語に存在したこの Ze- は、古ノルド語(北欧語)には存在せず、北部の英語には古ノルド語の影響があったものと思われる。名詞や形容詞、それに過去分詞以外の動詞に y- が付いた形は、南部および中西部の方言でのみ続いたが、それも 14 世紀末を超えることはなかった。過去分詞は南部の ME では 15 世紀中頃まで規則的に Ze- を付けて作られていた。 ME ではフランス語から入った語の過去分詞にも、yblamed yoccupied のようにこの接頭辞が使われることがあった。過去分詞に付けた y- はルネッサンス期の詩人 Edmund Spenser archaism(古語法)の特徴の一つとなっているが、これはチョーサーなどの模倣と考えられる。18 世紀の Thomson などの Spenserians(スペンサーを模倣した詩人たち)にも、ybent, ybound, ybrought, yclad, yclept, ydight, ydrad, ypent, ypight, ywrough などの語の使用が見られる。

 チョーサーが用いている接頭辞 y- は、y-wis y-fere などを別にすれば、他はほとんどが動詞の過去分詞に付けられたものである。過去分詞以外の動詞では y-see=see) が見られる。 y-ee Troilus での使用回数は、y-see 6 回、y-sene 2 回、y-seye 1 回、y-seyn 1 回である。

 チョーサーは接頭辞 y- を多用していて、Troilus では y- 267 回、i- 2 回使用されている。一方、ガワーは動詞の y- を使用してないようで、Confessio Amantis では過去分詞など動詞に付けた y- は見られない。

 

yeve, yif (=give)

And yeve me sorwe, but he shal it rewe,1609)

あの人が後悔しないとしたら、こんな悲しいことはありません。

 

Yif me your hond, (293

さあ握手をしよう。

yeve give 14 世紀から 16 世紀にかけて見られる形。give OE Ziefan に由来し、これは ME 期にミッドランドや南部では Zeven, Ziven という形となった。

今日の give g- 音は文献では 1200 年頃の Ormulum に最初に現れる。give 形は最初北部に生じた形で、これは北欧語の影響だと考えられている。14-15 世紀に g- で始まる北部形が徐々に南下してミッドランド方言に入っていった。15-16 世紀には geve 形がイングランドやスコットランドの作家において見られるようになった。

Langland では g- 形、y- 形の両方が見られるが、チョーサーでは y- 形の yeve, yif, yaf 等のみが使用されていて、g- 形は見られない。ガワーでも y- 形のみが使用され、g- 形は見られない。15 世紀にはミッドランドや南部ではまだ y- 形が優勢であったが、1500 年頃 y- 形は文語からは完全に姿を消した。

Troilus での使用回数は、yeve 19 回、yeven 6 回、yeveth 1 回、yif 4 回、y-yive 1 回、y-yeve1 回、yave 3 回、yaf 11 回、yaven 1 回である。なお、forgive という語についても、Troilus では foryeve 3 回、for-yeve 2 回、foryive 2 回、foryeven 1 回使用されていて、すべて y を用いた形が用いられている。

 

 


 

主要参考文献

 

Benson, Larry D. ed., The Riverside Chaucer Third Edition (Oxford U. P., 1987)

Davis, Norman et al. ed., A Chaucer Glossary (Oxford U. P., 1979)

Franz, Wilhelm, Die Sprache Shakespeares in Vers und Prosa,  齋藤静、山口秀夫、太田朗共訳『シェークスピアの英語詩と散文』(篠崎書林、昭和33年)

Kerkhof, J., Studies in the Language of Geoffrey Chaucer (Leiden: E. J. Brill, 1982)

Kurath, Hans ed., Middle English Dictionay (University of Michigan Press, 1957)

Macaulay, G. C., The English Works of John Gower in 2 vols. (Oxford U. P., 1901, 1979)

Mossé, Fernand, A Handbook of Middle English (Baltimore: The Johns Hopkins Press, 1952, 1968)

Mustanoja, Tauno F., A Middle English Syntax: Part I. Parts of Speach (Meicho Fukyu Kai, 1985)

Robinson, F. N. ed., The Works of Geoffrey Chaucer Second Edition (Oxford U. P., 1957)

Skeat, Walter W., The Complete Works of Geoffrey Chaucer in 6 vols. (Oxford U. P., 1894, 1972)

Tatlock, John S. P. and Arthur G. Kennedy ed., A Concordance to the Complete Works of Geoffrey Chaucer (Peter Smith, 1963)

The Oxford English Dictionay Second Edition on CD-ROM (Oxford U. P., 1993)

宮田武志訳『トゥローイラスとクリセイデ』(ごびあん書房、昭和62年)

武居正太郎「GEOFFREY CHAUCER の英語」(I)(IX)『長崎大学教育学部人文科学報告』第17号〜第25

 

 

 

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