エドマンド スペンサーの archaism について

(The Archaism of Edmund Spenser)

 

 

野呂俊文

(Toshifumi Noro)

 

 

 

 エドマンド スペンサー(Edmund Spenser(c. 1552-1599) archaism (古語法) を多用した詩人であることはよく知られている。ほぼ同時代のシェイクスピア(Shakespeare(1564-1616) と比較しても, スペンサーの方がはるかに多く古語を用いている。スペンサーの The Faerie Queene『妖精の女王』の最初の 3 巻の出版が 1590 年で, これに第 4 巻から第 6 巻までの 3 つの巻を合わせ, さらに Mutabilitie Cantos を加えた全体が出版されたのが 1596 年である。一方シェイクスピアの 2 つの長篇詩 Venus and Adonis Lucrece の出版がそれぞれ 1593 年と 1594 年である。これを見ても, この二人の詩人が同時期に活躍していたことが分かる。二人の作品のジャンルが異なるという点も, 勿論考慮に入れなければならない。スペンサーの作品がもっぱら詩であるのに対して, シェイクスピアの作品の大部分は戯曲である。言うまでもなく, 戯曲は芝居のせりふであり, 会話体であるのに対して, 詩は古風な語や語法を好む傾向がある。特にスペンサーの代表作 The Faerie Queene は中世を舞台とした騎士道風物語となっているので, 当然古風な語の使用が予想される。戯曲で登場人物が古風な語を多用したとすれば不自然に聞こえることになるが, 詩にあってはそれほど不自然ではない。この点で戯曲と詩は異なる。

 以下 The Faerie Queene の第 3 巻第 2 篇第 22 スタンザから第 30 スタンザまで, 9 スタンザ (81 ) を取り上げ, そこで使用されている古語ないしは古風な語を調べてみたい。可能な場合は, シェイクスピアにおける同じ古語の使用頻度とも比較してみたい。使用した主たる資料は次のものである。

 

C. Smith and E. De Selincourt (ed.), Spenser: Poetical Works (Oxford U.P.,1912,1969).

The Oxford English Dictionary Second Edition on CD-ROM (Oxford U.P.,1993) (以下 OED と略す).

Charles Grosvenor Osgood (ed.), A Concordance to the Poems of Edmund Spenser (Peter  Smith,1963).

Marvin Spevack (ed.), The Harvard Concordance to Shakespeare (Georg Olms,1973).

 

 なお, 語の使用頻度に関しては上記のコンコーダンスを使用したが, コンコーダンスの記載漏れが皆無とは言えず, また使用頻度の高い基本語についてはコンコーダンスがそのすべてを収録していないこともある。あるいは同じ語が形容詞と副詞の両方の用法を持つような場合, 解釈が分かれることも考えられる。したがって, 以下で挙げる使用頻度の数値は, 百パーセント正確なものというより, 目安を知るための概数と考えて頂きたい。

 まず The Faerie Queene のテキスト (III.ii.22—III.ii.30) を挙げ, 次に引用文中でイタリックにした古語を品詞別に取り上げて, アルファベット順に見ていくことにする。場面は, Britomart が父親の部屋でたまたま覗き込んだ魔法の鏡に映し出された騎士 Arthegall に恋をしてしまい, 自分でも気付かない間に恋病いに陥ってしまうところである。語の後につけた (  ) 中の数字は引用文中の行数を示す。

 

One day it fortuned, faire Britomart

Into her fathers closet to repayre;

For nothing he from her reseru’d apart,

Being his onely daughter and his hayre:

5   Where when she had espyde that mirrhour fayre,

Her selfe a while therein she vewd in vaine;

Tho her auizing of the vertues rare,

Which thereof spoken were, she gan againe

Her to bethinke of that mote to her selfe pertaine.

 

10  But as it falleth, in the gentlest harts

Imperious Loue hath highest set his throne,

And tyrannizeth in the bitter smarts

Of them, that to him buxome are and prone:

So thought this Mayd (as maydens vse to done)

15  Whom fortune for her husband would allot,

Not that she lusted after any one;

For she was pure from blame of sinfull blot,

Yet wist her life at last must lincke in that same knot.

 

Eftsoones there was presented to her eye

20  A comely knight, all arm’d in complete wize,

Through whose bright ventayle lifted vp on hye

His manly face, that did his foes agrize,

And friends to termes of gentle truce entize,

Lookt foorth, as Phoebus face out of the east,

25  Betwixt two shadie mountaines doth arize;

Portly his person was, and much increast

Through his Heroicke grace, and honorable gest.

 

His crest was couered with a couchant Hound,

And all his armour seem’d of antique mould,

30  But wondrous massie and assured sound,

And round about yfretted all with gold,

In which there written was with cyphers old,

Achilles armes, which Arthegall did win.

And on his shield enueloped seuenfold

35  He bore a crowned litle Ermilin,

That deckt the azure field with her faire pouldred skin.

 

The Damzell well did vew his personage,

And liked well, ne further fastned not,

But went her way; ne her vnguilty age

40  Did weene, vnwares, that her vnlucky lot

Lay hidden in the bottome of the pot;

Of hurt vnwist most daunger doth redound:

But the false Archer, which that arrow shot

So slyly, that she did not feele the wound,

45  Did smyle full smoothly at her weetlesse wofull stound.

 

Thenceforth the feather in her loftie crest,

Ruffed of loue, gan lowly to auaile,

And her proud portance, and her princely gest,

With which she earst tryumphed, now did quaile:

50  Sad, solemne, sowre, and full of fancies fraile

She woxe; yet wist she neither how, nor why,

She wist not, silly Mayd, what she did aile,

Yet wist, she was not well at ease perdy,

Yet thought it was not loue, but some melancholy.

 

55  So soone as Night had with her pallid hew

Defast the beautie of the shining sky,

And reft from men the worlds desired vew,

She with her Nourse adowne to sleepe did lye;

But sleepe full farre away from her did fly:

60  In stead thereof sad sighes, and sorrowes deepe

Kept watch and ward about her warily,

That nought she did but wayle, and often steepe

Her daintie couch with teares, which closely she did weepe.

 

And if that any drop of slombring rest

65  Did chaunce to still into her wearie spright,

When feeble nature felt her selfe opprest,

Straight way with dreames, and with fantasticke sight

Of dreadfull things the same was put to flight,

That oft out of her bed she did astart,

70  As one with vew of ghastly feends affright:

Tho gan she to renew her former smart,

And thinke of that faire visage, written in her hart.

 

One night, when she was tost with such vnrest,

Her aged Nurse, whose name was Glauce hight,

75  Feeling her leape out of her loathed nest,

Betwixt her feeble armes her quickly keight,

And downe againe in her warme bed her dight;

Ah my deare daughter, ah my dearest dread,

What vncouth fit (said she) what euill plight

80  Hath thee opprest, and with sad drearyhead

Chaunged thy liuely cheare, and liuing made thee dead?

 

1. 動詞

1) affright (70)

As one with vew of ghastly feends affright.

恐ろしい悪魔の姿を見て恐れおののく人のように。

 

 affright はここでは ‘struck with sudden fear; terrified, frightened’ の意味の過去分詞として使用されている。affright OE fyrhtan (=frighten) に強意の接頭辞 a- を付けた形で, 元は過去分詞で, 後に動詞として用いられるようになった。過去分詞としての用法は西暦 1000 年頃から 17 世紀半ばまでである。 OED ではスペンサーの The Faerie Queene (以下 F.Q. と略す) II.v.37 の引用文と, 1647 年の H. More, Resolution からの用例があるのみである。

 動詞としての affright の用法は 16 世紀になってから出来たもので, OED による初出例は 1589年の Nash Green’s Menaphon からの用例である。

 この affright には 「恐怖」 という意味の名詞としての用法もあり, OED による最初の用例は

F.Q. からの次のものである。

 

   then dead through great affright

They both nigh were.

驚きのあまり生きた心地もなかった。

 

 スペンサーとシェイクスピアにおける affright の使用回数は, それぞれ 37 回と 23 回である。

 

2) agrize (22)

His manly face, that his foes agrize

敵を震えあがらせる彼の雄々しい顔。

 

 agrise grise 「おびえる, おびえさせる」 に強意の接頭辞 a- の付いた形で, ‘shudder with terror’, ‘horrify, terrify’ の意味。上記のような他動詞としての用法と次のような非人称の用法とがある。

 

And powring forth their bloud in brutishe wize,

That any yron eyes, to see, it would agrize.    F.Q. V.x.28.

けだもののように血を流したので, どんな冷酷な人もそれを見てぞっとするほどであった。

 

 辞書の見出しに用いられる形は agrise , agrize という綴りは 16 世紀と 17 世紀に見られる形。この語は 11 世紀ごろから用いられていて, OED による最後の用例は 1647 年のものである。

 使用回数は, スペンサーが 5 , シェイクスピアが 0 回で, スペンサーの時代にはすでに古風な語となっていたことが推測できる。

 

3) astart (69)

oft out of her bed she did astart

しばしばベッドからとび起きた。

 

 astart start という動詞に強意の接頭辞 a- が付いた形で, 「驚いて立ち上がる」 の意味で, 13 世紀から 16 世紀まで用いられた。OED における最後の用例は F.Q. のこの箇所で, この語が当時すでに廃語 (obsolete) になりかかっていたことがうかがわれる。使用回数はスペンサーが 2 , シェイクスピアが 0 回。

 

4) auaile (47)

Thenceforth the feather in her loftie crest,

Ruffed of love, gan lowly to auaile.

それ以来乙女の高い前立ての羽飾りは, 恋に乱れて低く垂れた。

 

 auaile avale の別綴りで, 14 世紀から 16 世紀にかけて使用された。この語はラテン語の 「谷」 を意味する vallis の対格 vallem , 方向を表わす前置詞 ad を付けた ‘ad vallem’ (= to the valley) 「谷の方へ」 というフレーズに由来し, そこから 「下がる, 沈む」 (descend, go down),「下げる」 (lower) の意味となった。これとは反対に amount という動詞は, ラテン語の ‘ad montem’ 「山の方へ」 というフレーズから出来たもので, 「登る, 上がる」 がそのもとの意味である。

 avale 14 世紀から 16 世紀までは比較的よく使用されていたようであるが, 17 世紀以後については OED 1639 年と 1770 年の用例が 2 例載っているだけである。この語の使用回数はスペンサーが 7 , シェイクスピアが 0 回である。参考までに amount の用例を挙げておく。

 

So vp he rose and thence amounted streight.    F.Q. I.ix.54.

そこで彼は立ち上がり, すぐに馬に乗った。

 

5) auize (7)

her auizing of the vertues rare

不思議な力のことを思い出して。

 

 avize advise の別形。advise 13 世紀以後使用されている語であるが, avize という綴りは 16 世紀だけに見られる。また avise という綴りは 13 世紀から 16 世紀に見られる。引用箇所では再帰用法で用いられている。 advise の再帰用法はフランス語の s’aviser と同様に 「考える,熟考する」 の意味となり, 13 世紀から 16 世紀前半まで用いられ, シェイクスピアにも用例がある。

 

Aduise you what you say; the minister is heere.   Twelfth Night IV. ii.102.

 

 語源的には, advise はラテン語の vidēre (= see) の過去分詞 vīsum (=seen) に前置詞 ad (=to) を付けた形 advīsum (見解) に由来する。「見る」 を意味する vidēre の派生語であることからも分かるように, 「〜の方を見る」 (look at) というのがその元の意味である。スペンサーも

 

Abasht that a stranger did avise.   F.Q. II.xii.66.

見知らぬものが見ているので恥ずかしくて。

 

というように, この意味でも用いている。この 「見る」 の意味がさらに発展して 「精神的に見る」,すなわち 「考える, 熟考する」 の意味となり, これが再帰用法でも用いられるようになったのが, 引用テキスト 7 行目の用法である。この再帰用法は Chaucer, Gower, シェイクスピアにも見られる。スペンサーでは, ‘d’ のある advise 形の使用国数は 48 回で, ‘d’ の脱落した avise (avize, avyse) 形は 38 回であり, avise 形の割合は 44% となる。シェイクスピアでは advise 形が 81 回であるのに対して, avise 形は 3 回と少ない。

 

6) bethinke (9)

she gan againe

Her to bethinke of, that mote her selfe pertaine.

自分に関係ありそうなことを再び考えてみた。

 

 ここでは bethink は再帰用法で用いられている。この再帰用法は 13 世紀ころから 19 世紀まで用いられたもので, 「熟考する, 思い起こす」 を意味し, 4) で扱った advise の再帰用法とその用法が類似している。bethink , その過去形および過去分詞の bethought の使用回数はスペンサーが 13 , シェイクスピアが 28 回と, スペンサーよりもシェイクスピアの方が多く, 今でこそ古風となっているこの語は当時はまだ古語ではなく, 一般に用いられていた語であることがうかがわれる。

 

7) chaunged (81)

                    with sad drearyhead

Chaunged thy liuely cheare.

生き生きしていた顔を苦労で変えてしまった。

 

 chaunge change の別綴りで, 13 世紀から 17 世紀にかけて用いられた。後出のdaunger / danger と同じ関係にある。スペンサーにおける change, changeable, changeful, changelling などの語の使用回数は 171 回で, その内 chaunge のように ‘au’ を含むものは 80 回あり, 半数近い 46.8% に及ぶ。シェイクスピアの方はテキストが一般にモダナイズされている上, シェイクスピア自身が用いた綴りが分からないので, 綴字のことを云々しても意味がないと思われる。

 

8) did (22, 33, 37, 40, 45, 49, 52, 58, 59, 63, 65, 69);  doth (25, 42)

Did chaunce to still into her wearie spright (65)

乙女の疲れた心にたまたま忍び込んだ。

 

oft out of her bed she did astart (69)

しばしばベッドから飛び起きた。

 

 助動詞としての do ないし did の用法は, 今日では疑問文, 倒置文, 否定文で用いられ, 肯定文で使用される場合は通例 ‘I do want to see him.’ (ぜひ彼に会いたい) , 命令文で ‘Do come in!’ (ぜひお入り下さい) のように強調表現となる。

 しかし, 古くは肯定文でも, 強調の意味を含まないで単に迂言的 (periphrastic) に用いる用法があった。‘oft out of her bed she did astart’ の場合はこれに相当する。この用法は OE にすでに見られ, ME でよく用いられるようになり, 1500 年から 1700 年にかけて頻繁に使用された。この用法は 18 世紀に入ると普通の散文からは姿を消していったが, 今日でもイングランド南西部の方言では使用されており, また典礼式文や法律の文書では擬古文として, 韻文では韻律を合わせるために使用されている。

 スペンサーとシェイクスピア両者の作品ではこの do は多用されている。 Sugden によれば, この迂言法はスペンサーに便利な韻律の手段を提供していて, 彼の文体のひとつの特徴となっている[1]。また, do の助動詞としての用法は Chaucer ではきわめて稀で, Gower にはなく, Lydgate ではごく普通である。助動詞 do はスペンサーでは散文より韻文の方に多く, Milton ではこれとは反対に韻文よりも散文の方に do が一層多い[2]

 

9) dight (77)

downe again in her warme bed her dight

暖かい寝床に連れ戻した。

 

 ここでは dight ‘place, set’ の意味の過去形として用いられている。この語はスペンサーの好きな語で, 119 回使用されている。これに 4 回用いられている overdight を加えると 123 回になる。シェイクスピアがこの語を一度も用いていないことを考えると, この語はスペンサーの愛用の語であったと言える。

 この dight , dictate という動詞と同じく, ラテン語の dictāre (口述する, 指図する, 命令する) に由来する。dictāre OE dihtan となり, ME の時代にめざましい意味の発展をとげ, 英語の単語の中でも最も広く用いられる語となった。スペンサーは a) ‘do perform’,  b) ‘equip, furnish’,  c) ‘clothe, dress, adorn’,  d) ‘put on’,  e) ‘prepare’,  f) 再帰用法で ‘repair, go’ などの意味で用いている。用例を次に挙げる。

 

a) Curst the hand which did that vengeance on him dight.  F.Q. V.ii.18.

このような復讐を自分に加えた者の生を呪った。

 

 OED では 「行なう」 の意味における用例はこの 1596 年の F.Q. の用例が最後で, その前は c1205 年と c1460 年の 2 例があるだけである。

 

b) Thence to the hall, which was on euery side

With rich array and costly arras dight.      F.Q. 1.iv.6.

それから広間へ行ってみると, そこは四方が高価なアラス織の布で豪華に飾られていた。

 

 OED におけるこの意味の用例は, この F.Q. からのものの後は 1805 年の Scott The Lay of the Last Minstrel からの用例があるだけで, スペンサーの時代にこの用法はすでに archaism になっていたと思われる。

 

c) all the Priests were damzels, in soft linnen dight.  F.Q. IV.x.

司祭たちはすべて柔らかな麻の衣装をまとった乙女たちだった。

 

 ここでは dight は過去分詞として用いられている。 (現在形, 過去形, 過去分詞形すべてが同形の dight であった。) この 「衣服を着せる」 の意味における用法は 13 世紀から 19 世紀まで多くある。

 

d) Ere he could his armour on him dight.      F.Q. I.vii.8

鎧を着ける暇もないうちに。

 

 このように (武具, 着物などを) 着る」 という意味の用法は, OED ‘A Spenserian use’ と述べているもので, OED にはスペンサーからの用例 3 例と, 1654 年の Edmund Gayton Pleasant Notes Upon Don Quixot からのものが 1 例あるのみである.

 

e) Alma...to her guestes both bounteous banket dight.   F.Q. II.xi.2.

アルマは客人たちに豊かな馳走を供する。

 

この 「用意する」 という意味の用例も 14 世紀から 19 世紀まで多く見られる。

 

f) she fiercely towards him her self gan dight.   F.Q. V.iv.43.

彼女は激しく相手に迫ろうとした。

 

 このような再帰用法で 「行く」 という意味の用法は 14 世紀から 16 世紀までで, F.Q. の用例が最後である。その直前の用例が 1450 年ころのものであることを考えると, 当時すでに廃義になっていたのをスペンサーが archaism として用いたのかもしれない。以上のほか, OED

 

with which his hideous club aloft he dites    F.Q. I.viii.18.

手で恐ろしい梶棒を高々と振り上げる。

 

という用例を dight 16.で挙げ, ‘To lift, raise. (An erroneous use by Spenser.)’ と述べている. しかし, この dights はただ ‘prepare’ という意味に解してもよいように思われる。

 

10) to done (14)

as maydens vse to done

乙女たちがよくするように。

 

 これは done の形を to- 不定詞として用いたもの。do to- 不定詞の形は OE では to donne , ME では to donne, to done, to don などがあった。OED 14 世紀から 16 世紀にかけて用いられた原形不定詞の形としても done を載せている。

 また, 同じく 14 世紀から 16 世紀にかけて, 複数の we, you, they に続く現在形として done が用いられることがあった。スペンサーは, done / doen / donne / doon を計 17 回使用しているが, 内訳は to- 不定詞としての用法が 10 , we に続く現在形が 1 , they に続く現在形が 5 , will に続く原形不定詞としての用法が 1 回である。シェイクスピアにはこの to do の代わりに to done, to doen を用いる用法は見られない。

 

11) gan (8, 47, 71)

she gan againe / Her to bethink  (8)

考えてみた。

 

the feather ... gan lowly to auaile  (47)

羽飾りは低く垂れた。

 

Tho gan she to renew her former smart  (71)

以前の胸のうずきを新たにした。

 

 引用文中の 3 箇所とも gan to 不定詞が続いている。gan begin の語頭音消失形 (aphetic form) である gin の過去形。gin の後には to- 不定詞, 原形不定詞のいずれも続くことができた。ME の詩において, 過去形 gan ‘began’ の意味が弱まり, 現代の did と同様に単に過去を示す助動詞として用いられるようになった。さらに gan の別形 can gan と同じ意味で 13 世紀ころに用いられ始め, 14 世紀初期にはイングランド北部で確立された用法となった。can 16 世紀に到るまでイングランド北部や North Midlands の詩人たちによって使用され, 16 世紀末にはスペンサーやその模倣者たちによって用いられた。

 

Much can they praise the trees.  F.Q. I.i.8.

彼らは木々を愛でた。

 

 gan に原形不定詞が続く用例を次に挙げる。

 

each gan diuersely deuize.  F.Q. III.i. 33.

おのおのいろいろと想像をめぐらせた。

 

 スペンサーにおける gan の使用回数は 703 回に及び, スペンサーの文体のひとつの特徴となっている。to- 不定詞と原形不定詞が続く割合はだいたい半々くらいである。スペンサーにおける can の使用は, 可能を表わす can との区別がむつかしい場合もあるが, 10 回前後と思われる。シェイクスピアにおける gan の使用は 9 回で, そのうち to- 不定詞が続くものが 1 , 原形不定詞が続くものが 8 回である。Schmidt はこの can の用法と思われるシェイクスピアの用例を 2 例挙げている[3]

 

12) hight (74)

Her aged Nurse, whose name was Glauce hight

グローシという名の年寄りの乳母。

 

 ここでは hight ‘called’ という意味の過去分詞として用いられている。この hight は複雑な発達をとげた語である。OE の形は hatan , 基本的意味は ‘to call by name, to name, bid,command’ であった。ME の時期に受動態の形が失われ, 能動態が受動態の意味をも持つようになって, ‘to call’, ‘to be called’ の両方の意味で用いられるようになった。この混乱に加えて, 能動態の形もー連の変化をこうむり, 現在形が喪失され, 代わって過去形が現在形としても用いられるに到った。ME における一般的形態は, 現在形が hote, 過去形が het または hight, 過去分詞が hote(n) であった。Midlands の方言では 1300 年頃に現在形 hote が過去形と同一の母音を持つようになり, hete あるいは heet となった。さらに北部では現在形は hight, hicht, hecht となった。また過去形の het hight の両者は過去分詞としても用いられるようになり, このうち hight ‘called’ という意味の archaism として今日でもよく知られている。hight のこの ‘called’ の意味の過去分詞用法と, ‘was called’ の意味の過去形の用法とが, 今日まで文語においては存続している。

 スペンサーには hote を過去形として誤用した用例が 4 例ある。F.Q. からの 2 例を次に挙げておく。

 

it rightly hot / The well of life.  F.Q. I.xi.29.

それはいみじくも生命の泉と呼ばれていた。

 

another Knight, that hote Sir Brianor.  F.Q. IV.iv.40.

サー プライアナーと呼ばれたもう 1 人の騎士。

 

 以下動詞としての用法を列挙する。

「呼ばれている, 呼ばれていた」 ‘is called, was called’ という意味で用いられた用例:

 

the eldest, that Fidelia hight.   F.Q. I.x.12.

フィディーリアと呼ばれていた長女。

 

 またスペンサーは hight archaism として, 他に用例のない彼独自の意味で使用している。

 

‘commit’ の意味で用いられている用例:

 

Yet charge of them was to a Porter hight.   F.Q. I.iv.6.

番は一人の守衛にまかされていた。

 

‘mention’ の意味で用いられている用例:

 

She could or saue, or spill, whom she would hight.   F.Q. VI.vii.31.

指名した者を生かすも殺すも思いのままだった。

 

‘mean, porport’ の意味の用例:

 

But the sad steele seizd not, where it was hight,

Vppon the childe, but somewhat short did fall.   F.Q. V.xi.8.

しかし重い刃は狙いをつけた若い王には当たらず, 少し手前に落ちた。

 

 スペンサーにおける hight の使用回数は 163 回と多く, hote 4 回である。シェイクスピアは hight 4 回使用しており, すべて ‘be called’ の意味である。シェイクスピアの場合, Schmidt ‘used as a characteristic archaism’ と述べているように[4], 特別の効果を狙ったものである。

 

13) keight (76)

Her aged Nurse…

Betwixt her feeble armes her quickly keight.

年寄りの乳母は弱い両腕に乙女をすばやく抱きとめた。

 

keight catch の過去形 caught の別形で, 16 世紀にだけ用いられた。スペンサーによるこの keight の使用は 2 (caught 25 ) , シェイクスピアは 0 回。ここでは hight, dight, plight と韻を踏むための脚韻語として用いられている。その点もう一方の keight (F.Q. V.vi. 29.) も同様である。

 

14) mote (9)

she gan againe

Her to bethinke of, that mote to her selfe pertaine.

自分に関係のありそうなことを再び考えてみた。

 

ここでは mote は推量を表わす ‘might’ の意味で用いられている。mote は過去現在動詞 (preterite-present) , 主要な意味は 「許可, 可能」 ‘be permitted, may’ であるが, さらに 「義務」 ‘must’ の意味をも発達させた。助動詞の must は元来この mote の過去形である。16 世紀に mote may の過去形 mought としばしば混同された。また同じ 16 世紀には, mote mought と間違って綴られることはあったが, 現在形として正しく使用されていた。しかし, スペンサーおよび彼以後の作家の場合, mote はたいていは過去形として ‘might’, ‘could’ の意味で用いられた。次の例文に見られるように今日の may と同様, 祈願文で用いられる mote の用法もあった。

 

Well mote you thee.  F.Q. II. i.33.

うまく事が運びますように。

 

また 「必然」 を表わす ‘must’ の意味の用例としては次のものがある。

 

Saymg, but if she Mercie would him giue

That he mote algates dye        F.Q. III.x.7.

もしあなたが情けをかけて下さらなければ自分はきっと死ぬでしょうと言いながら。

 

mote に関してはコンコーダンスに partial list しか載っていないが, そこに記載されている使用回数は mote 37 , mought 46 回である。シェイクスピアの場合は mote 0 , mought 1 回であるので, スペンサーがこれらを古風な語として愛用していたことが分かる。

 

15) pouldred (36)

He bore a crowned litle Ermilin,

That deckt the azure field with her faire pouldred skin.

王冠をつけた小さな白テンが描かれていて, その美しい斑模様の毛皮が, 盾の青地を飾っていた。

 

pouldred powdered の別綴り。この引用文の pouldred OED ‘Decorated with a multitude of spots or small figures scattered over the surface’ (OED powdered 3. a) とあるように 「無数の斑点をちりばめた」 の意味である。スペンサーによる powder(ed) の使用は 6 回。そのうち pouldred のように ‘1’ を含む綴りは 2 回である。powder はラテン語の pulvis (対格は pulverem) (=dust) に由来し, 15-16 世紀のフランス語では pouldre と書かれていた。同様に英語でも 15 世紀から 17 世紀にかけて poulder という綴りが powder と並行して用いられた。

 

16) redound (42)

Of hurt vnwist most daunger doth redound.

気付かない傷が一番命取りになる。

 

ここでは redound 「生じる」 (OED redound 9. To proceed, issue, arise) の意味で用いられている OED でこの用法の初出例は F.Q. からの次の用例で, 最後は 1796 年の Jedidah Morse からの用例となっている。

 

Trew sacred lore, which from her sweet lips did redound.  F.Q. I.vi.30.

彼女の優しい唇から流れ出る真実の聖なる教え。

 

redound は現代英語では 「資する, 及ぶ, はね返る」 などの意味で用いられるが, 語源的には, ラテン語の unda () の動詞形 undare (波打つ) re(d)- (=back, again) の付いた redundāre に由来し, 英語における元の意味は 「あふれる」 (overflow) であり, さらには 「あふれんばかりである」, 「富む, 多い」 (abound) というものであった。

 

Yet did he murmure with rebellious sound,

And softly royne, when saluage choler gan redound.   F.Q. V.ix.33.

だが激しい怒りが溢れると,ライオンは反抗の声で低くうなるのだった。

 

redound の使用回数はスペンサーが 10, シェイクスピアが 1 回であるが, シェイクスピアの用例は今日的な 「資する」 の意味なので古語とは言えない。

 

17) still (65)

And if that any drop of slombring rest

Did chaunce to still into her wearie spright

休息をもたらす眠りが, 乙女の疲れた心に, たまたま忍び込むことがあっても。

 

still distil (したたる) の語頭音消失形で, 15 世紀ころから 18 世紀まで用例が見られる.

スペンサーによるこの語の使用は 2 , シェイクスピアが 0 回である。

 

18) weene (40)

ne her vnguilty age

Did weene, vnwares, that her vnlucky lot

Lay hidden in the bottome of the pot.

無邪気な年頃なので, 自分の不幸な運命がこの巡り合わせに隠されていようとは, 夢にも思わなかった。

 

weene 「考える, 思う」 (think) の意味の動詞で, 10 世紀から用例があり, 17 世紀になると日常生活からは消えていったが, 古語としては今日まで続いている。使用回数はスペンサーが 160 , シェイクスピアが 2 回で, スペンサーが愛用した語であることが分かる。

 

19) wist (18, 51, 52, 53)

Yet wist her life at last must lincke in that same knot.  (18)

しかし自分の生涯がいずれは結婚の絆に結ばれなければならないことは知っていた。

 

yet wist she neither how, nor why,

She wist not, silly Mayd, what she did aile,

Yet wist, she was not well at ease perdy.  (51-53)

どうして, またどのような訳でこうなったのか分からなかった。愚かにも乙女は自分が何の病にかかっているのか分からなかったが, どうも気分がすぐれないことだけは分かるのだった。

 

wist wit (=know) の過去形。ただしスペンサーは wit という形は一度も使用せず, 代わりに weet という形を用いている。wit は過去現在動詞 (preterite-present) , ラテン語の vidēre (=see) などと同じ語根を持ち, 元来 ‘I have seen’ を意味し, そこから ‘I know’ の意味となったもので, 英語の wise という形容詞などとも語源を同じくする。現在形の活用は表 1 のようになる。

 

1

I wot

We wite

Thou wost

Ye wite

He wot

They wite

 

過去形は wist, 過去分詞は witen, 不定詞は to wit あるいは to wete。否定詞 ne と結合した形には nete, nist, niten, nost, not(e) などがある。

もともと wot wit の活用形であるが, 14 世紀以後 wot を原形とみなしてさらに活用させた wotest, woteth, wotting, wotted などの形が作られた。たとえば Walter Scott wots, wottest, did wot, wotting, wotted などの形を使用している。

元来 weet , wit の不定詞, 複数現在形, 命令形であり, wite の別形 wete が変化したものであった。この weet という語は 16 世紀の中ごろに日常生活からは消えたが, 1620 年代までは literary archaism として詩において用いられ, また演劇では ‘(that is) to wit’ などのフレーズで wit の代わりに田舎弁として用いられた。 16 世紀および 17 世紀初期における古語としての weet の用法は, 不定詞, 複数現在形, 現在分詞に限定される。スペンサーを模倣して weet を用いた 18 世紀およびそれ以後の詩人たちは, しばしばこの語を規則動詞として I weet, I weeted, he weets などのように用いた。シェイクスピアは 1606 年の Antony and Cleopatra weet 1 回使用しているのみである。

スペンサーは 「知識, 知性」 という名詞の場合は wit , 「知る」 という動詞の場合は weet, weete, weeten を使用した。スペンサーによる weet, weete, weeten などの使用は 97 回であるが, そのうち 95 回までが F.Q. に集中しており, その他では Shepheardes Calender Colin Clouts Come Home Againe でそれぞれ 1 回ずつ使用されている。この 97 回のうち 76 回は to- 不定詞として用いられ, 残りの to の付かない用法 21 回の内訳は, 命令形が 5 , 1et や助動詞に続く原形不定詞が 13 , ye に続く現在形が 1 , Iに続く現在形が 2 回である。

2 はスペンサーとシェイクスピアにおける wit 系動詞の使用頻度を示している。

 

2

 

スペンサー

シェイクスピア

wit

0

7       wit   3

  to wit  4

wot, wote

60  wot, wote  57

    wots        1

    wottest     2

33    wot    28

wots    3

wot’st   1

wotting  1

wist

56  F.Q.       52

    その他      4

1

weet

97  F.Q.       95

    その他      2

1

 

wot を別にすれば, シェイクスピアによる wist, weet などの使用は少なく, 特に過去形の wist 3 Henry VI 1 度使用されているだけである。この表からも, weet wist の使用は F.Q. の文体の特徴となっていることが分かる。

 

20) wox (51)

Sad, solemne, sowre, and full of fancies fraile

She wox.

もの悲しく, 憂鬱になってふさぎ込み, とりとめのない物思いに耽るようになった。

 

wox grow の同義語 wax の過去形で, 14 世紀から 16 世紀にかけて用いられた。今日の用法では過去形は waxed となる。wox のような不規則変化の過去形は 14 世紀以後はまれとなり, 今日では完全にすたれてしまっている。過去分詞としては, 1611 年の King James Bible では waxed 4 , waxen 8 回使用されている。現在では月の満ち欠けに関して用いる場合を除き, wax grow に取って代わられるようになったが, かつては grow よりも頻繁に用いられる語であった。引用文のように ‘become’ の意味で用いられることも多かった。

スペンサーは現在形に wax の別形 wex も使用している。wax, wex の使用回数はスペンサーが 66 , シェイクスピアが 15 回で, wox, woxen についてはスペンサーが 48 , シェイクスピアが 0 回である。

 

21) yfretted (31)

And round about yfretted all with gold

一面に黄金の飾りが付いていた。

 

yfretted 「織り交ぜる, 飾る」 を意味する fret の過去分詞。y- (あるいは i- ) という接頭辞は OE の接頭辞 ge- のくずれた形である。西暦 1200 年ころにはイングランド北部の英語ではこの ge- は消滅してしまっていた。この接頭辞を名詞, 形容詞, (過去分詞を除く) 動詞に付ける用法はイングランド南部および中西部で 14 世紀末まで存続した。イングランド南部の ME では, 過去分詞は 1450 年頃まで規則的に y- を付けて作られ, この用法は a- という形で今日までイングランド南西部の方言として続いている。y- 形過去分詞の使用はスペンサーおよびその模倣者たちの擬古文の顕著な特徴であった。スペンサーが i- 形ではなく, y- 形を用いたのは, 彼が手本としたテキストでは y- の方が優勢であったからである。

この接頭辞の元の意味は ‘with’, ‘together’ であったが, ラテン語の前置詞 con と同様に 「強意」 「完了」 の意味でも用いられた。この 「強意」 「完了」 y- が付いた動詞で, 1500 年以後まで続いたものはまれであるが, 15 世紀の半ば以後, 擬古文を用いた詩人たちが y- の付いた動詞を新たに作るようになった。これらの場合, y- には特別に意味がなかった。スペンサーが作ったり, 用いたりした例を挙げると, yclepe, yshend, ybuilded, yrent, yglanced, yshrilled (それぞれ 1 ) などがあるが, これらは過去分詞ではなく, 原形不定詞または過去形である。Milton には star-ypointing のような現在分詞もある。

この y- 接頭辞は 「完了」 の意味を持つところから, 過去分詞を作るときたいていの動詞に付けることができた。この過去分詞形成の機能は, Low German High German などにおいても共通している。この機能は ME の時代にまでイングランド南部および West Midlands の英語の特徴として続いた。Y- 形の過去分詞は Chaucer Lydgate に多いが, Gower にはほとんど見られない。16 世紀にはスペンサーをはじめとする多くの詩人が, Chaucer などの中世の詩人をまねてこの y- 形過去分詞を採用した。 17 世紀には Henry More がこれを多用し, 18 世紀には Thomson や他の Spenserians たちがこれを用いた。現代の方言では, Worcestershire, Surrey, Cornwall を結ぶ三角形内の地域で a- 形の過去分詞が使用されている。

シェイクスピアでは yclad (1 ), ycliped (2 ), yravished (1 ), yslacked (1 ) 5 例があるのみである。

スペンサーが使用した y- 形の過去分詞は表 3 の通りである。

 

表3

yebent      4

ybet         1

yblent      3

ybore       3

yborn(e)   11

ybownd     1

ybred(d)    3

ybrent       1

ybrought   4

ybuilt       2

ycarved     1

yclat        18

ycled         1

ycleped      1

yclothed    1

yclowded   1

ycond        1

ycovered    1

ycrouned    1

ydrad         1

ydreaded    1

ydred         1

yfed          1

yfostered   1

yfraught    1

yfretted     1

ygoe         2

ygot         1

ygyrt        1

ykindled   1

yled         1

yleft         1

ylinked     2

ymet(t)     6

ymixt       1

ymolt       1

ymounted  2

ypaid        1

ypaynted   1

ypent       2

ypight      1

yplaste     1

yplight     2

yrapt        1

yrived       1

yrockt       1

yshrowded  1

yslain        1

yslaked      1

yspent       1

ystabled    1

ytake         1

ytaught      1

ythrild       1

ythundered 1

ytold          1

ytorn         2

ytost          1

ywandered  1

ywounded   2

ywrake       1

ywrit          2

ywroke       2

ywrought    3

 

 

 

 

2. 副詞

1) adowne (58)

She with her Nourse adowne to sleepe did lye.

乙女は乳母と共に臥所についた。

 

adown down と同義語で, 「下へ」 を意味する。この語は OE ‘of dune’ (=off the hill 丘から下って) に由来する。この点すでに動詞の項で取り上げた avale , ラテン語の ‘ad vallem’ (谷へ向かって) から 「下がる」 を意味するようになったのと似ている。of dune は弱まって a-dun となったが, これが 12 世紀には語頭音消失によって dūn, doun (down の古い綴り) となった。しかし, adown も廃語とはならず, 今日まで詩語として続いている。

adown の使用回数はスペンサーが 59 , シェイクスピアが 0 回である。

 

2) closely (63)

nought she did but wayle, and often steepe

Her daintie couch with tears, which closely she did weepe.

乙女はただ嘆き悲しむばかりで, ひそかに涙を流しては, 自分の優雅なべッドを何度もぬらした。

 

closely 「秘かに」 (secretly) の意味で用いるのは今日廃義である。この意味は 16 世紀から 17 世紀にだけ用いられたもので, OED には 1552 年から 1643 年までの用例が 4 例載っている. シェイクスピアからの用例には次のものがある。

 

We have closely sent for Hamlet hither.  Hamlet III. i. 29.

余はひそかにハムレットを呼びよせておいた。

 

スペンサーは closely という語を 40 回使用しているが, そのほとんどすべてがこの ‘secretly’ (16) の意味である。シェイクスピアの使用は 8 回であるが, そのうち 5 回が ‘secretly’ の意味で用いられている。

 

3) earst (49)

And her proud portance, and her princely gest,

With which she earst tryumphed, now did quaile.

以前は誇らしげに見せていた堂々とした物腰も, 王女らしい態度も, 今は影をひそめた。

 

ここでは earst 「以前は, 少し前は」 の意味の副詞である。スペンサーは earst という綴りと erst という綴りの両方を使用している。earst 13 世紀から 17 世紀にかけて用いられ, erst の方は 14 世紀から今日まで使われている。erst は元来 ere (=before, formerly) の最上級の形で, ‘earliest’ の意味であったが, スペンサーや Milton は近い過去を表わす ‘not long ago, a little while since’ (OED 5.b) の意味でよく用いた。また, erst には形容詞としての用法もあり, スペンサーには at erst (=as soon as possible, at once) のような表現もある.

 

Abandon this forestalled place at erst.  F.Q. II.iv.39.

ここは他人の所地だからすぐに立ちのきなさい。

 

erst, earst の使用回数はスペンサーが 95 , シェイクスピアが 7 回である。

 

4) eftsoones (19)

Eftsoones there was presented to her eye

A comely knight.

まもなく乙女の目の前には立派な騎士の姿が現われた。

 

eftsoons , ‘again, afterwards’ を意味する eft soon との合成語で, 文字通りには ‘soon after’, ‘soon again’ を意味する。語尾の -s は副詞的属格 (adverbial genitive) -s であり, eftsoon eftsoons も同じ意味である。これは always alway, whiles while が同一の意味であるのと同様である。eftsoon / eftsoons ‘afterwards, soon afterwards’ という意味の用法は 13 世紀から今日まで続いているが, 17 世紀までは ‘soon’ (すぐに) という意味が感じられないことが多く, 時には全く欠如していた。しかし現代の擬古文における用法では, 普通 ‘immediately’ (直ちに) の意味である。

eftsoone(s) の使用回数はスペンサーが 120 (その内 118 回は -s があり, 2 回は -s なし) , シェイクスピアの場合は eftsoons 2 回あるのみである。eft に関してはスペンサーが 20 , シェイクスピアが 0 回である。

 

5) full (45, 59)

Did smyle full smoothly  (45)

いとも楽しげに微笑んだ。

 

But sleepe full farre away from her did fly.  (59)

しかし眠りは乙女のもとから遥かかなたに逃げ去った。

 

これらの用例では full ‘very, exceedingly’ の意味の強意の副詞として用いられている。9 世紀からこの用法があるが, 今日では詩で用いられるだけとなっている。full の形容詞あるいは副詞を修飾して強める用法, すなわち現代英語の very に相当する用法のみを数えてみると, 使用回数はスペンサーが 64 回で, シェイクスピアも約 64 回である。この場合, ‘I am prepar’d and full resolv’d.’ などにおけるように full が動詞の過去分詞を修飾する場合や, 数詞を修飾する用法は除外した。

 

6) ne (38, 39)

The Damzell well did vew his personage,

And liked well, ne further fastned not,

But went her way; ne her vnguilty age

Did weene, vnwares, that her vnlucky lot

Lay hidden in the bottome of the pot.

乙女は騎士の姿をよくながめて, 好ましい人だと思ったが, それ以上こだわることもなく, その場を立ち去った。無邪気な年頃なので, 自分の不幸な運命がこの巡り合わせに隠されていようとは夢にも思わなかったのである。

 

ne ‘not’ の意味の副詞としての用法は, 8 世紀から 16 世紀まで一般的であったが, それ以降では 1812 年の Byron Childe Harold’s Pilgrimage からの ‘A youth Who ne in virtue’s ways did take delight.’ の一例があるだけである. 上に挙げた F.Q. の引用文の ne ‘nor’, ‘and...not’ の意味で用いられている。Ne は否定を含む節の後に来るのが通例で, ‘ne...ne...’ のように繰り返した場合は, ふつう ‘neither...nor’ の意味となる。この用法は 8 世紀から用例があり, Coleridge 1798 年の用例が最後のものである。

 

Ne could we laugh, ne wail.   The Ancient Mariner iii. 3.

笑うことも泣くこともできなかった。

 

F.Q. の引用箇所の 2 個の ne のうち, 前者のne further fastned not’ の方は, その前に否定の語がないめずらしい例である。OED はこの ‘andnot’ の用法を ‘Obsolete, rare’ として, F.Q. III.iv.56 ‘That doest all thinges deface, ne lettest see The beautie of his worke.’ Richard Hakluyt 1599 年の用例の 2 つを挙げている.

ne はすでに OE の時代から n- と短縮され, 動詞と一体となって合成語を形成することができた。スペンサーでは nas (=has not), nill (=will not), nis (=is not), note (=know not), nould (=would not) などの用例がある.

ne の使用回数はスペンサーが 76 , シェイクスピアが 2 回である。ne の合成語に関しては, スペンサーは nas 1 , nill 8 , nilled 1 , nould, n’ould, no’uld 16 回使用している。nis および note についてはコンコーダンスが partial list しか載せていないので正確な数は分からないが, 記載されているものは nis (nys) 6 , note, no’te, n’ote 20 回である。シェイクスピアは nill 4 回だけ使用していて, それ以外の用例はない。

 

7) perdy (53)

Yet wist, she was not well at ease perdy.

しかしたしかに気分がすぐれないということだけは分かっていた。

 

perdy pardie の別綴りで, スペンサーは perdie または perdy の形を使用している。pardie Old French pardieu に由来し, ‘by God’ の意味であった。そこから 「確かに」 (indeed) の意味で用いられるようになったが, 現在では古語となっている。perdie, perdy の使用回数はスペンサーが 26 , シェイクスピアが 3 回である。

 

8) thenceforth (46)

Thenceforth the feather in her loftie crest,

Ruffed of loue, gan lowly to auaile.

それからというもの, 乙女の高い前立ての羽飾りは, 恋に乱れて低く垂れた。

 

thenceforth (その時以来) は元来 thence forth 2 語であったもので, Chaucer などでは別々の語として書かれている。OED の初出は Chaucer 1374 年の用例で, 最後は 1870 年の William Morris, The Earthly Paradise からの用例である。使用回数はスペンサーが 62 , シェイクスピアが 1 回である。

 

9) therein (6),  thereof (8)

Her selfe a while therein she vewd in vaine;

Tho her auizing of the vertues rare,

Which thereof spoken were

しばらく自分の姿を映してみたが映らなかった。次に噂に聞いていた不思議な力のことを思い出して。

 

therein (=in that place) 13 世紀から, thereof (=of that) 11 世紀から用例があるが,今日では共に古語ないしは格式語となっている。これらの合成語では there ‘that’ の意味であり, herein などにおける here ‘this’ の意味となる。

この there- 形の副詞の使用回数を表 4 に示す。ただし therefore は古語ではないので省いてある。

 

表4

 

スペンサー  

シェイクスピア

thereof

166

40

therein

118

63

thereto

116

19

therewith

105

3

thereby

89

27

thereat

56

3

thereon

42

8

therewithal

20

9

thereunto

13

8

thereout

10

0

thereupon

10

8

therebeside

5

0

thereafter

2

1

thereinto

2

0

thereamong

1

0

therewithin

1

0

 

 

10) tho (7, 71)

Tho her auizing of the vertues rare (7)

次に不思議な力のことを思い出して。

 

Tho gan she to renew her former smart. (71)

それから先ほどまでの胸の痛みを新たにした。

 

tho ‘then’ の意味の古語で, 8 世紀から用例が見られ, 「その時, 当時」 の意味ではイングランド西南部の方で今日まで続いている。「それから, 次に, すると」 の意味では 17 世紀まで用いられ, そしてすたれた。スペンサーは tho 143 回使用していて,この語は彼の文体の特徴のひとつとなっている。シェイクスピアは 1 度も使用していない。

 

11) vnwares (40)

ne her vnguilty age

Did weene, vnwares, that her vnlucky lot

Lay hidden in the bottome of the pot.

無邪気な年頃なので, そうとは知らず, 自分の不幸な運命が, この巡り合わせに隠されていようとは, 夢にも思わなかった。

 

unwares ‘unknowingly’ の意味で, この意味における用法は 14 世紀から 17 世紀まで見られる。また, この語には ‘unexpectedly, suddenly’ の意味もあり, この意味における用法は 12 世紀から 19 世紀まで見られる。

 

She oft and oft aduiz’d him to refraine

From chase of greater beasts, whose brutish pryde

Mote breede him scath vnwares.          F.Q. III.i.37.

ヴィーナスは彼に, 大きすぎる獣は追わないように, 獣の力が強すぎて思わぬ時に怪我をしないものではないからと, 何度も言いきかせた。

 

この unwares とほぼ同義の unawares , 16 世紀以後使用されるようになった新しい語である.

unwares のスペンサーによる使用は 58 回で, シェイクスピアは 1 回である。

 

12) wondrous (30)

And all his armour seem’d of antique mould,

But wondrous massie and assured sound.

鎧は時代物らしかったが, 極めてどっしりとしていて頑丈に見えた。

 

wondrous ‘wonderful’ あるいは ‘wonderfully’ を意味する当時比較的新しい語であった。OED では, 形容詞用法の用例は 1500 年からあり, 副詞用法の用例は 1557 年から見られる。引用文では ‘wonderfully’ の意味で用いられており, この副詞用法は今日では古語となっている。

使用回数はスペンサーが 148 (そのうち形容詞用法 109 , 副詞用法 39 ), シェイクスピアが 41 (そのうち形容詞用法が 20 , 副詞用法が 21 ) である。

 

3. 名詞

1) daunger (42)

Of hurt vnwist most daunger doth redound.

気付かない傷が一番命取りになる。

 

daunger danger の別綴りで, 13 世紀から 16 世紀にかけて用いられた。danger はラテン語 dominus (主人) に由来するが, 英語では 「主人の支配力」 の意味で用いられるようになり, そこから 「危害を加える力」 「他人の支配を受けている状態」 となり, 15 世紀の後期に今日のような 「危険」 という意味を持つに到った。

スペンサーは danger, dangerous(ly) などを 126 回使用しているが, そのうち daunger のように ‘au’ という綴りを含むものは 109 , danger 風の綴りが 17 回で, daunger 形の方が圧倒的に多いことが分かる。

 

2) drearyhead (80)

with sad drearyhead

Chaunged thy liuely cheare, and liuing made thee dead

生き生きとした顔を悲しみでやつれさせ, 生きながら死んだも同然にした。

 

drearihead 「悲しみ, 憂うつ」 の意味で, 13 世紀から用例があるが, 今日では古語となっている。これと同義の drearihood 17 世紀に作られた語である。同じく同義の dreariment という語はスペンサーの造語である。なお dreary という形容詞は, (人が) 悲しみに沈んだ」 という意味で 11 世紀ころから用いられたが, 今日一般的である 「わびしい, 陰鬱な」 という意味は比較的新しくて, 1667 年の Milton の用例が OED では初出例となっている。

 

Seest thou yon dreary Plain...?    Pardise Lost I.180.

あのわびしい平原が見えるか。

 

5 dreary およびその派生語の使用回数を示す。この表では, シェイクスピアの使用が 1 回だけであることが目立つ。

 

表5

 

 スペンサー  

シェイクスピア

drear

drearihead

drearily

drearing

dreariment

dreariness

dreary

9

6

1

1

15

2

36

0

0

0

0

0

0

1

 

 

なお, 接尾辞 -head 「状態, 性質」 を表わし, 元来は 「方法, 仕方」 (manner, way) を意味する独立した名詞であった。接尾辞としての用法は OE には見られず, 12 世紀の ME から現われる。最初は falsehede のように形容詞に付けられたが, じきに名詞にも付くようになり, Chaucer には knyghthede, manhede, maydenhede, wommanhede などが見られる。かくして -head , -hood という接尾辞と無差別に用いられるようになり, やがては後者に取って替わられるに到った。現代英語で用いられている -head 形の名詞は goodhead maidenhead くらいで, これらは godhood maidenhood とは区別して使用されている。

 

3) ermilin (35)

And on his shield enueloped seuenfold

He bore a crowned litle Ermilin.

手にした七板張りの盾には, 王冠をかぶった小さな白テンが描かれていた。

 

ermelin (ermilin) ermine (白テン) と同義の語であるが, 今日では古語ないしは詩語となっている。この語はロマンス詩語に広く見られ, 16 世紀に英語に入って来たものである。OED による初出は 1555 年である。

スペンサーによるこの語の使用はこの 1 箇所だけで, シェイクスピアは使用していない。

 

4) gest (48), portance (48)

And her proud portance, and her princely gest,

With which she earst tryumphed, now did quaile.

以前は誇らしげに見せていた堂々とした物腰も, 王女らしい態度も今は影をひそめた。

 

gest portance も共に 「態度, 物腰」 の意味で, 今日では廃語ないしは古語となっている。gest はラテン語 gerere (=bear 運ぶ) の名詞形 gestus (=bearing 態度) に由来する。同様に portance , ラテン語 portare (運ぶ) に由来するフランス語の名詞が英語に入ったものである。OED には portance の用例が 4 例載っているが, そのうち 2 つは F.Q. からのもので, スペンサーの用例が初出である。gest 16 世紀はじめころに英語に入ったもので, OED での初出は 1509 年のものである。この gest 「手柄, 功業」 という意味の gest とは, 共にラテン語 gerere の派生語という点では同じであるが, 発達の仕方が異なるので, OED は別の見出しとしている。

gest (態度, 身振り) の使用回数はスペンサーが 4 , シェイクスピアが 0 回で, portance の方はスペンサーが 6 , シェイクスピアが 2 回である。

 

5) mirrhour (5)

Where when she had espyde that mirrhour fayre,

Her selfe a while therein she vewd in vaine.

その部屋で, 姫はこの美しい鏡を見つけて, しばらくそこに自分の姿を映してみたが映らなかった。

 

mirrhour 16 世紀に用いられた mirror の別綴り。スペンサーによる mirror の使用は 20 回であるが, そのうち mirrhour, mirrhor, myrrhour のように綴りに ‘h’ を含むものは 12 回で, mirrour, mirror, myrrour のように ‘h’ を含まないものは 8 回である。

 

6) stound (45)

But the false Archer, which that arrow shot

So slyly, that she did not feele the wound,

Did smyle full smoothly at her weetlesse wofull stound.

しかし悪賢い射手は, 乙女が受けた傷を感じないほど巧みに矢を射込み, 当の乙女が受けた痛ましい痛手に気付いていないのを見て, いとも楽しげに微笑んだ。

 

ここでは stound 「試練の時」 の意味で用いられていると思われる。この語は 11 世紀以来用例があるが, 今日では英国北部の方言として使用される以外は, 廃語となっている。OED に記載されている stound の用法でスペンサーが用いているものは, 次の 3 つに大別される。

 

i) 「時, 時間」 (a time, while), 「短い時間」 (a short time), 「瞬間」 (moment)

O who is that, which bring me happy choyce

Of death, that here lye dying euery stound...   F.Q. I.viii.38.

ここに今にも死に絶えそうな身体を横たえているこの私に, 幸福な死を恵んでくれる人は一体だれだろう。

 

ii) 「苦しい時, 苦境」 (a hard time), 「試練の時, 危機」 (a time of trial or pain)

For whose deare sake full many a bitter stownd,

I have endur’d, and tasted many a bloudy wound.  F.Q. III.i.24.

いとしいこの人のために私は数々のつらい試練に耐え, 多くの手傷をも受けてきたのです。

 

Greatly thereat was Britomart dismayd,

Ne in that stownd wist, how her selfe to beare.   F.Q. III.xi.22.

これにはブリトマートも大いに肝をつぶし, この危機にどう振舞っていいか分からなかった。

 

スペンサーにはこの意味の用法が多いが, OED では 「試練の時」 の意味はスペンサーが最後で, その直前の用例は一気に Chaucer にまでさかのぼる。したがって, スペンサーが Chaucer を模倣して, stound archaism としてこの意味で使用したことが推測される。

 

iii) 上記 ii) から派生した意味として, 「激しい痛み, 激痛」 (a sharp pain, a pang), 「激しい攻撃, 猛攻」 (a fierce attack), 「衝撃, ショック」 (a shock)

But ere the point arriued, where it ought,

That seuen-fold shield, which he from Guyon brought,

He cast betwene to ward the bitter stound.            F.Q. II.viii.32.

しかし穂先が目標に達しないうちに, 相手はガイオンから得た七重の盾を前に構え, 激しい攻撃を受け止めようとした。

 

So well she washt them, and so well wacht him,

That of the deadly swound, in which full deepe

He drenched was, she at the length dispacht him,

And droue away the stound, which mortally attacht him.    F.Q. VI.iii.10.

彼女は傷を手際よく洗い, 手厚い看護をしたので, ついに恋人を, 深く陥っていた瀕死の昏睡から抜け出させ, 彼にとりついていた死んだようなショック状態を追い払った。

 

ただし, この後者の引用文中の stound , 「危機, 試練の時」 の意味とも解釈できる。スペンサーでは 「攻撃」 という意味での stound の使用は, 「試練の時」 という意味についで多い。

スペンサーは stound 53 回使用しているが, そのうち 2 回は astound (仰天させる) の語頭音消失形である stound という動詞をそのままの形で過去分詞として用いたもので, また 2 回は 「驚き, 茫然自失」 を意味する名詞である。これらは 「時, 試練, 攻撃」 を意味する stound とは語源的にも別の語なので, これらを除けば, 使用回数は 49 回である。シェイクスピアは stound を使用していない。この stound という語は, 引用テキストには現われていない stour という語と共に, スペンサー特有の古語という気がする。なお, スペンサーによる stour の使用回数は 56 回で, シェイクスピアは 0 回である。

 

7) wize (20)

Eftsoones there was presented to her eye

A comely knight, all arm’d in complete wize.

まもなく乙女の目の前には, 一分の隙もなく鎧兜に身を固めた立派な騎士の姿が現われた。

 

ここで, ‘in complete wize’ ‘completely’ (完全に) の意味で用いられている。wize wise 16 世紀にだけ用いられた別綴り。

まず, 一般的に wise の用法を概観してみたい。wise は元来 「様態, 仕方, 方法, 習慣」 を意味した名詞であり, 名詞としての用法は 10 世紀から 16 世紀まで続いて, すたれた。一方, wise は他のゲルマン諸語におけるのと同様に, OE の時代から 「〜の仕方で」 を表わす副詞句で使用された。これらのうちいくつかは, crosswise, leastwise, likewise, otherwise などのように単一語として現代英語に残っている。この場合, -wise は接尾辞として機能している。これらの確立した表現を除き, wise は現代では archaism となっているが, ただ 20 世紀になってから plot-wise (筋の点では) などのように 「〜の点で」 という意味の接尾辞としての用法がアメリカの口語で発達した。

 

i) 前置詞を伴わないで否定語や限定詞だけを付けた no wise (決して〜ない), this wise (このように), no other wise than (他ならぬ次のような仕方で) などの用法。

このうちスペンサーは this wise 2 回だけ使用している。

 

ii) 前置詞を伴わないで, 一般の形容詞を wise の前に付けた humble wise (=humbly), despiteful-wise (=despitefully) などの用法。

スペンサーにはこの用法は見られない。

 

iii) 前置詞を伴い, 否定語や限定詞を付けた in no wise (決して〜ない), in this wise (このように) などの用法, および一般の形容詞を付けた in complete wize など今日の -1y副詞形に相当する用法。

スペンサーは wise という名詞を全部で 91 回使用しているが, そのうち 89 回はこの用法である。in wise の形が圧倒的に多く, 82 回で, by wise 4 , after wise 3 回である。in wise 形のうち, 形容詞なしの限定詞だけを伴った用例は, in this wise (こういう風に) (2 ), in that wise (そういう風に) (1 ), not in any wise (いかなる方法でも〜ない) (1 ) 4 例のみであって, 他はすべて形容詞を伴った用法である。スペンサーからの用例を次に挙げる。

: in more secrete wise (=more secretly) / in chearefull wise (=cheerfully) / in fittest wize (=most fitly) / in seeming wise (=seemingly) / in furious wise (=furiously) / in privy wise (=privily) / in graver wise (=more gravely) / in lovely wise (=lovelily) / in sober wise (=soberly) / in honorable wise (=honorably) / in wanton wize (= wantonly), etc.

 

また, これに this, that , 名詞や代名詞の所有格を付けた用例がスペンサーにはある。

: in wemens pitteous wise / in her disdainfull wise / in this faire wise / in that monstrous wise /  in that warlike wise / in his wonted wise / in his homely wize.

 

in 以外の前置詞を伴った用例として, スペンサーに次のようなものがある。

: by no wize / by faire and humble wise / by this wise / after Dorick wize / after his rusticke wise.

 

iv) 前置詞と名詞とを伴った用法。

この用法は 9 世紀から現代に到るまで用例があるが, スペンサーには見られない。他の作家からの用例を次に挙げる。

: in ballade wise (バラード風に) / in Sermon-wise (説教風に) / in a kind of circle-wise (一種の円形に) / in maiden wise (乙女らしく) (Coleridge, Christabel) / in pilgrim wise (巡礼風に).

 

v) 前置詞を伴わず名詞と wise だけで ‘in the manner of の意味となる serpent-wise (へどのように) などの用法。

この用法は 14 世紀くらいから現代に到るまで続いているが, スペンサーには見られないようである。他の作家からの用例を次に挙げる。

: garden wyse (庭園風に) / assembly-wise (集会風に) / Cardinalwise (枢機卿風に)/ festoon-wise (花綱風に) / tailor-wise (仕立屋風に) / Seneca-wise (セネカ風に).

 

vi) すでに述べた, 主としてアメリカの現代口語表現である plot-wise (筋の点で) などの用法。

この用法は, 一見v) の用法と似ているが, v) ‘in the mannar of’ (〜風に, 〜のやり方で) の意味であるのに対して, こちらは ‘inrespect of’ (〜の点で) という意味になる点が異なる。

: acting-wise (演戯という点では) / successwise (成功という点では) / moneywise (金銭的には) / job-wise (職の点では).

 

スペンサーが用いた用法は i) 2 回あるのを除けば, 他の 89 回はiii) の前置詞を伴う用法に集中している。シェイクスピアによる wise の用法が, ‘in no wise’ (Pericles 5. 2. 11) ‘in howling wise’ (The Passionate Pilgrim 17. 22) 2 回きりであるのと比べれば, ‘in wise’ の用法がスペンサーの英語のひとつの特徴となっていることが分かる。

 

4. 形容詞

1) buxome (13)

But as it falleth, in the gentlest harts

Imperious Loue hath highest set his throne,

And tyrannizeth in the bitter smarts

Of them, that to him buxome are and prone.

しかし, やさしい人の心の中に, 専横的な愛の神はいと高く玉座を据えていて, 唯々諾々として命に従う者どもの心をひどく傷つけて, 暴君ぶりを発揮するものである。

 

buxom 「従順な」 (obedient) の意味で用いられている。この意味の用法は 12 世紀から用例があるが, 今日ではまれに archaism として用いられる場合を除いて obsolete となっている。なお, 今日用いられる 「健康で快活な」 の意味は, 16 世紀後期からのものである。

スペンサーは buxom という語を 7 回使用しているが, それらはすべて 「従順な, 柔軟な, 曲げやすい」 という古い意味で用いられている。シェイクスピアによるこの語の使用は 2 回であるが, 2 回とも 「快活な」 という現代的な意味である。

 

2) same (18)

Yet wist her life at last must lincke in that same knot

しかしいずれは結婚の絆に結ばれねばならないことは知っていた。

 

これは, 指示詞の this, these, that, those, yon などに same を冗語的に添えた用法で, 16 世紀と17 世紀にはごくありふれたものであったが, 今日では archaism となっている。スペンサー, シェイクスピア共に用例は多い。スペンサーには ‘that same rich strond’, ‘these same olde walls’ などのほか, ‘thilke same rule’ のように thilk を用いた用例もある。

 

3) vncouth (79)

What vncouth fit (said she) what euill plight

Hath thee opprest…?

一体どんな不思議な病気に (と彼女は言った) おかかりになったのです。どんなひどいご容態なのですか。

 

ここでは uncouth ‘strange, unusual’ の意味と解釈できる。この意味におけるこの語の使用は, 1590 年ころから 1700 年にかけて一般的であったが, 今ではまれとなっている。 16 世紀の初めころから 「異様な (外観の) の意味でも用いられるようになったが, この意味の用法が今日まで続いている。

語源的には, uncouth ‘known’ の意味の過去分詞 couth に否定の接頭辞 un- が付いたもので, ‘unknown’ の意味である。この ‘unknown’ の意味での使用は 9 世紀から 17 世紀中期まで見られる。

スペンサーは uncouth をすべてこれらの古い意味で使用しているわけではないが, uncouth の全使用回数は 43 回で, シェイクスピアの場合は 3 回である。なお ‘could’ の意味で用いられた couth の使用は, スペンサーに 6 回あり, シェイクスピアは 0 回である。

 

4) vnwist (42)

Of hurt vnwist most daunger doth redound.

気付かない傷が一番命取りになる。

 

unwist ‘unknown’ の意味の分詞形容詞で, この語の使用は 14 世紀の Chaucer に始まり, おおむね 16 世紀のスペンサーに終わると言ってよい。ただ, 18 世紀と 19 世紀には 「見なれない」(strange) の意味の archaism としての用例が見られる。16 世紀には ‘unwist of any wight’ (誰にも知られずに) という形で, archaism としてよく用いられた。

 

It was kept in store

In Joues eternall house, vnwist of wight.   F.Q. V.i.9.

この剣は誰にも知られず, ジョーヴの永遠の館に保存されていた。

 

また, この語は能動的な ‘unknowing’ の意味で用いられることもあった。

 

When he wak’t out of his warelesse paine,

He found him selfe, vnwist, so ill bestad,

That lim he could not wag.                F.Q. V. i. 22.

失神状態から目を覚ますと, 騎士は自分が知らないうちに, 手足も動かせないほどひどい有様になっているのに気がついた。

 

スペンサーは unwist 6 回使用しており, シェイクスピアには見られない。参考までに, 同系の unwitting の使用回数はスペンサーが 25 , シェイクスピアが 0 回で, unwittingly はスペンサーが 1 , シェイクスピアが 2 回である。

 

5) weetlesse (45)

Did smyle full smoothly at her weetlesse wofull stound.

乙女が受けた痛手に気付いていないのを見て, いとも楽しげに微笑んだ。

 

weetless はすでに取り上げた weet (=know) という動詞に, -less を付けて作った ‘unknowing, unconscious’ の意味の形容詞。この weetless はスペンサーの造語であって, その使用はスペンサーに始まり, archaism として 19 世紀まで続いた。スペンサーは weetless 6 回使用しており, シェイクスピアは使用していない。

 

5. 接続詞, 前置詞

1) if that (64)

And if that any drop of slombring rest

Did chaunce to still into her wearie spright

休息をもたらす眠りが, 乙女の疲れた心に, たまたま忍び込むことがあっても。

 

今日では単独で接続詞として用いられる語に, 以前は接続詞の働きを添えるために that を添えて, if that, lest that, only that, though that, till that, while that などのように用いる用法があった。この用法はスペンサー, シェイクスピア共に用例が多い。

 

2) betwixt (76)

Betwixt her feeble armes her quickly keight.

弱い両腕に乙女をすばやく抱き止めた。

 

betwixt between の同義語として OE の時代から使用されているが, 今ではやや古風な語として文語体や詩で用いられるくらいとなっている。しかし, 今も betwixt を日常語として使用している方言もある。ME における形は普通 betwix であったが, 1500 年以後無意味な -t を付けた betwixt の形が一般的となった。しかし, 英国北部では betwix の形がそのまま続いた。スペンサーによる betwixt の使用回数は, コンコーダンスが partial list しか載せていないので分からないが, 記載されているものは 31 回である。シェイクスピアはこの語を 55 回使用している。

 

以上 F.Q. のテキスト 81 行中で使用されている archaism (古語法) を見てきたが, F.Q. の英語はどの箇所を取っても均質的であるので, この短い引用文中の古語を見ただけでも, F.Q. 全体, あるいはスペンサーの詩全体の語彙の傾向がある程度分かるのではないかと考えられる。

6 , スペンサーとシェイクスピアで使用回数が顕著に異なっている語の一覧表である。この表からも両者の使用語彙には大きな隔たりがあることが見て取れる。

 

6. 語の使用頻度表

 

 

スペンサー

シェイクスピア

1

gan

703

9

2

hight, hote

167

4

3

ween

160

2

4

weet, wist

153

2

5

tho

143

0

6

eftsoon, eftsoons, eft

140

2

7

dight (overdight を含む)

123

0

8

erst

95

7

9

wise (名詞)

91

2

10

ne

76

2

11

thenceforth

62

1

12

adown

59

0

13

unwares

58

1

14

stour

56

0

15

stound

49

0

16

wox, woxen

48

0

17

uncouth

43

3

18

done (不定詞)

17

0

19

redound (「あふれる」の意味での使用)

13

0

20

avale

7

0

21

unwist

6

0

22

weetless

6

0

23

agrise

5

0

24

unwist

5

0

25

mote, mought

83 かそれ以上

1

26

nas, nill, nould, nis, note

52 かそれ以上

4

27

y- 形の過去分詞など

141 かそれ以上

5

 

スペンサーが愛用した古語の中には, 今日古語や廃語になっているものだけではなく, 当時すでに古語であったり, 廃語になりかかっていたりしたものもある。スペンサーはこれらを擬古文の効果をだすために意図的に使用したのである。また, これらの語彙の中には weetless のようにスペンサーによる造語も含まれている。スペンサーの英語の特徴は, 彼が同じ古語を何度も繰り返して使用している点である。そうすることによって, スペンサーは特有の雰囲気を持った彼独自の文体を作り上げたのである。そして, 彼の使用した archaism , 後世の Spenserians たちによって模倣されることになった。シェイクスピアの影響力が一般的であり、英語という言語全体に及んでいるのにに対して, スペンサーの及ぼした影響が特定の詩人に限られるのは, 彼の文体が個性的でありすぎたためであったと思われる。

 

 

 

 

引用文に付けた邦訳は, 熊本大学スペンサー研究会訳『 妖精の女王』(文理書院, 1969 ) を参照させて頂いた。

 



[1] 1. Herbert W. Sugden, The Grammar of Spenser’s Faerie Queene (Linguistic Society of America, 1936) 桝井迪夫訳述『Faerie Queene の文法』(研究社, 1959 ), p. 111.

 

[2] 2. Sugden, p. 111.

 

[3] 3. Alexander Schmidt, Shakespeare Lexicon and Quotation Dictionary in 2 vols. (Dover, 1971), p.167.

 

[4] 4. Schmidt, p. 539.

 

 

 

 

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