「White Christmas〜聖なる夜の白い魔法」


 夕方から降り出した雪が、街の中をほのかな白に染め上げている。
 吐き出した息は冷たい空気に触れて白く煙り、ゆっくりと広がりながら空高くへと上っていった。
 今日はクリスマス・イヴということもあり、クラスメートの家で開かれた、身内だけの簡単なクリスマス・パーティーに参加した帰りなのだ。
 車の通れない海沿いの道に入ると、アスファルトの上には既に白い雪が数センチほど積もっており、一定間隔に並べられた街灯の明かりに照らされた雪が海風にあおれられて舞い踊り、キラキラとした輝きを放ちながらゆっくりと地面の方へと舞い降りてゆく。
「わぁ。雪がこんなに積もってる!」
 美鈴は、雪が積もったことが余程嬉しいからなのか、それとも、まだ少しアルコール----と、言ってもシャンパンをグラスに数杯ほど飲んだだけなのだが----が残ってるからなのか、まるで子供のように新雪の上を飛び跳ねてはしゃいでいる。
「おいおい。あんまりはしゃぎ過ぎると転ぶぞ」
「----きゃ!」
 って、言ってる側から美鈴は雪に足を滑らせて尻餅をついていた。
「……ったく、どんくせーな。大丈夫か?」
 俺は、尻餅をついたまま、ぼんやりしている美鈴の手を取り起きあがらせると、服についた雪を軽く払ってやる。
「美鈴はただでさえどんくせーんだから、もっと気を付けろよな」
「えへへ。いつも、ありがとね」
「……ったく、飲めね〜んだったら、あまり無理しないで飲まなかった方が良かったんじゃねーか?」
「だって、楽しいんだもん」
 美鈴は全然悪びれた様子もなく、心底楽しそうに笑っている。
 実際、美鈴がここまでアルコールに弱いとは思わなかった。
 まあ、一緒に酒を飲む事なんて無いから、美鈴の酒の強さなんて知らなくて当たり前の事ななのだけど、俺も、もっと気をつけてやった方が良かったかもしれない。
「わぁ、みてみて裕也君。雪だるま!」
 美鈴が指し示した方を見てみると、誰かが作ったのか、街灯の下に小さな雪だるまがふたつ並んでいた。
「珍しいな」
「うん。きっと、この雪だるまは恋人同士なんだね」
「あ?」
「だって、ほら、こんなに仲がよさそうだよ?」
「……そうか?」
 確かに寄り添うように並んでいるふたつの雪だるまを見ていると、仲が良さそうに見えないこともない。
 だけど、一見してそう言うふうに思えるというのは頭が柔軟というか、発想が突飛というか。俺は思わず美鈴の顔をまじまじと眺めてしまう。
「ん? どうしたの?」
「なんでもねーよ」
 そんな、俺の言葉を聞いて何故かくすくすと笑い出す美鈴。
「あ?」
「ううん。なんでも無いの」
 ……なんて、言いつつも語尾が少し笑っている。
「----ねえ、裕也君」
「ん?」
「いつも、ありがとうね」
 美鈴はそう言うと、俺の腕にぶら下がるようにして腕を絡ませてくる。
 普段なら、そういうことをされると、照れや恥ずかしさから、思わずつっけんどんとした態度を取ってしまうのだけど、今日がクリスマスという特別な日の雰囲気のせいなのか、それとも街を白く染め上げてる雪のせいなのか、何となく自然な感じがした。
 少し火照った頬を、時折すり抜けていく風が冷たくて心地いい。
 俺は踏みしめる雪の感触と左腕の美鈴の暖かさを感じながら、何となくそのまま無言で歩き続けていると、突然、美鈴は腕を引くようにして立ち止まり、俺の肩の上に頭を乗せてそのまま顔を少し上に向けた。
 そして、二人の唇が一瞬だけ軽く触れあう。
 俺は、背筋に軽い電流が流れたような気がして、そして、ほんの少しだけアルコールの甘い香りがしたような気がした。
「……美鈴?」
「えへへ。初めてキスしたね」
 俺は、少しとまどいながらも、美鈴を軽く抱きしめた。
 美鈴の華奢な肩が、少し震えてるような気がする。
「……ごめんね」
 俺は、何故美鈴が謝っているのか分からなかった。
 それは、不意にキスをしてきたからなのか、それとも飲み慣れないアルコールで俺に迷惑をかけていると思ったからなのか。
 ----だけど、きっと謝るのは美鈴じゃなくて、俺の方だ。
 俺は、抱きしめている腕に少しだけ力を込めた。
「……俺の方こそ、いつも、ごめんな」
 そして、抱き合ったままに空を見上げると純白の雪が、まるで俺たち二人に対して、聖なる夜が白い魔法をかけて祝福しているかのように、街灯の明かりに照らされて、風に揺られながらゆっくりと舞い降りてくる。
 未だ雪が降り続ける静けさの中で、ただ、美鈴の優しげな吐息だけを感じながら----。

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