「くじら」
そもそもの始まりは、くじらだった----。
空にぽっかりと、雲のように浮かぶくじら。
それも、デフォルメされたアニメチックなくじら。
誰がこんな馬鹿げた事が起こると言うことを、想像しただろうか?
各国の頭上には巨大なくじらが、我が物顔で泳いでいるのだ。
日本の自衛隊や、各国の軍事勢力は、偵察機を何機も飛ばしてくじらを観測しているのだけど、全ての観測機のレーダーには、そこにそんな物は存在しないと言うデータだけが虚しく弾き出されていた。
そこにいる筈のくじら、だけども機械の目は否定する。
人々は最初の内は動揺し、やがて慣れていった。
マスメディアはくじらを追い続け、政府機関はくじらを黙殺した。
空を見上げると、いつもくじらがいる以外は変化のない日常。
何故、それが見えるのかは分からないが、見える以上は存在するのだろう。
そう、くじら達が行動を起こすまでは、誰もがそんなことを考えていたのだ。
突然起こった、くじらたちの地球脱出劇。
宇宙めがけて跳ねる度に、水ならぬ大気が宇宙へと飛び散って拡散していくのだ。
人々が息苦しさを感じた時、初めてとんでもないことだと気がついたのだ。
しかし、現在の科学技術では到底打つ手もなく、為す術も無いまま酸素ボンベだけが飛ぶように売れた。
やがて、くじらたちの地球脱出も終わり、何事も無かったかのように平穏な日々が戻って来た。
もちろん失われた大気分、息苦しくなってしまい、酸素ボンベはあいかわず飛ぶように売れているが、それ以外はなんの変化もなかった。
くじらたちは何のために現われて、どうして去って行ったか分からないが。
ただ、くじらたちのいなくなった空は、何故か寂しく人々の目に写った。
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