今回は
SEIAさんに美鈴Sideのお話を書いて頂きました。
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【Side 裕也 /
Side 美鈴】
「Happy Happy Birthday〜ジェラシーをあなたに」Side 裕也
雲のカケラひとつ見あたらない、青く晴れ渡った空をぼんやりと眺めながら、公園までの長い坂道をゆったりとした足取りで進めていく。
いつものこの時間だと、学校へ向かう生徒たちでにぎやかなこの道も、今日は休日の朝と言うことで人影は殆ど見あたらない。
オレは、大きく伸びをしてからゆっくりと息を吸い込んだ。
朝の爽やかな風に乗ってやってきた、かすかな潮の香りが胸一杯に満たされる。
今日はオレの誕生日で。
美鈴と待ち合わせをしている公園に向かっているのだ。
お互いの家が近いというのに、どうしてわざわざ待ち合わせをしないといけないのか、いまいち納得がいかない部分もあるのだけど。
のんびりとしたペースで歩きながら、何気なく腕時計を見てみる。
待ち合わせの時間までは、まだ一時間近くあるようだ。
少し家を出るのが早すぎるような気もするけど、たまには公園のベンチでぼんやりと日向ぼっこをするのも悪くはないだろう----あまりガラでも無いような気もするが。
オレは、人を待つことはともかくとして、人を待たせる事が好きではなかった。
だから、誰かと待ち合わせをする時は、待ち合わせの時間に遅れない為にも、出来るだけ早く家を出るようにしているのだ。
そんなことをぼんやりと考えながら、ゆっくりとした足取りで人気の少ない公園の中を、遊戯具やベンチのある広場の方へと歩いていくと、前の方から歩いてきていた綺麗な女性がオレの顔を見て立ち止まり、にっこりと微笑んだ。
「あら、裕也くんじゃない。お久しぶり」
腰まである黒く長い髪が風に煽られて、ふわりと舞い上がる。
だけど、それが誰なのか解らなかった。
少なくともオレの名前を呼んだということは、知り合いなのだろうか?
その女性はオレの訝しげな視線に気が付いたのか、急にくすくすと笑い出した。
「あら、私の事がわからないの?裕也くんって案外薄情なのね」
聞き覚えのある声、そして、見るからに気の強そうな真っ直ぐな瞳。
「……まさか、鈴香姉ェ?」
「その、まさかよ」
鈴香姉ェはそう言うと、わざとらしく大きく肩をすくませた。
「だって、鈴香姉ェはこないだ髪をばっさり切って茶髪にしたって、美鈴が----」
オレの反応がよほどおかしかったのか、鈴香姉ェは今にも吹き出しそうだ。
「ああ、これ。ウィッグよ」
「ウィ……?」
「ウィッグ。言ってしまえばつけ毛ね」
「つけ毛?」
「ええ。今度、知り合いのお偉いさんに合う用事があって、ね。その時にブリーチしたままの髪だとちょっとまずいでしょ」
「ああ」
「それで、その時はカツラをつけるつもりなんだけど、無意識に出る癖なんかもあるしね。いきなりロングヘアにしてボロが出たらまずいから、今から慣らしておく為にもウィッグをつけているのよ」
「……なるほどね。色々と大変なんだな」
「まぁね、でも生活の糧を得る為には必要なことなのよ。----それより、裕也くんは今から待ち合わせ?」
「ああ、美鈴と待ち合わせしてるんだ。誕生日プレゼントを渡したいから公園で待ってろって……何で知ってるんだ?」
「昨日、電話で美鈴ちゃんから聞いたのよ。明日はケーキ焼くんだって張り切ってたわよ」
「でもさ、プレゼントったって直接持ってくるなり、オレが美鈴の家に行けば済むことだろ。なのに、なんでわざわざ待ち合わせなんてしないといけないのかわからねーんだけどな」
オレがそう言うと、鈴香姉ェはくすくすと笑い出した。
「裕也君って、良い意味でも悪い意味でも、昔から全然変わってないのね」
「……?」
「あのね、待ち合わせをしたのは、美鈴ちゃんが女の子だからって事」
----美鈴が女の子だから?
なんで、そんな当たり前の事を言うのだろうか。
「ま、裕也くんは女心をもう少し勉強しなさいってことよ」
「女心ねぇ----」
「そうそう、プレゼントは何貰っても、絶対に手放しで喜んであげなさいよ。それが贈る方にしても一番嬉しいんだから」
「ああ、分かってるって」
しばらく鈴香姉ェと、そんなとりとめの無い会話を続けていたら、美鈴が公園の入り口のあたりに立っているのが視界に入った。
「おーい、美鈴ー!」
だけど、オレが声をかけた時には何故だかきびを返すように背中を向け、来た方へと最初は足早に、やがて、駆け出すような勢いで去っていくところだった。
「一体どうしたんだ、美鈴のやつ」
「何か忘れ物をしたのかしらね。しばらくしたら戻ってくるかもしれないし、もう少し待ってみましょう」
単に忘れ物を取りに行っただけなら、十分もかからないだろう。
だけど、それから一時間ほど待ってはみたものの、美鈴が戻ってくる気配はこれっぽっちも無くて。
何となく、会話も無いままに重苦しく流れていく時間がもどかしかった。
「オレ、美鈴の家に行ってみるよ」
「本当に、どうしたのかしらね。私はこれから用事があるから一緒に行ってあげられないけど、何か理由があるのかもしれないし、頭ごなしに怒ったりしないでちゃんと話を聞いてあげないとダメよ」
「ああ、わかった」
だけど、美鈴がわざわざここまで来て引き返して行く理由。
オレにはそれが一体何なのか、いくら考えてもこれっぽっちも思い浮かばなかった----。
来るときは歩いて上ってきた坂道を、駆け足で下ってゆく。
時間の経過とともに、美鈴がどうして戻ってこなかったのかという疑問が大きくなり、少しずつ腹立たしさがこみ上げてきた。
何か理由があるにしても、待ち合わせの場所にまで来たのだから、せめて一言ことわるくらいの事は出来たはずなのに。
そして、オレは美鈴の家の前まで来たところで、大きく息を吸い込んでからチャイムのボタンを押し込んだ。
ピンポーン。
家の中に鳴り響くチャイムの電子音。
だけど、反応がないままにジリジリと時間だけが過ぎていく。
美鈴の家から公園に行く為には、よほど迂回しない限りは今来た道を通らないといけないはずだ。例え緊急の用事が出来たとしても、わざわざ待ち合わせの場所まで来た美鈴が何も言わずにそのままどこかに行く事は考えにくい。
だから、美鈴は家にいる筈なのだ。
なのに、どうして美鈴は出てこないのか。
オレはじれったさを押さえきれずにドアを叩いていた。
ドンドンドン!
「おい!いるんだろ美鈴!開けろよ!」
とにかく美鈴に会って、ひとこと言ってやらないと気が済まない。
苛立ちはいよいよ大きくなり、オレは今まで押さえていた感情が一気に吹き出したかのように、力一杯にドアを叩き続ける。
すると、突然玄関のドアが勢いよく開いた。
「みす……」
「……何か用?」
美鈴はオレが言いかけた言葉を遮るようにして、強い口調で言い放つ。
一体どうしたというのだろうか。
こんな美鈴を見るのは、本当に久しぶりの事だ。
「……どうしたんだよ」
オレの顔を見据える冷たい瞳。
さっきまでの怒りが嘘のように引いていくのが自分でもわかった。
「……別に」
「別にってこと、ないだろ」
「……裕也くんには、関係ないもん」
その言葉を聞いた途端、一気に頭に血が上った。
少なくとも待ちぼうけを食らわされたのはオレの方で、美鈴が怒るような事なんて何一つしていない筈だ。
オレは、美鈴を押しのけるようにして家の中へと入る。
「ちょ……」
「何で帰っちまったんだよ」
強い調子で言い放つ。
「え……」
美鈴はオレの言葉を聞いて、驚いたように息を飲む。
「時間より早く行くのはオレの勝手だから、待つのは別にいーけど。なんで入り口でいきなり帰っちまうんだよ。呼び止めたのに無視するし」
だけと、美鈴は驚いたような顔をしたままで何も答えない。
オレは思わず美鈴の肩をつかんで揺さぶった。
「おい。答えろよ。何で帰っちまったんだ?何かあったのか?」
その言葉を言った途端、どん!と胸を強く押されて突き放された。
そして、美鈴は振り上げた手を一気に降り抜く。
ぱしんっ。
乾いた音が響いて、鋭い痛みが走った頬を思わず押さえる。
「な……?」
わけが分からなかった。
どうして美鈴が怒るのか。
そして、オレを叩いたのか。
「裕也君なんて!裕也君なんて、大っ嫌い!もう、帰ってよ!」
そう叫んでオレの脇をすり抜けようとした美鈴の二の腕を掴む。
「放して!」
「いやだ」
「放してってば!」
「いやだって言ってんだろ!」
「なんで……」
「わけもわからずに殴られたまんまで、はいそーですかなんて帰れるかよ!」
オレは美鈴の手を引っ張って、無理矢理に体を反転させる。
二の腕をつかんだまま、ドアに押さえつけるような体勢だ。
美鈴は一瞬泣きそうな顔をしてから、慌てて俯いた。
「……泣くなよ」
オレは頭に上っていた血を収める為に、大きく息を吸い込んだ。
そして、美鈴の腕を強く握りしめていた手の力を少しだけ緩める。
「なぁ。何があった?何で、帰っちまったんだ?」
本当に、どうして美鈴が公園から引き返したのかわからなかった。
美鈴は何故か怒っていたようだが、それについても心当たりが無い。
それに、オレが美鈴に対してした事で怒らせていたのならば、わざわざ公園まで来る事も無かっただろう。
「だって……」
美鈴はそう言って口ごもる。
何か言いたげなそぶりはあるのだけど、一体、何が言いたいのかはさっぱりわからない。
そのまま黙り込んでしまった美鈴に、オレはため息をついた。
「わかんねぇよ。オレ、鈍いし……言ってくんなきゃ、わかんねぇ。オレが何かしたか?お前が泣くようなこと、何かしたのかよ?だったら、謝るから。だから何とか言えよ」
自分の行動を思い起こしてみても、心当たりなんてこれっぽっても無くて。
本当に、どうしたら良いのかわからなかった。
何故、美鈴が怒っているのか。
何故、美鈴が公園から引き返してしまったのか。
そんな疑問符だけが、頭の中でぐるぐるとまわり出す。
頭の中で色々な事が泡のように浮かんでくるのだけど、形にならないままに消えていくようなもどかしさ。
まるで、出口の無い迷路をさまよっているようだ。
「美鈴……」
自分でも声が低くなっているのがわかった。
それでも、美鈴は何も言わなくて。
今にもこぼれそうな涙をこらえるように、唇を強く噛みしめていた。
「あれからずっと、あの公園で待ってたんだぞ。オレも、鈴香姉ェも」
そう言った瞬間、美鈴は驚いたように顔を上げた。
「鈴香……お姉ちゃん?」
「ああ。何か知んねーけど、お前が何くれても絶対手放しで誉めてやれよとか何とか色々な。……ケーキ、作ったんだろ?早起きして作るって言ってたって。鈴香姉ェが言ってた」
「お姉ちゃん……だったの?」
「……あ?」
一体、何を言っているのだろうか?
「あの人がお姉ちゃん?だって、だって、髪……」
「ああ」
オレは肩を竦める。
「良く知らねーけど、今度、茶髪とか嫌いなお堅いヤツと会う用事があるんだと。で、後でボロが出ないように、今から長い髪のウィ……ウィ……なんだっけ、えぇと……とにかくカツラに慣れるのに付けてるとか言ってたぜ?」
「そ…だったの……」
「……美鈴?」
「あ、私……あの人がお姉ちゃんだとは思わなくて、その……」
呆然としたような美鈴の表情。
そして、少し青ざめていた頬が一気に真っ赤に染まった。
「な……え?おま……まさか……」
----まさか。
いや、美鈴ならありえるかもしれない。
確かにオレも鈴香姉ェと会った時に、それが一瞬誰なのかわからなかった。
それは、鈴香姉ェは長かった髪をばっさり切って茶髪にしたと、美鈴に聞かされていたからだ。
でも、いくらなんでも美鈴は鈴香姉ェの従姉妹なのだ。
たとえ髪型が違ったとは言え、その従姉妹の顔がわからないとは----。
だけど、青くなったり赤くなったりしている今の美鈴の表情を見る限りでは、オレの推論はおそらく当たっているのだろう。
元々、美鈴は天然だとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
怒りを通り越して、一気に笑いがこみ上げてくる。
オレは、こみ上げてくる笑いをかみ殺すようにして、ひとことだけ言い放った。
「ば〜か」
「……う」
目を白黒させて、何も言い返せない美鈴。
「ほんと、ドジだよな、お前」
「あぅ」
「自分の従姉妹にヤキモチかよ?」
「……だって」
「ば〜か」
「ふ……ふぇぇ」
よほど恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして何も言い返せない。
オレはそんな美鈴が可愛くて、そっと頭を胸に抱えるように抱き寄せた。
「ま、気づいてやれなかったオレにも、少しは責任、あんのかな。……砂粒ぐらいはな」
「裕也く……」
「だから、いきなり帰っちまったことは、ナシにしてやる。けど、そのままオレ、ずっと待たされたんだからな。その分はキッチリ償って貰わねーとな」
美鈴の頭を軽く撫でてから。
「ケーキ、あるんだろ?」
そう言って体を離し、美鈴の顔をのぞき込む。
だけど、美鈴は更に身を縮こまらせて言った。
「ごめん……食べちゃった」
「……なに?」
「だって、その……もう、必要ないって思ったし、お腹空いてたから……」
「お前……なぁ」
----だからって、普通、プレゼント用のケーキを自分で食べるか?
そのケーキがどれくらいのサイズのものかわからないけど、少しくらい残っているだろう。
そう思い直して、オレは靴を脱いで玄関へと上がった。
「裕也君?」
「ケーキ、お前の部屋か?」
「え?あ、うん。そうだけど……」
「残骸くらいは残ってんだろ。行くぞ」
「え……あ、ちょっ……」
美鈴の腕を取ったまま、引きずるように部屋まで連れてきたのだが、テーブルの上に無惨な姿をさらしているケーキを見つけ、オレはため息をついた。
「ほんとに、残ってねーな」
「だから、食べちゃったんだって……」
「しょーがねぇな」
そう言って、ケーキの箱にちょっとだけついていた生クリームを指で掬い取り、ぺろりと舐める。
「……ん?あんま、甘くねーのな」
「だって、裕也君、甘いの苦手じゃない」
そういう心遣いは嬉しかった。
確かにこれなら、いくら甘いものが苦手なオレでも結構な量を食べられそうな気がする。
その分、少し残念な気はするが。
「そっか。……ん。上手いじゃん。今度、また作れよな、これ」
「え……」
「なんだよ。ヤなのかよ?」
「う、ううん!」
ぶんぶんと勢いよく首を振った美鈴の表情があまりにも面白くて、オレは思わず笑みをこぼしてしまう。
「じゃ、作れよな」
「うん!」
嬉しそうな美鈴の顔。
怒ったり泣いたり喜んだり本当に忙しいな。
そんな嬉しそうな美鈴の顔を見ていると、いたずら心がムクムクとこみ上げてくる。
オレは出来るだけ冷静な声を装って言った。
「……これで、残りは一つだな」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食らったような美鈴の顔。
「もう忘れたのかよ?……これ。理由もなく殴られたんだぜ、オレ」
オレは、まだ少しだけ熱を持っている頬をゆび指す。
きっと、くっきりと手形がついている事だろう。
美鈴は思い出したように、一気に顔を強ばらせた。
----本当に、感情がストレートなヤツ。すぐに顔に出るのな。
オレは、思わずこみ上げてくる笑いをかみ殺した。
「ご、ごめんなさい……痛かった、よね?」
「当たり前だろ。殴られたんだぜ、思いっきり」
出来るだけまじめな表情をしてから、小さく肩をすくませる。
「ま、お前の力じゃ大したことはねーけど」
そう言って、オレは首をちょっとだけ傾げた。
「これのお返しには、なにくれる?」
「う……」
まるで、迷子の子供のように困った顔をする美鈴。
そして、大きく息を吸い込むと、覚悟を決めたのか小さく呟いた。
「……いいよ。殴っても」
----その言葉を待っていたのだ。
オレは、出来るだけ感情を出さないようにして、ぶっきらぼうに言い放つ。
「よし。じゃあ、目ぇつぶって歯をぐっと噛みしめろよ」
そして、オレはゆっくりと手を振り上げる。
「う、うん」
やっぱり少し怖いのか、肩が小さく震えている。
オレが美鈴に対して、絶対にそんな事ををするはずが無いのに。
美鈴はオレの悪企みに気づかないまま、疑いもせずに目を閉じた。
今回の喧嘩は美鈴の勘違いが原因なのだから、これは、ちょっとしたお仕置きだ。
「行くぞ」
「うん……!」
さて、二人にこの後、何が起こったのか?
それは皆様のご想像にお任せするとして。
二人の最後の囁きをお聞かせするといたしましょう。
「……ごめんね。プレゼントあげられなくて。来年は、ちゃんとあげるから」
「もういいって。……それに、プレゼントよか欲しいもん、あるしな」
「裕也君?」
「今度は、勘違いして逃げ出すなよ」
「うん……。――ね、裕也君」
「ん?」
「……お誕生日、おめでとう」
「……ありがとう」
Happy Happy Birthday For Little Lovers.....!
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