「冬と言う季節の一つの情景」


 一晩降り続けた雪が、街一面を白く染め上げていた。
 まだ、小学生の妹が「おねえちゃん、雪だよ、雪!」とはしゃぎながら六時前に私を起こしたものだから、寝不足もいいところだ。
 それでもこの都心部で、積もるほどの雪が降ると言うのは確かに珍しい事だった。
 カーテンを開けると、朝日が白い雪に反射してまぶしい程だ。
 雪化粧された街並みは、いつもと違う雰囲気で私を迎えてくれるようで、少し安らいだ気持ちになれたのは、私の根が単純なせいだからなのだろうか?
 ダイニングキッチンの方へと降りて行くと、母が朝食の用意をしている所だった。
 フライパンを片手に、目玉焼きでも作っているのか、母は私の方をちらりと見てから言った。
「あら、理香、おはよう。今日は早いのね」
「うん、おはよう、母さん。なんかね、雪が降ってるって言って、友香に叩き起こされちゃって」
「たまには早起きするのも、いいものよ」
 私は母の言葉に軽く相槌をうちながら、洗面台で顔を洗う。
 冷たい水が、少しばかりの眠気を飛ばしてくれるようで心地好かった。
 ファンヒーターの前で丸くなっている猫----ルナを踏みつけそうになって、あわてて足を引いたけど、少しバランスを崩して、転びそうになる。
「ったく。ルナはいつも邪魔なんだから」
 なんとか体勢を立直しながらも、ルナに悪態をつくが、そんな言葉が解っているのか、いないのか、ニャアと軽く鳴いてテーブルの下へと潜り込んで行った。
 私が母の入れてくれた熱いコーヒーを、なめるようにして飲んでいると、玄関の方から雪まみれで、勢い良く友香が飛び込んで来た。
 厚手の服を何枚も重ね着しているのか、まるで雪だるまのようだった。
「寒い!」
 私は、そんな友香の姿を見て、吹き出しそうになるのを必死に堪えながら、焼きたて、と言うよりは、焼き過ぎのトーストを噛り、温かいコーヒーを胃の中へと流し込む。
「ほらほら。友香も食べるんでしょ? 早く手を洗ってらっしゃい」
「ねえねえ、おねえちゃん。お庭に小さいけど雪だるまつくったから、後で見てね」
 友香はそう言うと、洗面台の方へと駆け出してゆく。
「雪だるま、か」
 私も、昔はあれほど無邪気な時期もあったのだろうか?
 記憶というものは、あまりにも曖昧で、過去に遡れば遡るほど、本当にあった事なのか、そうでないのかすら解らなくなってしまう。
 私は少しぬるくなってしまったコーヒーを飲み干すと、外に出て見る事にした。

          ★

 少し厚手のセーターの上に、コートを羽織っているのだが、風が冷たすぎて痛い程だった。
 庭、と言うには狭すぎる空間を見渡すと、とても小さな、膝程の大きさもない雪だるまがあった。
 それは、少し不細工だけど、愛敬のある顔立ちをしていて、どこか懐かしい感じがした。
 軽く触れると崩れてしまいそうな、危うい均等を保っているようで、私はその雪だるまに触れるのをためらっていた。
「おねえちゃん、どう?」
 朝食を済ませてきたのか、いつのまにか友香が後ろから声をかけてきた。
「うーん。六十点ってとこかな」
「えー。どうして? 友香一生懸命作ったんだよ」
「ちょっと、小さ過ぎるもん。もう少し大きな雪だるま、お姉ちゃんと作らない?」
 少し曇りかけていた友香の顔が、パッと破顔する。
「うん!」
 友香は必死で手の中で雪を丸めようとしているけど、固まる前に潰れてしまう。
 私は笑いながら、固めた雪を転がして、少し大きめの雪の塊を作ってあげた。
「おねえちゃん凄い!」
「友香もやってみて」
 小さな掌で、一生懸命に雪を転がす友香に、昔の自分を見たような気がした。
 そうして出来上がった雪だるまは、大きさでは最初の雪だるまには負けないものの、不細工さも上回っているようだった。
 私と友香は、お腹を抱えて笑い、そして、最初の雪だるまの横へと、大きな雪だるまを並べてやった。
「こうやってみると、姉妹みたいだよね」
「うん。友香と、おねえちゃんだね」
 そう言うと、私も友香も、涙目になりながら、ひとしきりに笑った。
 寒さも、もう感じなかった。
 心なしか、雪だるまも軽く微笑んでいるようにも見えた----。

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