「白いオーロラ」


 ゲレンデは最悪のコンディションだった。
 素肌を切り裂くような、冷たく、強い風が吹きしきり、激しい雪が頬を叩き付ける。
 雪と風が強すぎる為か、二人乗りの高速リフトは私を降ろしてすぐに停止した。
 こんな天候だからなのか、ただでさえスキーヤーの姿の少ない、狭く、急な斜面のコースは、見渡す限り、人影は認められなかった。
 圧雪された上に新雪が積もり、強い風に煽られた雪が斜面の下から吹き上げてくる。
 それは、まるで白いオーロラのようにうねり、時間と共に少しずつ表情を変えていくようにも見えた。
 辺りは激しく吹きつける風以外、何の物音もせず、ここには自分独りしかいないという事を、嫌と言うほどに感じさせる。
 私は激しい鼓動を落ち着ける為に、目をつぶり、深呼吸をした。
 滑りきる自信がある訳ではなかった。
 この、深い雪の中、もし、転倒して怪我をしてしまえば、無事に麓まで降りる事が出来るのかもわからない。
 だけど、不思議と恐怖心も高揚感もなかった。
 ただ、滑りたいという欲求だけが、身体の中を駆け巡る。
 そして、私は軽く目を開けて、四十度近い急な傾斜の中へと飛び出していた。

          ☆

 激しい雪が顔を叩き付け、フェースマスクを着用しているのに、冷たいというよりは、痛い程に感じられる。
 強く吹雪いているので、元々ゼロに近い視界は、スピードが増す度にどんどんと狭まり、身体を叩き付けるような風の音が次第に激しくなっていった。
 今、私は白いオーロラの中を凄いスピードで滑り抜けているのだ。
 視界が悪い為に、足から伝わる感覚と、勘だけを頼りに急斜面を滑りぬける。
 新雪をエッジで鋭角に切るたびに、激しい雪が舞い上がり、後方へと流れてゆく。 激しい衝撃が、板を通じて足へと伝わってきた。
 膝を衝撃がある度にバネのように屈伸させ、ストックを雪に突き刺し、膝と腰とを使ってターンをする。
 これだけの雪が降っているのだから、きっと私の描く長いシュプールは、すぐに雪に埋もれてしまうのだろうか----。そんな事をぼんやりと頭の片隅で考えていた。
 幾度か、段差になっている所で身体が宙に浮き、時折、着地でバランスを崩しそうになりながらも、必死でスキーの板をコントロールし続けた。
 やがて、視界は少しずつ開け、私の想像上のゴールが見えてくる。
 そして、私は姿勢を低くして、一気に麓まで滑りぬけ、想像上のゴールを通過する。
 その瞬間、私は信じられない程の充実感を感じていた。
 誰もいないゲレンデから、激しい拍手と喝采が、何所からともなく聞こえて来るような気がした----。

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