「緑色の風」
緑色のゆるやかな風を感じていた。
この街の空はどこまでも果てしなく広がっている、なんて事はなくて。
胸一杯に吸い込む空気もどこまでも澄んでいる、なんて事もなくて。
だけど、緑はひっそりと街の片隅で息づいている。
それは、車の排気ガスにまみれながら、人工的に枝葉を切り揃えられながら。
それでも、幹を空の彼方へと少しずつ伸ばし続けていて。
葉は、優しげな風に揺らめいていて。
根は、地面を覆っている、固いアスファルトにも負けないように張り出していて。
そして、太陽の日差しを浴びて、少しだけキラキラと輝いている。
そんな、ちっぽけな緑を見ていると、何故だか少しだけ心が和むような気がした。
緑色の風は、きっと、僕たちを優しく包み込んでくれているのだろう。
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「想い」
僕は空を眺めていた。
蒼く、透き通るように澄んだ高い空を。
やわらかな風は体を包み、暖かな日差しは凍てついた心を少しだけ溶かしてくれる。
少しだけ寂しそうに俯いている君の頬に触れた時、僕は、始めて君が涙を流している事に気が付いた。
『アイシテイルヨ』
言葉は空虚に響き渡り、想いは口にする度に意味の無い記号にかわっていく。
君は、僕がそばにいても独り。
僕は、君さえいれば他に何もいらないというのに。
だけど、言葉だけでは、僕の想いは君には届かなくて。
そして、強く抱きしめても、僕の気持ちは君には伝わらなくて----。
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「水」
水が欲しい。
乾いた喉を潤す水が。
水がほしい。
口の中がカラカラに乾いているのだ。
みずがほしい。
空はどこまでも薄暗く、それでも雨が降る気配なんてこれっぽっちも無くて。
ミズがホシい。
かすかに動く腕を、精いっぱいの力で空へと伸ばして。
ミズガホシイ----。
だけど、僕の願いは空に届かない。
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「空虚」
君は何を見ていたと言うのだろうか。
ちっぽけな、白いだけの空間の中で、何も写さないモニターを眺めながら。
君は何を感じていたと言うのだろうか。
暗い、腐敗臭の漂う街の中で、迷路の様な細い路地をさ迷いながら。
解らない、解らない。
何もかもすべてが、言葉にならないまま消えていく。
ただ、理解したかったのに。
君が見ていた、その景色を。
君が感じていた、その感覚を。
だけど、僕は、何も見えず、何も感じる事ができないままで。
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「水鏡」
湖面に写る影を見て、小さくため息をつく。
やつれた頬に、腫れた目の見知らぬ人影。
野草の茂る沿岸には、小さな石の上を滑る水と光。
空に浮かぶ、灰色の雲と、小さな小鳥たちの群れ。
全てを写す水鏡と、見知らぬ自分と、見知らぬ世界。
帰りたい……どこへ? 帰れない……今はもう。
浮かび上がる、見知らぬ記憶の奥深くに眠る影、そして、光。
ただ、忍び寄る時間に脅えながら、ただ、浅い眠りにつく日々。
そして、繰り返される、見知らぬ日常----。
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「空高く」
高く、高く、空高くへと飛び立つ事を夢見続けていた。
どこまでも続く、青い空の彼方へと続く一筋の飛行機雲を目で追いながら、ぼんやりとした意識だけを強く意識して、ちっぽけな自分を見下ろしていたい。
太陽の強い光だけが、心の奥底のわだかまりを少しずつ溶かしていくように、胸の中いっぱいに空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出してゆく。
芝生の少し冷たい感触と、太陽の暖かさのアンバランスさを少し楽しみながら、軽く目を伏せた。
空へと高く飛び立とう。
意識だけを、自分の内なる世界の、広い、広い空の彼方へと。
青く澄んだ空高くへと。
体の力を全て抜き去り、ふわりと漂う感触を楽しもう。
高く、高く、どこまでも高く飛び続け、風に乗って漂い、淡い光の中を泳ぐように。
意識と、空と、風と、夢を保ち続けて。
漂い続けよう、いつまでも、空の彼方へと。
流されよう、全てを風だけにまかせて。
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