「あかいろ」
視界が真っ赤になった。
何が起こったのかわからないまま、倒れ込む。
視界の端を何かがよぎる----一体何がおこったのだろうか?
不思議と、痛みも無く、衝撃だけが体を襲ったような感じだった。
赤く染まった視界はぼんやりと焦点が合わず、意識は朦朧とする。
どこまでも、深く、アクリル絵の具で染められたような不透明な赤色。
ゆっくりと体が浮き上がる感覚とともにやって来る、言い様のない幸福感。
心から幸せだった。何も感じることのないまま。離れて行く私から。
ただ、あかいいろと共に、ゆっくりと、ゆっくりと、私はとても深い眠りに落ちていくのだ----。
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「みずいろ」
それは、淡い水色だった。
微かな、ほんのりと染められた水色の空間。
とても心の落ち着く場所だった。
少し暖かみを持った冷たさと言うのだろうか?
心に染み渡るように、少しずつだが私を安らげてくれる。
わたしは、独り。いつまでも独り。
だれかが側にいても独りだった。
その傷だらけの心を、少しばかり癒してくれるように、私の全てを包み込む水色の空間。
そんなに広すぎず、狭すぎず、丁度いい感じだった。
何もしないまま、ただ時間だけがゆっくりと流れて行き、私の心を解き放つ。
みずいろの空間。少しだけ憧れていた事柄も、何もかもがいらなくなる場所。
人だらけの街も、複雑な人間関係もないままに、ぼんやりと宙を眺めている。
ふと、少しだけ空に近づけたかな……と、心の片隅で思った----。
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「羽ばたく」
空を自由に泳ぎ回る鳥達。
風に流されて行く、ちぎれたコットンキャンディのような小さな雲を眺めていた。
時に大きく旋回し、そして、軽く羽ばたく。
青空と言う海の中を飛び跳ね、雲と言う波の中を気ままに行き来する。
そして、輝く星の滴を背に受けながら輝きを放っていた。
見える物を、見たままに、感じた事を感じたままに受け取りながら、ゆるやかに、優雅に羽をのばす。
高く、高く、広大な空へと飛び立つ。
地上を見下ろしながら、何処までも続く空の先を見続けながら。
何かに惹かれるように、何かを求めるように----。
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「道草」
学校の帰り道、通った事の無い路地へと入り込む。
見たことの無い、色々な景色。小さな冒険。
ただ、道を一本外しただけなのに、まるで知らない街に来たような感覚。
そして、小さな恐れ----僕は家に帰れるのだろうか?
好奇心と、恐怖心が入り乱れる。
段々と日も暮れて来て、薄闇に包まれた街並みは、少し無気味で、少し新鮮だった。
やがて、見慣れた道へと僕はたどり着き、小走りで家へと帰る。
それは、やがて忘れてしまうだろう、小さな感情。小さな記憶----。
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「兎の首吊り」
ロープにぶら下がった兎が一羽、寂しそうに死んでいた。
「きっと、首吊り自殺したんだね」
「兎が首吊り自殺なんてする筈ないじゃないか。きっと、飛び跳ねてて、誰かが仕掛けた罠に掛かったんだよ」
「ううん、きっと、死にたかったんだ。この兎は。だって、こんなに幸せそうに、死んでいるじゃないか」
「でも、僕には、幸せそうには見えないよ。それに、死にたいから、死ぬ事なんておかしいよ。死ぬことによって、その兎はこの世界から逃げられたかもしれないけど、その兎を可愛がっていた人は哀しむんだよ」
「だけど、死んだ兎はもう何も語れないし、感じないよ。例え誰が哀しんだとしても」
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「逃げ水」
力一杯に抱きしめようとする。
するりと、腕の中からすり抜ける君。
後に残るのは、君の香りだけ。
強く抱きしめる。
ただ、何も無い空間を。
軽く嘲るように、君は僕に微笑みかける。
言葉は、何も出ない。
君は、逃げ水のように、追いかければ、追いかける程離れて行く。
抱きしめたい。ただ、抱きしめたい。
言葉は何もいらないから。
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