「黄金のテントウムシ」
著作者:花島賢一



「おい」
 井戸端会議の最中の突飛な声に皆が振り向く。
 そこには柄に似合わずサングラスを掛け葉巻をくわえた一匹の
 テントウムシが自慢そうに固い羽を大きく広げて見せびらかしていた。
「どうだ?」
 勝ち誇った様な態度は他のテントウムシの顰蹙をかい全匹が無視をしていると
「判るだろう、この色、この艶」
「どしたの?、その色、ラックさん」
 ななほしテントウムシのライちゃんがちっちゃな目を大きく見開いて、ばかげた
色に変わった羽をしみじみ見渡した。
「えへん」
 咳払いを一つ、無理に出して自慢げに誇張する。
「俺はテントウムシの王様だ!」
 驚きの皆は顔を見渡しては反論し始めた。
「何でお前がテントウムシの王様なんだ?」
 ふたつほしのクイがしゃがれた声をさらに度合いを増してしゃべった。
「あん、お前!、これが目にはいらんか?」
 不満そうに目を細めて嫌みな奴を拝見するがごとく、ちっちゃな足を羽にこすりつけた。
「きんだ、金!」
「金?」
「そうとも、金だ!」
 皆が不思議そうにラックの金色になった羽を見渡し、ため息をつく。
 ひょうきん者のトイが足を羽にこすりつけて感触を確かめた。
「これ、本物の金?」
「そうともよ」
 さらに胸を張り誇らしげに答えると
「だったら、これを売ると大金が入るね」
 皆はさすがはトイだと苦笑いを浮かべた。
「ば、馬鹿な事を言うな、これは売り物じゃない」
 慌てて、羽を大事そうにたたんでしまいこんっだラックに
「トイさん、お金は人間が物を買うのに使うので私達テントウムシには意味ないと思うけど?」
「そ、そうよ。俺達テントウムシには縁がない物よ」
 足をライに掛け気軽な仲間意識に出ると彼女はラックを睨んだ。
「で、何で羽がそんな色になってしまったんだ?。ラック」
 クイが腕組みをして納得のいかない顔で話す。
「それが俺にも判らんのだ。ある朝起きてみたらこんなになっていた」
「突然にか?」
「そうとも」
「ふ〜ん。それが何で王様と関係あるのだ?」
「そこだよ、クイくん。俺は選ばれたのだ」
 話が核心に触れてきていっそうテンションがあがってきた。
「選ばれた?」
「そう、神にね」
「神に?」
 皆が一斉に驚嘆した。
「ある朝起きてみたら羽が金色になっていた。これは神の仕業だ。それしか考えられな
い」
「それが何で王様と関係あるのだ?」
 しゃがれた声をいっそうしゃがれさせて話す。
「判らんやつだな、じゃ聞くが何で俺の羽が金色になったんだ?」
「・・・・・・・」
「ほれみろ、やっぱ俺が神に選ばれて王様になるのだ」
「いや、しかし、、、、」
 しゃがれ声が擬音に変化した時。
「あの〜」
 それまで黙って聞いていたエットがごますりの手模様でブレークしてきた。
「何だ、エット。何か不満でもあるのか?」
「いえ、少し気になってる事があって?」
「当然、おれが王様になっても例外は認めないぜ。お前も王様の命令は聞くのだ!」
「はあ、王様なら命令は聞きますが、、、いや、そんなことよりつまらんことですが」
「ええい、まどろっこっしいな〜、早く話せ」
「あの〜、ラック王様」
「ラック王様。いいね〜、何とも言えない響きね、ラック王様。エット、お前なかなか
良いじゃないか、大臣に命名してやる」
「あ、有り難う御座います。エット大臣。良いですね響きが」
 クイが話にならんと首を振る。
「エット。そんなことより気になってる事とは何だ?」
「あ、そうそう。王様の食事は何を食べるんです?」
 クイがあきれ顔になった。
「もったいぶって聞くことかよ。そんなこと」
「ちょっと待って」
 ライちゃんがクイを制止して話を続ける。
「そうよね、私達一般庶民はアブラムシを食べるけど王様は違うわよね」
 この時とばかり嫌みな薄笑いを浮かべたクイが追い打ちをかけた。
「で、何を食べるんですか。ラック王様」
「そ、それはですね、、、」
 困惑気味のラックに
「毛虫です!」
 ひょうきん者のトイが自慢げにしゃべった。
「けむし!」
 皆が一同に顔見つめ合う。
「そう、我々テントウムシは人間に協力してます」
「人間にどう協力してるの?」
 不思議そうにエットがトイに訪ねた。
「我々は植物を害する寄生虫を食べて人間の観賞用植物とか野菜などを助けています」
「それが毛虫とどう関わり合うんだ?。トイ」
「それは、人間に嫌われていて植物を害してると言えば、後は毛虫しかいないでしょう。
クイくん」
 皆はさすがにトイだと感嘆していた。
「それではラック王様。毛虫を食べるとこを見せてください。あのでかい人間の嫌われ
者の毛虫を食べるとは知りませんでした。さすがテントウムシの王様」
 あげ足を取った様な嫌みな言葉に返す言葉がなく途方に暮れていたラックに
「でも、あのでかい毛虫をどうやって食べるの?」
 エットが頭を掻いた。
「そこですよ。羽が金色なのは」
 ちっちゃな足を腕組みして皆がトイに注目するのを待って
「羽を広げ、日の光を反射させて毛虫の目を眩ませるんです。そして一瞬ひるんだすき
に急所を咬む」
 皆は黙って相づちをうつ。トイの頭の良さに誰もが返答しなかった。ただ一匹ラック
を除いては。
「さ、さて、みんなに羽を見せたことだし。そろそろ、、、」
「ラック。あそこを見ろよ」
 クイの足先には全体けむじゃらな20倍以上の大きな毛虫が葉っぱを食べていた。
 皆がはやし立てるようにラックを見つめる。
「まさかテントウムシの王様が皆の期待に反して逃げることはないよね。それに王様で
ある証明にもなるし」
 クイの言葉にラックは神に選ばれた王様と言ったことを後悔した。
 ラックは覚悟を決めた。
「わ、分かった。王様である証明を見せよう。しかし、私が王様である証拠を見せたら
みんなは私の言う事を聞くんだぞ。異存はないね?」
 皆は大きく頷いた。
(ああ、言うじゃなかった。毛虫なんか食えるわけねえじゃないか)
 ラックはぶつぶつと独り言を言い出した。
「ラックさん、どうしたの?。何いってるの?。顔色悪いわよ」
 ライちゃんが心配そうに顔を覗き込む。
「な、なにね。じゅ、呪文だよ」
「呪文?」
「そう、王様はでかい相手を倒すとき呪文を唱えて戦うんだ」
「ほうテントウムシの王様は魔法を使えるんだ?。偉いね」
 クイが中傷する。
「やめなさいよ、クイさん。少し言い過ぎよ」
(嫌みな野郎だぜ、クイは。ライちゃん有り難う、少し気が楽になった)
「ラックさん。本当に大丈夫?」
「ああ、任せて、、、。」
 気のない返事にエットとトイも心配になってきた。大きくため息を吐くと毛虫に向か
って歩き出した。
「なんか、酔っぱらった人間みたいによたってないかい?」
「本当だね。大丈夫かな?」
 エットとトイが顔を見つめ合って、今更ながら自分たちの言った事を悔やんだ。
 ラックは毛虫の目の前まで来ると羽を大きく広げ、日の光を集めて毛虫の頭に反射さ
せた。
 次の瞬間、毛虫は眩しさに目が眩み動かなくなった。
「わあ、凄いわ」
 ライちゃんが声をあげると皆が一斉に拍手した。
 調子に乗ったラックは毛虫の後ろに飛び乗り頭へと移動した。しかし、毛の毛深さに
足を取られて横倒しになって毛の間にはまり込んでしまった。
「あらら、大丈夫かな?」
 エットが頭を掻いた。
「ああ、判った!」
 いきなりの大声に皆が驚き、エットを睨む。
「何だよ、いきなり。何が判ったんだよ」
 胡散臭そうにクイが答えた。
「いや、ただ、ちょっと気になってて、つまらんことですが」
「またそれか、何がつまらんことだ?」
「いや、何ね。ほら、俺達の名前ですよ」
「名前?、クイ、エット、トイ、ライ、、、、」
「いや、その名前でなく通称呼ばれてる俺達の名前」
「、、、、、、テントウムシ?」
「そうそう、その名前」
「テントウムシがどうした?」
「ほら、ラックの状態を見て、、、。転倒無視?。みんなが俺達を無視しても当然かな
って?」
 クイの頭に青筋が2,3本走った。
「てめえ!、この場に及んで、、、」
「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。早くラックさんを助けないと」
 ライちゃんが2人の間に入って急を告げた。
「あ、そうだラックは?」
 毛虫の毛の間にはまり込んで身動きできなくなっている。皆が一斉に駆け寄った時、
それまでじっとしていた毛虫が動き出した。体を捻りラックを睨みつける。皆が息を呑
む。
 反動をつけた毛虫はラックに体当たり。固い頭がラックに当たりピンポン玉のように
空に投げ出され地面でバウンドして皆の所に落ちてきた。
「ラック大丈夫か?」
「ああ、ここは天国?」
「何いってるの?、体は何処か痛くないの?」
「ああ、僕の花嫁」
 すかさずクイが蹴りを入れた。
「痛い!」
 みんなが一安心した時、白く大きな物が覆い被さって来てラックを掴んだ。
「わあ、助けてくれ。助けて!、お願いだやめてくれ!」
 一瞬の出来事で皆は何が起こったか判らず、ただラックの叫び声がむなしく響きわたっていた。
「お母さん、さんざん捜してたイヤリングのテントウムシがここにあったわ」
 皆は女性の耳に動かなくなったラックを暫し呆然と眺めていた。
「ラックはやはり神に選ばれたんだ」
「何いってるんだ?、トイ」
「クイ、あいつは神に選ばれたんだよ。ただ、王様でなく人間の女の飾り物として」
 遠ざかって行くラックを皆は黙って見送っていた。


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