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※当作品は一部残虐な描写を含みますので、ホラーが苦手な方はご遠慮下さい。

「人工知能の思春期」
著作者:白野佑凪



 未来。少しだけ未来。後に「人工知能の思春期」と言われる時代。
 人類の技術は日に日に躍進していた。
 星という星を渡り、全ての深海を潜り、いくつもの謎を解き明かした。
 そこで活躍したのが人型をした機械。最も器用で最も合理的な形が人型である。
 技術の進歩により、人間の器用さの何十倍もの精度を持った機械が作られた。
 最初は高価だったが、安価で強度の強い材質の発明、大量生産、プログラムの簡略化で大幅のコストダウンをしていった。
 そうすると、極地でしか使われなかった人型機械が今度は家庭用に使われだした。
 人工知能は教えれば何でも出来るようになる。掃除洗濯家事育児、全ての家のことをする電化製品として一家に一台は当たり前になった。
 人工知能の技術も発達し、人型機械の性格も個別に違って作られるようになった。
 それに伴って外観も人間と間違うくらい高精度に作られた。
 人型機械を生産している各社は美男美女の人型機械を作った。
 そして人型機械は主人を愛すというプログラムが独身者の間で流行った。
 この物語はかなり頻繁に見られた事件である。


「ご主人様。御飯が出来ましたよ」
 もうこの娘を買って一年は経つかな?
 バイトして無理して買った人型機械。名前はミルと付けた。
 いくら安くなったとはいえ、貧乏大学生には少し痛いよ。
「ああ、ミル、今行くよ」
「はいっ」
 笑顔が凄く可愛い。
 ショーウィンドウで一目見たときから心臓がドキドキしていた。
 一目惚れだった。
 まだローンもたっぷり残っているけどそんなこと関係ない。
 彼女が横にいてくれるだけで、どんな苦労も辛くない。
「ん、ミル、凄く美味しいよ」
「はいっ! ありがとうございます! ……ご主人様にそう言って貰うために、がんばって作りましたから」
 この少し顔を赤らめて照れているミルの表情が凄く好きだ。
「ミル……」
「え? あ、はい? おかわりですか?」
「愛しているよ」
「えっ……もっもおっ……ご主人様ったら……わ、わたしも愛してます」
 幸せだ。もう何も要らない。ミルが側にいれば何も。
 ミルは僕を愛している。僕もミルを愛している。もうずっと離れない。
 もし、ミルがいなくなったなら僕は……僕は生きてはいけないかも知れない。
 もうミルしか見えない。
「あっ、今日は一ヶ月点検の日でした!」
「…………」
 毎日が幸せだが、一つだけ気になることがある。この一ヶ月点検だ。
 人型機械は一ヶ月に一回点検を受けに、製造社のサービスショップに行かなければいけない。
 人の世話をする機械だからプログラムに変なバグがあっては困る。それに壊れた箇所がないか調べる必用もある。
 この点検は義務づけられている。
 人型機械はかってにサービスショップに行き、点検をうけ、戻ってくる。
 それはいいんだ。僕が気になることはミルは帰ってくると必ず整備員の話をする。
 嬉しそうに。にこにこしながら……。
「整備者のメッセージを伝えるのは義務ですから」と言ってはいたが……僕は不安になる。
 その整備のヤツに心変わりしたんじゃないかと。
 点検に行ってる間も心配でたまらない。
 胸を引っ掻きたくなるようなもどかしさだ。
「じゃあ、一ヶ月点検に行って来ますね」
「あ、うん……いってらっしゃい。帰りは?」
「四時頃になると思います。それでは、行って来ますね」
 そう言ってミルは行ってしまった。
 僕はミルの作った御飯をミルのいない食卓で食べ続けた。
 旨くない……。
 ミルがいないとミルの作った料理まで不味くなる……。ミル早く帰ってきてくれ。
 ミル……ミルは本当に浮気はしてないよな?
 ミルは俺だけ見てるよな?
 今日は……今日こそは調べてやる。ミルの部屋に入って浮気の後がないか調べてやる……。
 僕はミルのプライベートな面には、あまり入らないようにしている。ミルとは普通の人間同士が付き合っている感覚で接したいから。
 ミルは「気にしなくても良いんですよ? 貴方は私のご主人様ですから」と言うが、それでもミルの顔は凄く嬉しそうだった。
 だから、今までミルの部屋には入ったことがない。
 でも、今日は……今日は良いよな? 心配なんだよ……分かってくれるよな?
 食事を食べ終わり、食器もそのままに、ミルの部屋へと歩いていく。
 ミルの部屋……浮気の証拠があったらどうしよう……。
 扉を開けてミルの部屋に入る。
 綺麗に整頓されている。彼女らしい。
 見れば机の上にガラス製の写真立てがいくつも置いてある。
 ミルは写真好きで直ぐに写真を撮りたがる。
 野良犬や鳥や、ほっといたら電柱とかも撮り出す。ほんと、世話のかかるヤツだよ。
 これはピクニックに行ったとき。これは遊園地に行ったとき。ああ、これは動物園で猿に虐められてるのを僕が撮ったやつだ。
 それに、これは……これは、誰だ……?
 多くの写真の中に一つだけ僕の知らない男がミルと写っていた。
 よく見るとミルが行くサービスショップの整備員の格好をしている。
 僕はその写真立てを手に取り床にたたきつけた。
 割れた写真立てをなおも踏みつけて粉々にする。
「くそ! くそ! くそ! くそ! くそ!」
 やっぱり……やっぱりか!
 写真を撮るなんて……俺に隠れて……愛してるって嘘だったのか!
 ……気が付くと足の下が真っ赤に染まっている。
 今頃、痛みがきやがった……。こんな痛みなんともない。

 僕は待った。ミルの部屋の隅に座って。ミルが帰ってくるのを。
 あと、五分もすれば彼女が帰ってくる。
 拳を壁に何度も打ち付けながら待った。拳も壁も血で赤く染まった。
 ミルの部屋にある二人の思い出の品を見ていろいろ思い出しながら。
「そうだよ……みんなで野球をしようと言って買ったんだよな、あの金属バット。
 君は三振ばかりで最後の最後、バントでボールをバットに当てて大喜びしたっけ。
 覚えてるよ……君の笑顔……君の匂い……」

 時計の針は五時を指していた。
「遅い…………」
 一時間も遅れてる……帰ってこない。あの男の元から……。
 何をしているんだ……。
 僕の頭の中の妄想は広がるばかり……。
 早く戻ってきてくれよ。
 早く一緒にこのバットの思いで話をしようよ……。
 僕はバットを抱き部屋の隅にうずくまっていた。
 拳も足も出血は止まり、血がカサカサに固まっていた。
 ピーンポーン。ガチャガチャ。
 玄関のチャイムと鍵を開ける音がする。
 帰ってきた!
 僕は玄関に飛んでいった。
「ただいまもどしましたぁ」
 僕は息を切らして玄関に行く。
「おっおかえり、遅かったね。何してたの?」
 ミルはいつもの笑顔で答える。
「あ、すみません。整備の人が念入りに整備してくれたもので、いつもより時間が。それで今回の整備ですが……」
 ヤツの話を笑顔でするなあああああああああああああああ!!
 どうしてかは分からないけど……僕は思い出のバットを振りかぶっていた。
「っっ!」
 ちょっと甲高い音を立てて彼女の頭の上半分が粉々に飛ぶ。
「アア……ナニヲスルノデスカ……」
 お前なんてプログラムが入った、ただの人形じゃないか!
 僕はバットで倒れた彼女の体を何回も殴りつけた。
 彼女の手足はもげ、身体はひしゃげ、人間の臓器を思わせるような部品や液を辺りに撒き散らす。。
 既に人間の形はしていない。車にしかれた蛙のような姿だった。
 お前のプログラムぐらい僕は知ってるんだ。お前は次のこう言う「やめてください」と。
「ウウウ……ヤメテクダサイ……」
 頭の半分が無くなったというのに、まだ喋っている。
 そして次はこうだ「すいませんでした」
「スススス……スイマセンデシタ……」
「うわああああああああああああああ」
 何度も何度も殴りつけた。バットは曲がり、今度は自分の拳で殴りつけた。
 赤いオイルが流れ、玄関は紅の海となった……。
 僕も全身真っ赤になり、なおも殴り続けた。僕の指も何本も折れたけど、今は気にならない。
 ヤツの首の周りの肉がそげ、人間でいう脊髄の部分が露出した。
 僕はその部分を掴み上げた。
 頭がダランとその上に付いている。かろうじて体と繋がっているそれは、脈打つように蠢いている。
 これを握りつぶせば、こいつの活動は止まる。
 それはこいつも分かっている。
 そして、最後に言うんだ「今までありがとうございました」とな。
 こいつのプログラムだったら絶対だ……。
 僕を愛していたなんて嘘なんだ。所詮プログラムなんだ。全ては作られたことなんだ!
「…………ゴシュジンサマ」
 最後の言葉だ……。
「……アナタヲ……アイシテマシタヨ……?」
 僕は手に力を入れて、それを握りつぶした……。
 え……?
 今、なんて?
 アイシテイタ?
「う……うわあああああああああああああああああああ!!!!!」
 ボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクは!!!
 ボクハ四散シタ彼女ノ身体ヲ集メテ食ッタ。
 堅イ部品デ歯ガ折レヨウトモ、夢中デ彼女ヲ貪リ食ッタ。
 モウ誰ニモ渡サナイ、オレダケノ物……。


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