「金縛りの家」
著作者:レムゴの魔女 



そいつは暗闇の中をさまよっていた。すごく空腹だったからである。無論、明かりも持たずに暗闇の中を歩き回るのは、普通の人間にとっては多少なりとも不便、もしくは危険であるだろう。しかしながら、そいつに限っては、まったく百八十度転換することになる。要するに、そいつにとっては暗闇のほうが、安心且つ危険が少ない。漆黒の闇の中を、時には走り、時にはゆっくりと移動する。
 すると突然、そいつの目の前に奇妙な建物が見えてきた。いや、建物というには少し大袈裟かもしれないが、少なくともそれに似せて作られたもののようだ。その中からは、微かにいい匂いが漂ってくる。
 そいつはそれに近づくと、警戒しながら中を覗き込んだ。するとそこは、すでに無数の仲間たちがたむろしていた。なんとも異常な光景だ。というのも、普段、仲間たちが集団で移動することがないからである。
 それに…、
 異常なのはそれだけではなかった。中にいる仲間たちは、ピクリとも動こうとしないのである。まるで皆、金縛りにでもあっているかのようにだ。
 尋常ではない。
 それは解っているのだが、そいつの体は、何かに誘われるかのようについつい中に入ってしまう。
 やがて、からだ全体がその中に入り込んだ。
 その途端…、
 動かない。いや、動けない。足も胴体もピクリとも動かない。まるで金縛りだ。
 こうなれば、もうもがくしかない。ここから無事に脱出できるまでもがくしかない。 力尽きるまで…。

                 *

「キャー、ねえねえ見てよ、あなた!こんなに入ってるわよ」
 女はそういうと、それを夫に手渡そうとする。
「おいおい、食事前だぞ。そんなもの見て興奮するなよ」
 男は、顔をしかめて首を横に振った。
 そんな夫を見て、女は得意げだ。
「ね、だから言ったでしょう。『ゴキブリホイホイ』もまだ捨てたもんじゃないって」


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