「行き止まり」
著作者:花島賢一
この仕事に嫌気がさしてきた。別に長年努めてマンネリになったわけではないのだが向学心に燃える若き青年が抱く夢が現実のものと大きなギャップがあることは誰もが感じる事ではないだろうか?。
さて、俺の仕事と言えばあまり誰もがやってないだろうと思うが簡単に言えば探偵である。それも映画やテレビに出てくるフリーの探偵なのだ。
仕事の内容と言えば不倫の調査や金銭トラブルの仲裁、挙句の果てはいなくなった猫探し。
俺はシャーロックホームズや少年探偵団の小林に憧れてこの世界に入った、しかし、ああ、1度で良いからカッコよく難事件を解決して名声を得たいものだ。そう、生活の方は食っていければそれで良い、なのに舞い込む仕事といえば、、、、。
廃品回収日に拾ってきたいすにもたれ込み、家具のバーゲンで特価で買った傷の付いた書斎用のデスクに足を投げかけて片手にパイプを持つ。気分は名探偵?。
「こんばんは」
こんな夜更けに来訪者とは何やら事件の様子。
「どうぞ、開いてますよ」
何が来ても動じない、それにさも名探偵のように返事にも威厳を持って答えた。直ぐに入ってきた男は帽子をとり軽く会釈をして名刺を差し出した。彼は口ひげを蓄えた中年の紳士らしきいでたち、何やら大きな事件の香りがしてきたぞ。
「中田康二と申します。実はお願い事があってまいりました」
うんうん、俺は大きく頷いた。
「はい、どんな事でも聞きますよ。あなたはお目が高い、私みたいな高貴な者を選ぶとは」
「え、いや、只開いてたもんで」
「・・・・・・・」
大きなダメージを受けた。回復呪文、または薬草が必要。
「ま、そちらの椅子に座ってください、詳しく話しを聞きましょう」
彼は腰を下ろそうと振り返ったがそこには大きく広げられたエロ本が。俺は慌てて。
「いや、困った助手だなこんなものをこんなとこに置くとは。すいません直ぐ片付けますから」
当然助手などいるわけ無いしこれも廃品回収の時に拾ってきた物だ。
彼は内ポケットから写真を一枚取りだし俺に手渡した。映ってる女学生は白のルーズソックスを履き、紺の制服を着て何処にでもいるごく普通の生徒に見えた。
「彼女の素行を調べてほしいのですが?」
「何か訳ありですか?」
駆け出しの探偵は親が子供を心配しての願い事だと考えるだろうが、俺ぐらいのキャリアーを持つ探偵になるとこの子は何か大きな、そう超能力の持ち主とか?。
「失礼ですがこれは娘さんではありませんね」
彼は目を大きく見開いた。
「良く分かりますね、実は孫なんですが」
「いや、これしきは探偵の初歩ですよ。それに彼女はそこいらの女子高生と大きく違いますね」
彼は興奮しきった顔で。
「そう、そうなんですよ。すごいですね写真を見ただけで分かるとは?」
人差し指を横に振り、得意満面の顔でさらに俺は追い打ちを掛けた。
「彼女は普通の人とは違う才能の持ち主でその使い道に困っている?」
彼は立ちあがり両手で拳を作った。
「すごい、さすが名探偵さんですね。こんな古ぼけたビルの一角にこんな探偵さんがいるとは?」
俺はコケタ。確かに汚いビルの一角にいるがそこまではっきり言わなくても。
一様事務所をかまえているが汚い椅子に傷ついたデスクだけじゃ誰もがそう思うのもしかたないことだろう。さらに名誉挽回の為、古畑任三郎の真似などして狭い事務所を歩き回った。
「う〜ん、彼女は困ってますね、何か悪い奴らにその才能を利用されそうとして。さらに、さらにですよ、それが世界戦争の引き金にもなりかねない」
「え、そこまで、そこまで大変になってるんですか?」
「そうです、誰にも出来ないその才能はおそらく世界においても数人、いや彼女一人かも知れませんね?」
「え、いや、そんな大それた才能じゃないですが、でも一様日本にいや世界にある程度名前は知られてますが?」
俺は驚いた。もう世界に名前は知られてる?。そんな有名人なのか彼女は?。
「はははあ、失礼しました。ちょっと大げさに言いましたが大して変わりはないでしょう?」
「あの、話しは変わりますが表の看板のことで”と”だけになってますが只の”戸”さんでよろしいのでしょうか?」
「いや、間が消えてまして、電気やさんに頼んでますがなにせ忙しいそうなので修理に来てないのですよ」
「なるほど、戸間探偵事務所ですね、戸探偵事務所なんて変わった名前だと先ほどから思ってまして、間が抜けてる、間抜け探偵、、、」
いやな親爺だなとこれほど思ったことはなかった。確かに金が無くて直してないが、、。
間違っても”とんま”なんて呼ぶなよな。
「私も先ほど随分悩みまして入ろうか?、入るまいか?。しかし来て良かったと思いました。彼方の自信ある態度、そして何も言わないのに鋭い洞察力、これぞ探偵!」
思わず胸を張ってしまった。いや、これほど誉められるとは。
「いや、それほどでも、ほんの序の口ですよ。ま、探偵の基本とでも言いましょうか?」
俺は机の中に置いてあったとっておきの葉巻を取りだし、彼に勧めた。
「で、何でこんな優秀な探偵さんがこんなところに?。いや、すいません、そんな風に見えまして」
俺は自分の葉巻にゆっくりと火を点けおぼろげに煙を吐いた。
「はっきり言って、う〜ん、運が、運がないのでしょうね」
「運ですか?」
「そうです、優秀でも運のない人間なんていっぱいいるでしょう。ま、見ててください。あなたのおかげで日本にいや世界に戸間名探偵と名をとどろかせますから」
「あの、疑うわけではありませんがもう一つおねがいします」
「なんでしょう?」
「その写真を見て孫の名前が分かりますか?」
何て親爺だ!、分かるわけねえだろう。俺は再び古畑のまねを始めた。
「う〜ん、彼女の名前は。。。?」
困った、俺は超能力者じゃねえよ。どうしよう?。ええい!、でまかせでも、、。その時さっき貰った写真を取り出し裏を見た。おお!ラッキー!。小さく洋子と書いてあるきっと彼女の名前だ。
「う〜ん、彼女の名前は佐知子、いや、京子、いや、そう、洋子でしょう」
彼は飛び上がった。まるで好きなおもちゃをプレゼントされた子供の様に。
「す、すごい!。さすが戸間さんですね。まるで神がかりな洞察力、ぜひぜひこの件をお願いできますか?」
「はい、良いでしょう」
「ありがとうございます。この頃、孫の行動が変だなと感じてたとこでして何かおかしな事になってなければ良いと感じてるんですが?」
「私に任せてください。簡単にさらに穏便に片付けますので」
「はい、ではもう遅いので私はこれにて失礼いたします」
「あ、ちょっとお待ちを、お孫さんの名字や通ってる学校など聞いてませんが?」
彼は驚いた様子で指で口ひげをひとなですると
「ご冗談を、写真を一目見て映ってる人のことを当てる探偵さんが名字や学校など?」
「はははあ、ちょっと聞いてみただけですよ」
「では、お願いします」
彼は軽く会釈すると事務所から立ち去っていた。後にはむなしい虚脱感が俺だけでなく事務所全体を包んでいる感覚に陥っていた。
「ああ、もう、やるんじゃなかった」
昔、テレビのCMで”私はこれで煙草を止めました”の最後のせりふで、小指を立て”私はこれで会社をやめました”というものがあったがまさしく自分がその心境になった。
”俺はこれで仕事がこなくなりました。”
続く
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