「残したいもの」
著作者:HATOKO



夏の夕暮れ時
母と弟と歩いた道
母はあのころ
短い童謡を
よく作っては
歌っていた
まだ幼かった
弟の手をひきながら
たんぼ沿いの歩道を
ゆっくり歩きながら
口ずさんでいた

午前中には
プールや宿題に
時間が過ぎ
お昼には
冷たい水に入った
そうめんをすすり
夕方には
ベランダに
ゴザを敷いて
小さな折り畳みの
テーブルを並べて
夕飯を食べる
狭いながらも
なかなか快適で
山に沈んだ太陽が
周りを茜色に染める
夕暮れを見ながら
今日の出来事を
それぞれ話し出す
そんな中に
虫たちの合唱が
花を添えていた
ひぐらしの声は
その情景によく似合い
皆、一瞬口ごもり
耳を傾ける

散歩に行くと
いつも
たんぼのそばに生えてる
せりなんかを
とっては食卓に添えていた

何もない村だったが
自然にあふれていた
季節毎に
便りを運んで来てくれる
それは
ほおずきだったり
ふきのとうだったり
柿やあけび、ぐみ…
みんな
私達に季節の恵みを
伝えてくれていた

夏と言えば
郵便局に設置された
冷たい水の出る
給水機
プール帰りには
いつも
順番を競って
飲んだものだ
今では
どこにでもあり
その存在も
すっかり色あせて
ぽつんと
寂しげにたたずんでいる

今でも母は
夕涼みが好きで
十数年振に
二人で歩いた


蒸気機関車が
夏のイベントで
走り抜けて行った
二人ではしゃいで
見ていた
母は
忘れかけていた
自作の歌を
歌い始める
私は
忘れたふりをして
ただその姿を
見つめていた

季節は毎年
変わらず訪れるのに
すっかり老けた母の姿が
なぜか
とても小さく見えた
祖母が亡くなり
また一段と
小さくなってしまった…

いつも
毅然として
大きく見えていたのに
いつの間にか
背を追い抜いて
いつの間にか
母が結婚した年も
越えてしまっている

今は母娘というより
母親同士のように
良い関係になれた

今度は私が
子供たちに
母の作ってくれた
歌を
教えてあげよう
あの頃過ごした
忘れえぬ
茜色の
思い出と一緒に…


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