◇ 突然の「会社整理」 パン・洋菓子の製造販売会社、株式会社D社(本社・練馬区、当時の社員約60名・パート 職員約150名、7店舗1工場を展開)。2005年1月28日夜、社員は会社から「会 社を整理する」との電話連絡を受けた。 翌29日、会社は社員説明会を開催。会社の整理、営業の停止、社員(正規・パート)全員 の解雇を通知した。社長は「社員の皆さんには金銭的な迷惑はかけない」と発言するやい なや直ちに退席。常務は「D社は解散するが、新会社として再開したい、みんな参加してほ しい」と発言したが、本当に困ったときには泣くのに何故か泣かずに逃げ出した社長の態 度と常務の発言に不信感をもった社員は改めての説明の場を求めた。 社員は、以降、営業再開へ向けての仕事を自主的に継続して行ったが、その中で、練馬 ユニオンと連絡を取り、練馬ユニオン・D分会として労働組合を結成する準備を始めた。 ◇ ユニオン分会として労働組合を結成! 1月31日朝、再度会社は「説明の場」を持ったが、別会社を経営する社長の兄が役員を怒 鳴りまくるなど混乱する中、会社(常務のみ)の説明はあやふやで組合は組合の結成を通告 し、午後さらに「説明の場」を開くよう要求した。 午後の説明の場で、組合結成を会社に再通告後、「新会社」での労働契約の明示を要求す るとともに、会社を倒産に至らせた社長ら旧役員の追放と、「新会社」でのガラス張りの民主 的な経営を求め、多くの質問がなされた。 2月1日、組合の始めての会議、雇用確保と労働債権の確保を二つの方針とする。 「新会社」は2月5日に営業を開始するが組合結成の中心メンバーには連絡せず、他の社 員からの連絡で組合員もほぼ全員が会社に集まった。しかし常務は、この場でも「組合が労 働契約の明示などと言うので営業再開が遅れ、再開できる店舗が減り組合員に仕事はない」 などと不信感を増大させる内容を発言。組合員は「新会社」に対して愛想を尽かすこととなる。 組合を結成したメンバーは電話や、全社員それ以前の退職者へ「組合参加要請文」の郵送 などで組合への参加を呼びかけ、15人が練馬ユニオン・D分会に加入した。 ◇ 雇用確保・労働債権確保・責任追及を柱に! 組合(分会)は、まず会社に後回し扱いされ、いつ確保できるかわからないので組合が率 いて職安で離職票を確保し、失業給付を受けつつ求職活動を始める。 また組合は、次の三点で闘いを続けていくこととした。 @ 雇用確保は新会社に頼らず各自で行う A 労働債権の確保 B 会社倒産の責任追及 先が見えず、一方では求職活動もしなければならないという厳しい状況があったが、組合に 参加しなかった(できなかった)社員からの問い合わせも少なからずあった。 ◇ 会社は「破産」を申し立て 3月2日、会社は破産の申し立て、破産手続きに入る。 組合は破産申立書の閲覧、管財人(弁護士)との連絡・交渉を通して労働債権の確保目指 して奔走した。 具体的には退職金を含む未払い賃金、解雇予告手当などの労働債権の請求となる。組合 の調査により、退職金の額を計算し、また1年ほど前から公休日を一方的に減らされたこと による事実上の休日出勤手当、祝日勤務手当の未払い賃金など各社員に多額な労働債権 があることが明らかになった。後に会社側が出してきた労働債権の額は、5年前に勝手に賃 金規定を変え、退職金が大幅に減らされていたうえ、未払い賃金は無いとしており、組合の 計算した額と大きく隔たりがあり、怒りのあまり会社から送ってきた計算書を破り捨てる組合 員が出るほどのひどい内容だった。 ◇ 組合主張どおりの「立替払い」を獲得! 破産手続きは9月に終了した。 それまでに、組合は管財人の要請を受け各組合員の賃金台帳、給料明細をもとに賃金計算 書、退職金計算書を作成し、未払い賃金の金額を明確にして管財人の証明を受け、労働者 健康福祉機構からの立替払いが組合の主張どおり10月に支払われた(解雇予告手当は対 象外)。その金額は会社側の計算より約5割多いものだった。 9月までに会社側は旧会社から「新会社」に譲渡した機材などの金額が少なすぎたとして、 管財人に和解金として1700万円を支払った。和解金は組合側の主張、情報提供により管 財人が会社に求めたものだった。「責任追及としては少しは成果と言えるのかと思う」と分会 は語っている。 金額的には不十分だったが、制度の中では最大限の労働債権を獲得したことで、組合は目 的を達成したとして、12月に分会は解散した。組合員の地道な活動が理不尽な会社の 不正を許さず、組合員一人ひとりの主張を認めさせることに繋がった。その地道で粘 り強い活動内容には心から拍手を送りたい。 ◇ 感想と教訓として 分会長のIさんは組合員全体の感想とこれから「倒産」と闘うための教訓を次のように纏め られている。 ・ 会社倒産後の労働組合結成という、ある意味異質な存在ではあった。旗も無い、鉢巻も 無いし、みんな職場もばらばらで、集まるのも大変だったけれど、よく集まって話ができて よかった。 ・ 法律などの事はユニオンに教えてもらったので助かった。労働者を守る法的な制度があ ることなど何も知らなかったのだから、本当に助かった。 ・ 会社からの文書(給料明細、公休日の削減の通知、就業規則など)の保管、確保が闘い を進めていく上で大いに役立ったので会社が寄越したものは何でも捨てずに取っておくこ とが大事だ。 ・ 債権者でもある社員は裁判所で破産申立書などの資料の閲覧が可能なので必ず閲覧 すること。手続については難しく考えず裁判所にどんどん聞くこと。 ・ 管財人に即座に面会を求め、失業による窮状を訴えるとともに、分からないのが当然なの だから何でも聞き、管財人が知りたいことを聞いて社員だからできる情報の提供を行うこと。 ・ その際、組合ということが個人としての対応と違い大きな影響力を持った事。 ・ 社員(組合員だけでなく)同士が連絡を密に取り続けたことが情報を早くつかむ事につな がり、次への行動ができる。それらが実質的勝利に結びついた大きな要因であった。 ◇ 各自の頑張りで雇用確保を達成! 現在、組合員15人全員が、再就職を果たし新しい仕事に取り組んでいる。組合のもうひと つの目標だった、雇用確保も、各自の頑張りで達成できた。 分会長をはじめとする組合員の皆さんから「ユニオンの適切なアドバイスには本当に感謝 しています。特に、『相手(会社)は金が無いと言っても、闘えば金は出て来るのだ』と 言うのはそのとおりだった」との言葉を付け加えておく。 |