「ハケンの品格」〜大前春子と聖書(10)
いよいよ最終回です。森ちゃんは契約更新が認められ喜んでいます。まるで会社の一員のごとく扱われています。
しかし、最終的には自ら契約更新を断ってしまいます。
たとえ一度や二度更新できたとしても、いずれは去らなければならない。そのような思いをしてまでハケンを続けることはできない。
そのように決断し、春子とは別の道を選択することになります。
さて、ハケン弁当を500円で売るために、主任による米プラスチックを使った「マイ弁当箱」のアイデアや春子の口利きで格安の魚を仕入れるなど、着々と計画が進んでいきます。
その魚市場で春子が以前働いていたことや、両親に死に別れてひとりぼっちだったこと、情が深い人間だったことなどを聞きます。
一方、東海林の方は名古屋の配送センターに飛ばされ、そこで唯一の社員として働いています。
社員ではない運転手らから「ネクタイ」と呼ばれ、完全にコケにされており、以前の社員とハケンの立場が完全に逆転してしまいました。
ある程度の自己犠牲を払い、クビを覚悟した東海林ですが、ハケンの辛さを知るにはこのような体験が必要だったのでしょう。
会社を移るという「所属先」の変化だけでは、自分という存在そのものが変化することはない、これは大切なポイントです。
そしてついに契約期間は満了し、ハケン弁当の販売会を目前に控えた月末に、春子と森ちゃんはS&Fを去ります。
春子は荷物をまとめ、またスペインに戻るべく空港に向けて出発します。
ちょうとその日は、ハケン弁当の販売会の日でもありました。
販売会場では準備が進んでいますが、ただひとつ弁当箱が届いていません。
突然の大雪で高速道路が通行止めとなり、弁当箱を積んだトラックが足止めをくらってしまったのです。
変わりの箱も手配できず、万事休すかと思われたその時、春子の最後の活躍となります。
上空に現れたレスキューの飛行機から、春子がスカイダイビングをして、同時に落下させた荷物と共に着陸するのです。
荷物とは、もちろん弁当箱です。無事始まった販売会を遠くから笑顔で見つめた春子は、ついに旅立っていきました。
「遣わされたもの」が天から舞い降りてくるシーンは、ドラマとしても、またこの「大前春子と聖書」のテーマとしても
実にふさわしいものでした。
話しはまだ終わりません。
再びスペインで時を過ごしている春子に森ちゃんから電話の着信があり、留守電メッセージが流れます。
森ちゃんがS&Fで社員採用を目指す紹介予定派遣として働き始めたことや、
元同僚ハケンの近君が同一労働同一賃金の職場に派遣され、給与は良いものの社員から妬まれていることなど、
様々な人間模様が伝えられ、さりげなく労働環境の変化がその問題点も描かれます。
そしてメッセージの最後で海林が名古屋から戻っていないと聞いて、春子は東海林の携帯番号が書いてあるメモに目をやります。
いよいよラストシーンです。場所は東海林のいる名古屋営業所です。
相変わらず東海林は運転手たちからコケにされています。
福岡行の運転を拒否されて途方に暮れている東海林の所に突然春子が現れます。
春子は様々な資格証を見せ自分を運転手兼事務員として雇うようにたのみます。
わざわざ来たのは、東海林に社長賞を取らせるためだという春子の言葉に東海林は頭を下げ、よろしくと頼みます。
すると春子は顔を東海林に近づけ見つめます。
いい雰囲気なのかと思いきや、いきなり東海林のまゆげを抜き、これはくるくるパーマじゃないなどと言い放って東海林を怒らせます。
恒例のドタバタになった時に里中が来ますが、二人を無視して春子は大型トラックを颯爽と運転し福岡に向かって出発したところで完となります。
いかにも続きがありそうなエンディングですが、諸般の事情により続編はなんと13年後の今年、それもコロナ禍でロケが遅れる中でのスタートとなりました。
エンディングはオマケのようでもありますが、実は大切なポイントがあります。
春子が名古屋に来たのは、ハケンライフを通してではなく、自分自身で来たというのです。
ついに春子は東海林を助けるために自分自身を派遣するものとなりました。
キリストは父なる神から派遣されたお方です。
ところが、そのキリスト(御子)は父とひとつです。
キリストは派遣されたからしかたなく地上で働かれたのではありません。
父・子・聖霊なる三位一体の神として見れば、神はご自身を遣わしたとも言えるのです。
それは言うまでもなく愛の故であり、私たちを救うためのものです。
「ハケンの品格」とは、犠牲を厭わず、愛の故に自らを遣わす、聖書で言うところの「アガぺー」の愛なのです。