「ハケンの品格」〜大前春子と聖書(9)

 

「ハケン弁当」を中心とした連続したストーリーの第3弾です。

この第9話の冒頭では、前回の最後に東海林が捨てた紙を小笠原が拾い、東海林がハケンのだれかにプロポーズしたことがバレでしまいます。

咄嗟に森ちゃんは、携帯番号にかけようとする小笠原たちからその紙を取り上げシュレッダーで処分します。まるで自分がプロポーズされたかのごとく振る舞う森ちゃんを春子は「成長したね」と褒めます。

テーマのひとつは、自立した個人が主体的かつ自己犠牲的にかかわること、「利己主義に陥らない自分主義」と言えますが、森ちゃんもここで一歩前進したと言えるでしょう。

さて、その騒動の最中に里中が部長から呼び出され、東海林の代わりにプレゼンをすることになります。

そしてプレゼンは成功し最終選考を通過して、マーケティング課の力で販売会を開くことが決定します。

そんな時、那須田というコネで来期入社する浅野の後輩が現れますが、これがどうしようもない人物で

森ちゃんは世の中が不公平だと嘆きます。

一方、里中と黒岩は東海林のアパートまで行きますが東海林はいないため、ハケン弁当の販売会のチラシを置いてきます。

ここまでが、舞台の御膳立てです。(他にもいくつか小ネタはありますが省略します。)

 

 

さて、いよいよ販売会の日を迎えます。

会場に東海林がいなくて盛り上がらない中、「静かで結構」と言う春子ですが、そこに東海林からFAXが来ます。

ウグイス嬢用の原稿を送ってきたのでした。以前バレンタインイベントの時に騒動を起こした“くだらない”セリフです。

それでも春子は東海林のセリフをそのまま使ってウグイス嬢の役を果たします。

そんな時、春子の銀行員時代の同僚が会場に訪れ、里中主任と話します。

春子はもともとはカラオケ好きな明るい性格だったこと、リストラで銀行を去ったことなどが明らかになります。

このあたりは、シリーズ完結に近づく中で、徐々に春子の過去が明かされていく重要な部分ですが、

今回のスーパーハケンとしてのメインの話は、例の浅野の後輩が連れてきて置いて行ってしまった犬が、

実は春子が以前犬の訓練士だったころに扱った犬で、春子がその犬を使って公園でしょげている東海林を発見するくだりです。

 

 

東海林は転職先を探すにもうまくいかず、思わず「派遣会社にでも頼もうか」などとつぶやいてしまった自分に絶望しているのですが、

そこに、東海林は職場に残した室内履きらしきものの臭いを犬にかがせて追跡してきた春子が現れます。

春子が東海林にいう事は主に3点です。

短期な東海林にはハケンなどつとまらない。

里中が心配してまっている。

東海林は、一生あの会社で生きていくしかないのだから、古巣に帰れ。

以前、小笠原に対してとった行動と同じように、社員には社員の道があると告げているのですが、

東海林は同じ社員を続けるにしても、一旦自分からその道をあきらめたことによって、

社員としての内実に変化が起こっているところがポイントです。

もちろんその変化はまだわずかであって、実を結ぶまでになるにはなお多くの試練を通らなければならないでしょう。

それでも、「一粒の麦が地に落ちて死ねば、多くの実を結ぶようになる」という聖書の言葉にあるように、

新しい東海林の可能性が、失意のどん底にある今開かれているのです。

そして、そのそばには、友である里中がいることも大切です。

里中も、不徹底ながら自分の地位を危うくしてもハケンの立場に立とうとしました。

そのような、自己犠牲によってかえって自立する個人が、初めて真の友になれるということが、

東海林にも実現しようとしているのです。

その意味で、春子にとって大事なのは、社員とかハケンとかいった仕事の形態そのものよりも、

人間の内実のありかたなのだと言えるでしょう。

そのような春子は、それでもあくまでハケンです。すなわち「遣わされた者」として一貫しており、

このシーンでも、春子は「迷える子羊」を探すために遣わされた者として主役であり続けます。

もちろん、里中主任などの上司から遣わされたわけではありません。派遣会社からでもありません。

パウロは人間のだれからでもなく、ただキリストの使者として遣わされたと言っていますが、

はたして春子を真に遣わしているのはだれなのでしょうか。

 

さて、その日の晩、例のバス停で帰りのバスを待っている所に里中が来ます。

里中は春子に、契約延長して欲しいといいます。

それも、単に業務推進のためだけでなく、春子が何を体験し、どんな思いでスーパースキルを身につけたのか

何も知らないままで別れてしまうのは嫌だという理由です。

「僕にはあなたが必要なんです」と告げたところで今回は終わります。

必要といっても、恋愛の告白というわけではなさそうです。

業務上の関係を越えて、あくまで人と人との関係を求める里中の本心だと言えるでしょう。

里中は以前、「おせっかいは気持ち悪い。人の気持ちがわかってやっているのか」と非難されてしまいましたが、

今回春子はどのように反応するのでしょうか。