「ハケンの品格」〜大前春子と聖書(8)
「ハケン弁当」を中心とした連続したストーリーの第2弾です。
この第8話の冒頭、春子が運転する車がエンストを起こし、同乗していた主任、東海林、森ちゃんからせかされ、
春子が修理をします。自動車整備士の資格を持っているだろうと勝手に思われてのことですが、
資格のない春子はもくもくと作業し、車は滅茶苦茶にしてしまいます。
それでも定時でさっさと現場を離れひとり帰っていってしまいます。
後で春子は絵が下手だということがバレるシーンや、顔がこわいという理由でアンケー調査に同行できない等、
春子の弱点が現れるシーンがあります。テーマが能力の力比べから他に移っていることを暗示しています。
さて、翌朝会社では、ついに東海林がハケン弁当の企画を担当することをマーケティング課に告げます。
主任は強く抗議することもできず、結局ハケン1000人のアンケートをとるということで東海林に協力すると決めます。
一方、春子は部長から東海林を助けるように命じられます。
部長は、どっちの味方(東海林か里中主任)をするか興味があったと言いますが、
春子は業務をするだけでだれの味方でもないと答えます。
なぜそこまで東海林を助けるのかと尋ねる周囲に、自分は客が喜ぶ顔を見たいがためにS&Fに入ったのだから、
ハケン弁当の企画を実現することが大事なのであって、だれが担当するかは重要ではない、と答えます。
春子は「会社はそんなに甘くない」と言いつつもアンケート調査に協力します。
そんな中、東海林に部長からお見合いの話が来ます。相手は銀行の頭取の娘ということで、
社員としては断れない、そして出世にとってうまい話ではあります。
夜、東海林は春子の店を訪れます。頭取令嬢とのお見合いを自慢し、自分は勝ち組だと言い放ちますが、
本当に結婚したいのは春子だと、いわばプロポーズをするのです。
東海林が立ち去った後、店に居合わせた森ちゃんに「どうするんですか」と聞かれると、
一言「ばっかじゃなかろうか」と一言放って去ります。
社員とハケンの溝を愛が乗り越えられるのかというテーマが続いていますが、問題は「愛」の質です。
東海林は春子への愛のゆえに部長に逆らう、つまり会社に背を向けることができるのかが問われます。
東海林主導で、既成の弁当チェーンと組んだ、いわば普通の弁当の企画として話は進み、いよいよ明日プレゼンとなります。
部長は里中を子会社に飛ばすと東海林に告げると、東海林はハケンと会社のどちらを取るかという選択だけでなく、
親友である里中を見捨てるのかということも問われます。
その夜、会社に残っていた東海林と里中主任はこの問題に直面することになります。
東海林が里中に「ハケンは利用するだけ利用して後は捨てるものだ」「ハケン弁当なんか本当はどうでもよく、
ただの出世の手段だ」などと挑発的なことを言うと、さすがの里中もついに怒り東海林に殴り掛かります。
対して東海林が里中に「春子のことが好きなのか」と聞くと里中は好きだと認めます。
そこで東海林は「なんでも俺にゆずってるんじゃねーよ」と叫んで殴り返します。
さんざん乱闘をして床に倒れた二人は、
「自分たちは何をやってるんだろう」「本当に殴りたいのは他にいるのに」などと語り合っています。
一方春子は、東海林から企画は現実的でないといわれてしょげていた里中主任に、
そんなものは現実にすればいい、と言って、夜船に乗り込みサバを釣ります。
そして寝ている森ちゃんを起こし、弁当作りを手伝わせます。
春子の釣りや調理師としての能力が発揮される場面ではありますが、
今までのスーパーぶりと比べるとやや地味な扱いであり、やはりテーマが力比べから移っていることが感じられます。
プレゼンの朝、春子は主任に「この1000円の弁当を500円にするのが仕事だ」と書き弁当を渡します。
一方、東海林から自分と結婚したいか等の質問状が届いています。
いよいよプレゼンの時間が迫ります。
前夜の乱闘であざのある顔で現れた東海林は、春子の作った弁当と質問状の答えを見つけます。
答えはNOで、その理由は「ハケンの敵とは結婚したくない」というものでした。
最後の携帯番号を書く欄は空欄のままでした。
春子へのアプローチは失敗に終わった東海林でしたが、プレゼンで彼は意を決して、
ハケン弁当の企画は自分のものではなく、里中とマーケティング課のものだと宣言し、会社を去っていきます。
彼は、春子との恋には破れましたが、里中との友情は壊さなかったのです。
雨の中、ひとり寂しく会社を出て歩く彼は、最後にもう一度、先の質問状を取り出し見ます。
ハケンの敵とは結婚したくないとの言葉を確認した彼は、その紙をまるめて捨てるのですが、
実は紙の裏側に春子の携帯番号が書いてあるのに気が付きませんでした。
春子は、もし東海林がハケンの敵でなくなるのならば、結婚する可能性もあるということなのでしょうか?
社員とハケンの壁を愛で乗り越えると言っても、東海林がハケンの敵でなくなるというのはどういうことなのでしょうか?
春子が社員になることはあり得ません。しかし東海林がハケンになることでもなさそうです。
それとも、東海林が里中のようにハケンに理解のある人間になることなのでしょうか?
これまで、社員を規範、ハケンを個人として捉え、律法と自由の問題として考えてきましたが、
ここでさらに、この二項対立を相いれないはずの2つのグループ、すなわちユダヤ人(律法の民)と異邦人の関係という
聖書のテーマに進んでいくことになります。
ユダヤ人はユダヤ人のままで、異邦人は異邦人のままで、すなわち律法というものを挟んでその両側にいる両者が
そのままでひとつになるということ、それがキリストの死の奥義なのですが、春子と東海林はどうなっていくのでしょうか?