第4話
いよいよ第2部です。ハケンと社員との溝に橋渡しは可能なのでしょうか? 前回の最後の部分で、東海林は解体ショーのお礼を春子に言いにいったのですが、会社のためにショーをしたのではないという春子に対して、「それじゃ、もしかして自分のために」などと勝手に思い込みます。その時「冬ソナ」ばりに雪が降ってきて、それに見とれる春子に東海林は引き込まれてしまい、バスに乗ろうとする春子にキスをしてしまいます。まあ、命中したとは言いがたいキスですが。しかし春子は全く無視し、何事もなかったかのように去っていきます。
さて、第4話冒頭では、S&Fの社員とハケンの結婚式のシーンがあります。披露宴途中で新婦が派遣社員だったことを知った新郎の親が怒り出すという騒動があります。社員と派遣との結婚や恋愛についてマーケティング課の中でも話が盛り上がりますが、もちろん春子は相手しません。また、部長から、将来社員への登用も考えているから、契約延長をしてほしいと頼まれても、「会社の奴隷にはなりたくない」と切り捨てます。ここで、「奴隷」である社員と、「自由」であるはずの派遣という構図が浮かび上がりますが、もちろん現実はそんなに単純ではありません。
今回のタイトルは「悲しい恋とお時給」です。ハケンは「自由」だと言えば聞こえはいいですが、厳しい現実が待っています。ハケンが下に見られて、結婚でも不利になる可能性があるということに加えて、収入の問題があります。森ちゃんがはじめての給与明細を見て、あまりの少なさにショックを受けます。そして、他のハケンから勧められて、複数の派遣会社を掛け持ちして、少しでも時給の良い仕事を渡り歩いて行こうと考えるのがサブの流れとなっています。
メインの流れの方ですが、春子のことが気になって仕方ない東海林は、自分のいい所を見せようと、ロシアのバイヤーとの商談に春子を秘書として参加させます。春子はロシア語の資格までは持っていないとマネージャーに確認した上で、自分はロシア語ができるところを見せびらかそうとしたのですが、凄腕のロシア人女性の前に、商談はいっこうに進みません。終業時刻が迫る春子は、いきなりロシア語で女性にまくしたて、強引に商談を成立させてしまいます。またしても、東海林はいい所を見せるどころか、春子のスーパースキルを見せつけられてしまうわけです。それにしても、東海林の「恋」が、自分の力を見せつけることによって相手を惹きつけようとする形で表れるところがいかにも「古典的」です。ここで「男の愛」は力と支配欲と結びついており、それは会社への愛が出世、すなわち権力拡大への志向と同根のものであることが示されています。「古典」では、そのような「男」に帰依し、彼の拡大・上昇を助ける女性が登場するわけですが、はたしてそのような「男のエゴ」に奉仕することが真の愛なのでしょうか? 当然、春子は東海林のそのような望みを打ち砕いてしまうのですが、もし東海林と春子の間に愛が成立するとするならば、東海林の「古典的」「会社的」性向は大きな障害になることでしょう。
春子は商談で東海林の顔を立てませんでした。しかし商談を成立させたのですから東海林を助けたことになっています。ここで聖書の「助け手」としての女性のテーマが表れています。男のエゴに奉仕するのではない「助け手」の可能性です。第2話では、商談を成功させた春子に対して、プライドが傷つけられたとして東海林はホチキス対決を望んだのでした。その時は、春子は東海林の「顔を立て」てわざと負けました。社員のプライドを傷つけるときと傷つけないとき、この両方のケースがあるわけですが、この興味深いテーマはしばしば今後も出てくるので、ここでは置いておきましょう。今回の話ではむしろ東海林の変化が目立ちます。今回は、東海林はプライドが傷つけられたと怒るかわりに、夜、賢ちゃんと共に春子の店を訪ねます。そして、春子のスキルに驚いたと素直に言います。実は、昼食の時に東海林は春子がいつも「サバの味噌煮定食」を食べている店に行き、電話して欲しいと自分の携帯番号を書いたメモを春子に無理矢理渡していたのですが、一向に返事がないので気になっていたのです。そこで賢ちゃんが気を利かせて、東海林は春子に会いたくて店に来た」と彼女に言うのですが、春子は「時間の無駄だ」と相手にしません。しかし東海林はあきらめずに、春子を店の外に連れ出して「告白シーン」となります。
自分のことが好きか嫌いかと尋ねる東海林に、春子は「そういう問題ではなく、社員は信用できない」という意味のことを言います。「ハケンは会社にとって使い捨てのもの」だからです。もっと人間味のある付き合いができないのかと東海林は言いますが、ハケンにそんなことを要求するのは筋違いだというのが春子の言い分です。しかし東海林は、自分は確かにハケンは嫌いだが春子は別であって評価していると言います。そして、「一緒に働くとは、一緒に生きること」だと主張するのです。やや意外な展開に春子は「3ヶ月しかいない者に対して何を言っているのか」と返しますが、ここで東海林は、「それがなんだ。3ヵ月後にはもっと春子を好きになっているかもしれない」と「告白」します。この時ふたりは同時に寒さからクシャミをします。東海林は笑いますが春子はにらみます。どうやら春子の防護壁にキズがついたようです。東海林が、春子を「会社世界」に引き込もうとするのではなく、単純に「好き」だと言ったからでしょうか。
翌日、ふたりは風邪で熱をだします。東海林は単純に休みますが、39度の高熱にもかかわらず春子は出勤し、ふらふらになりながらも働きます。その時、前日のロシア人一行が3時に契約を取り交わしに来ると電話があるのですが、契約書の一部が見つかりません。前日、森ちゃんのドジで、保管庫の中に紛れ込んでしまっていたのです。森ちゃんはその鍵を持ったままで、今日はずる休み。もっと時給の良い仕事に面談に行っていました。それを知った春子はバイクを飛ばして森ちゃんを追いかけ、鍵を取り返して契約完了までこぎつけます。今回のスーパースキルは資格ではなく「根性」でした。仕事が終わり会社を出た時、賢ちゃんと森ちゃんの前で春子はついに倒れてしまいます。ふたりに店まで連れ戻され寝ている春子の周りで、森ちゃんは自分のせいで春子をこんな目にあわせてしまったと後悔します。それにたいして店のママは、「あせることはない。春子も小さいことを逃げずに忠実に行ってきたから今があるのだ」と励まします。春子にとって働くことは、「時給」のための必要悪ではなく、「仕事」、すなわち仕えることなのです。時給は結果に過ぎません。
キリストは人に仕えるために来られました。その極致が十字架での死です。そしてその死から「永遠のいのち」がもたらされることとなりました。「生きるのは死ぬため。死ぬのは永遠に生きるため」〜これはマーラーの「復活」という交響曲にでてくる台詞ですが、まさにキリストの生き様です。そしてそれキリストの奉仕であるという意味で、「働くことは生きること」なのです。東海林はこれを言葉で語ったのですが、翌日ダウンしている間に、春子は身をもって実行しました。それにしても、「仕える」というのは悪用・誤用されやすり言葉です。他人のエゴに奉仕するのも、文字面では「仕える」ことですから。
この春子に感動した森ちゃんは、余所見をせず、S&Fで精一杯がんばることにします。春子はちょっとうれしそうです。そしていよいよラストシーンでは、東海林が春子に「同じ釜の飯」第一弾として河豚を食べに行こうと春子を誘います。彼は「愛」は既に「同じ釜の飯」に直結していますが、彼の「会社性」自体がどこまで変わったか疑わしい現状では、春子がその誘いを断るのは当然です。「河豚は死ぬほど好きだが、時給3千万円もらっても彼とは食べない」という春子に、東海林は、「でもあんなこと(キス)になっても怒っていないって言ったじゃないか」と身勝手な誘いを続けます。春子の反撃は強烈です。「あれは、たまたまハエが唇にとまったようなもので、別にハエに腹を立てないのと同じだ」。ハエ呼ばわりされた東海林は激怒し、「それならおまえは電信柱だ」と叫んで幕はおります。どうやら先は長いようです。
つづk