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データ
タイトル CROSS†CHANNEL プレイ時間 20時間以上
(2巡目)
機種 Win(18禁) ストーリー ★★★★★
ジャンル ループモノ キャラクタ ★★★★★
メーカー FlyingShine グラフィック ★★★★☆
発売日 2003年 9月26日 サウンド ★★★★☆
定価 8,800円 ソフトウェア ★★★★☆
購入価格 6,780円 ゲーム性 ★★★☆☆
総合評価 ★★★★★
お気に入り度 ★★★★★

本文
 いきなりだが、これ以降はネタバレが横行するデンジャーゾーン。引き返すなら今のうち。

 なぜなら、知識0%、油断100%という最高のプレイ条件を放棄するなどバカげてるからだ。どうせなら体験版でもやれっての。いやマジで。

 …忠告したからな。



 なんというか、凄く、圧倒的に、完膚なきまで巧い。そうとしか表現できない。ほぼ一本道とはいえここまでキッチリとしたモノをつくれるものなのかと。
# それだけに太一とプレイヤーの情報量が食い違うことがあるのは残念。

 特に1週(≠周)目は舞台背景を説明するという目的を持ちながら伏線をこれでもかと張り、それをギャグや青春群像というオブラート、時系列の操作による思考の誘導により隠蔽するという徹底ぶり。

 しかも以降の週、もしくは周になるほどこの起点が異質な存在として映る、ひと粒で何度もオイシイ仕上がり。ナニゴトですか?



 ただしその巧さがまんま反発にもなりえる。生理的に鼻につく、という意味で。例えばギャルゲに対するあからさまな(でも意味のある)アンチ設定/発言、プレイヤーを現実に呼び戻す主人公のメタ視点、オタクに突きつけるには鋭利すぎる"生きること"へのメッセージ、ややクドい(でも必要な)エピローグ、(ループモノの定番ともいえる)あえて余韻を残したエンディングなどなど。

 また、主人公の既知外マシンガンギャグも諸刃の剣。圧倒的な語彙と行動力の全てをセクハラとエロトークにかける軽薄極まりない主人公も話を追えばそれが必然であることがわかるのだが、それまでに積み重なる偏見と反感は想像できる。いや、個人的には堪能しまくりだが。



 サテ、チと遅れたがストーリー。ってもネタバレ前提なんでいまさらだけど一応…

 こことは違うかもしれない場所、ちょっと未来かもしれない時代、そして少しずつ壊れている世界。原発で潤うとある地方都市。

 そこでは厄介モノの誘致と引き換えに得た利益が様々なかたちで還元されていた。ここ群青学園もそう。いわゆる知障や外障を受け入れるための施設である。

 その中でも群青学園高等部の放送部は自意識を保ったもの同士が集う場所。比較的健常に近いものたちが不器用にでも触れ合いながらお互いを癒すことを目指した部活、…だった。

 そこに集まるのは部外者も含め8人程度の少年少女のみ。物語は彼らが無断で実行した夏季合宿の帰路から始まる。



 …とまぁ、これくらいが1週目が終わったところで得られる知識+αかね?

 主人公は最も狂気に近いところにいながら健常にみえる少年、黒須太一。国の定める適応値80、狂えるモノの王やオーバーロードと表現される存在。ちなみに健常者の適応値は20以下(?)、放送部で割れてる数値は50前後。とすれば彼は人間である部分が2割を切っているワケだ。

 もちろん狂っているのはヒロイン全般にそうで、完璧に近いものがいるかと思えば自他共にコワしてしまいかねないのまで様々。共通しているのは社会不適合者であること。

 ただ、いくらヒロインが狂っているといっても太一のように徹底的なものではなく、持っている問題自体は普通(だから痛切)。ただ度が過ぎているだけ。それこそ大概のギャルゲヒロインよりは随分とマトモ(アンチ設定の一部)な問答が可能である。とはいえ各ルートでは結局突き落とされるんだケド。



 物語は状況説明をメインとした1週目と、ヒロインそれぞれの問題点を浮き彫りにする2週目以降、状況と対峙した太一の決断を描く"送還"、全てが終わった後のエピローグで構成される。

 時間にして15時間前後だろうか。その間は、凄まじい語彙とキレのあるギャグ(そしてセクハラ)、これでもかと繋がる伏線、ループの設定を充分に活かした展開、とにかく巧さのオンパレード。それこそ冬子ルートを除いたエロがジャマで、霧ルートに至っては排除対象では? と思うほど。

 他にも太一のコンプレックスや境界線の描写が(その指す先を含めて)分かりにくいと感じたが(だから霧ルートのエロを肯定できないのだ、おそらく読解力の不足で)、それはそれで些細なことに思える。

 痛切なテーマに関しても押し付けではなく提起に過ぎず、逃げ道をふさぐものではない。確かに所詮オタクにとって気分のいいものではないが(延長線上に真の意味での生が存在しないという群青色に起因)、これで少しでも攻撃されていると感じるなら、それは作品ではなく本人の問題だろう。

 と、好意的解釈が過ぎる? でも、ここまでくるとただただこのCROSS×POINTを楽しみたい、良いモノを良いと肯定して刻みたいのよ。ま、たまにはいいっしょ?



 で、その良いモノを生み出した田中ロミオ氏、つか山田一氏(ほぼ確定)についての話題はやはり外せない。

 正味、1週目の既知外テキストのテンポやパロディネタの傾向、主人公がヒロインの和によりできていること、人とのふれあいや生きることをテーマとしていること(アプローチこそ違えど家族計画と内容はほぼ同じだと思ってる)、そして十文字隼人(米笑)など、こんだけ家族計画とカブればそりゃ同一人物説も出るわなぁ…

 いや、個人的な願望では別人の方がオモシロかったんやケドね。だって、スゴいモノと出会える可能性が単純に倍なんて夢のある話やし。まぁ、最終的に誰が関わってるかではなく、仕上がった作品こそ大事なんだが、その考えは健全過ぎて面白味に欠けるのも事実。

 ともあれ、作品以外の場面でもいいネタを提供してくれた氏には熱烈感謝。そしてまた鈴木某とか佐藤某とかになるのを期待、って安直なのでボツ。しょぼ〜ん。



 次にシナリオ以外の部分、システム、グラフィック、音楽について。これらは決して突き抜けているワケではないが、それぞれが寄りそって一貫した雰囲気をかもしだしている。

 システムに関してはパッチさえ当てればあとは快適。ホイールによるバックログはやはり重要。グラフィックや音楽は華こそないが、だからこそ世界の空虚/清涼さを強調しているように感じる。また、ピアノソロはやはりツボ。SEもギャグにあわせたものを用意する周到さ。…と、方向を含めたトータルバランスは良好だといえる。

 また、声優陣はどこをとってもいいアンバイ。特に美希役の榎津まお嬢は凄まじいくらいマッチしておりオススメ。今後もチェックしていきたい。

 そしてやはり避けて通れぬ男性声優陣。コレはナニゴトかと思うほどの豪華さ。ヤボを承知で通り名で挙げると、ザゼル子安武人氏(十文字隼人)、山口勝平兄さん(牛久京也)、堀川亮氏(間寺司)。あまりに磐石。事実カンペキ。



 決して心地良い話/展開ではない、萌えもない(あったとしてもことごとく崩される)、人死には多いが(だっていきなり人類滅亡)スゴく淡々と死ぬ、当然それを泣きの道具にする気など皆無、総じて感動する要素はない。あるのはわずかな共感と余韻。ものスゴくネジまがっているハズなのにただキレイな作品。

 だから、というと話が繋がらないかもしれないが、本作を楽しむには必要以上にもぐりこまず、ちょっと離れた位置で眺めることが重要。自分の群青色から目を逸らさない程度に狂っていればベスト。健全でもダメ、気付かない/目を逸らすのもダメ、凝視するのはそれ以前にダメ。狭いが少なくもない。

 要はあくまで娯楽として楽しもうってコト。間にループや1週目、エピローグの考証を挟んだりすればカンペキ。

 とにかくテキスト系ソフトとしては規格外。同時に人を選ぶが、テキストだけなら体験版で判断がつく。もちろん1週目の雰囲気を期待するととんでもないシッペ返しを食らうが、ココまで目を通したのなら(裏切られることはわかるだろうし)大丈夫だろう。

first edition : 03/11/20
ひとこと ワタシの群青色は…、いっぱいありすぎるっ!

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