第一章「謎の村」 第一章「謎の村」


「・・・・・・お逃げください!」

その言葉しか、覚えが無かった。

「気が付きましたか?」
「・・・・・ここは・・・・・」
気が付けば宿屋の中だった。
私はにこにことした宿屋の娘をぼお、と見つめるだけ。
今の私には、それしかできなかった。
「あの、なにがあったのか、憶えてますか?」
・・・・・・・
「わからない。・・・思い出せない。」
だけど、一応は自分の名前や年ぐらいは覚えていた。
だが、あえて言わなかった。 心配してほしかった・・・
「ちなみにこの村は、ティネットといいます。
あなたは門の前に倒れていたんです。」
「・・・・・・」
地理に詳しかったはずなのに。
ひとつひとつの村の名前まで知っていたはずのに。
そんな名前、知らない。
「・・・!!」
これは夢か?
外に目を向けると・・・
「・・・竜・・・!?」
「ああ、昨日からニガニス将軍の竜騎士団がウロウロしてるんですよ。
全く、あれがいると通行の邪魔なんですよねー。魔法で追っ払っちゃおうかしら。」
私の驚きを知らずにべらべら喋る娘。
竜騎士?魔法?
どちらも伝説のものじゃないか。
何なんだ?一体、ここは・・・

すると、突然外にいた若い男が悲痛な悲鳴を上げた。
「おお・・・すまんな、こいつがあまりにも小さいので踏んでしまったよ。」
「・・・!!」
悲鳴をあげた男の胸をよく見ると、なんと竜の足が貫通している。
「・・・将軍・・・!!!
あなたという人は・・・!!」
宿屋の娘は、私が今まで見たことのない赤い本を破けるほど強く握ると、
開いて力を込めて読み始めた。
「普段目立たぬ魔の炎よ、燃え上がれ!目的を、焼き払え!ファイアー!」
娘が読み終わると娘の足元から真っ赤な炎の弾が飛び出し、
竜に乗った男に弾が向かっていった。
「これが・・・魔法!?」
私は思わず叫んだ。
「むっ・・・!」
竜騎士に炎の弾が当たると、弾は弾けて消えてしまった。
「く、そ・・・・!!」
弾が弾けて消えたのを見ると、娘は力尽きて気を失ってしまった。
「・・・・・!・・・」
私はただただ目を見張って見つめるばかり。
「将軍、帰りましょう。こんな寂れた村にいても仕様が無い。」
ニガニスの部下と思われる子供に見える者が前へ出て話すと、
大将や兵、そしてニガニス将軍は去っていった。
しかし、まだ前にでてニガニスを返した子供に見える部下は、一人残っていた。
「・・・将軍が失礼をしたね。だが、将軍を恨もうが兵を恨もうが自由ですよ。恨みたければ恨めばいいよ、じゃ。」
その者は、子供っぽい声で台詞を吐いた後、にこっと笑った。
近くに寄って来た為わかった、本当の子供だった。
「・・・・・・輝く光、目的を直せ、修復せよ・・・ディペアス!」
子供は、竜が踏み荒らした家などを魔法で修復し、消えた。
どちらも一瞬の出来事であった。



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