■有馬記念 VTR Vol.3 〜1999年第44回大会〜 |
「未来の地図」が完成 |
前年の復活劇を演じたグラスワンダーは、年明け初戦の京王杯SCを上がり33秒3の猛時計で快勝。続く安田記念ではエアジハードに足下をすくわれたが、宝塚記念ではダービー馬スペシャルウィークをまった寄せ付けない圧勝劇を演じ、秋競馬に入っても、休み明けの毎日王冠を勝ち、世界制覇の夢は現実味を帯び、ファンは期待に胸ふくらませ、グラスワンダーの競走馬人生は順風満帆に見えた。
レース前、馬体重が発表された時、「グラスワンダー、プラス12キロ」に観客の誰もが目を疑った。グラスワンダーは毎日王冠の後、目標にしていたジャパンカップを回避するという事態が、まだ尾を引いている証でもあったのである。一方、引退が決定していたスペシャルウィークは究極の仕上げとのとれる「馬体重、マイナス4キロ」だった。胸騒ぎのするそんな中、ゲートは開いた。 大きな出遅れもなく、先手を打ったのはゴーイングスズカ。そしてダイワオーシュウにフサイチエアデール、内々にナリタトップロードといった感じで徐々に馬群が形成されていった。人気のグラスワンダーは後方から4頭目、スペシャルウィークに至っては最後方からレースを進めていた。 正面スタンド前で固まった馬群は、乱れることなく、第1コーナー、第2コーナーと進み、向こう正面へと入っていった。前半の1100メートルが71秒9とまるで「前半1200メートルと間違うかのような」スローペース。それでも、2頭は動かなかった。 そして第3コーナーを過ぎた当たりから馬群に動きが見られる。スペシャルウィークが外目を進出。前の位置していたグラスワンダーもものすごい手応えで、7番手、3番手と順位を上げていき、最後の直線に入った。
残り50メートル、ツルマルツヨシが勝ったかに見えた。しかし、ここからグラスワンダー、スペシャルウィークが2頭馬体を揃えてこれを交わした。クビの上げ下げ。2頭はゴールしたときには、わずかにスペシャルウィークが出ているように見えた。そして、ついに誰も成し遂げられなかった、秋競馬G1・3連勝を達成したと誰もが思った。スペシャルウィークはウィニングランをして、堂々と引き上げていった。 しかし、審議の青いランプが赤く点灯したとき、そこには「1着7番、2着3番」と出ていた。グラスワンダーがハナ差4センチを制し、勝利したのである。明らかに体調不良だったとはいえ、グラスワンダーは有馬記念連覇を完成させたのである。「完調ならばどれだけ強いのだ?」。ファンはこう考えざるをえなかった。 98年は、エルコンドルパサーが挑戦した1年がかりの欧州遠征をした年でもあった。そして、その挑戦は凱旋門賞2着という決着で幕を閉じ、日本中の競馬ファンに感動を与えてくれた。そして遠く離れた日本では、最強の2頭が最強であることを証明し、それに、テイエムオペラオーやツルマルツヨシが未来を予感させる走りをみせてくれた。去りゆく者、飛躍するもの、色々な思いが入り交じった有馬記念。ここに、未完成だった「未来の地図」が完成したのであった。 【牧場長@@】 |