Hillock Canada Diary No.18
IAN'S CONCERT 2004・2・28


 ケベック州の町を何ヶ所か回るコンサートツアーの1つをするために、隣町ベロイの文化センターへピアニストのイアンがやってきた。小さなグランドピアノで、約450人収容できるホールでの演奏だったので音が響かず、演奏者には気の毒な気がした。しかし各地を回る中で、もっと悪い環境で演奏会をしなければならないところがいくつもあったに違いないが、どんな環境の中でも音楽文化を広げていくことは大切だと思う。  舞台へ出てきて、ピアノに向かう前に「SALUT!」と聴衆に話し始めた。これは英語の「Hi!」に当たるとてもフランク呼びかけなので、聴衆はびっくりするとともにとても親しみを感じた。

 ニューヨーク、ジュリアード出身の新鋭若手演奏家で開演15分前まで、猛烈なリハーサルをしていたので、どんなコンサートをするのだろうといろいろ思いをめぐらした。  彼の父はピアノの教授なので、子供のころ一日の目覚めはいつも父親の生徒がレッスンを受けるクレメンティのソナチネから始まった。それで今日のコンサートもクレメンティのソナチネからはじめますとプログラムがスタートした。

 ショパンのマズルカを4曲。同じ3拍子のワルツとの違いは、ワルツは強―弱―弱(ワルツの波)が繰り返されるが、マズルカは小節によって、気分によって波が自由に変わることがサンプル演奏と共に話された。同じマズルカでも雰囲気が違うマズルカがあることを知ってもらうためにと、4曲演奏された。

 A.LOUIEの現代曲でおもしろかったのは、弦楽器で弦を押さえるポジションが近いと高い音、遠いと低い音が出る原理を利用して、ピアノの弦を押さえて同じ音でもいろいろ違ったサウンドをつくったのがとても印象的だった。この'Memories in an ancient Garden 'は中国をイメージして書かれたそうだ。

 シューベルトの歌曲から2曲。ここではメロディーはもちろん大切だが、伴奏の形を取り上げ説明された。いつもくるくる回る形の伴奏と、オスティナートと呼ばれる低音部で同じことを繰り返す伴奏を前もって取り出してその形が何を表現するか聞かせてもらったので、伴奏の持つ意味の上にメロディーがうまくのって歌われるのがよく分かり、深く音楽を味わうことができた。
 彼はどちらかというと、技巧や理論によって音楽を分析しているのがよく分かったけれど、それぞれの小さな部分がもつ感情や、その部分によって表現されることが面白いように伝わってきた。絵本作家エリック・カールの言う部分の大切さや「ロリンのピアノ・コース」の原理と同じだと思った。

 ショパンの'バラード'は曲の組立てを説明して演奏されたので長い曲も短く感じた。
 インターミッションの後リストの'ソナタBマイナー'が演奏された。 ここでは何回も出てくるテーマ3つを取り上げてはじめに聞かせてもらったので、それが出てくるたびに違う表情を持っているのがよく分かり、次に出てくるのを楽しみに待った。
 このソナタでリストもファンタジーを書きたいと思ったそうだ。はじめの「トンートン」という二つの音はドアをノックする音。それに続くメロディーはドアが開かれる音。それが3回繰り返され、その後部屋の中で何が起こったかを空想するのは聴衆で、一人一人の空想は違うはずだと話を締めくくり演奏された。自分の空想の世界にひたることができ、30分の大曲があっという間に終わった。 彼のフランス語は彼にとって第二国語である。コンサートであえてその言葉を使って自分が聴衆に伝えたいことを情熱的にこまやかに伝える姿勢に感激した。心から音楽を愛していることが伝わってきた。 フランス語初心者の私にも、彼の解説は音楽を通して十分理解でき、コンサートを何倍にも楽しむことができた。

 ギロックの「自分をしっかり持ちなさい」という教えが自分のスタイルを持ち、それを聴衆に表現しようとするイアンの姿勢からじわじわと伝わってきた。


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