| 去年のクリスマスに、シブガムのM小学校のD先生と出会った。ここはモントリオールから北へ車で9時間走ったところにある人口8000人ほどの小さな町で、音楽の先生は学校にはいず、もちろん音楽の授業はない。しかし体育館の隅の木箱の中にピアノが眠っているそうだ。「わー、もったいない、ピアノがありながら・・・、いつか子供たちのためにそのピアノをひかせもらえないか?」と尋ねたのが始まりで、D先生とコンサート計画を練り始めた。
D先生の受け持つ2年生ともう一クラス1年生、合計40名ほどを対象にコンサートをすることになった。 こちらの子供はどんな音楽を聴いて育っているのか、どんな音楽に興味を持っているのかまだ手探りなのでプログラムを組むとき何をひけばよいか心配になった。 当日コンサートの前にピアノに触らせてもらったら、ずいぶん古いピアノでダンパーが言うことをきかず、いつもダンパー・ペダルを踏んだ状態だった。ピアノの蓋を開けて音を止めたくなった。このピアノでどのようにギロックをひけばいいのだろうか・・・??? どきどきしながら1,2年生が入ってくるのを待った。体育館へ生徒たちが入ってきて、床に座ると皆が声をそろえて「ようこそM小学校へ」と挨拶してくれた。 「音楽は人と人が心を通わすためにあります。自分の気持ちを音楽で伝えることが出来ます。 ベートーベンは大好きだった女の子のためにこの曲を書きました」 「エリーゼのために」をひき始めた途端に子供たちから「あーー」という声が聞えた。一曲終わると皆が拍手をしてくれた。 「この曲しっている?」と聞くと皆が手を上げた。一人の子が「お姉ちゃんも知っている」というと「僕のお父さんも知っている」「○チャンも大好きな曲」と次々出てきた。 先生は、生徒がざわめくと静かにお話しましょうと教えていた。この時期に行儀を教えることをとても大切にしているそうだ。 「もっと昔のバッハという作曲家は彼の奥さんのためにこんな曲を書きました」 バッハという名前はあまり耳になじみがなかったのか不安そうな顔をした。ト長調のメヌエットをひき終えると、皆知っているといわんばかりにうなずいた。「この曲なんていう名前かしっている?」と聞くとひとりの男の子が「エティエン」と自分の名前を答えた。D先生がもう一度はっきりゆっくりと質問を繰り返してくれた。質問するときはもっとはっきりと話さねばいけないと反省した。 「私は日本からやってきたのですが、日本には古くから伝わる音楽があります。聞いてみたいですか?」というとみなとても興味深そうに返事をした。 「さくら」をひいてから、ミアーの「ジャパニーズ・テンプル」をひいた。その中に「さくら」に似たメロディーが出てくるので、そのメロディーが出てきたら手を上げてくれるように頼んだ。たくさんの生徒がひき始めたらすぐ手を上げていた。この質問はちょっと難しかったかな?とちょっと気弱になった。 D先生に用意してもらった大きな世界地図と国旗の絵を壁に貼ってもらい、音楽で世界を回った。 「日本の隣の国、中国はどこにあるかしっている?」ときくと大半の生徒が「ハイハイ」と手をあげた。とっても活気がある。前に出てきて地図で中国を指してもらうように頼むと、その女の子は、しばらく考えてから、「やっぱりわからない」という。手を上げて前に出るのが恥ずかしい文化とえらい違いだなと思った。その後二人が前に出てきて一緒に探し、中国を見つけた。ギロックの「オリエンタル・ウィンド・チャイム」をひいた。 「おっ!スザンナ」と「わらの中の七面鳥」でアメリカへ渡った。この曲は皆大好きで、曲が終わると「イェイ!」と声がかかった。 「なんていう曲か知っている?」と尋ねると誰も分からない。生活の中で知らない間に聞いている曲は、いざどこの国の音楽でなんと言う題名か尋ねられると分からないものだ。このようなミニ・コンサートでちょっとした曲の説明をするとその曲の印象をより強くのこすことができると思った。 地図でイランを指し、かつてはペルシャと呼ばれ、そこで開かれたマーケットを描いた曲、ギロックの「東洋の市場」をひいた。 演奏が終わるとひとりの女の子が「この子、この音楽が大好きなのだって」と男の子を立ち上がるようにうながした。その男の子は「この音楽を聴いたらとても怖い気分になった」といった。するとあちこちから同意する声が上がった。その男の子は得意げな表情になった。 それならもっと怖い気分になってみようか?と動物あてクイズにはいた。ロリンのビーニー動物園から、さめ、蛙、蝶々、へびを選び、名前と絵を描いた紙を見せて、どの動物か当ててもらった。 ひきはじめたらすぐ「わかった!」と声が聞えてきた。皆「ハイハイ」と大きな声をだして手をあげてくれる。「さめ」正解! 「蛙」をひきだすと、「蝶々」と答えが出て、皆もそれに同意した。ちょっと困って、それならこれを聞いてと「蝶々」をひくと「蛙」と答えた。とても困ってしまった。するとひとりが「これは蝶々」と言い出した。「そうだ蝶々」と皆も答えを変えた。この混乱が大いに雰囲気をもりあげてくれた。思わず「わかってくれてありがとう!」と言ってしまった。 最後に残った「蛇」は答えを言ってからひいた。ひき終わると怖い曲のアンコールがかかったので「さめ」をもう一度ひいた。 「スペインの休日」を聞いて国を当てるのは難しかった。小学校1、2年生には少しむりだったかな?それとも東洋の印象が強かったのか、日本、中国、それにキュウーバという答えがでてきた。「トーレアド」でスペインを締めくくりブラジルへ飛んだ。 「リオのカーニバル」を少しひきサンバのリズムをとってダンスをして見せた。今日は日本の動きで踊ってみようという提案に皆乗ってくれた。A部での動き、B部での動き(阿波踊りは大好評)そして音楽をよく聞いてA部に戻る。部分練習を済ませ、曲を通して動いてみた。子供たちの動きと熱気がジンジン伝わってくる。誰もじっとしている子がなかった。 リズムにのってきたので「ブギ時計」をひくことにした。用意してもらった打楽器を自由に使って合奏した。皆思い思いのままに打楽器をならした。どの生徒も奏者になりきっていた。日本の子供たちと遊んだときのことを思い出した。内にこもる文化と外へ出す文化とはよく言ったものだ。 最後に誰にでもピアノが弾けること、音楽に参加できることを知ってもらおうと、ミラーの「あさつゆ」にあわせてドシラソファミレドをピアノで一緒にひいてもらった。下スキップするだけなので誰でもひける。しかし4拍数えて伸ばすことが難しく、今回は先生に手を持ってもらっての演奏になった。選ばれて前に出てピアノをひいた生徒の顔はピアニストのようにすました顔をしていた。 始まる前にD先生から20分持てばこの学年はいいところだといわれていた。ところが40分があっという間に過ぎ、次のクラスがあるので切り上げることになった。 終わってからこっそりと自分の名前を言いに来る子、私の年齢を聞きに来る子、どこでこんなにいろいろな音楽を集めてきたのかと質問する子、自分の好きな曲やひける曲を言いに来る子、たくさんしゃべりに来てくれた。そして「次はいつ来てくれるの」と何度も尋ねられた。音楽は世界共通語。はじめるまでの大きな心配が、ジェット機のように吹っ飛んでいった。 今日、3月3日、お雛様の日に大きな封筒がD先生から届いた。かわいいシール、ハート、それとたくさんのTHANK YOU が書かれていた。封筒を開けると子供たちからの手紙が入っていた。一人一人の子がコンサートのときの絵を描き、感想を書いてくれた。「さめ」と動物あてクイズが面白かった。日本のダンスがとても楽しかった。一緒にピアノをひいたことがうれしかった。いろんな国の音楽を聴いて外国のことを想像したのが面白かった。7歳の子が「私の人生で出会った一番すばらしいピアニストだ」と書いてくれたのを読んだとき思わず微笑んだ。 じわじわと、穏やかな喜びが私の心に込みあげてきて鳥肌がなかなかおさまらなかった。とても平和な気持ちになった。 |