Hillock カナダ便り vol.14 おばさんの誕生日パーティー


 ジェニのおばさんはロンゲイという町にある老人ホームで暮らしている。この老人ホームはマンション形式だが希望により食事をみんなといっしょにサロンですることができる。サロンは40畳ほどの広さでその片隅にグランドピアノが置いてある。
 11月25日(火)はサロンの一角がスクリーンで仕切られ,おばさんの誕生日パーティーの部屋がピアノといっしょに設けられた。おばさんが招待をした兄弟姉妹と姪達が集まりその中に私も入れてもらったわけである。ロリンの"ダンス・フォ・ツー"が出たとき、ジェニに連弾をしてみようと持ちかけた。そしてこれができるようになったらどこかで演奏して聞いてもらおうと提案したのがきっかけで、ジェニのお母さんがおばさんの誕生日パーティーに二人でコンサートをしてみないかとチャンスを作ってくださった。
 当日ジェニも私もどきどきしていたが「間違うことを恐れないで、まず二人が楽しんでひこうね!」とピアノに向かった。

 おばさんはちょうど1920年生まれなので"1920'チャールストン"からスタートした。それからお料理が出始め、私たちも席に着きご馳走をいただいた。おばさんは招待客の一人ひとりを自分のメッセージを添えて紹介した。それぞれのいい点を披露してくれるのでその場がとっても和やかになった。私のときはキヨトから来たヒロコですと紹介しようとするがどうしてもキヨトとヒロコが混ざって"キロコ"になってしまう。ジェニが直せば直すほど「キロコ」 は強調されてしまった。今日一日"キロコ・ヤスダ"です!
 一段落したところで次のお料理が出るまで又演奏を始めた。お客さんたちは久しぶりに会ったのでピアノが始まっても話がやまない。ジェニは私に申し訳なさそうに「うちの家族っていつもこんな感じで・・・」といった。「バックで弾くのは慣れているし、それに好きだから気にしない気にしない!」といった。


 "パリのワルツ"を弾くときジェニがお客さんたちに「この曲はロリンが"音楽への情熱的な愛をありがとう!"というメッセージを添えて友人のヒロコに贈った曲です」と説明をした。するとみんなが拍手をしてくれその場がシーンと静かになった。次の"タランテラ・ブリランテ"も毒蜘蛛が這いまわるフレーズ、蜘蛛がちくりと刺すフレーズを先に取り出し説明をして弾いてみた。
すると皆納得して聞いてくれたのか演奏が終わるやいなや笑顔がひろがった。次々とジェニが説明してから演奏したので、皆音楽を楽しんで聴いて下さったようだ。
連弾が全部終わるとソロも聞いてもらった。"ニューオリンズのたそがれ"を弾いたとき、スクリーンの外で聞いていた部外者のおばあさんが「今のはガーシュインでしょう?そうでしょう。とっても素敵!」と言いに来てくれた。  ジェニがソロを弾きだすとジェニのお父さんは嬉しそうな顔をしてたくさん写真を撮っていた。なんともホットな場面だ。

 そのお父さんが、ジェニの演奏が終わるとピアノの前に行き、"ジャン・デュ・ペイ"という曲を楽譜無しで弾きだした。ケベックではこの曲が誕生日に歌われる。演奏が終わると次はすっと立ち上がって皆のほうを見てAの音を歌わせた。そしてピアノを弾きながら"ジャン・デュ・ペイ"の大合唱の指揮をした。部屋のあちこちから美しい歌声が聞こえ始め、誰かがアルトのパートを歌いだし、それはそれは美しいハーモニーにとなり、まるで雲の上にいるようだった。そのあとジャズのスタンダード・ナンバーをおとうさんのピアノ伴奏で歌った。
お父さんみたいに楽しいピアノを弾きたいな・・と憧れた。

ジェニのおとうさん

 私はこの美しい合唱に驚いてどうしてこんなに声のいい人が親戚にたくさんいるのか、どうしてお父さんもピアノが上手なのかジェニに尋ねた。 「両親はオペラ歌手だった。父はジャズバンドでベースを弾いていたこともあり、ピアノもラッパも何でもこなす。今は教会でコーラスの指揮者をしている。母はピアノが弾けるし、おばさんたちはピアノ教師でコーラスにも入っている。ヒロコの隣のおばさんはヴァイオリンを弾く」と次々でてくる。《ワァー、ジェニは音楽一家出身だったのだ!》それで親戚の前で弾くのもどきどきしていたわけだ。演奏した後でこの環境を聞いて身の引き締まる思いがした。しかしおばさんや親戚の人たちが、とってもいいコンサートだった。言葉ではこの嬉しさを表せない。 最高のプレゼントだったと手をにぎりしめてくれた。
 帰り道ジェニは、「おばさんの83歳のお誕生日にプレゼントのコンサートができて本当に嬉しい。今までピアノは自分のために弾いてきた。人に喜んでもらえることを知らなかった。今日、人のためにピアノを演奏することができて本当に嬉しい。ありがとう!」と言ってくれた。
 もし私が音楽を続けてなかったらカナダへ来てこんなに楽しい友達や家族と出会うこともなかっただろう。音楽って本当に素敵だな・・・音楽はまさに人と人の心をつないでくれる架け橋だ。 HILLOCK

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