"ドラマ演出"日誌 98年7-9月


98/07/23 ■妙子、すっげー!■

「神様、もう少しだけ」の第3話は、セカンドDの田島大輔さんの演出でしたが、これまでの3話の中で一番良いと感じたのは、ボクだけでしょうか? 派手な要素はほとんどないのに、緊迫感のあるシーンの連続。すごかった(^^)

金城武や深田恭子にじっくり演技させて、それを入魂のカメラワークで撮る……という感じでした。安易にBGMを垂れ流していないところも良かったです。若干強引ですが、TBS生野慈朗さんが演出した「最後の恋」第6話を連想しましたね。川岡大次郎の死後を描いた回で、同様の緊迫感がありました。

田島さんといえば、「沙粧妙子」で、カッシー&広末が護送車の窓ごしに涙を流す回を演出した人ですが、今回改めてスゴイ人だと思いました。

ところで、浅野妙子さんの脚本の素晴らしさに、毎週驚かされています。安易に身体を売った女子高生がHIVに感染して、自分の生き方を反省する……というような道徳劇だったら嫌だなと、見る前は思っていたのですが、違ってました。

彼女が最終的に身体を売る決意をするのは、相手の男も自分と同じように「日常の閉塞感から脱却したい」という願望を持っていたからですが、これが原因でHIVに感染して、皮肉にも日常の循環から脱却してしまうという展開。すっげー!

また、十代の内面と、生死の問題を同時に描こうとしているところも、センスが良いというか、作家としての力量を感じてしまいますね。母親のメモにあった「十代は一番辛い時」という言葉がキーワードかな。

印象的なセリフとかも多くて、第3話の「啓吾もクロならいい」というのもググッときましたが、シロだとわかってから、どう反応するのかと思ってたら、「嬉しいに決まってるじゃん」だって。予想外、予想外、予想外!
なんか、ほんと、スッゴイ脚本ですねぇ。泣けましたよ(^^) 本当は複雑なのに「決まってる」って言っちゃうところが切ない。クロを願う思いとシロを願う思いの間で、強い葛藤があったことが忍ばれます。

「日経エンタテインメント」によれば、もともとこの企画は97年4月に予定されてたのが、局内の反対でボツになってたものらしいです。その後、小岩井&浅野コンビは「ミセス・シンデレラ」「ラブジェネ」を大ヒットさせて、やっと実現に、こぎつけたというわけですね。気合入ってるんですね(^^)

実現が遅れたせいで、エイズ認識がやや古いという声もあるようですが、この脚本の完成度を前にしたら、そんなことはどうでも良いです。


98/08/10 「スウィートデビル」

台本も役者もイマイチだと思うけど、上川伸廣さんが演出した回の演出だけが、際立っていますね。上川さんは、製作会社イーストの所属で、「渡部ストーカー」の演出した人だけど、今クールは特に注目したい演出家ですね。

特徴としては、(1)ホラー系の恐いカット割りと音響効果、(2)「金田一少年」みたいなカメラワーク、(3)妙に絵心を感じさせる映像、など。今週の、唐渡亮が死ぬシーンとか、ホント恐かった(^^)


98/08/17 「スウィートデビル」

今週は、犯人の少年役で青木堅治が出てた。この人、ちょっと前の「美少女H」にプレイボーイ役で出てて、新人にしてはセリフとか表情のニュアンスが豊かだったので、名前をチェックしておいたんだけど。注目株かも。

「ボーイハント」にも出てるけど、「美少女H」の時と同じ木村達昭さんが演出。ほとんどセリフがないけど、木村さんに気に入られたんだと思います。(でも、さっき調べたら、この人、瀬戸朝香と同じ事務所だった。ってことは、いわゆる抱き合せ商法ってやつかも……?)

あと、9/2の水曜深夜の「せつない」にも出るみたい。この調子で行けば、1年後には有名になってるかも。性格悪そうな役が得意そうなところが、良いねぇ(^^)

(9/2、9/16参照のこと)


98/08/25 「ハルモニア」

今日買った「TVライフ」によれば、「ハルモニア」は堤幸彦さんの演出の完成形だと書いてあるけど、堤さん本心からそう思っているのだろうか?

もちろん堤さんの映像には、深夜ドラマにありがちな特撮バカ(失礼!)の作品と違って、絵心が感じられるし、「ハルモニア」でも光一が住むアパート内のシーンなどには、光の陰影や演技のリズムに趣があって、さすがだな〜と思う。映像と演技が有機的に噛み合っているから。

しかし……、しかし……、「金田一少年」や「サイコメトラーEIJI」に比べると、どうしても物足りなさを感じてしまうのは、ボクだけだろうか? まあ、こっちが堤さんの演出に慣れ過ぎちゃったという面は、あるのかもしれないけど。


98/08/26 「大家族デカ2」

27日CXの2時間ドラマは共同テレビ制作「大家族デカ2」。演出は現在「今夜、宇宙の片隅で」も担当している佐藤祐市さん。この人は、共テレの中では村上正典さんと並んでヨーロッパ系に属する人なんだけど、最近大きい仕事がないみたい。日本の下町をフランス映画っぽく撮るのが得意みたいで、「タイムキーパーズ」(もんじゃ焼き屋)「将太の寿司」(すし屋)「時をかける少女」(銭湯)での映像感が、個人的には大好き。

今回のドラマでは「タイムキーパーズ」で滝沢の母親役をやってた森久美子が主演。ボク自身は「タイム……」での母親&息子のシーンが、いまだに忘れられないんですが、佐藤祐市さんも森さんの母親役がお気に入りなんだろうな。

ただ、このドラマはコメディ主体になると思うので、佐藤さんらしいヨーロッパ趣味はあんまり前面に出せないと思う。こればっかりは、佐藤さんがもっとメジャーになってくれることを期待するしかないや。ところで、小橋賢児は「青の時代」とダブルブッキングだけど、……まあ良いのかな(笑)


98/08/27 「大家族デカ2」

やっぱ、つらいよね。見終わって何にも残らないサスペンスコメディ。部分的に佐藤さんらしいコダワリのカットがあったけど、内容が内容だけに、無意味なコダワリと化してる。


98/08/28 「ハルモニア」

前半の病院のシーン、特に2人でオセロをやってるシーンが良かった。間をおいたカット割りと音楽がかもし出すリズム感に、独特の緊張感があった。自殺前の重要なシーンだからね。

あと、ラストで弟の死を知って絶叫するシーンでの、天井から迫るカメラワークとかは、さすが堤幸彦さんって感じ。でも、ボクとしては、前半のオセロのシーンの方をとりたい。これで弟役が大坂俊介じゃなくて松本潤だったら、もっと泣けたのにネェ。


98/08/30 「ボーイハント」「凍りつく夏」

出だしから主題歌までの数分を見て、一瞬、中江功さんの演出では? って思ったけど、タイトルバックを見てたら木村達昭さんだった。表情のアップを細かくつないでいって、所々にヘンテコなアングルのカットを挿入して、アクセントを付ける……というのは、中江さんの十八番だと思っていたんだけど、最近マネする人が多くなりましたね。

このドラマ、視聴率的に苦戦しているみたいだけど、ここ何週間かの展開は悪くないと思う。モラトリアル・ドラマらしい煮えきらない感じがよく描かれていると思うけれど、一般視聴者の目には「ストーリーがかったるい」という風に映るのだろうか。まあ「豪華な出演者を無駄使いしている」っていう意見の方は、正しいと思うけど。

「凍りつく夏」の方は、「藤原竜也、よくやった!」って感じだネェ。期待通りの展開。このドラマ、映像的に凝ってるシーンって、藤原竜也がらみが多いんだよね。藤原&竹内結子のビルの屋上シーンとか。今日のラストシーン(病院の廊下を歩く藤原竜也)とか。今日の演出は田中壽一さん。ちなみに2〜3週前の白川士さんって「天までとどけ7」の演出もしてた人。


98/09/02 「ハッピーマニア」etc

久しぶりに見たら、演出のテンションが以前より高くなってた(^_-)。「ショムニ」を、ちょっと下品でB級っぽくした感じ。逆に言えば、「ショムニ」の洗練されたバカバカしさを再現するのは、難しいってことだと思う。演出は「総理と呼ばないで」「ショムニ」などで名前を見掛ける、多分(?)若手の平野眞さん。
それはそうと、タカハシは相変わらずカワイソーだね。良いヤツなのに。

こないだ青木堅冶が出るって書いた、深夜ドラマ「せつない」の放送日がまたまたズレたみたい。もともとは村田和美と共演で8月の頭に放送だったのに、「TVぴあ」によると、9/16放送予定で、共演が青木と同じ事務所の田中有紀美に代わってる。何かあったんだろうか。……芸能界って、大変そう(^_^;)


98/09/04 秋の新ドラマ

既にあちこちで話題になってる秋の新ドラマですが、今週の「TVぴあ」で、やっとスタッフがわかりました。キーワードは、「過去のヒット作と同じスタッフ」「共テレ作品の激増」です。

●過去のヒット作と同じスタッフ

プロデュース(P)、演出(D)、脚本が同じなのが
 「ニュースの女」→「殴る女」
 「きらきらひかる」→「タブロイド」
 「ストーカー誘う女」「略奪愛アブない女」→「仮面の女」

Pと脚本が同じなのが
 「成田離婚」→「じんべえ」
 「長男の嫁」→「あきまへんで!」(演出も福澤克雄さんがダブってる)
 「恋人よ」→「眠れる森」(中江功Dは野沢脚本の「おいしい関係」
             でセカンドDをやってる)

PとDが同じなのが
 「いいひと。」→「ソムリエ」
 「古畑」「今夜、宇宙」etc →「板橋マダムス」
               (セカンドDが誰なのか不明)

と、まあこんなところでしょうか。

日テレの場合は、元々スタッフの数が少ないので、PとDが同じというくらいで注目しても意味がないんですが、榎本加奈子の「P.A」はちょっと変な組み合わせ。佐藤東弥Dって、ずっと櫨山裕子Pか井上健Pと仕事してきたんだけど、今回は田中芳樹Pとのコンビ。っていうか、田中Pが土9をやることの方が珍しいんだけど。ただ、田中Pの24時間ドラマはつまらなかった(^^)

あと「PU-PU-PU-」もちょっと変わった組み合わせ。丹波多聞アンドリウP、吉田健D、土井裕泰D……。

●共テレ作品の激増

テレ朝月8「チェンジ!」
      (「正義は勝つ」「恋あせ」の若松節朗D)
フジ 火8「走れ公務員!」
      (西谷弘Dはボクが最近注目してる人)
フジ 火9「殴る女」
フジ 火10「ソムリエ」
テレ東水8「食卓から愛をこめて」
      (高橋萬彦P、藤田明二D)
フジ 水10「板橋マダムス」
      (関口静夫P、河野圭太D)

フジの火曜は共テレ3連チャン! それにしても西谷弘って、名前を見掛けるようになってから、1年チョットなのに、早くもチーフDに昇格なんてスゴイね。

この他にも、今週から始まったTBSの昼ドラ「39歳の秋」と、先週終了したNHK金8の時代劇も共テレだから、教育テレビ以外は、共テレ台風直撃状態ですね〜(^^) 特にTBSが共テレと組んだっていうのは、大ニュースでしょ。そのうちゴールデン枠(金ドラとか)にも、進出するかも。


98/09/07 「スウィートデビル」最終回

月8以外の枠では許されない展開かも(笑)

でも、上川伸廣さんの演出には改めて感心しました。特に中盤の、工場or倉庫のシーン。極端にエコーが掛かった音響処理(セリフetc)に演出家としてのセンスの良さを感じました。


98/09/11 「青の時代」最終回

最近の小松江里子さんの脚本の中では、破綻が少ない方でしたね。榛名の二重人格がメインになる後半は、お決まりのストーリー展開を消化しているだけって感じで、物足りなかったですが。ホワイト榛名に救われた剛(役名忘れました)が、ホワイト榛名と同じやり方でブラック榛名を救う、というオチだったんですね。

もうちょっと深読みすると、ホワイト榛名、篠原涼子、山本圭が持っていなかったものを、剛が持っていたとも解釈できるんですが……。大切な人のためなら身体を張って戦うという部分。――どっちにしても、そういうコンセプチュアルな部分の描写が後半弱くなってしまったみたいで、それが残念ですね。

それにしても終盤の崖のシーン。迫力ありましたね。ちょっと「青い鳥」に影響受けすぎでしたが(^^)、崖から落ちる上川を捕まえるところとか、手が込んでるなと、思いました。リハーサルにかなりの時間をかけているハズです。剛&上川の暑苦しい演技にも、圧倒されました(^^)

ただ、主題歌の後の、取ってつけたような後日談はなくてもよかったような気がする。やはり最後は山本圭に、見せ場を用意してあげないと(^^)


98/09/11 「ランデヴー」最終回

な〜んか、見る人を選ぶドラマだと思いました。ただダラダラしているだけで、わかる人にだけわかるっていう、よく言えば感性の、悪く言えば閉鎖的な世界。「ビーチボーイズ」もそうだけど、ボクは愛憎半ばって感じです。誉められればケナしたくなるし、ケナされれば誉めたくなる(~_~;)

岡田惠和さんって、作劇のセオリーを壊すことに腐心している脚本家みたい。このドラマでも、「ドラマだったら……なのに」というような、メタなセリフが何度か出てきたりして、その辺は徹底している。

だから、古典的な作劇セオリーを元にして「構成がなってない」みたいに批判されると、「そうじゃない。意図的にそうしているんだ」って、擁護したくなります。でも、引き算だけでドラマを作っちゃいけないような気もするんですね。西欧文学の構成力を否定したところに成立する、日本の私小説じゃあるまいし。

マイク真木の死とか、高橋克典のお別れ会とかで、終盤にドラマチックな展開を期待させておいて、結局、何も変わらないという意地悪な終らせ方。岡田さんの定番パターンになりそうな気がする。

あと、田中美佐子&カッシーのエピソードは、個人的には、ちょっと甘ったるすぎるかな。田中美佐子がカッシーのことを好きになるのは良くわかるけど、カッシーが田中美佐子を好きになるって部分に、ムリがあるでしょ。(~_~;)

演出について、何にも言ってなかった。(笑)

「独特の間をいかした演技が、このドラマの特徴だ」って、カッシーが言ってたけど、ホント頭の良い俳優だよね。どういうリハーサルをやってるのか、気になりました。――映画「スワロウテイル」に似ているのは、ご愛敬ってとこかな。


98/09/12 「ハルモニア」最終回

このドラマの最大の難点は、主人公(秀行?)の気持ち(こだわり)にイマイチ共感できないってことなんだと思う。――原作が悪いのか脚色が悪いのか、良くわかりませんが。

命を削ってまで(または犯罪を犯してまで)「自分の音」を出すことにこだわる気持ちって、ボクには理解できません。だいたい、いまどき「自分の音が大切」などと言ってるクラシック音楽家なんていないような気がする。このドラマの音楽感って、ちょっと時代錯誤的。

ちなみに原作では主人公は中年男らしいけど、その方がしっくり来るかも。伊武雅刀&中谷美紀で、中年男の暴走みたいなイメージ。(~_~;)

光一のセリフに「いままで、こんなに必要とされたことは一度もなかった」というのがあったけど、こういう言葉は中年男が言ってこそ意味があるんであって、ハタチそこそこの若者が言っても、当たり前すぎて重みがないでしょ。

矢田亜希子もナイフなんか持ち出して、印象が安っぽくなっちゃった。(-_-;)

しかし、しかし、しかし……ラストの海辺のシーンは良かった、良かった、良かった(^o^) 脚本がダメでも、演出の力だけで感動が作れるっていう良い例ですね。

特にすごかったのが、ユキが息を引き取るシーン。30秒近い無音のカットを見ながら「この後どうつなげるんだろう」って、息をのみながら、考えたんだけど、その時思いついたのが、以下の2パターン。

(1) 光一の絶叫で無音シーンが終る
(2) まったく別のシーンに移る(葬式のシーンとか)

見た人ならわかるとおり、ボクの邪推なんて遥かに上回る展開で、胸が熱くなりました。(サントラ買うぞ!)このシーンだけでも、このドラマ、見る価値はあったです。(^^) やっぱ、堤幸彦さんって、すごい人だよね。


98/09/14 「凍りつく夏」最終回

このドラマの脚本って、よく考えると、ものすごくユニークですね。

(1) 基本は大映テレビみたいな、ウソ臭い設定・展開なんだけど、
(2) その中に、社会的&時事的なテーマを盛り込んであって、
(3) さらに、探偵小説的な構成力で見せる側面もある。

この3つが両立(?)しているドラマって、珍しいと思います。特に(1)と(2)って、相反する要素でしょう。

江頭美智留さんって、「ナースのお仕事」でも、“社会派ネタ+コメディ”をやってたけど、スゴイねぇ。


98/09/14 「美少女H」

佐藤健光さん(イースト)の演出が良かったのか、4人の女の子がイキイキしてた。上手い子は1人もいないのに……。(^^) キチンとした芝居を要求しないで、4人が持ってる天然の持ち味だけで、1本撮っちゃった……って感じ。あと、カット割り、フレーム決めを含めて、女の子の撮り方が上手いと思った。

ヘリクツっぽいセリフが多い脚本も面白かった。やっぱ、良いよね。このシリーズ。

(10/1に追記があります)


98/09/15 「神様、もう少しだけ」

同じ人が脚本を書いているとは思えないくらい、つまんなくなっちゃいましたね。今週も、産むとか産まないとかやってたけど、どっちでもいいや……って思っちゃった。(^.^)

でも、田島大輔さんの演出は良かったな。特に、堕胎手術直前の待合室のシーンとか、ドアを開ける手を、金城武の手が止めに入るカットとか。

ただ、あのビデオレターはちょっと不自然。どうみてもプロが撮った映像だよ(笑) アイデア自体は悪くないですけど(誰のアイデアだろう。田島さん?)

――最近、真生の「……だよっ!」っていう口調が、ツボにハマっちゃいました。(^^ゞ


98/09/16 「せつない」

以前、書いたことのある青木堅冶が主役を務める「せつない」がやっと放送された。まあ好みの問題はあるにしても、かなり良かったのでは? 演出も、彼の表情やセリフのニュアンスの面白さを、積極的に汲み取っていたと思う。強いて難点を言えば、ちょっと演技が荒っぽいかなって感じるところもあったけど、そういう部分は経験を積めば改善されるだろうし。なによりも、見ていて安定感があるのが良いね。


98/09/17 モラトリアム・ドラマについて

「ランデヴー」と「ボーイハント」という2つのモラトリアム・ドラマを見ていて、いろいろ考えさせられちゃったんで、ちょっとまとめてみます。

モラトリアム・ドラマの基本パターンというのは、若者が主人公で、最初はバカなことをやっているが、中盤の事件をきっかけに真剣に自分の将来を考えるようになって、ラストで自分のやりたいことを見つけて、モラトリアムを卒業する……というものです。

「ランデヴー」の岡田惠和さんは、このパターンがウソ臭くてイヤだったんでしょう。去年の「ビーチボーイズ」にしても、今回の「ランデヴー」にしても、このパターンを壊そうとする、強い意志が伝わってきます。モラトリアムっていうのは、恋愛感情と同じように、決して若者特有の現象ではない。中年女にも起り得るし、簡単に解消できるものでもないと。

もっと言ってしまうと、岡田さんはモラトリアムを、心の隙間に忍び寄る病気とか宿命のようにイメージしているとも言えます。で、「ランデヴー」では、その宿命を肯定的に受け入れて、生きていくことを示唆して終ります。

「ランデヴー」に比べると、水橋文美江さんの「ボーイハント」は、モラトリアム・ドラマの基本パターンを踏襲しているといえます。

ところで、ボクは水橋さんの脚本があまり好きではありません。技術的には上手いと思うけれど、安っぽい感動を押し付けてくるようなところが肌に合いません。「みにくいアヒルの子」とか、以前、お正月にやったSMAPのスペシャルドラマとか。

ところが、今回の「ボーイハント」はちょっと違う。「感動的な」事件が起らないで、日常的なエピソードがダラダラと続いている。どうしてしまったんだろう。水橋さんにとっても、モラトリアムは安易に解決(感動)できない問題なんだろうか。

三角関係のドラマとして見ても、「ボーイハント」は良くできていると思います。ワザとらしい「すれ違い」パターンを使わないで、細々としたエピソードの積み重ねで、煮詰まっていく過程を描いているから。こういうやり方って、日常を細やかに観察・分析する力がないと上手くいかないんだけど、水橋さんはそこをクリアしています。

いしだ壱成が「聖者の行進」と対照的に、素のままで演技しているのも、水橋さんの脚本とシンクロしているように思えます。もちろん、いしだ壱成の態度が煮えきらないから、イライラするって声もあるみたいで、それはある意味で正しいんだけど、でも、現実の人間関係って、あんな感じじゃないでしょうか。そんな風に思える人がたくさんいないから、視聴率が悪いわけですが。(>_<)

まあ、どっちにしても、基本パターンからはみ出した脚本というのは、視聴率的には得策ではないんだけど……。2本とも、分かる人にのみ分かるって世界でしょ(^^)。


98/09/21 「ボーイハント」最終回

後半の地味で煮え切らない展開、個人的には嫌いじゃなかったです。モラトリアムな日常の細々したことを、割と丁寧に描いていたと思うから。「ランデヴー」には負けるけど。

前にも書いたけど、水橋文美江さん(中江功Dの奥さんだって!)の脚本って、手垢にまみれた感動を押し付けてくるようなところがあって、あんまり好きじゃないだけど、今回はアッサリしてて良いな〜と思ってたら、ラストの2話は、山崎淳也さんになっちゃった。(^^ゞ 企画の亀山千広さんあたりと対立しちゃったのかな?(ということは、ボクは亀山派なんだろうね。きっと)


98/09/22 「神様、もう少しだけ」最終回

ラブストーリーになっちゃった後半以降は、どうでもいいや〜と思って見ていたんですが、最後の最後に、良い脚本を書きましたよね。>浅野妙子さん。(^^) タイトルの意味も、よ〜くわかったし。

一度は死の淵から生還させておいて、ラストで死なせるという展開。人間に欲にはキリがないってことを、描きたかったんですね。そう解釈してビデオを見直したら、納得できるシーンが多かった。子供が陰性だっていうことを、知らずに死んじゃうラストも、2回も結婚式のシーンがあることも。

一つ望みがかなうと、次の望みが出てきて……。最終回の1時間15分って、それの繰り返しでしょ。「神様、もう少しだけ」という奇妙なタイトルにはそんな浅野さんの冷徹な死生感が、込められていたんでしょう。

残念だったのは、武内英樹さんの演出。会話とかも、全体的に緊張感が弱いし、「生きていれば欲が出る」っていう重要なセリフもさらっと流しちゃうし……。田島大輔さんだったら、もっと緊張感あったはず(-_-;)

あと、加藤晴彦は最後まで良いとこなかったですね。もったいない。「ボーイハント」もそうだけど、俳優を無駄遣いしちゃいけないよ。(^^ゞ

成長後の弟役の鳥居紀彦って、「みにくいアヒル」に出てた子でしょ。あれも武内さんの演出だった。


98/09/22 「GTO」最終回

最終回は中尾彬が主役に見えちゃった。(^^) 一番おいしいセリフも、中尾彬だったし。「この国はこれっぽっちも豊かじゃない」とかいうセリフ。ストーリーと噛み合ってないような気もするんだけど、「神様」の感動モードが残っていたのか、結構ジーンとしちゃいましたね。(自分でも不思議)

「最終回なんだから、やりたいことやっちゃえ」みたいなノリが、演出や、ベテラン〜中堅の演技から伝わってきて、そこも良かった。ストーリー的には、かなり無理があったと思うけど。(^^)


98/09/29 「剣風伝奇ベルセルク」最終回

日テレ系の深夜アニメで、ここ何ヵ月かずっと見てたんだけど、またずいぶんとグロテスクな最終回だねェ。これだったら、ラスト2話はない方が良かったかも。リアルな描写が身上のアニメだったのに、最後の最後に、どういうワケだか魔物が出てきて、無残にもみんな順番に食われちゃって血の海。キャスカは犯されちゃうし。ザ、ン、コ、ク……ああ後味悪い。ゴールデン枠じゃ放送できないよ。

見たことない人のために、たとえて言うと、「神様、もう少しだけ」の最終回に、恐怖の大王が出てきて、主要登場人物が全員食われちゃって、あたりは血の海。最後は、瀕死の金城武の前で深田恭子が犯されちゃう……という感じ。納得いかないでしょ。いままでのシリアスな物語は何だったんだって。(^^)

ただ、今夜もジュドーが死ぬシーンのカメラワーク(?)とか良かったし、トータルで見れば、脚本とか演出とかに見るべき物は多かった。アニメはあんまり見ないけど、実はドラマのアイデアになりそうな要素がいっぱいあったりする。

ところで、アニメといえば「エヴァンゲリオン」が有名だけど、これも演出がバツグンに良いんだよねェ。「エヴァ」に感動している人って、当人は自覚していないと思うけど、実は演出の上手さにハマってるんだと思う。物語とか人物描写とかは陳腐だもんね。ウソ臭い心理学本に書いてあるような、図式的な性格パターンがそのまんま出てくるし……。

でも演出は圧倒的に良いの。余韻が残るシーンが多いから、視聴者が過剰に解釈しちゃうワケ。第2話とか。――「エヴァ」についてのコメントは、それこそ星の数ほどあるけれど、演出に言及したものって、ほとんどない。でも、そこに気がつかないと、「エヴァ」を超えるものは作れないハズ。


98/10/01 9/14の「美少女H」追記

ビデオを整理してたら、9/17の「美少女H〜軽い機敏な子猫何匹イルカ?」をまた見てしまった。そしたら、前回書いたこととは、まったく違う感想を持ったのでご報告。

改めて見ると、山本郷史さんの脚本がかなり良く出来てて、細かいニュアンスがわかってくると、面白いわけ。そうなってくると、脚本のテーマを無視した佐藤健光さんの演出が物足りなくなっちゃう。もっと、ひとつ一つのセリフを丁寧に撮って欲しかった。

別の言い方をするなら、脚本を読んで解釈するのも、演出家の大事な仕事といえるわけで、佐藤さんの場合、山本さんの脚本の面白さを十分に理解していないのではないか……という疑問が湧いてくる。演出家の解釈能力っていうのは、脚本家にとっては死活問題だったりする。三谷幸喜さんなんかは、演出家が気に入らないから、自分でメガホンを取って映画を作っちゃったわけでしょ。

(10/04に追記があります)


98/10/01 鈴木雅之さんについて

ここまで書いたきたことをざっと読み返して見て、気がついたのは、「世界で一番パパが好き」の鈴木雅之さん(共テレ出身)について何もコメントしていないこと。理由は簡単で、「さすが鈴木さん」って思うことはいっぱいあったんだけど、それ以上に「これはコメントしなければ……」っていう気持ちになる要素が少なかった、と。良い意味でも悪い意味でも。(^^)

ところで、鈴木さんって去年の秋クールの「成田離婚」を境に作風が変わったと思ってる人いませんか。それが象徴的に現れているのが音楽の選び方・使い方。以前の「総理と呼ばないで」とか「こんな私に誰がした」などが、華麗で壮大なドイツ・ロマン派風(この表現はテキトーです)なのに対して、「成田」以降は、現代音楽〜ミニマル・ミュージック風です。この変化に伴って、カット割りや編集が、よりリズミカルな感じになりました。

実は、春の「世にも奇妙」を見た時にビックリしたのがこのことで、直後の「ショムニ」第1話が、同じ路線だったので、さらにビックリしたんです。だから、今回の「一番パパ」に関しては、さすがにオドロいたりはしないワケです。(^^) ただ、今までは星護さんのお友達みたいな印象が強かったので、鈴木さんの演出について、いろいろ考えるようになったのは最近のことなんですね。ボクの場合。

本当は今期のドラマの総括も書かなきゃ……と、思っていたんですが、今日発売の「ザ・テレビジョン」をまだ買ってないので、それを読んでからにしようと思ってます。ドラマアカデミー賞があるはずだから。

そうそう、新ドラマが始まったら、過去の日誌は別ページに移動させようと思っています。ホントはページを細かく分けるのって、好きじゃないんだけどね。全1ページとかの方が、保存するとき楽でしょ(笑)


98/10/04 「美少女H」の本

アイドル写真集みたいなアップ写真ばっかりだから、ドラマのメモリアルとしてはイマイチなんだけど、各回の「演出メモ」が載ってたので買っちゃいましたよ。1500円。電車の中で広げたら、一緒にいた友人が「危ないヤツに見えるから、止めろ」だって。(^^)

ちょっと前にやってた番外編ドキュメンタリーもそうだったけど、“美少女”の部分を強調し過ぎてないかい? まあ、それで人気が出てるんだから、OKなんだろうし、ボクがプロデューサーだったら同じ戦略を立ててたかもしれない。でも、この番組は若手女優だけじゃなくて、若手の脚本家・演出家・男の俳優の登龍門でもあるんだし、そういうところも少しは見てあげないと、カワイソウな気がする。

一応、印象に残った俳優とかを挙げとくと、本宮純子、仲根かすみ、吉井怜、水川あさみ、小池栄子、清水千賀、千葉れみ。男だと第2話に出てきた青木堅治、高橋一生。それから、みのすけなど舞台系の人。演出では有田晃之、大森美香、石井てるよし、樋口徹など。脚本は……よくわからないや。太田愛さんとか良かったかな? 飯野陽子さんは、甘ったるくてイヤだった。

ところで、9/17の21話「軽い機敏な子猫何匹イルカ?」の「演出メモ」で佐藤健光さんは、「新人だしへんにまとめようとせず、放り出すというか自由にさせてあげることも意識しました」と言ってますが、ボクの分析と一致してますね。よかったよかった。(~_~;) ……以上、自画自賛のコーナーでした。m(__)m


98/10/12 ドラマアカデミー賞etc

予想通り、「神様、もう少しだけ」が大半の賞を獲得しましたね。視聴率では「GTO」の方が上だけど、「ショムニ」とかと比べると、手放しで誉めづらいドラマだからね〜。ところで、読者票のジャニーズ度が、最近高まっているようで、気になります。

選考結果にチャチャを入れるなんて野暮なことはしたくありませんが、2つだけ。(^^) 深田恭子が助演扱いなのと、「凍りつく夏」(藤原竜也の怪演)の評価が低いこと。後者に関しては、終盤の盛り上がりを見ないで投票していることも一因かもね。

でも、最終回まで見ないと面白さがわからないっていうのは、連ドラとしては失敗なんだろうね。そういう意味では、放送終了を待たないで投票・選考をしちゃうドラマアカデミー賞って、連ドラの本質をしっかりとらえてると思う。嫌味じゃなくて。1万を超える読者票を3分の1の比率で集計しちゃうという、タテマエ民主主義的なところも、どこか政治的でリアリティあるし。(^^)

ただ、集計結果だけを載せる今のやり方は、もう一工夫欲しいかな。3分の2の比率で集計される審査員やTV記者の投票内容くらいは、きちんと情報開示するべきだと思いますよ。やっぱ。投票理由についてもキャプションでフォローされてるけど、もっとちゃんとした形で紹介できないもんかな。特に監督賞なんか、結果だけ示されても、読者の大半は、何が評価されたのか分からないと思うし、ボクも分からない。

今回の監督賞は「神様」だけど、どこが評価されたのか良く分からないから困っちゃう。田島大輔さんが評価されたんだったら、嬉しいけど、そうでないのなら……ネッ!(^^)


で、今クールのドラマで印象に残ったものをまとめると……


演出では「神様」の田島大輔さん、「スウィートデビル」の上川伸廣さん、厳密にいうと前クールだけど「美少女H」の有田晃之(てるゆき)さんなど。あと、「ラブエロ」の戸高正啓さんも、ちょっと気になる人。

脚本は、浅野妙子さんと岡田惠和さん以外では特になし。あ、三谷幸喜さんも後半のシリアスな展開は悪くなかった。「美少女H」21話の山本郷史さんも、ちょっと気になる存在。サントラは「一番パパ」の服部隆之さんと「ハルモニア」の見岳章さんが良かった。

俳優はドラマアカデミー賞と大差ないけど、それ以外で印象に残った人、気になった人を何人か挙げると、「凍りつく夏」の藤原竜也、「一番パパ」の岡田義徳、後藤理沙(ゲスト)、「びんぼう同心御用帳」の錦戸亮(関ジャニだって)、「ひとりぼっち」の濱田岳、「ラブエロ」の後町優太、「青の時代」の吉沢悠、「ランデヴー」の水谷妃里、「美少女新世紀ゲイザー」の吹石一恵、「美少女H」の水川あさみ、小池栄子、清水千賀、……なんだ、若い子ばっかじゃん。書かなきゃ良かった(^^;;;;

↑演技が上手いって意味じゃないよ(念のため)


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