三章 刑法
刑法とは何か
刑法―どのような行為が犯罪であるか、犯罪を犯した場合にどのような刑罰が科されるの
かを定めた法律、刑法典、特別刑法、行政刑法がある
刑法典:刑法の中心となる法律(この刑法典のみを指して刑法ということもある)
1907年制定、1995年改正
特別刑法:時代の変化への対応のため、あるいは特定の犯罪についての詳細に定める必要
性から制定された法律(軽犯罪法、覚せい剤取締法など)
行政刑法:それ自体は本来、刑罰を定める法律ではないが、一部に罰則規定を設けている
法律(公職選挙法、道路交通法など)
刑法の3つの機能
1 規制的機能(国民が社会の秩序を乱す行動をしないようコントロールする)
2 法益保護機能(個人、社会、国家の利益を守る)
3 自由保障機能(国民の自由と権利を守る)
刑法の大原則「罪刑法定主義」
罪刑法定主義とは
罪刑法定主義―どのような行為が犯罪となりどんな刑罰が科せられるのかを、あらかじめ
法律に定めておくことをいう(法律主義と遡及処罰・事後法の禁止)
罪刑法定主義は、憲法31条、39条で次のように具体的に定められている
法律の定める手続き以外では生命や自由を奪われたり、その他の刑罰を科せられないこと
(法律主義)また、実行の時に適法だった行為は、後に制定された法律に基づいて責任を問われることがないとする(遡及処罰・事後法の禁止)
また、現在では、慣習法の禁止、類推解釈の禁止、絶対的不定期刑の禁止、残虐刑の禁止、
罪刑の均衡(罪の重さと刑の重さのバランスをとる)ことも罪刑法定主義を意味する
どのような行為が犯罪となりどんな刑罰が科されるかをあらかじめ定める罪刑法定主義は現代の刑法の基本原則となっている
刑法典の編成
第1編 総則(1〜72条)各犯罪の共通事項を定める
第2編 罪(77〜264条)各犯罪について個別に定める
犯罪とは、以下の3つのすべてに当てはまる行為のことを意味する
1 構成要件に該当する行為
刑法に定められた行為の類型に当てはまる行為、行為が犯罪行為の類型に当てはまることを構成要件該当性という
2 違法な行為
法律上許されない行為
3 有責な行為
行為者に責任が追求できる行為
このように犯罪とは、構成要件に該当する違法で有責な行為であると定義される
そこで、犯罪の成立要件を、構成要件該当性→違法性→有責性の順に見ていく
万引きはなぜ犯罪??
万引きとは、刑法235条「他人の財物を窃取した者は窃盗の罪」とするという窃盗罪の構成要件に該当するため(違法性・有責性が認められれば窃盗罪となる)
(刑法典の犯罪類型の分類)
1 国家的法益に対する罪(第2章〜第7章)
法律で保護される国家の利益を侵害する行為
2 社会的法益に対する罪(第8章〜第25章)
法律で保護される社会の利益を侵害する行為
3 個人的法益に対する罪(第26章〜第40章)
法律で保護される個人の利益を侵害する行為
違法とみなされない行為とは
実質的違法論―刑法の構成要件に該当し、処罰に値する権利侵害がある場合のこと
(=違法性がある)
↑
↓
刑法の構成要件に該当するが処罰に値しない行為
違法性阻却事由のある行為=違法性がない
@正当行為:法令や正当な業務にのっとった行為は処罰されない
(例)意志が手術で患者の腹を切る、死刑を執行する公務員など
A正当防衛:自己・他人の権利を守るために侵害者に対しやむをえずとった行為は処罰されない(例)強盗が押し入ってきたので抵抗し強盗にケガを負わせた場合
B緊急避難:自己・他人の危険を避けるためにやむをえずとった行為は処罰されない
(例)夜、痴漢に襲われそうになり近くの家へ逃げこむなど
責任能力がある場合とない場合
責任能力:物事の是非、善悪を判断し、それに従って行動する能力
精神鑑定により以下の3つに分類される
責任能力者(責任能力がある者)⇒刑罰を科す
責任無能力者(14歳未満の者・心神喪失者)⇒処罰できない(刑法典14・39条1項)
限定責任能力者(心神耗弱者などの責任能力の低い者)⇒刑が減刑される(39条2項)
最終的な判断は、裁判所が行なう
個人的法益にはどんなものがあるか
個人的法益―個人の生命、自由、名誉、財産に関する権利など
個人一人一人が個人として尊重されるために法律による保護が必要
(具体的な罪)
殺人罪、傷害罪、暴行罪、逮捕及び監禁罪、脅迫罪、強制わいせつ罪、強姦の罪、住居を犯す罪、秘密を侵す罪、名誉毀損罪、信用及び業務に対する罪、窃盗、強盗罪、詐欺及び
恐喝罪、背任及び横領罪など
社会的法益にはどんなものがあるか
社会的法益―社会が安全であること、国が認めたものが信用できること、社会道徳の基本が維持されることなど、個人的法益をより安全で確実に保護するため、法律による保護が必要
(具体的な罪)
騒乱罪、放火罪、出水罪、往来を妨害する罪、通過偽造罪、文書偽造罪、有価証券偽造罪、
印象偽造罪、わいせつの罪(公然わいせつ罪、わいせつ物頒布罪)重婚の罪、礼拝所及び
墳墓に関する罪など
国家的法益にはどんなものがあるか
国家的法益―日本の存立が安全に保たれること、外国との関係が良好に維持されること、
国や地方公共団体の公務が公正に行なわれること
個人的法益を守る前提となるため、法律による保護が必要
(具体的な罪)
内乱の罪、外患の罪、国交に関する罪、公務の執行を妨害する罪、汚職の罪、犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪、偽証の罪など
刑罰の必要性
応報刑論:刑罰=罪に対する報い、償いという考え方(昔からの考え)
犯罪の結果の大小により刑罰を科す
↑
↓
目的刑論:刑罰=国民一般の犯罪を予防する(一般予防)、犯罪者が再び犯罪を犯すことを予防する(特別予防)犯罪者の教育(比較的新しい考え)
犯罪者の動機や反省の程度を重視して刑罰を科す
日本で行なわれている刑罰の種類
〇主刑―生命刑・自由刑・財産刑
〇付加刑―没収(犯罪に使用した凶器、盗んだお金を取り上げる)
生命刑―死刑(日本では絞首刑)
自由刑―懲役(定役<仕事>を課す、無期懲役と有期懲役<1ヵ月以上15年以下>がある)
禁固(定役を課さない、無期禁固と有期禁固<1ヵ月以上15年以下>がある)
拘留(1日以上30日未満)
財産刑―罰金(1万円以上)
科料(1000円以上1万円未満)
最も多く課されている刑罰は罰金である
死刑に対する考え方
世界人権宣言(1948年採択)、国際人権規約(1966年採択)死刑廃止条約(1986年採択)などにより、世界は死刑廃止の方向へ進んでいる、現状では、死刑を廃止あるいは執行していない国が108カ国、死刑のある国が87カ国となっている
日本においても、存置論と廃止論の対立がある
存置論:凶悪犯は、自らの命で償うべき、凶悪犯罪防止には死刑が必要、被害者やその
家族の感情を満たすには死刑以外にないなど
廃止論:死刑は残虐で人道に反する、死刑により犯罪が減るわけではない、誤判による
執行の可能性がある
(日本の死刑制度)
死刑を支持する国民意識が強い
刑法典で12種の罪、特別刑法で5種の罪に死刑が課されていることが規定されている
(内乱、現住建造物放火、水道毒物混入致死、殺人、強盗致死、爆発物使用、航空機強取
等致死など)
違憲審査の最終決定権をもつ最高裁判所が死刑を残虐な刑罰に当たらないとし、合憲としている