第三章.あずき者光臨
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行き交う参加者。やり取りされる同人誌。こぼれる笑み。にぎにぎしく開催されたAZ−CON2の第一部は、同人誌即売会である。「オンリー」イベントの即売会は珍しくないが、このように参加者とサークル側が親密に交流できる即売会は、今となっては珍しい。文字どおり膝を突き合わせ、お互いに礼をすれば、頭がぶつかりそうな距離で、時間に縛られず、ゆっくりと話をしながら、本の購入や親交を交わすことができるのは、実に愉しいことだ。もっとも、私は自分一人で参加しているため、店番に忙しく、ゆっくりと回ってくる暇はない。まだ、完成していないラミバッチの作成を急ぎながら、来客の対応にあたる。
「新刊は、出てないのですか?」
いきなり、きつい質問だ。とりあえず作成中の原稿の一部を見せ、夏コミまでには完成の予定と伝えておく。以前から参加している老舗のサークルさんならいざ知らず、新参者の私の所では、まだ1冊も出してないため、在庫すらないのだ。例によって、台湾や香港で入手した関連商品等を展示して、話のネタにする。世の中、インターネットで世界を検索している人たちばかりではない。ネットにある情報は、みんな持っているというわけではないのだ。逆に、ネット環境のない人々が持っている情報などが、ネット上になかったりするから、皮肉なものだ。今回のAZ−CON2の少し前に、台湾旅行へといってきた私は、その辺のネタをいくつか仕入れてきていた。しかし、まだネット上へは掲載していないので、この場に来てくれた人にのみ公開している形になっている。むろん、いずれは、ネット上や同人誌などで紹介する予定だが、まだその段階にいっていない。何のことはない、単にまとめが遅れているだけなのだ。
「スペイン版は、ないのですか?」
残念ながら、スペインには行ったことがない。しかも情報源もないので、一部のネット上で公開されているもの以外は、私もわからない。今の所、スペイン旅行の計画はないので、皆さんの情報をお待ちしていますといったところだ。
「香港では、人気が高いのですか?」
ある程度の人気はあるようだ。というのも、現在TVで再放送も行われているし、香港のあずきちゃんページの掲示板にも、ファンの声が書かれているのでそれなりの評価はされていると思われる。しかし、香港オリジナルの商品やキャラクターグッズの類は、見つからなかったため、爆発的な人気とはいかないようだ。ちなみにアジアで人気のビデオCDにもあずきちゃんは、見つからなかった。(含む海賊版)
「お疲れ様です」
事務局長の篠原氏が、挨拶にきた。わざわざ、代表の方が挨拶に回ってくれるなど、他のイベントでは考えられない行為だ。その心意気に感動する。着流しで挨拶回りをする姿は、なかなか粋だが、金魚柄の浴衣だったら、さらに受けたことだろう。(好意を持って受け入れられるかどうかは、疑問だが)
さて、来客ラッシュも一段落し、ラミバッチも品切れ(あずきちゃん)が出始め、一通り落ち着き始めた頃、私自身に一つの問題が降り掛かった。あまり、お上品なことではないので、ここに書くにははばかられるが、ようは第77話のヨーコちゃんの気分といえば、わかってもらえるだろう。すると、目の前に、ごう氏の姿が・・・。
「ごうさん、ごうさん!」
私の声は、妙に上ずっていたかもしれない。
「申し訳ないけど、ちょっとの間、店番してくれない?」
ごう氏は、悪魔の誘いを快諾してくれた。無論、「ちょっとの間」という単位には個人差がある。にこやかに笑うごう氏を残し、とりあえず切迫した小用を済まし、サークルまわりへと向かった。
今回のAZ−CON2の参加サークルは、前回の時やコミケなどでお馴染みのサークルが多く、面識のある方も多い。手早く挨拶とブツの購入を行う事にし、まわり始める。しかし、旧知のサークルでは、どうしても話が長くなる。店番しているごう氏には、悪いが(いや、この時には店番を頼んでいることすら忘れていたのかもしれない)濃い話に熱中する。(後で聞いたところによると、私のかばんの中に、色々な者が入ってて面白かったとのこと。話のネタになるようなものを入れておいたのが、役に立ったようだ。幸い、本当に妖しい物は、入れてなかったし)
私の場合、その手(って、どの手だ?)の関連の知り合いが結構いるので、濃いネタの話は、普段でもできるのだが、「あずきちゃん」だけの話となると、また別だ。話は、ますます深く濃くなって行く。
しかし、加熱してきた私たちに、文字どおり水を差すように、一旦中止の声が響いた。これより、クイズ大会と抽選会を行うとのことだ。続きは、また後でととりあえず席に戻る。しかし、この約束は、遂に果たされることはなかった。
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第四章につづく
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